答えの表と裏   作:Y I

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お久しぶりです。

まず最初に



投稿が遅れて申し訳ございませんでした……!!!

大学のテストや実家に帰る準備等でなかなか投稿できませんでした(´・c_・`)

では、3週間ぶりにどうぞ!




第11話

 

 

 

 妖介対緑川のランク戦を観戦する隊員達はドン引きしていた。

 

 

 今、ランク戦を観戦している隊員の多くがC級隊員であり、その中の大半が雄助のことを良くは思っていない者達である。

 

 A級隊員である緑川とB級なりたての雄助。

 

 雄助のことを良く思ってない者でなくとも、普通に見たらどちらが勝つかなど火を見るより明らかで、彼らも緑川の圧倒的勝利を信じて疑わなかった。

 

 

 1戦目。予想通り、雄助は手も足も出ず負けた。彼らはああ、やっぱりな、と思った。

 2戦目。雄助は緑川から泣き言を喚き散らかしながら逃げた。彼らは雄助のことを嘲笑った。

 

 しかし、ここで勝利できなければ負けが確定してしまう3戦目。なんと雄助が勝利した。彼らの嘲笑は止まり、困惑した。

 続く4戦目。またも雄助が勝利した。彼らの顔は驚愕に染まった。

 

 そして、彼らがドン引きして観ている5戦目。

 先程までは妖介がサドスティックな笑顔を浮かべながら、A級隊員である緑川を『弧月』で吹き飛ばしていて、緑川は面白いぐらい宙を舞っていた。

 それだけでも充分ドン引きものなのだが、今彼らが見ているモニターでは――

 

 

『ふむ、こんなところか』

 

 

 満足げに頷きながらそう言う妖介。

 そして頷く妖介の視線の先には『スパイダー』によって四肢を建物と繋げられ、今にも泣き出しそうな緑川。

 

 

 ――どうしてこうなった?

 モニターを見ている全員が思った。

 

 

 

『スパイダー』

 起動すると両端からかえしの付いた角の出たキューブが出現し、 銛のように角を壁などの場所に撃ち込んで固定することでワイヤーを張れる

 

 単純に通り道をワイヤーで防ぐことで相手の移動を制限したり、 足元に張って敵の足を引っかけて転ばす罠として利用したりするのが主な用途であるのだが、

 

 

『それにしてもナイス磔だな。我ながら天晴れ』

 

 

 新たに磔という使い方を見つけた外道がいた。

 

 

 

 

 しかし、磔にされたと言っても体のどこからでも出せる『スコーピオン』ならば『スパイダー』を切れるのではないか、と思うかもしれないが不可能である。

 

 

 なぜなら、磔にされている緑川自身が恐怖で思考停止しているからだ。

 

 

 度重なる痛みが、妖介の笑顔が、恐怖として緑川にまとわりつき、正常な判断をさせないようにしている。その恐怖といったらもう目から涙を、下から尿を漏らしそうなレベルである。

 

 そんな顔どころか股もぐちゃぐちゃになりかねない状況の緑川がまともな判断ができるわけがない。

 

 

 

 

 

 さて、中学生を磔にして笑う高校生。そんなもの観てれば誰とてドン引きするだろう。

 中には憐れに思ったのか合掌するものもいる。

 

 そんなC級隊員の中に一際冷や汗を流すメガネをかけたC級隊員が1人。

 

 

 彼も雄助の噂は耳に挟んでいた。

 ズルをして戦闘訓練で最速記録を出した、嵐山隊に喧嘩を吹っ掛けた、犯罪者、などなど。その他にも真実か疑わしい噂も多数あった。

 

 彼自身、そんな人物がボーダーに居るのか、と半ば信じてなかった。

 

 しかし、こんな映像を見てしまえばその噂達を信じてしまいそうになる。

 彼はまさか本当にそうなのか? と考えて冷や汗を更にかく。

 

 

 

 眼鏡をかけたC級隊員――三雲修は遠くない未来でこの外道と深く関わることも知らずに。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「それにしてもナイス磔だな。我ながら天晴れ」

 

 ウンウンと満足げに頷きながら自画自賛する妖介。

 自賛しているものが磔というのが非常に残念と言うか、クソ野郎と言うか、もはや悪魔だ。

 

 妖介は頷くのを止め、さて、と前置きして緑川に話しかける。

 

「グリリバ……いや、緑川聞こえてるか?」

「……」

 

 無視、ではなく、ただ単に怖くてそれどころではないだけである。喋らない方が吉だ、と脳の冷静な部分が判断したといくこともあるが。

 

