答えの表と裏   作:Y I

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どうもお久しぶりです!

まずはご報告を。

なんとこの前、ランキングに私の小説がランクインしていました!しかも3位!!
まあすぐに消えちゃいましたけども……笑

こな小説を読んでくださる皆さん! 本当にありがとうございます( ;∀;)


それでは本編をどうぞ!


第10話

 

 

 

『3本目開始』

 

 3度目の開始の合図を聞き、緑川は動き出す。

 

 緑川は今、最高に気分が良かった。

 

(結局あいつはズルをして最速記録を出したんだ。じゃなきゃあんな弱いはずがない)

 

 思い浮かぶのは、なにもできずに切り伏せられる天峰雄助の姿。

 2戦してわかる。天峰雄助はあまりにも弱く、あまにも拙い。

 そのことが堪らなく嬉しい。

 

 スキップでもしてしまいそうな気持ちを抑えてレーダーを確認する。

 今回は先程とは違い、レーダーにしっかりと反応があった。

 

『グラスホッパー』を力強く踏んで一気に距離を詰める。

 

(これで俺の方があいつより強いってことが証明できる……!)

 

 眼前に捉えた雄助は、下を向いて微動だにしない。

 

 

 この時、緑川は気分が高揚していて雄助の今までとの違いにきづかなかった。

 

 

(獲った!)

 

 内心ほくそ笑みながら『スコーピオン』を前回と同じ軌道で振るう。

 

 

 

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 

 

 視界が左右に割れた。

 

 

「……あ、れ?」

 

 

 頭が現状の理解に追い付かない。

 

 無機質な音声が事実のみを述べる。

 

 

『緑川 緊急脱出 2-1 緑川リード』

 

 

 緊急脱出(ベイルアウト)する直前に見えたのは、口は弧を描いて目は笑っていない天峰雄助。

 

 

 その目には異形な模様が浮かび上がってた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 ――妖介は憤慨していた。

 

 怒りの矛先は雄助に危害を加える害虫(緑川)に向いていた。

 

 雄助によからぬ感情を向ける輩が居るのは知っていた。だから時間を潰すのにわざわざランク戦室に赴いて、害虫を()()()のだ。

 結局は事情を説明していなかったため、雄助に怒られて出れなくなってしまったが。

 

 ランク戦室に居た時にはそれらしい輩は居なかった。だから、大丈夫だと踏んで寝ていたのだ。

 だが、そこで安心してしまったのがいけなかった。

 間の悪いことに妖介が安心して寝ている間に緑川はランク戦を持ちかけてきたのだ。

 

 

 妖介が起きた頃には雄助の心は消耗していた。

 極度に嫌いな〝戦闘行為〟を強要されていたため、ほぼ気絶していたのだ。

 

 

 雄助が気絶するほど〝戦闘行為〟を嫌うのには理由がある。

 

 第1次大規模侵攻で雄助の両親は近界民(ネイバー)によって命を奪われた。

 その命を奪われる瞬間に雄助は立ち会っている。

 

 近界民のブレードに貫かれた両親の姿と一瞬で致死量だと理解できるほどの血。

 それが〝死のイメージ〟として脳裏に焼き付いている。

 

 

 武器を握ると考えてしまう。

 

 

 もし、今握るトリガーが殺傷能力を有していたら。

 

 もし、それで斬られたら。

 

 もし、それで撃たれたら。

 

 もし、それで斬ったら。

 

 もし、それで撃ったら。

 

 

 

 そう考えると『サイドエフェクト』が答えを出してしまう。

 

 

 〝死〟

 

 単純明解。

 故に恐怖が全身を蝕む。

 

 〝戦闘行為〟が〝死のイメージ〟と結び付いて、雄助の体を恐怖が覆い尽くしてしまう。

 

 

 つまり、武器を握ると両親の死が頭にちらついてしまうため、戦闘をしたくないのだ。

 

 

 そのことをよく理解している妖介は頭にきているのだ。

 

 辛かっただろう、怖かっただろう、苦しかっただろう。

 

 ――なら俺がすべきことはただ1つ。

 

 

 3戦目を終えた妖介は緑川の居るブースへ音声を飛ばす。

 

 

「おーい、真っ二つにされた緑川、いや、グリリバ君。聞こえてますかね? 格下だと思ってた奴に斬られた気分はどう? ねえ、教えて、どんな気持ち?

