あーしさん√はまちがえられない。   作:あおだるま

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彼と彼女は実は似ている。

 

「あー、そう言えば」

 

 参拝への先の見えない行列に飽きたのか、唐突に三浦は口を開いた。

 

「あんた今年うちの学校受験するんだって?」

 

 突然話しかけられた小町は、ビクッっと肩を震わせる。そのキョドり方で「やっぱりこいつ俺の妹なんだなぁ」と再確認する。...正直ちょっとキモイなと思ってしまいました。

 

「は、はい!そのつもりです。…受かるかどうかはわかんないですけど」

 

「はぁ?そんなん当たり前っしょ。わかってたら受験なんていらないっつーの」

 

「…確かに」

 

 そこ納得しちゃうのかよ。なんのこっちゃと言いたくなるやり取りに、内心ついツッコミを入れてしまう。

 

「ま、うちの学校倍率だけは何か高いからそりゃ緊張するか」

 

「…ですね。自分で言うのもアレなんですけど、その…。小町お兄ちゃんほど頭よくなくて、今までそこまで勉強とかしてなくて…でも奉仕部の皆さんが…お兄ちゃんが楽しそうにしてた総武にどうしても行きたくて、それでも点数的には微妙で…」

 

 顔をうつむける小町に、俺はかける言葉を見つけられない。

 

 普段、小町は場の雰囲気を誰よりも重視する。一見無邪気に見える行動も、「空気を読まずに合わせている」という表現が近しい。以前三浦は海老名さんをそう評していた。しかしそれは危ういとも彼女はいった。それは小町にも当てはまるのかもしれない。家を空けることが多い両親。頼りにならないどころか、最近は家にいないことも多い俺。そして小町自身は自分のことだけでなく家事もこなしている。弱音など上手く吐けるわけがない。

 

 その場の雰囲気に合わせる小町が吐く、場違いの弱音。俺はそれがどれだけ重いか知っている。だから、俺は何も言うことが出来ない。軽々しく言えるはずがない。

 

 周りの沈黙に気が付いたのか、小町は流しかけた涙を引っ込め、笑う。

 

「な、なーんて。小町もちょっとナーバスになってるのかもしれませんね!いやはやー、柄にもない。そんなキャラじゃないですしね!まりっじぶるーってやつですかね。子供とかできたらそれこそこんなもんじゃ…」

 

「あーしはあんたのことなんて知らないし、ぶっちゃけどうでもいい」

 

 痛々しく笑う小町に、三浦は冷たく言った。空気が少しだけ揺れる

 

「は、はは。そうですよね。どうでもいい話ですよね、こんなの。…どうでもいいし。どうしようもないです。ほんとに。……ごめんなさい」

 

「そう。どうしようもない。だって、今までのあんたの時間と頑張りを知ってるのはあんただけだけでしょ」

 

「…はい」

 

「でも」

 

 三浦はひざを折り、見下ろしていた視線を小町まで下げる。

 

「あんたが受かるかなんてわかんないけど、あーしが生徒会長なんてやる学校、あーしだって信じらんない。だから、うちの学校が面白いことだけは保証する。安心して、あんたは入ってきな。入ったことは絶対後悔しないから。…あーしが、させないから」

 

 三浦優美子は、総武高校の生徒会長は、そう比企谷小町に笑いかけた。

 

 それは問いに対する答えになっていない。小町の問いは「自分でも合格できるか」しかしそれは答えようがない、と三浦は言う。そんなことは小町もわかっていただろう。

 だから三浦優美子は生徒会長として、「未来の新入生」に笑った。小町が選んだ未来は、少なくともまちがってはいない。そう示したかった。…の、かもしれない。俺に決めつけることはできない。だって、と俺はため息混じりに思う。ただただ小町の話を碌に聞いていない可能性もあるしなぁ、こいつなら。

 

 ポカンと口を開ける小町に、今度こそ三浦は大まじめに続ける。

 

「ま、戸部とか結衣が受かってるくらいだからあんたでも受かるっしょ。心配しすぎんなって」

 

ふむ。

 

