答えの表と裏   作:Y I

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大変お待たせしました!!
それと一度投稿したものを消してすいませんでした。

最終確認及び編集ができていなかったので……。
迷惑ばかりかけてすいませんでした。


それでは本編へどうぞ!


第13話

幼きある日、自分が他者と違うと知った。

 それは他者から負の感情しか向けられない、不気味な異形の目だった。

 

 

『気持ち悪……』

『気分悪くなるからこっち向くな』

『こっち来るなよ化け物』

 

 

 浴びせられる罵詈雑言。日に日に増える理不尽な暴力。

 

 

 ――なんでそんなことするの? なんでそうおもうの?

 

 

 ただただ分からなかった。

 世界の全てが敵になった様な気がした。他人は害しか与えない存在だと思うようになった。

 

 だが、両親だけは違った。

 両親だけが救いだった。支えだった。

 塞ぎ込んでいた自分に寄り添ってくれた。優しく包みこんでくれた。

 

 全てが敵ではない。両親は味方であり拠り所だ。そう思っていた。

 

 

 

 

 しかし、味方は、拠り所は突然奪われた。

 白き侵攻者と見知らぬ女性の手によって。

 

 第一次近界民侵攻。

 両親を失い、他人を信じられなくなった大災害。

 

 他人は害を与えるだけでなく、自分から大事な者まで奪っていった。

 

 

 心の支えが居なくなり、世界の全てが己に悪意を向けているとしか思えなかった。

 

 

 そんな時、

 

 

 《男が簡単に泣きべそかくなよ、ナメられちまうぞ》

 

 

 そう言って彼は現れた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「……むにゃ、朝か」

 

 窓から射し込む太陽の光で目が覚め、目を擦りながらムクリと起き上がる。しかし、朝特有の寒さと眠気が合間り、もう一度布団にくるまる。

 数分ほどゴロゴロしてから漸く布団から這い出る。

 

 時刻は5時。

 雄助の朝は少し早い。

 

 

「ふぁ~あ……またあの夢か……」

 

 

 そう独りごちる。

 ()()()から過去の出来事を断片的に夢で見るようなった。最初こそ夢を見る度に涙を流したものだが、何年か経てば涙が出てくることはなくなった。

 勿論、涙が出なくとも見ていて気分が良い物ではないし、出来れば見たくはない。悲しみには慣れることなどできないのだから。

 

「あーもうやだな……」

 

 雄助は夢の内容にうんざりしながらも、ランニングウェアに着替え、ストレッチを始める。

 雄助は毎日ランニングと筋トレを欠かさずしている。

 なぜ? と思うかもしれないがよく考えてほしい。雄助は逃げることに全力だ。持久力をつければ長時間走り抜けることができるし、筋肉をつければ障害物を楽に乗り越えられる。

 つまりはパルクールの基礎練。

 雄助は逃げるための努力は惜しまないのだ。

 

「よし、準備完了」

 

 ストレッチを終え、玄関に行きランニングシューズを履いて外に出ると、やはり朝特有の寒さが雄助を襲う。

 

「う~さむい……」

 

 少しでも寒さを緩和しようと手で腕を擦りながら走り出す。

 雄助は毎日、ランニングを10Km、筋トレはスクワット、腕立て、腹筋、背筋などの自重トレーニングを行っている。

 余談ではあるが、トレーニングの成果で雄助の体はほどよく引き締まっていて腹筋も割れている。所謂、細マッチョというやつだ。

 

 

 走り出してから20分程経った頃に、ふと、昨日の出来事を思い出した。

 

「そういえば昨日のあの人大丈夫だったかな……」

 

 雄助が言う〝あの人〟とは、昨日助けた少女のことである。

 

 

 昨日、少女を病院へ運ぼうと走り出したまでは良かったのだが、いかせん病院までの道のりが遠かった。走り出した地点から病院まで数kmあり、人を抱えて走るにはなかなかしんどい距離だった。

 さらには、途中で自分が恥ずかし事――お姫様抱っこ――をしていることに気づき、1人で大いに慌てた。

 

 まあ、そんなこんなで無事? 病院には辿り着いた。

 あとは病院の人に簡単に事情を話し、早々に病院を立ち去ったのだ。

 

 ただ、立ち去る間際に聞こえた病院の人達の会話的に、運んだ病院は少女がいつも通院している所であり、少女はかなり体が弱いことが分かった。

 どうせもう会わないとは思ったが、そんな話を聞いてしまえば気にもなるものだ。

 