 反応が返ってこなかったため、妖介はため息を1つついて『弧月』を緑川の前にちらつかせる。ただのチンピラである。

 

「返事せんかい」

「――はっはい。すいません!」

 

 今度は少し、いや、かなり食い気味に応える。相当こたえたのだろう。

 それに敬語なあたりしっかり調教済みである。

 

 

「んで、なんでお前は雄助を貶めるようなことをしようと思った」

 

 そんなこと分かりきってはいたが、やはり本人の口から言わせなければ意味がない。

 

 これはヤバい、と思ったのか緑川の顔が蒼くなる。

 

「あ、いや、あれは、なんというか出来心と言うかなんと言うか」

「あ? はっきり言わんかい」

「気にくわないからやりました」

 

 誤魔化そうとする緑川に『弧月』の切っ先を向けると、簡単に口を割る。

 最早、拷問又は尋問と言われて過言ではない。

 

 妖介はそうか、と言い『弧月』の切っ先を下ろす。

 

 

「……あ、あれ? 怒って……はいますね! 分かってるんで、それはもう向けないで!」

 

 怒ってないと思われいたようなので、妖介はもう一度『弧月』を向けると緑川は焦って謝ってきた。

 

「分かってんなら言うなよ……さて、お前は雄助が気にくわないからランク戦を持ちかけた、それで間違いないな」

「はい」

 

 妖介は更に続ける。

 

「雄助に声を掛けた時、わざとでけぇ声出したのは注目を集めて、大勢の前で恥をかかせようとしたためだな」

「……はい」

「ズルだ、なんだ、と騒いでいたのは負けたことが認められなかったから。戦闘訓練の記録を越されたのが認められなかったから。あとそれが今回の動機だな」

「…………はい」

「承認欲に嫉妬。てめぇの感情に雄助を巻き込み、挙げ句の果てには逆ギレ」

「………………はい」

 

 緑川はあたかも自分ではない人物がやられた様に話す妖介を不思議に思いながらも返事をする。

 まあ、その返事も段々と弱くなっているが。

 

「言いたいことはまだまだあるが……まあ、よしとしよう。

 どうだ緑川、なんか言うことあるか?」

 

 そう言われた緑川は数回ほど目をパチクリさせてから、目尻を涙でいっぱいいっぱいにして頭を下げる。

 

 緑川が言わねばならぬことは1つ。

 

 

 

 

「――ずびばぜんでしだっ!!」

 

 

 謝罪。

 雄助に多大なる迷惑をかけてしまったことによる本心からの謝罪。

 

「……そうか」

 

 対する妖介は未だ磔にされたままの緑川を見上げて一言呟いて緊張を解く。

 

 妖介の緊張が解けたことにより、緑川も恐怖から解放され、安心した笑みを浮かべる。

 

 ああ、やっと終わるのか。長かった。辛かった。でも、もう終わったのだ。もう大丈夫だ。

 

 そう思いながら妖介を見る。

 

 妖介は微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ〆いきますかー!」

 

「……え!?」

 

 

 悪魔のお仕置きはそう簡単には終わらないようだ。

 

「いやいやいやいや、ちょっとまって! 今良い感じで終わりそうだったじゃん!」

「いや、だって緊急脱出(ベイルアウト)させきゃいけないだろ」

「普通に自分でするよ!? それに磔は解いてくれてもよくない!?」

「まあまあ静かにしてろって」

 

 

 そう言って妖介は緑川の前まで行き、『弧月』をしまい()()になった。

 

 妖介は武器をしまい素手になった右手を後ろに引き、左手を前に出す。重心を下げて右手の延長線上に緑川の()がくるようにする。

 仕上げに、右手を引いたら肘が当たるであろう場所に『グラスホッパー』を配置する。

 

 武器をしまい素手になった妖介を見て緑川は疑問符を浮かべていたが、右手が股の延長線上に来た時点で察した。

 

「――っ! まってまってまって、普通に、いたって普通に緊急脱出させればいいじゃん!