「さっきのは答えにすらなっていなかったが、その答えには説得力しかないな。というかなぜそれを一番に言わなかったのか疑問に思うまである。…なんで受かってるんだあの二人?」

 

「ええ、そうね。悔しいけど私も三浦さんに同感だわ。由比ヶ浜さんと戸部君が総武高校に受かったのは総武高校七不思議に数えてもいいほどの珍事と言わざるを得ないもの」

 

「あはは、そう考えればそうだねー。…って、優美子もヒッキーもゆきのんもひどいよ!!!あ、あたしだってちゃんと勉強して総武入ったんだから!まぐれじゃないんだから!…ちょ、小町ちゃんそんなホッとした顔でこっち見ないでー!!」

 

「だ、だって結衣さん小町の数学の宿題わかんなかったじゃないですか…」

 

「あれは習ったのがあまりに昔過ぎて忘れていたというか、そもそも数学が苦手だというか…ってゆきのん!?なんでそんな離れたところにいるの?」

 

「いえ…まさかあなたが中学生の数学もわからないなんて思わなくて…」

 

「ひ、ひどいよ!?ちょ、そんな離れないでよっ!ゆきのーーーーーん!!!!!!」

 

 さっきまでの雰囲気はどこに行ったのだろうか。気づけば小町も雪ノ下達と一緒に馬鹿笑いをしていた。しかし三浦と言えば、またいつものしかめっ面で一人ケータイをいじっている。

 

 その姿は、どこかの誰かと被る気がした。

 

「…悪いな」

 

 つい、そう漏れてしまった。三浦はそれでも視線を落としたまま、こちらを向くことはなく口を開く。

 

「べーつに。あーしは何にもやってないし、言うだけなら誰だってできる。言ったけど、…頑張るのはあんたの妹しかできないでしょ」

 

「それでも、その、なんだ。…助かった。俺にはわからんかったから」

 

 何を言えばいいのか、何を言うのが適切なのか、何を言うべきではないのか。普段わかるはずのことが、こと小町の受験に関して、俺には全く分からなかった。

 

 いつもそうだ。どうでもいいことはいくらでも出てくるくせに、肝心な時にこの口は動いてはくれない。

 

「それでいいんじゃないの?」

 

「…は?」

 

 声に出てたか?一瞬疑問に思うが、声を落とす俺を見て三浦は「だーかーら」と呆れたように口を開く。

 

「あーしはあんたの妹に関して、わかんなくていいって思ってるから適当なこと言えんの。あんただっていっつもそうでしょ。ベラベラ適当なこと言ってんじゃん。それって、別にそいつのことわかんなくてもいいからでしょ。

 だから、そういうことなんじゃない。あんたは妹のことは「わかんなくてもいい」とは思ってないんじゃん。

それって、どんだけみっともなく悩んで、考えて、結局なんにもわかんなくても。「わかりたい」って思ってること自体が大切なんじゃないの。…よくわかんないけど」

 

 ガリガリと頭を掻き、彼女は頬を染める。その姿になぜか俺の頬も熱くなる。さっきも感じた既視感。…床屋で鏡越しに自分の顔を目の前で見せられているような。

 

 その連想に、一層頬の熱が増した気がした。

 

「…なに。なんか言えし。あ、あーしだって恥ずいこといってる自覚あんだから!」

 

「いや、そうだな。悪かった。…ありがとう」

 

「…」

 

「…なんだよ」

 

「いや。妹が絡むと素直になんだなって思って。…キモ」

 

「いやあの、そんな小声で吐き捨てるようにつぶやかれても聞こえてるんですけど」

 

 なんでコンパクトに心をえぐってくるんだよこいつらは

 

「き、も、い」

 

「だからはっきり言いなおすんじゃねえっつうの。聞こえてるから。聞こえてますから」

 

 こいつにしても雪ノ下にしても、俺はため息を吐く。

 

 やはり碌な女子がいない。

 

 

 

 

「結衣は何お願いしたの?」

 

 行列も終わり、雪ノ下以外の面々はいい加減極まりない参拝を済ませたところで、三浦が投げやりに聞いた。

 