 

 

 昨日のことを思い出している内に家まで戻って来ていたようだ。

 家の中に入り時計を確認すると、いつもなら出発から40分程度で完走するのだが、考え事をしていたせいかいつもより5分程遅かった。

 

 そのことを確認しつつ、筋トレを開始する。

 まずは最も大事な足腰を鍛えるスクワット。

 パルクールはかなりの高さから着地をするため、しっかりと足腰は鍛えなくてはいけない。

 両足着いた状態で100回、片足だけの状態を各30回ずつこなす。

 

 次は上半身を全体的に鍛える腕立て伏せ。

 腕立て伏せは障害物をスムーズに乗り越えるために必要なのだ。

 床で30回、足を高い位置に置き段差を利用して15回を各2セットずつ行う。

 

 続いてボディバランス向上のための腹筋。

 まずは体を90度曲げてVの字にして1分間キープ。終わったら足上げ腹筋を30回。

 ちなみに腹筋しているときの雄助の顔はとてもブサイクである。

 

 終わりに腹筋と同じくボディバランス向上のための背筋。

 腹筋を鍛えているため、背筋をしなくてはバランスが悪くなってしまう。

 背筋のポーズをとって1分間キープを3セット行う。

 

 これで筋トレは終了だ。

 筋トレが終わったところで、シャワーを浴びに風呂場へと向かう。

 脱衣場で服を脱いでいると、鏡に映る自分の背中が目に入った。

 

 そこには右の肩甲骨あたりから斜めに大きな傷痕が1つ。

 

 

「……消えないかな、これ」

 

 

 背中の傷は剣士の恥だからね、などと冗談めかして呟くが、雄助の顔は悲しみに染まっていた。

 

 それは第一次近界民侵攻の際に『モールモッド』の刃で斬られた傷痕だ。その傷痕を見るとやはり()()()を思い出してしまう。

 

 4年経った今でも消えない、ということは恐らく一生消えることはないだろう。

 

 ――傷痕も悲しみも。

 

 

 

 さて、朝からそんな憂鬱な気持ちになってもしょうがないので、そんな気持ちを汗と一緒に流すべく、改めて風呂場へ入ってシャワーを浴びる。

 

 

 シャワーを浴び終えたら次は学校の制服に着替えて朝食。

 

「朝はパン~パンパパン~」

 

 と、口ずさみながらトースターにパンを入れていく。丁度そのタイミングで妖介が起きたようだ。

 

《くあぁー……寝っむ》

「あ、妖介おはよう」

《うぃ~》

 

 なんとも気の抜けた挨拶である。

 妖介は朝が弱いので必然的にこうなってしまう。なんとも対照的な2人である。

 

 ちなみに妖介が完全に覚醒したのは朝食が食べ終わる頃だった。

 

 

 

「ご馳走さまでしたっと」

 

 朝食を平らげ、食器を洗い、学校へ向かう準備を始める。

 すると妖介から疑問の声が上がった。

 

 

 

 

 

《んあ? どこ行くんだ?》

「いや、平日だから学校行くんだけど……」

《ああ、バイキングか》

「いや、学校ね!?」

 

 

 彼らはいつも通りの朝を過ごす。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 いつものように学校(食べ放題)を終えた雄助は、その足でボーダー本部へ向かった。

 

 ボーダー本部へ向かったには理由があり、会わなければいけない人物が2人いるからだ。そしてそのどちらも謝罪が目的である。

 

 その人物とは、緑川と忍田だ

 まず、緑川には先日の公開処刑について。確かに緑川に非があったとはいえ、妖介の制裁はやり過ぎである。あれではトラウマものであり、戦闘に支障をきたすかもしれない。

 そして、忍田は昨日の件について。忍田の言葉に少しカッとなってしまい、色々と失礼な態度をとってしまった。上司に対してそれはいかん、ということで緑川にはお菓子の詰め合わせ、忍田にはお茶請けをお詫びの品として謝罪と共に渡すことにしたのだ。

 

 だが正直な話、忍田にも緑川にもあまり会いたくない。

 緑川は言わずもがな、この前のランク戦が原因でシンプルに怖い。忍田には感情に任せて言葉を発してしまったことから顔を合わせずらい。

 まあ、だからといって謝罪に行かないわけにはいかないので渋々向かっているのだが。

 

 

 さて、沢村さんに睨まれそうだなー、と忍田の所へ謝罪を行った時のことを考えていると、目的地の1つである草壁隊作戦室の扉の前まで来ていた。

 