 ほら、もう1度聞かせてよ「……あ、れ?」って。いやーあのアホ面は最高に面白かったよ。プークスクス」

 

 

 盛大に煽りにいった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

(くそっ! また卑怯な手でも使ったのか!?)

 

 緑川は困惑していた。

 1戦目、2戦目共に瞬殺して格下だと思っていた相手、天峰雄助の動きの変化にだ。

 

 また瞬殺だろう、と思っていた3戦目。同じように突撃すると訳もわからぬままに斬られていた。続く4戦目では困惑と煽られた怒りが相まり、いつも通りの動きが出来ずあっさり斬り捨てられた。

 

 緑川は何が起きたのか全く理解できてなかった。

 

 なぜ、どうして、と頭の中で何度も自問自答するが答えは出ない。それはそうだろう。緑川が相手にしているのは雄助ではないのだから。

 

 そのことを知らない緑川は、もう1つ、困惑していることがあった。

 

(それにあの目は……)

 

 天峰雄助の目の模様を思い出すと神経という神経に寒気が走った。

 

 異形。

 そう言ってしまえば簡単だが、あの目は()()の人間ではあり得ない模様だ。

 そう()()ならあり得ない。しかし、緑川が所属する組織、ボーダーでは普通ではありえない力を持つ者達が存在する。

 

(あの目になってから動きも変わった……もしかして『サイドエフェクト』?)

 

 

 その答えに辿り着くのに大して時間はかからなかった。

 

 そして、怒りが込み上げてくる。

 

(結局ズルしてるようなもんじゃないか……!)

 

 普段の緑川ならそんなことは思わないだろう。しかし、今は嫉妬や承認欲で普段なら考えもしないことを考えてしまう。

 

 

『サイドエフェクト』はどんな能力であれ、戦闘に多大な影響を与える。ボーダー内にも『サイドエフェクト』持ちは数人いる。そしてそのほとんどが強者揃いだ。

 緑川もその人達のことを卑怯だとは言わない。むしろ、尊敬しているくらいだ。

 だが、天峰雄助だけは違う。違ってしまう。

 

『サイドエフェクト』頼りで実力はないくせに、たまたま運がよかっただけじゃないか。

 

 気にくわない相手が特別な力を持ち、自分より優位に立てば、なんであいつなんだと思うだろう。なんで自分ではないんだと思うだろう。

 胸の中でその思いが強くなる。

 

 ――オレの方が、オレの方が強い!

 

 

 

 

 そうこう考えている内に妖介が居る場所へ辿り着く。

 

「どうした小石に躓いた様な顔して」

 

 妖介はニヘラと笑ってそう言う。

 内心では怒りが頂点に達しそうではあるが、努めて冷静に応える。

 

「……ねえ、君さ。なんかズルでもしてんの?」

「あ? ズルってなんだよ……あれか? お前。負けたらズルだ、チートだって騒ぐタイプか。あーやだやだ。()()()に限ってそうやって言ってくるんだよ」

 

 しかし、返ってくるのは煽り。妖介は〝弱い奴〟の所をわざと強調して言う。

 

 その言葉がきっかけで緑川の怒りが頂点に達した。

 

「……うるさい」

「あー? んだよ」

「――うるさい! なんなんだよ、あんたは! だいたい、オレのことを弱いとか言ってるけどアンタは結局、その〝気持ち悪い目〟の力に頼ってるだけのズルい奴じゃないか! その力がなかったらオレの方が「ハァ、うるせぇな」……!」

