会議の翌々日 14時―――――
「よし、準備はいいな?」
俺が問いかける。
ちなみにパーティーメンバーは俺、キリト、セフィロス、アスナ、ホーク、スコールだ。
アハトは短剣でフロアボスは無謀だと言って辞退している。
「DDA、準備完了だ。」
「KoB、準備は出来ている。」
「こっちもOKだ。」
「行くぞ。」
そう言って俺達は扉を蹴り飛ばして突入、戦闘が始まった。
DDA、KoB、SOLの順に突入したのだがこれには訳がある。
そして俺はこう言った。
「ガードしろ!!」
コラプス・ジ・ファフニールは最初にブレス攻撃を放って来るドラゴンタイプのモンスターだ。
なのであらかじめ盾を持った壁役がブレスを防ぐと同時にキリト、セフィロスの2人が10Mほど飛び上がって残心を放つ。
反動で後ろに下がるも壁を蹴ってブレスを踏まないように回避。
しかし怯まないしHPゲージも変化がない。
「やはり硬いか。」
「行くぞセフィロス。」
「遅れるなよキリト。」
仲良く突撃して行く2人。
爪攻撃をしてくるが飛んだり伏せたりして回避。
「クックック……。」
「甘いっ!!」
俺達も何もしないわけにはいかない。
おそらくキリトは先陣を切る事で士気を上げようとしているのだから。
ちなみにキリトは黒猫団に許可を得てこっちに来ている。
攻略組だと言うことをあらかじめ知っていてくれたおかげだろうな。
「ヘイトをこっちに向けろ。」
俺が指示を出す。
最近キリトやセフィロスのダメージが高すぎてヘイトがなかなか壁に向かず、武器をダウングレードする有様だったが今回のボスは硬いため持ち変える必要はないようだ。
「キリト。足を狙って転倒させろ!!」
大型モンスターには部位HPなるものが設定されているようで、同じところを集中して攻撃すると壊れたり切れたりするのだ。
例えば足を狙って攻撃させ続ければ転倒、腕を攻撃して切断すれば攻撃を一定時間封じることが出来る。
ちなみに試してみた所腕は2分ほどで再生、足は切断不可能、尻尾や毒袋などの器官は再生しないことが分かっている。
「ブレス!!」
俺が声を出した瞬間、アタッカーは下がり、タンクは盾を構える。
真後ろには吐かないものの首を回して吐くので攻撃範囲が正面270°10メートル前後とえげつないのだ。
2層のトーラスキングと違って麻痺とか余計なものが付いていない分破壊力も増している。
下手をすれば一撃死してもおかしくはない。
キリトとセフィロスもいったん攻撃を控えてヘイトを向けないようにしている。
「よし、GOだ。」
俺の指示に従って陣形を構築、攻撃を仕掛ける。
軽装アタッカーは後ろから尻尾に気を付けて攻撃。
横と前は重装備の壁で防ぐという戦略だ。
前と左はDDA、右はKoBが担当している。
後ろは俺以外のSOLが担当している。
何故俺が後ろに下がっているのかと言うと前は命が懸かっているためどうしても血が上り、冷静な判断ができないため指揮するプレイヤーは必要とされた。
他にリンドやスコールが候補だったがリンドは2人より指揮が下手で(それでも普通にやる分には十分上手い)スコールは俺より上手かったのだが本人があまり乗り気ではない。
スコール曰く自分の命は自分でどうにかするしかない。俺は他人の荷物まで持ちたくないとのこと。
パッと聞くと薄情なように見えるが死んだらそれまでのSAOにおいては立派な考え方のひとつだと思う。
そんなこともあって俺がメインで指揮を執っている。
小回りが欲しい時はリンドが、壁を築きつつ一瞬の隙を突く時にはスコールに担当がそれぞれ変わっている。
「ダメージが大きくて回復が追い付かない!!援護してくれ!!」
左のDDAのメンバーから援護要請か。