 しかし、いざ扉の前に立って思う。

 

 

 ――え、どうしよう。

 

 

 緑川の中で妖介は恐怖でしかないだろう。

 人格が違うとはいえ、雄助と妖介の見た目は一緒だ。ならば雄助を見れば恐怖を感じるだろう。

 

 そんな人物が突然自分の元を訪れてたらどうか。

 またなにかされる、と考えるだろう。実際、雄助ならそう考える。

 

 というかまず、扉を開けてくれるかどうかすら怪しい。緑川の心境的には、前日に喧嘩した相手が凶器を持って「謝りに来たんだ。ここを開けて」と言っている様なものだ。そんな状況で誰が開けるものか。

 それに緑川にも非があるとはいえ、相手は中学生だ。他の草壁隊の隊員が居た場合、糾弾される恐れもある。

 

 あー、んー、と扉の前で唸っていると、突如目の前の扉が開いた。

 

 

「はぁ……ん?」

 

 

 目が合う緑川と雄助。

 

「……」

「……」

「…………」

「…………」

 

 目が合うこと数秒。先に動いたのは緑川だった。

 

「――ッ!」

「ちょっと待った! なんで扉閉めるの!?」

 

 動き出した緑川は素早く扉を閉めようとするが、雄助がそれを許さない。

 扉を掴み、閉められないように全力で引っ張る。ここで閉められてしまうと緑川の警戒心が強まり、謝罪する難易度が跳ね上がってしまう。

 つまり、なんとしてでも離すわけにはいかないのだ。

 

 

「まず作戦室に入れさせて! 話をしよ!」

「嫌です……!」

「いいから入れてよ!」

「だから嫌ですって! どうせこの前の仕返しとかでしょ!?」

「違うって!」

「大体、みんなが居ない時に来るあたりが怪しいよ!」

「あ、そうなの? 居たら嫌だったからよかった……」

「なんで居ないとよかったの!? やっぱり仕返しじゃんか!」

 

 

 

 そんな扉での攻防を数分ほどして、漸く草壁隊作戦室へ入室することができた。

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

「やっと……入れた……」

 

 

 結局、雄助は中学生との体格の差をフル活用して強行突破したが、扉での攻防によった2人は息が上がり、椅子の上でぐったりしている。

 

「……あの、ちょっと待ってね、緑川君。今息整えるから……」

 

 その言葉を聞いた緑川の肩がビクリと跳ねる。

 

(また、なにかされるのかな……)

 

 またこの前の様なことをされるのではないかと、不安が過る。

 妖介とのランク戦を終えた後、冷静になった頭で自分の行動を振り返った。

 そして、自分がしたことは理不尽極まりなく、ただの嫉妬からくる八つ当たりであったことを理解したのだ。

 理解したからこそ仕返しをされても当然だと考えていた。

 

 

 故に、次の雄助の行動は理解できなかった。

 

 

「ごめん!」

 

 

 突然の行動に緑川は目を丸くする。

 息を整えた雄助は緑川に対して頭を下げ、謝罪をしたのだ。

 

「この前は本当にごめん。妖介がやり過ぎちゃって……。最後のとか痛かったよね。妖介はちゃんと叱っておいたから」

「え、あれ? この前の仕返しに来たんじゃないの……?」

「いやいや! ただ謝りに来ただけだよ!?」

 

 緑川は胸を撫で下ろす。

 が、安心するのと同時に疑問がわく。

 

 

「でも、なんで……」

「え? だって妖介がまたやり過ぎちゃったから」

 

 

 まるで謝るのが当たり前ではないのか? と問う様な顔で言ってのける。

 しかし、緑川が聞きたかったのは謝る理由ではなく、なぜああまでされても謝れるのか、であったが、そこまで当たり前の様に言われてしまえば何も言えない。

 

「まあ、そういうことじゃないんだけど……その〝妖介〟っていうのは……」

「ああ、そうだよね……。そこを説明しないと――」

 

 そこから、雄助は妖介の説明をした。

 妖介がもう1つの人格であること。戦闘訓練をやったのは妖介であること。問題行動の大半は妖介がやったこと、等を緑川に説明した。

 

 そして その説明を受けた緑川は――

 

 

「……戦闘訓練の時のはもう1人の天峰先輩で? オレと最初に戦ったのも天峰先輩で? でも、途中からはもう1人の方で?