 なんでわざわざ()()なの!? ましてやなんで殴ってなの!?」

 

 緑川は必死になって妖介に訴え掛けるが、妖介は集中しているのか目を瞑って聞く耳を持たない。

 

「聞いて! ねえ、ほんとにお願い、聞いてください!」

「必殺――」

 

 やはり緑川の懇願は聞いてもらえず、妖介は攻撃の準備を始める。

 

 腕を更に後ろへ勢い良く引き、肘を『グラスホッパー』へ当てる。

『グラスホッパー』によって加速された拳は一直線に緑川の股間目掛けて飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――(スーパー)滅り込みパーンチッ!!」

「プギャッ」

 

 

 緑川の股間が豪快な音と共に爆ぜ、トリオンの煙が大量に漏れる。

 

 

『トリオン漏出過多 緑川 緊急脱出』

 

 

 

 史上最低最悪な緊急脱出で緑川は一筋の光となって消えていった。

 

 

 

「粉砕! 玉砕! 大喝采! ってか! アーハッハッハッ!」

 

 

外道の高笑いが響く市街地に無機質な音声が外道の勝利を告げる。

 

 

『勝者 天峰雄助』

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「妖介、なんか言い訳はある?」

「え、あの……まず()()外してもらってもいいですか」

「ダメ」

 

 

 緑川の公開処刑が終了して暫くたち、今は妖介と雄助は精神世界で向かい合っていた。

 

「どうしても?」

「ダメ」

「まじか……」

 

 妖介がなぜ先程から雄助に何かを外してくれ、と頼んでいるのか。

 

 それは妖介が今、自分が緑川にやったように磔にされているからだ。

 

 今居るのは雄助の精神世界。雄助が想像すればなんでも創れる。今回創ったのは鎖。それを空中から顕現させ腕にくくりつける。結果、それはそれは見事な磔ができ、空中に綺麗な大の字の妖介が浮かんだ。

 

 

 

 さて、ではなぜ妖介を磔にするほど雄助が怒っているのかというと――

 

 

 

「だって妖介、みんなの前で色々と余計なこと言ったじゃん」

 

 そう言って雄助は妖介をジト目で睨む。

 

 

 

 

 

 ――遡ること30分。

 

 緑川の公開処刑を終え、通話で緑川に「次こんなことしたら生身の方をデストロイすんぞ」と忠告をして晴れやかな面持ちでブースを後にした妖介。

 ブースを出て一番最初に目に入ったのは2人のランク戦を観ていた隊員達の顔だった。

 驚愕、恐怖、嫌悪、畏怖、様々な感情がC級隊員達の顔に現れていた。

 

 それもそのはず、B級隊員なりたてがA級上位に位置する緑川に勝利するどころか、笑顔で緑川を何度も殴り飛ばし、トドメには磔にして股間をデストロイしているのだから。

 

 そして何より〝目〟。

 

 何人かは見たことがあったようだが、大半の隊員は初めて雄助の異形の目を見た。

 初めて見た者達には驚愕と恐怖を、見たことがある者達には嫌悪と畏怖を与えた。

 

 向けてくる感情は違えど、全員の視線と感情が妖介に刺さる。

 

 

 故に妖介は全員に向かって言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブッサイクな顔向けてんじゃねぇよ、モブ共」

 

 と。

 

 

 

 隊員達は急に言われた罵りの言葉に暫し唖然したが、少し経つと感情が怒りに変わった。

 

「まぐれで勝ったからって調子にのるなよ!」

「またズルでもしたんだろ!」

「気持ちわりぃ目しやがって!」

 

 隊員達から上がる暴言。

 それを気にも留めない様子で妖介は隊員達の前に降り立つ。

 

 

「まずはその臭い口を閉じろ」

 

 

 ただ平然と言っただけのその言葉に誰もが従った。

 先程と同じように罵ってきたというのに、誰1人として言い返さなかった。否、言い返せなかった。

 

 妖介は怒っているのだ。憤怒に狂気めいた殺意がこもるほどに。

 妖介が放つ殺意にも似た怒りに気圧され、全員の口から言葉が出てくることはなかった。

 

「ん、静かになったな」

 

 静かになると妖介はめんどくさそうに後頭部を掻きながら言葉を続ける。

 

「お前らも観てたと思うけど、俺はあのバカを折檻してきた。理由は()()を苦しめたからだ。

 お前らの中にも雄助に何かしようとしている奴がいるなら出てこい。()が相手してやる。全員あのバカみたいにしてやるからよ」

 

 ああはなりたくないだろ? と自虐的な笑みを浮かべてそう言うと、隊員達がザワつく。

 

 まるで〝俺〟と〝雄助〟は別人だと言っているようではないか、と。

 

 そのザワつきの原因に気づいた妖介は、あーめんどくせぇな、とぼやきながらも隊員達に答えを与える。

 

 

「俺の名前は妖介。お前らの知る天峰雄助とは別人だ」

 

 

 隊員達のザワつきが一層強まる。

 何を言っているんだこいつは、頭おかしいんじゃないか、と誰もが妖介の言葉を信じない。

 

 

 ――まあ、これが普通の反応か……。

 

 

 脳裏に浮かぶのは玉狛支部の面々。

 妖介の存在を疑うことなく信じてくれた数少ない人達。

 