 

 緑川の怒りの咆哮を遮り、妖介は『弧月』を構える。

 

「ギャーギャーギャーギャーうるせぇんだよ。発情期かお前は。文句があんだったらかかってこいよ」

「言われなくても……!」

 

 会話を終わらせ、緑川は『グラスホッパー』で前へ飛び出す。加速する体は妖介と別の方向へと進み、また別の『グラスホッパー』を踏む。それを繰り返す。

 

乱反射(ピンボール)

 それが緑川が行っている高速移動の名称。

 『グラスホッパー』を周囲に多数配置し、3次元的に高速移動して相手を惑わす、緑川が得意としている技である。

 

 しかし、妖介は『乱反射』で高速移動する緑川には目もくれず、その場から動こうともしない。それどころか欠伸までしている。

 

(くそっ、舐めやがって……!)

 

 怒りに任せて飛び出そうと『グラスホッパー』を力強く踏みしめる。

 

 

 そこでハッとする。

 もしやこいつは自分を単調な動きにさせるために挑発行為をしているのではないか、と。

 

「――ッ!」

 

 そのことに気づいた緑川は前方に『グラスホッパー』を出して方向転換し、一度距離を取る。

 

 

(今行っていたら斬られてた……気がする)

 

 

 直感ではあったがそんな気がしたのだ。

 そしてその直感は間違っていなかった。先程までとは違い、緑川のことを見ようともしなかった妖介が、緑川のことをしっかりと捕捉している。

 

(……なら、今度は!)

 

 もう一度妖介の周りに『グラスホッパー』を多数展開して『乱反射(ピンボール)』をする。

 先程と同じように妖介の周りを右に、左に、上に、下に、と縦横無尽に飛び回る。

 

 そして動かない妖介の後ろから強襲する。

 

 

 

 それを待っていた、と言わんばかりに妖介は居合いの構えで緑川が居る方へ振り向いた。

 

 

 

 が、緑川は途中で『グラスホッパー』を踏み、妖介の頭上を飛び越えた。

 

 妖介に『バッグワーム』被せて。

 

 緑川は途中で『グラスホッパー』を踏んだときに上には自分の体を、前方には『バッグワーム』を飛ばしたのだ。

 

 

(完全に虚をついた! 今度こそ!)

 

 

 前が見えていない妖介の背後からその首を刈り取ろうと、緑川は刃を振るう――

 

 

 

 

 

 

「意外と冷静な判断ができるじゃねぇか」

 

 

 視界を遮られ、緑川がどこに居るのかわからないはずなのに、再度妖介は居合いの構えで背後へと振り向いた。

 

「なっ!?」

「でも残念だったな」

 

 そう言うのと同時に妖介は『弧月』を高速で解き放つ。

 

 高速で解き放たれた『弧月』は緑川の顔面に吸い込まれいき、真っ二つに斬られる。

 

 

 

 

 

 

 

「――がっ!?」

 

 はずだった。

 

 

 

「おー吹っ飛ぶ吹っ飛ぶ」

 

『弧月』をバットのように振り抜いた形ではっはーっと軽快に笑う妖介。

 

 

 なぜ、緑川が斬られなかったのか。

 結論から言ってしまえば、それは『弧月』の切れ味を〝0〟にしたからだ。

 

『弧月』は『スコーピオン』のようにトリオンを消費せずに、刀を自由に出し入れできない。

 そのため『弧月』を持った側のトリガーは必然的に使えなくなってしう。

 しかし、『弧月』はオフにすることで切れ味が0になり、同じ側にセットされた他のトリガーを使用できるようになる。

 

 妖介はこの特性を活かして『弧月』を〝刀〟から〝竹光〟へと変化させたのだ。

 

 

 だが、なぜわざわざ攻撃力を0にするような行為をするのか。

 先程の攻撃で『弧月』をオフにしなければ緑川に勝利していたわけだ。

 

