俺達は宿に戻り、部屋に入った。
「山分けしようか、アハト。」
と俺は軽く言ってみる。
「そう言うと銀行強盗を想像するのは俺だけか?」
アハトがそんなことを返す。
「どちらかというと悪事を働いた後のグループじゃないか?」
「俺達は悪事を働いてないぞ。」
悪事は茅場だけでお腹一杯だ。
「働いてたまるか。さあ始めるぞ。」
「とりあえずレベルからいくか、俺は12。」
「レンジと同じだ。」
「次行くぞ。ドロップは?俺は防具だ。後は換金かな。あ、短剣だけは持っておきたい。」
攻撃力40~50 力-1 敏捷+2というモノだ。
「俺もいい短剣があったら欲しいな、クエスト知らないか?」
俺はビギナーなのだが……。
「知らないな。あれば教えるし、よさげなものを手に入れたらやるよ。」
メインは当分片手剣。
「サンキュー。俺はアクセサリしか落ちなかった。力+1だけど装備した方がいいのか?」
いかにも迷う数字だな。序盤だからなおさらだ。
「換金額を見てからでも遅くは無いだろう。」
「そうだな。ところで商人プレイヤーってもういるのか?」
商人か……そういや鍛冶とか料理スキルとかもあったな。
「はじまりの町に戻るか?」
一番ありそうな可能性を提示する。
「いや、いい。今はレベリングが先だ。」
流石に戻るのが面倒だからかアハトがそう返す。
「よし、じゃあ明日は進む、ということでいいか?」
「分かった。ところでニュースや新聞みたいなものはないのか?」
そういえばニュースを見ていないことを思い出した。現実でも朝はニュースを見てたから見ていないとしっくり来ない。考え事にニュースはいい。
「えーっと……ウィンドウのメニユーから見れるみたいだ。とは言っても1つしかないみたいだ。現在の死者数しか。」
「出れなくなったとはいえまだ2日だからそこまでの内容はないか……期待はしてなかったけど。」
情報は大事だ。厄介なモンスターとかが分かればよかったが、先行した人達は幸か不幸か出会ってないらしい。
「それでその死者数は?」
「えーっと……約400人と書いてあるな。」
「……死者数として順当と言えばそうだが、何故死ななきゃならないんだろうな。」
こんな言葉しか言えない。所詮人間は死に対して無力だ。余りにも。
「……分からない、俺には。今は安らかに眠ってくれとしか言えない。俺達は何も言えない、言ってはいけないと思う。」
「その通りだ……アハト、続きを頼む。」
「死因が外周部からの飛び降り自殺が一番多く、次点で敵モブによる死亡だな。」
「飛び降りはまだ分かるが、敵モブということは適正レベルじゃなかったということか?」
「いや、俺のようにMPKされた可能性もある。あとこれは確かめた限りだから実際とは異なる可能性もあるとも記してあるな。つまり鵜呑みにするなと。」
同じ記事を見たところ、ビギナーの方が人数的に多く死んでいるらしい。
お互いビギナーだから気を付けないと死ぬな。
「明るく話しかけてくる奴には気を付けた方がよさそうだ。そういえばなんで俺と行動する気になったんだ?明るく話しかけてくる奴そのものだったと思うぞ。」
「レンジは明るくない。完全に暗いという訳ではないが明るいか暗いかで言えば暗め寄りだと思う。とりあえず信じた理由は俺にきちんと説明をしてくれて、かつ筋が通っていたからだ。」
最後は俯きながらそう言うアハト。
しかし真っ直ぐ言われて俺はそのことに気が付かなかった。
「そ、そうか……ありがとう。後気を付けるべきは……女か。」
「親父に注意されたっけ、美人には気を付けろと。」
「誘惑されて気が付いたら男に囲まれてましたとか夢にも見たくない……。」
想像しただけで気持ち悪くなって来た。俺が女性だったら強姦コース確定だし男同士でも……やめよう。
「うっぷ……レンジ、もうやめてくれ、気持ち悪い……。」
嫌な沈黙が場を包む。
「ああ……今日はもう寝よう……。」
こうしてその日はお互いにメンタルダメージを負って終わったのだった。