みなさんは如何お過ごしでしょうか。
私は実家の素晴らしさを実感しております。とはいえ数日後には学校の方へ戻るんですが……笑
さて、それでは本編へどうぞ!
「体調の方は大丈夫か?」
「はい、もう大丈夫です」
緑川駿公開処刑事件の翌日、雄助は本部長室へ訪れていた。
本部長室に居たのは、勿論のこと忍田本部長、そして本部長補佐の沢村響子の2人だけだった。
「それなら良かった。緑川には私の方から説教をしておく」
「いえ、その件のことはもう大丈夫です。
僕的にはそれよりも……」
そう言って沢村を一瞥する。
雄助はこの部屋があまり好きではない。
その理由は沢村響子である。
別に沢村のことが嫌いというわけでなく、ただ〝大人の女性〟がどうしても怖いのだ。
もちろん雄助自身、沢村が悪い人ではないことはわかっているし、とても優しい人だと思っている。
しかし、今回のよう部屋に忍田と2人だけの時に訪れると不機嫌になるのだ。
「……あ、あの沢村さん……なんでそんなにジト目で見てくるんですか」
「……別にー」
唇を尖らせて、いかにも私不機嫌です感を出してそっぽを向く。
沢村は忍田に恋心を抱いていている。
つまり本部長室は好きな人と2人だけの空間をだったわけだが、雄助の登場により2人だけの空間を邪魔されてしまい、不機嫌になっているのだ。
そんなことを人の気持ちが分からない雄助が分かるわけもなく、沢村への苦手意識が強まる要因となっている。
だからと言って、ずっとジト目で見られるのは嫌なので、とりあえず機嫌をとるために『サイドエフェクト』を使って選んだ差し入れを渡す。
「……あの、これどうぞ」
「……あ! これ私の好きな甘栗! ありがとー」
(ふぅ……機嫌が直って良かった……)
と、まあいつもこんな感じで本部長室へ訪れている。
2人のやり取りが一段落ついたところで忍田が話を切り出す。
「さて、雄助君。早速で悪いが本題に入ろう。
先日君が言っていた1人で防衛任務就きたい、という要望はやはり認められない」
「やっぱりそうですか……。ではお願いした方は?」
「……そちらの方は許可できるようになった」
生粋のコミュ障の雄助が隊に誘うような友人がいるわけもなく、そんな行動力もない。
しょうがない、と1人で就けないかゴリ押ししてみたが、やはり1人での防衛任務は許可されなかった。
そのことを半ば予測していた雄助は
1人がダメなら他の隊に混ざって防衛任務は就けないか、と。
雄助も苦渋の決断だったが、それなら長く居座るわけでないので妖介のことがバレる可能性も低くなるし、目もサングラスで誤魔化せばバレない、と考えて決断した。
まあ、昨日の件でバレてしまったが。
「だが、合同となる隊はこちらで選ばせてもらうが大丈夫か?」
「……まあ、そのぐらいなら大丈夫です」
「そうか」
そこで会話が途切れる。
しかし、忍田はまだ何かあるようで、口を開きかけるが、悩んだ末にその口を閉じた。
誰も口を開かない部屋で沢村が叩くキーボードと時計の針の音だけが響く。
忍田は何か言いたそうにしているが、時計の針の音が10ほど鳴っても未だに言わない。
気まずさはあるが忍田が何か言いたそうにしているのを見て、雄助は待つことにした。
そして時計の針がさらに20ほど鳴って、漸く忍田が意を決したような表情で再度口を開いた。
「……私としては君を
漸く忍田の口から出てきた言葉は、雄助にとって即答できるものだった。
「はい、そのつもりはありません」
しかし、雄助の返答を聞いた忍田はしつこく食い下がった。
「……特別扱いというのも周りの反感を買う恐れもある。そういった意味でも部隊に入ったほうがいいと私は思っている」
「まあ、それは大丈夫かと……え? 急になにさ――」
反感を買ったとしても昨日の事件を見た者ならちょっかいをかけようなど思わないないだろう。なんたって自身の大事な部分がデストロイされる恐れがあるのだから。