「え…ほ、ほら、今年もみんな仲良く過ごせますように、的な?」

 

 いや、疑問形でこっちを見られても俺は何一つわかりませんけど。しかし三浦は違ったようで、得心したようにいくつかうなずく。

 

「ま、結衣ならそっか」

 

「えーと、優美子は何お願いしたの?」

 

「あ、あーし?あーしは…」

 

 …いや、あのね?だから困ったようにこっち見られても何もわからないんですけど。しかし珍しく歯切れの悪い三浦をみて、おもわず俺も一言はさむ。 

 

「ま、願い事なんて口に出したら叶わんもんだ」

 

「…そうね。特に本当の願い事は、ね」

 

 ため息交じりに言うと、雪ノ下もどこか由比ヶ浜と三浦に優しく微笑みつつ、同意する。

 

「え、えー!どうしよう、あたしもう言っちゃったんだけど」

 

 ギャーギャーと叫ぶ由比ヶ浜を、一色がからかい小町がなだめる。

 

「まあまあ由比ヶ浜先輩。大丈夫ですって。少なくとも私は由比ヶ浜先輩と一緒にいるの楽しいですし。ね、小町ちゃん」

 

「そ、そうですよ結衣さん!小町も結衣さんと一緒にいるのとっても楽しいです」

 

「いろはちゃん、小町ちゃん…」

 

 涙ぐむ由比ヶ浜に、一色は調子に乗って続ける。

 

「そうですよー、この中に一般庶民的な常識持ってるの由比ヶ浜先輩だけですしー」

 

「あははー。それちょっと小町もわかるかもです。いっしょにいて安心できるくらい普通で常識的なの、この中だと結衣さんだけっていうか…あ」

 

 一色とともに笑う小町は、目の前の殺気に気づいたのか恐る恐る顔をあげる。そこには

 

 仁王立ちの絶対零度と獄炎の女王がいた。

 

「なるほど。よーーーーくわかったわ。一色さん。小町さん。二人とも私のことは一般常識の欠如した迷惑女だと思っていたのね。…あなたたちとの付き合い方も考えなければならないわね」

 

「一色はともかく、あんたも流石にヒキオの妹だし…。入学したら、覚悟しときな」

 

 一色と小町は顔を見合わせ。

 

「「ごめんなさい」」

 

 真摯な謝罪が人混みの中に響き渡った。

 

 

 

 

 

「ヒッキーヒッキー」

 

 参拝も終わり駅を向かう途中。一歩後ろを歩く由比ヶ浜に遠慮がちに呼び止められ、耳打ちされる。近いしいい匂いするしどこがとは言えないが柔らかい。いや、どこがとは言わないが。

 

「もうすぐゆきのんの誕生日なんだけど、プレゼントどうしよっか?」

 

「あー…そういやそうか」

 

「ヒ、ヒッキーは明日とかどう?」

 

 だ、だからそう言うボディタッチとか上目遣いとかやめてください。勘違いして告白して即刻亡き人になっちゃうじゃないですか。死んじゃうのかよ。

 

「あー、特に用はないが…三浦と一色はどうする?」

 

「あ、あの二人にはもう声かけてあるよ。二人とも明日で大丈夫だって。ゆきのんどんなプレゼントがいいかなー」

 

「あいつならネコかパンさん関連のモン渡しとけば大抵喜びそうなもんだが」

 

 至極まっとうな事実を述べると、由比ヶ浜は決まりが悪そうな苦笑いを浮かべる。

 

「まあ、それはあるかもしれないけどさ。…その人のためにいろいろ考えるのも、プレゼントなんじゃないかな」

 

「…かもな」

 

 瞬間、俺は由比ヶ浜へのプレゼントを思い出す。確かにプレゼントとなるとその人間のことをある程度知っている必要があり、また知った気になってもいけない。…よくよく考えてみればこれ、ぼっちには難易度が高すぎるのではないでしょうか?