 しかし、それは今関係ないだろう、と切り捨てる。

 

 

「信じる信じないはお前らの自由だが、雄助は〝解離性同一性障害〟。つまり二重人格だ」

 

 またしてもザワつく。

 

「わかったか? 俺はもう1つの人格ってことだ。

 さっきのランク戦も、訓練もだいたいは俺がやった。今までの結果に文句があるやつは雄助にじゃなくて俺に言え」

 

 以上終わり、と言って妖介はランク戦室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやだってあれは……ねえ?」

「ねえ? じゃないよ!? 必要以上に煽りすぎだし、妖介のことも言っちゃったし!」

「うん、煽ったし言っちゃった」

「……ダメだ、反省してない」

「でもこれで雄助に多少なりとも悪意はいかなくなるだろ」

 

 妖介がそう言うと雄助は悲痛な顔をして俯いてしまった。

 

「……」

「……俺が招いたことだ。お前は気にすることはない」

 

 俺がお前を守るのはいつものことだろ、と続けると雄助は今にも泣き出しそうな顔を上げた。

 

 

 

「それが行き過ぎると僕の心が痛いんだ。

 妖介ばかりに負担をかけて、押し付けて、僕のために全ての悪意を自分に向ける妖介を見ていると僕は辛いし苦しい」

 

「……それでもそれが俺の存在理由だ」

「……妖介は〝最初の約束〟のこと覚えてる?」

 

 〝最初の約束〟

 その言葉を出されて妖介はバツの悪そうな顔になる。

 

 

「……ああ、覚えてる」

「じゃあその約束を守って。僕は苦しんでいる」

 

 

 天を仰ぎ、観念したようにため息をつく。

 

 

「……わかったよ。約束は守る」

「うん、ありがとう」

 

 

 やっと雄助の顔から悲痛さが消え、笑顔が現れた。

 そのことに妖介も呆れながらも安堵する。

 

「じゃあさっさと帰ろうぜ」

「あ、でも忍田さんのとこいかなきゃ」

「気絶するような精神状況で行けるわけないだろ。今日は行けないって連絡いれといた」

「そうなの? ありがとう」

 

 連絡いれるついでに、緑川のことをチクったことは黙っておいた。

 

「おう、とりあえずこれ外してくれ」

「ん? ちょっとまってね」

「あ? いやなんで…… おい! ちょっとまて、なんで拳構えてんだよ!?」

 

 磔にされたままというのも嫌なので妖介は外してくれと頼むが、何故か雄助は先程の妖介と同じように拳を構えていた。

 

 そう、妖介の股の延長線上で拳を構えたのだ。

 

「緑川君を必要以上に痛めつけ、尚且つ僕を苦しめた妖介への制裁。それに僕のことを緑川君を釣るための餌みたいな扱いしたでしょ?」

「いやあれは」

「知ってるよ。僕のためでしょ。それでも説明くらいしてくれてもよかったんじゃないの?」

 

「うぐ……」

 

 的確な指摘にぐうの音もでない。

 

「まあ細かいことは、また家に帰ってからでってことで」

「いやいやいやまってくれ!」

「いくよー」

 

 

 やはり先程と同じように妖介の懇願は聞いてもらえず、雄助の拳が繰り出される。

 

 

 

 

 

「元祖・減り込みパーンチ!」

「ひでぶ!」

 

 雄助渾身のパンチで妖介の股間は昇天したのだった。

 

 

 

 

 

 




今更ながらオリ主の名前の由来をご紹介したいと思います。


最初に名前が決まったのは雄助からでした。
私の名前の一文字である『雄』は絶対にいれようと考えたました。あれでもないこれでもないと考えていた時、本屋でたまたま見つけた昔読んでいた漫画の主人公の名前が『祐助』だったのを思い出し、これはいい、と『雄助』の名前が決まりました。

そして妖介ですが、意外とあっさり決まりました。

二重人格にするのは最初から決まっていたので『雄助』と似た名前にしようと考えていました。

もう1つの人格はどのような性格にしようかときまっていて、悪魔のような性格、と決まっていました。そこで、『悪魔のような』というところが私の好きなスポーツ漫画に出てくる人物にいて、その人物が『妖一』という名前でした。

じゃあ、その人物の『妖』と雄助の『助』を合わせて『妖助』にしようとしたのですが、それでは違和感があったので『妖介』となりました。
さらにその人物はチームの『裏』エースと作中で呼ばれていたので即決定でした。


これが雄助と妖介の名前決定までの経緯でした。

次あたりで『天峰』の由来を書こうと思います。

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