そういった意味を込めて大丈夫、と伝えようとしたのだが、妖介が出てきた。
「――いやいや、ちょっと待ってくれよ忍田さん。
なんで俺らが周りのことを気にしなきゃいけないんだよ。自分のことで精一杯なのに周りのことまで気を使うとか罰ゲームか? 手当てちゃんとついてんの? 追加料金発生しないとおかしいだろそれ」
要約すれば「周りのことなんて関係ない、自分がしたいことをする」ということだ。
それはそうだ。
この男は腹が減ったら他人から
そんな男が良くも悪くも周りのことを気にするはずがない。
一方、忍田は妖介達が金に困ってることを思い出し、金銭関係のメリットを話す。
「君達があまり人に知られたくないことがあることはわかっている。しかし、隊を組めば1人より楽にお金が稼げるし、A級に上がれれば固定給がでる。やはり1人よりも隊を組んだほうがいいと思うのだが……」
「ハァ……そう言うことじゃないんだよ」
しかし、それはズレていた。と言うよりか検討違いだった。
たしかに2人は金には困っているが、給料が上がるからと言って隊を組んだりはしない。
そもそも、手当てだの追加料金だのは妖介が皮肉で言っただけであって、欲しいと言っているわけではない。それに気づかない忍田に呆れ、しつこさに若干の苛立ちを覚えた。
さらに「1人よりも
「みんなでやることがいいことで、みんなでやることが素晴らしいことで、じゃあ1人でやることは悪いことなんですか?
どうして今まで独りでも頑張ってきた人間が否定されなきゃいけない。
〝僕〟はそのことが許せない」
そう言いきった
さて、
〝僕〟とは言っていたものの雄助とは思えない、まるで妖介のような、否、妖介そのものの怒りの形相。
そしてその口から発せられる言葉は静かに淡々と、雄助が使う様な言葉使いで、しかし言葉に込められた怒りは妖介の怒りの様ではっきりと伝わってくるものだった。
この言葉は雄助が言ったのか、はたまた妖介が言ったのか。
それは聞いていた忍田達でもわからない。
ただ、
あの怒りが非憤慷慨だったのはたしかである。
* * *
「どうぞ」
「……ああ、すまない」
沢村に差し出された湯飲みを受け取り、一口飲む。
沢村が淹れてくれたお茶はいつもと変わらない味のはずなのに、いつもより苦く感じた。
「忍田本部長、さっきのは
「そうだな……もしかするとあれは2人の怒りだったのかもしれないな」
『サイドエフェクト』で周りに迫害され、心の支えであった親は大規模侵攻で失い、独りで懸命に生きてきた雄助。
そしてその姿を1番間近で見続けてきた妖介。
そんな2人に「1人よりも
激怒してあたりまえだ、と忍田は自分の軽率さを反省していた。
「私は焦り過ぎてしまったな。『サイドエフェクト』で人間不信になってしまった雄助君にどうにか人との関係を持ってほしかったのだが……」
「たしか、『瞬間最適解導出能力』でしたっけ?」
沢村の問いかけに忍田は頷く。
沢村と忍田は鬼怒田に雄助の『サイドエフェクト』について教えて貰っていた。もちろん本人の許可をとって。
『瞬間最適解導出能力』――読んで字の如く、瞬く間に最適な解を導き出す能力。
強力で便利な能力だ、と忍田は聞いた時に思った。
それが事実ならば、戦闘中なら常に最適解を導き続けられるし、こう言ってはなんだが勉学においても役に立つのだから。
しかし、鬼怒田はそれを否定した。
『たしかに強力で便利な能力だが、雄助の力は代償が大き過ぎる。
体力の消費量、目の変化、答えの書き換え不可。雄助は『サイドエフェクト』を使うことによって、体力を多く奪われ、友人を失い、固定観念に縛られてきた。
さらに唯一答えが出せないものがある。〝人の気持ち〟だ。なぜそうするのか、はわかってもどうしてそう思うのか、それが理解できないそうだ』