回復結晶こそあるものの全体で20個あるかどうかであり、回復ソースはいまだポーションがメインだ。
…………2ローテだと無理があったか。
ならば、前に一旦ヘイトを上げてもらって左右を下がらせるか。
「リンド、ヘイトを前に。時間をかけて削るぞ。左のDDAとKoBは下がって回復。前のローテ要因に回ってくれ。」
「「了解。」」
リンドがプロボケイション・ロアーを発動させて時間を稼いでいる。
これはスレッドフル・ロアーよりも強力な挑発スキルだ。
「回復が終わったら前は下がってKoBにスイッチ。行けるか?」
「問題は無いよレンジ君。」
ヒースクリフがそう返す。
「ならそれで行く。2分……いや、3分後にスイッチだ。後ろに攻撃をさせるなよ。」
「分かっている。」
後ろはSOLが陣取って切り刻んでいるからな。
正面からでも余裕だとあの2人は言いそうだが危ない橋を渡らせるわけにはいかない。
「さて……リンド。どうだ?」
手ごたえを確かめる。
「攻撃は強力だがブレスさえ防げれば死者なしで行ける。逆に言えば死者が出るとすればそこだ。」
「そうだな……しかしブレスの予兆が短いのがキツイ。」
「ああ……焼かれても耐える可能性はあるが追撃が来たらお陀仏だろう。」
「そうでもないぞ。」
現にヒースクリフがブレスを耐えながら爪攻撃を盾で受けているが1割しか減っていない。
「……ダメージ量、おかしくないか?」
「……いや、キリト並みにレベル上げしているのかもしれないぞ。」
「んー……後で聞いてみるか。」
「そうだな。とりあえずHPは全員8割以上だからまだスイッチは先。休んでおけ。」
「あ、ヘイトがSOLに向いた。」
これは死者が……。
「でも頭にソードスキルを叩き込まれて怯んだ。」
「本当だ。んでタコ殴りにしているな。」
「ヒースクリフがガードミスって尻尾で吹き飛ばされてる。」
「フォローに入るわ。」
「頼む。」
多分あの2人がいればクリアできるんじゃないかな、SAO。
こっちに戻ってきたヒースクリフの顔がなんか凄い。
「…………私はどこで間違えたのだろうか。」
何か呟いたようだが聞こえなかった。
初めてのフロアボスで疲労の溜まりが早いのだろう。
「お疲れ様だ。まだ4本半あるから今の内に体を休めていてくれ。」
「……感謝するよ。」
「戦闘中に考え事はやめておいた方がいい。より疲労の蓄積が加速する。」
「そうも言っていられないのだよレンジ君……。」
今後の血盟騎士団の行方を戦闘中も考えているのだろうか……。
そうなるとむしろSOLに取って代わって攻略組を率いてもらった方が俺が死なずに済むから本当に助かるのだが。
「程々にしておいてくれよヒースクリフ。死なれると面倒だ。」
さて、様子は………半分切ったか、早い。
リンドのヘイト管理も上手く、前のアタッカーも足を集中攻撃しているため転倒も見られる。
SOLは言わずもがなであり、敵の攻撃の合間にポーションを飲んでバトルヒーリングと合わせて自動回復の量を増やして切り刻んでいる。
20分で6本あるうちの4本半を消し飛ばした。
「キリト!!ヘイトをSOLに。壁を立て直すから俺の指示があるまで粘ってくれ。」
「分かった!!」
そろそろ発狂モードなので一旦体勢を立て直す。
ちなみに指揮を担当しているプレイヤーは前線には出ない。
その理由は指揮官が不在になるのは危険だからである。
ディアベルの悲劇がそれを物語っている。
「準備は良いか?ここから一気にSOLが削り切る。ヘイト管理を頼むぞ。」
「分かった。攻撃をひたすら防いでればいいんだろ?」
「よし、行くぞお前らぁっ!!!!」
「「「「「おおーーーーー!!!!!!!!!」」」」」
元気のいいことだ。