 

 改めてことの大きさを思い知った俺は、個別ではなく生徒会で一つのプレゼントを贈る方向に軌道修正しようとする。しかし横から聞こえた思い出したかのような声に阻まれた。

 

「そういえば誕生日プレゼントと言えば。

 

先輩は三浦先輩に何を贈ったんですかー?」

 

 一色いろはは、何ともない風に疑問を口にした。

 

「…は?」

 

「…え?」

 

 俺と由比ヶ浜の擬音が重なる。頬と背中に嫌な汗が流れたのは、このうんざりするほどの人混みのせいだったのだろうか。由比ヶ浜の顔色が若干悪い。

 

「…せ、先輩?まさか…、ええ、まさかとは思ってお尋ねしますが…」

 

 由比ヶ浜に続き、今度はなぜか一色が顔を青ざめる。

 

「三浦先輩の誕生日ってご存知ですか?」

 

「…」

 

 沈黙は金。

 

「…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。信じらんない」

 

 とはいかなかったようで。

 

 大きくため息をつき頭を抑える一色。一方由比ヶ浜はあたふたと明らかに動揺しながら、何故かペコペコと俺に頭を下げる。

 

「ご、ごめんねヒッキー!優美子の誕生日12月12日なんだけど、その時ちょうどクリスマスイベントの準備でバタバタしてて、あたしは誕生日プレゼントあげたんだけど、ヒッキーにすっかり伝え忘れてて…。一応優美子にも誕生日会しようかって言ったんだよ?でも、『は?このクソ忙しい時にそんなことしてる暇ないっしょ。…つ、つーかそんなこと大げさにやられてもはずいっつーか…と、とにかくやんなくていいから!いい?絶対やんなくていいからね!?』って…」

 

「「うわぁ」」

 

 俺と一色の声が重なる。たぶん、同じ感想を抱いたのだろう。

 

 いつツンデレキャラにジョブチェンジしたんだ。

 

「いや、それでも結衣先輩が謝ることないですよ。この件に関しては、混じりっけなしに100%先輩に非があります。誕生日も把握してないなんて…ポイントだだ下がりですぅ」

 

 だから何のポイントだよそれは。小町然り、女子はどいつもこいつもポイント制を採用してるのん?どこで何と交換できるか教えてくんない?

 

 恨めし気に俺を見てくる一色、なぜか俺に向かって苦笑を浮かべる由比ヶ浜。逃げ場はないか。俺はホールドアップしてため息を吐く。

 

「わかったわかった。12月12日、だったっけか?適当に何とかする方向で検討しとくから」

 

「それ絶対何にもしないフラグじゃないですか…」

 

 俺の弁明にますます一色が暗い声を出す。そこまで言うなら、である。後輩に好き勝手言われるのは面白くはない。

 

「そんだけ言うならお前は、三浦になんか贈ったのか?」

 

「はぁ?なんで私が自発的に三浦先輩に誕生日プレゼントあげなきゃいけないんですか?バカなんですか?」

 

 ええ…。あまりにも潔い開き直りに閉口するしかなくなる。ならなんで俺が三浦に誕生日プレゼントをあげなきゃいけないのかもぜひ説明していただきたいものですね。はい。

 

「先輩は上げなきゃいけないに決まってるじゃないですか。…ねえ、由比ヶ浜先輩?」

 

 俺の問いに、一色はなぜか由比ヶ浜に向かってそう笑いかけた。由比ヶ浜は「あ、あたし!?」と声をあげるも、いくらかの逡巡の末同意する。

 

「う、うん、そうだね。ヒッキーは…あげなきゃ、だよね」

 

 そう言ったきり、由比ヶ浜は黙って先に行ってしまう。空気を読む彼女にしては珍しいが、この自由奔放な後輩に付き合うのが疲れるのは理解できるから仕方ないともいえる。全く自分勝手というか、怖いもの知らずというか。

 

「…先輩、なんか今失礼なこと考えませんでしたか?」

 

「い、いえ、なんでもないでちゅっ」

 

 です。気持ち悪い噛み方をする俺に、一色は軽く身を退き先に行こうとするが、思い出したように言い残した。

 