まるで呪いだ、とその話を聞いた時に思った。
親が居ない子供が、腹をすかせ、頼る人間も居らず、自分の力と向き合ってきたのだ。
さらに鬼怒田の話には続きがあった。
『そして、訳も分からなく虐めてくる者達や大規模侵攻の際にあった
そのことが原因で人間不信になり、他人と距離を離すようにしているようでな。特に女性にはそれが顕著に現れている』
それは初めて妖介に会った時に言われたこととほぼ同じことだったが、鬼怒田にもう一度聞かされ、それはそうだ、と再度納得した。
人間に殺されかけて、理解できない悪意に晒されて、人を信頼しろと言うほうが不可能である。
だが、今すぐ信頼できずとも徐々に、ほんの少しずつでもいいので、人を信じれるようになってほしいのが忍田の本音だ。
だから、多くの人と関わり雄助の心を溶かせないかと思い、隊を組むことを薦めたのだが、いかせん強引になりすぎてしまった。
あれほどしつこく言っていたのも雄助のことを想ってだったのだ。
故に忍田は呟く。
「願わくば、彼らに信頼できる者が現れればいいのだが」
「ぶぇっくし!」
* * *
「ぶぇっくし!」
《おいおい、大丈夫か?》
日が西の空に沈み冷え込んだ商店街を晩御飯の買い出しの為、雄助は1人歩いていた。
「うん、大丈夫。それにしても最近寒くなってきたねー」
《それな。寒いし今日はおでん食いてぇな》
「じゃあ夜ご飯はおでんにしよっか!」
楽しく和気あいあいと晩御飯の話で盛り上がる。
しかし、悲しきかな。彼らの財布には紙幣が存在しない。全て硬貨である。
それに気づくのはコンビニに着いてからだが。
2人の話題は晩御飯から防衛任務へと変わる。
《にしてもよ、やっと防衛任務か。楽しみだなー》
「まっっったく楽しみじゃないけどね!」
《なんでだよ、金は貰える、ストレス発散し放題。楽しみじゃねぇか》
「給料はね! それ以外は全然全く楽しみじゃないから!」
防衛任務は妖介からすれば好きに暴れていい上に、金も貰える至福の時ではあるが、雄助からすれば嫌いなことずくしな上に、妖介の存在をうまく誤魔化さなければならないのだ。うまく誤魔化せないと、いつもはビクビクしているのに戦闘になるとヒャッハーする戦闘狂と思われてしまう。
長い付き合いにはならないとは言え、数日間は一緒に防衛任務をするのだ。それだけは避けたい。
しかし、本人達は2人で会話しているつもりだろうが、端から見れば独り言を言っている様にしか見えない。
既にすれ違う人全員に頭のおかしい人だと思われてるだろう。
《そんなカリカリすんなよ。どうせ戦闘は俺がやるんだから》
「まあ、そうだけど中にいるときでも怖いもんは怖いよ……」
《それは我慢してくれ。生活のためだ》
「だよね……」
ハァ、とため息をつきながら曲がり角を曲がると
――それはそれは綺麗な少女が倒れていた。
「……oh no」
《……落ち着け雄助、英語になってるぞ》
あまりの出来事に英語になっている雄助。平静を装ってはいるが結構驚いている妖介。
倒れている少女は気を失ってはいないが、とても辛そうな顔をしていて息も上がっている。
それを見て雄助は大いに慌てる。
「ど、どうしよう妖介。お、おん、女の子が」
《いやだから落ち着けって。適当に他の奴に任せれば……って誰もいないな》
妖介の言うとおり、先程まではちらほらと見受けられたが、今は1人も見受けられない。
なんと運の悪いことか。
雄助達がではない。倒れている少女がだ。
《じゃあ帰るか》
もしも、彼女を見つけた人物が雄助達ではなく、他の人物だったら間違いなく助けただろう。
状態を確認して、救急車を呼ぶなり病院に連れて行くなりするだろう。
だが、なぜ他人を助ける。なぜ助けなければいけない。その理由がわからない。
人として当たり前? 人としてのモラル?