 なぜ刀を竹光にしたのか。

 

 

 それは〝恐怖〟を与えるため。

 

 

 トリオン体はトリオンによる攻撃以外に対しほぼ無敵になる。戦車の大砲やミサイル程度では直撃しても無傷であるほどである。

 オフにした『弧月』。

 オフにしてしまい、攻撃力を有さないトリガーでトリオン体にダメージを与えられるか。

 

 答えは可である。

 攻撃力を有さなくとも、妖介が扱う『弧月』はトリオンで出来た武器である。

 斬ることができなくとも打撃を与えることはできる。

 

 しかし、打撃を与えられる、といってもそれは微々たるものである。

 斬るよりは圧倒的にダメージは少ないだろう。

 

 

 だが、それでいい。いや、そうでなくては困る。

 

 

 何度も、何度でも攻撃をしたいがために切れ味を0にしたのだから。

 

 トリオン体にもある程度痛覚はある。斬られたり殴られたりすれば痛みを感じる。

 緑川を緊急脱出(ベイルアウト)させてしませば1度しか斬れない。それでは痛みが一瞬するだけで終わってしまう。

 

 つまり妖介が切れ味を0にしたのは、痛みを1度ではなく何度も与えたいからだ。

 

 

「初めてやったけどいいな、これ。『竹光弧月』って呼ぶか」

「……ぐっ」

 

 

 緑川は飛ばされて突っ込んだ家の瓦礫から這い出て、自分が飛んできた方を見る。

 

「さて、これからが本番だ。楽しめよ、グリリバ」

 

 そこには心底愉しそうに、心底愉快そうに、嗜虐的な笑みを浮かべて近づいてくる妖介がいた。

 

 

 クソッと心の中で悪態をつき、怒りで己を鼓舞して攻撃を仕掛ける。

 

 

『グラスホッパー』を使い急接近して斬りかかる。

 いなされ、『竹光弧月』で殴り飛ばされる。

 

『乱反射』を使って妖介の周りを高速移動する。

 途中で『竹光弧月』で殴り飛ばされる。

 

 突っ込んだ家の瓦礫から動かないで誘い込む。

 奇襲するよりも先に『竹光弧月』で殴り飛ばされる。

 

 1度距離を取ろうと『グラスホッパー』で後ろへ下がろうとする。

 それを分かってたかのように先回りされて『竹光弧月』で殴り飛ばされる。

 

 何をしても、何をするよりも先に殴り飛ばされる。

 

 緑川は何度も同じ箇所を殴られ、痛みが酷くなっていた。トリオン体でなかったら痣ができているだろう。

 

 

 ――痛い。怖い。逃げたい。こいつには勝てない。こいつには敵わない。こいつからは逃げられない。

 

 そう考えてしまう。

 

 緑川は武器を持ち、近界民と戦い街を守っている、と言ってもまだ中学生だ。

 

 何度も何度も殴られ、逃げれば追ってくる。しかも笑いながら。

 

 そんなことが続けば、まだ中学生である緑川が恐怖を感じるのは当たり前だった。

 

「どうしたそんな顔して」

「……」

 

 緑川は顔を蒼くして血の気の引いた唇を固く結ぶ。

 

 恐怖を植え付け、2度とこんなバカなことができないようにする。

 それが妖介の目的。

 

 

「お前は雄助に恐怖を植え付けた。だから俺がお前に恐怖を植え付けてやる」

 

 悪魔(妖介)は嗤う。

 

 ――雄助に手を出したことを後悔しろ。

 

 

 

 

 




くっ戦闘シーンが難しい……。

まあ言うほど書いてはないんですけどね 笑


あ、あとこの小説の投稿頻度は二週間に一度になると思います。
投稿を待ってくださっている読者の皆様には申し訳ないですが、よろしくお願いいたしますm(__)m

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