「じゃあ明日13時に駅前集合でいいですかね。あとで三浦先輩にも伝えておきます。小町ちゃんにも伝えておくのでそのつもりで」

 

「…別に逃げやしねえよ」

 

 取って食われるわけでもあるまいし。というか、すでに小町に言っておけば俺が逃げられないことを把握しているお前が怖い。いろはすほんと怖い。

 

 

 

 

 帰りの電車の中は、行きよりも混み合っていた。隣に立つ女王に肘が当たってしまう度に、不機嫌そうな舌打ちが聞こえる。…いや、俺だって好きで当たってるわけじゃないからね?いくら身を小さくしても接触を避けられない程度に人だらけである。なんならまったく自らの占めるスペースを小さくしようとせず、半ば仁王立ちのままの三浦のせいで当たっていたという方が正しい。少しは遠慮を覚えましょう。

 

 ほかの生徒会一行はすでに電車を降り、小町は何か知らないが用事があるとかなんとか言って電車には乗らなかった。お兄ちゃん、それが男との用事だったら許さないからね。絶対に。

 

 …まあ実際にそんなのはただの言い訳だとはわかっている。いつもの小町の、あれだ。いらぬおせっかいだ。だとしても人選ミスではあると思うが。俺は隣でケータイをいじる三浦を一瞥すると、間が悪いことに目が合ってしまう。こいつと起こりえる間違いなど、何もないだろう。しばし気まずい時間が流れるが、ため息とともに三浦が口を開く。

 

「あんた結衣から明日の買い物のこと聞いた?」

 

「…ああ。明日13時に駅前だろ。耳にタコができるほどきいた」

 

「ったく、結衣がそーゆーの好きだってのは知ってるけどなんであーしが…」

 

 口では苦々し気であっても、その表情は決して嫌がっているようではない。むしろ…。

 

 いやまあ、言ったら殴られそうだし口には出さないが。

 

「その意見には全面的に同意だ」

 

「あーしはあんたが素直に来るのも意外だと思ったけど」

 

「いやそりゃな...由比ヶ浜にやって雪ノ下にやらないってわけにも…」

 

 あれ?

 

 俺は自分の言葉に違和感を覚える。三浦は奉仕部ではない。つまり、俺が由比ヶ浜にプレゼントを贈ったことも、それを雪ノ下と買いに行ったことも知らない。つまり。

 

 恐る恐る彼女の横顔をのぞく。

 

「…それはそうだし。へ、へぇ。結衣には誕生日プレゼントあげてたんだ、あんた。ふーん。そう。別にどうでもいいけど。それは雪ノ下さんにもあげなきゃね。た、たまにはあんたもまともなこと言うんだ。結衣に上げて雪ノ下さんにあげないわけにはいかないよね。…うん。あはは。そうだ、そうだ」

 

 前言撤回。俺は横を見れない。

 

 罵倒されるならばよかった。今は三浦は同じ生徒会だ。俺が「由比ヶ浜にあげたから、雪ノ下にも誕生日のプレゼントをあげる」のであれば、それは当然同じ団体に属する三浦優美子にも誕生日プレゼントをあげなければ整合性が取れない。だから、その俺の明らかな非を罵られるのであれば、甘んじて受け入れることができた。

 

 しかし今彼女は、文句を言うわけでもなく、非を責めるわけでもなく、その…痛々しく笑っているだけだった。

 

 さすがに、これは良くない。

 

「みう…」

 

 俺はとっさに口を開くが、それは言葉にならなかった。その瞬間、電車が揺れた。三浦の体も揺れ、俺はそれを支えようとする。が、

 

「触んな!」

 

 思いっきり、頭突きをくらった。その瞬間アナウンスが流れ、彼女が降りる一つ前の駅に着く。

 

「…あーしここで降りるから」

 

 三浦は悶絶する俺を残し、それだけ言い放って電車を降りた。

 

「…バカ」

 

 降り際、儚げにそう聞こえたの幻聴だったと信じたい。

 

「可愛いんだか、恐ろしいんだか」

 

 やはり、彼女はよくわからない。

 




 

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