――そんなもの〝人格〟である俺には関係ない。俺が助けるのは雄助だけだ。他人なんて知らん。
それが妖介の答え。
一方、雄助の答えは――
「いや、病院に連れていってあげよう」
《……なんで?》
「人を助けるのに理由がいる?」
《……》
助ける。他人を助ける。
それは妖介には理解できなかった。
お前は他人に殺されかけただろう。他人に傷つけられてきただろう。なぜ助ける。なぜ助けられる。
そんなもの簡単だ。雄助が優しすぎるから。
そしてその優しさの根元は今は亡き母からの言葉だ。
さて、これでは倒れている少女は運が悪かったことにならない。
しかし、たしかに彼女は運が悪い。なぜなら――
「てことで妖介頼んだ」
《……はあ?》
雄助は女性が大の苦手なのだから。
あんだけ格好つけて「人を助けるのに理由がいる?」、と言っておきながらの妖介頼り。最高に格好悪い。
《やだよ。自分で助けるか救急車でも呼んどけよ》
「いやーそれが携帯の充電が無くなっちゃってて……」
《病院に連れていくしかないと》
携帯の充電が無くなったことにより、救急車を呼ぶ、という選択肢が消え、さらに周りに人が見当たらないことにより、誰かに任せる、という選択肢も消えた。
結果、残った選択肢は病院に連れていく、しかなくなってしまった。
病院に連れていく、ということは女性に触れる、それどころか密着するかもしれないのだ。そんなこと女性が苦手な雄助ができるわけがない。
「……うん。だから、お願い!」
《やだ》
即答。
「なんでよ!?」
《俺がそいつを助けることによって発生するメリット、利益は?》
「うぐっ……ない、けど」
《なら俺は何もしないからな。助けたきゃ自分で頑張れ》
じゃあ家着いたら起こしてくれなー、と言って妖介は寝てしまった。
「妖介のバカ、アホ、おたんこなす!」
うがー、と誰も居ない夜の商店街で吠える。しかし、吠えたところで手詰まりなのは変わらなず、ただただ雄叫びが商店街に響くだけだ。
一度深呼吸をしてから冷静になって女の子を確認するが、やはり息が上がり辛そうにしていてる
どうしようどうしよう、と雄助が未だ悩んでいると少女の蒼い目と視線が合う。
――たすけて。
「――ッ! あーもう!」
雄助は少女を抱き上げる。所謂お姫様抱っこというやつだ。パルクールのために鍛えた筋肉がここで役に立った。
ただし、雄助の顔は恥ずかしさとトラウマの2つの要素が重なり、もはや紫色になっていたが。
顔色を紫にしながらも『サイドエフェクト』を使って病院の位置を探す。
「病院は……あっちか。ちょっと遠いなぁ……」
さっさと行っちゃお、と言い病院へ向かおうとしたが、少女のであろうコンビニ袋が落ちているのに気づいた。
それを拾い、中身を確認する。
「この人
そう呟き、雄助は病院へ少女を運ぶために走り出す。
明日この時少女を助けたことを少し後悔するとも知らずに。
前回の後書きで言った『天峰』の由来ですが、こちらは意外と適当です 笑
まだ小説の設定を考えている段階の時、剣道をやってる友人に『天』と『峰』という防具が結構いいのなんだーということを聞いたことがありました。
その場では「へぇー」くらいだったのですが、後日オリ主の名前を決めている時、サイドエフェクトの元ネタである力を使う『金○のガッシュ』の登場人物である『高嶺○麿』の『高嶺』を元にしようと決めました。
その時に友人から聞いた話を思い出し、『高嶺』の『嶺』を『峰』にして『高』を『天』にして『天峰』となりました。
と、まあこんな感じで途中からトントン拍子で名前が決まってしまいました(・ε・` )
それと突然ですが次回の投稿がもしかしたら1ヶ月以上空くかもしれません。
部活の合宿で執筆どころでなくなってしまうので……。誠に申し訳ございません。
なるべく早く書き上げたいと思います( ;∀;)