 えっと、今は……もう1人? 天峰先輩?」

「うわぁー! 落ち着いて落ち着いて!」

 

 様々な情報が入り乱れ、ショートしてしまった。

 

 

 暫くしてから、やっとのことで情報の整理ができた緑川は、優しいのが雄助、恐いのが妖介、とわかりやすくまとめたのだった。

 

 今までの違和感に納得がいった緑川は改めて謝罪するが、雄助の方も「妖介がやり過ぎて……」と頭を下げるので、お互いが謝り続ける水掛け論の様になってしまった。

 お互いに頭を下げ続ける状況が続き、埒が明かないと思った雄助は話を変えて、なぜ他の隊員がいないのかを聞くことにした。

 それから話が弾み、少し打ち解けあうことができた。

 

 

「そういえば天峰先輩だと両方になっちゃうな……どうしたらいいかな?」

「僕に聞くんだ……。まあなんでもいいよ?」

「うーん……じゃあ、あまみん先輩で!」

「あ、うん。いいけど――」

 

「――俺のことそんな舐めた呼び方したら――わかってるな?」

「イエス、サー!」

 

 

 打ち解けあうことができた。

 

 

 

 

 

 

 そう、緑川は思っていた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「いやー怒ってなくてよかった」

《これでまた逆ギレでもしてきたら殺ってたとこだわ》

「……やるの字が物騒だよ」

 

 緑川に謝罪する、という第1関門を突破した雄助は、第2関門である忍田への謝罪をするため、本部長室へ足を向けていた。

 

「ていうか、妖介がやり過ぎなきゃよかったんでしょ」

《いやいや、それを言うなら緑川だろ。あいつが何もしなければよかったんだ》

「まあそうだけど……」

《生身でデストロイして「いや、そしたら僕もやるからね」うげっ! それは勘弁してくれよ……》

 

 妖介の心底嫌そうな反応を聞いて、そこまで嫌なのかと雄助は面白そうに笑った。

 

《どうだ、止まったか?》

「ん? なにが?」

 

 口許を緩めた雄助を見て妖介はどこか安心したように言う。

 

 

 《震えだよ》

 

 

 そう、雄助は緑川と話している時から作戦室を出るまでの間、ずっと手が震えていたのだ。

 他人が見れば気づかないであろう些細な震え。だが、妖介が気づかないわけがない。

 

「……よくわかったね」

《あったりめぇだろ、俺だぞ?》

「それもそうだね」

 

 タハハ、と誤魔化すように笑う雄助。

 

 やはり緑川に対する恐怖心は簡単には拭えないようで、緑川とは終始目も合わせられなかった。会話もほとんど相槌を打っていただけだ。

 

「でも、まあ……もう大丈夫。ありがとね、妖介」

《……はいよ》

 

 照れくさそうに返事をする妖介。それを聞いた雄助はまた、口許を緩めた。

 

「よーし! それじゃ用事すませてラーメンでも食べに行こっか」

《いや、財布の中は?》

「空! だけど貯金はあるよ」

《崩すのか……まあ、いいけどな》

 

 今日は特別だからね、と浮き立つ雄助は、本部長室へと向かう足を速める。

 

 そうして数分ほど歩けば本部長室だ。

 先程とはうってかわり、扉の前でオロオロすることはなく、すぐさま扉をノックして入室する。

 

「失礼します。天峰です」

「ん? 雄助君か。どうしたんだ?」

「あのこの前のことで……ん?」

 

 本部長室に入るといつも通り忍田と沢村が居たのだが、もう1人見慣れない女性が居た。

 その女性はゆっくりと振り返ると、雄助を見て刮目した。

 

 

「あ……もしかして昨日助けてくれた……」

 

 

そう言われて女性を見る。

ボブにした色の薄い髪。蒼い目。病弱そうな雰囲気――。

 

 

「――あ、昨日の人……」

 

 

 どうやら本部長室に居た女性は昨日雄助が助けた女性だったようだ。

「ぼ、僕が帰ったあと大丈夫でしたか?」と雄助がどもりながら尋ねると、女性は「おかげさまで大丈夫でした。本当にありがとうございました」と何度も頭を下げた。

 

 

「なんだ2人は知り合いだったのか」

 

 

 忍田はそんなやり取りを見て言う。

 

 

「じゃあ最初の防衛任務は()()()とでも大丈夫か?」

 

 

 ――それはまるで死刑宣告の様に聞こえた。

 

 

 

 

 




遅れたばかりなのに申し訳ありませんが、これからは更新が不定期になると思われます。

失踪はしないよう頑張りますので、これからもどうかよろしくお願いします!

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