しばらく視点がレンジ、キリト等SOLの人物に変わります。
スコールside―――――
「急ぐぞ。」
「スコールさん、速すぎますって。」
「軍は待ってくれない。俺のナイフよりホークの斧が頼りだからな?」
「口を開いている暇は無い。」
言っていることは正しいが急げ。
アハトがこの中一番早いのに俺が先行している状況を見ろ。
ボス部屋に突入していないならまだ簡単だが…………。
多少の死人は覚悟しておくべき、か。
「……間に合ってくれ。」
「「………………。」」
俺だってそう思っているさ。
だが現実は残酷だ。
ボス部屋に辿り着いた時には立っている人数が2人しかおらず倒れたり治療をしているプレイヤーが9人だけ。
「なんてザマだ。」
「………………こんなの…………こんな景色…………幻覚…………だよな?」
「……現実だ、ホーク。チッ、見たくなかった光景を見せてくれるぜ。」
「クッ。けが人を頼んだ!!」
アハトは放置されているレッドのプレイヤーの傍に行って安全な場所まで移動させ、ホークはボスに突撃して注意を引き付ける。
「SOLのスコールだ。全員転移結晶で逃げろ。」
事情聴取はレンジがやってくれるだろう。
「おい!!背中を向けて逃げるな!!」
見ると立っていた2人のうち1人があろうことか倒れているプレイヤー達の所に走り、転移結晶で逃げた。
アハトがそう叫んだのにはわけがある。
フロアボスは傷を負っているプレイヤーを追撃する本能があるのかHPが一定割合以下で背中を向けるプレイヤーを最優先で狙う傾向がある。
攻略組では間にスイッチ要因が入ったりいない場合は前を向いたまま後ろに歩いたりバックステップで下がるのだが軍の末端までその情報は行き渡っていなかったようだ。
ホークの努力が6人の蒼片と消えた瞬間である。
「吹き飛べ。」
俺は前世でも使ったフェイテッドサークル……違うか、この世界はラウンドスラッシュか、を繰り出してボスの前進を阻止する……が効果は薄い。
そこにホークがブラストスマッシュを繰り出す。
強烈な斧の一撃にボスは膝をついた。
「今だ、撤退する。」
「まだ立てないプレイヤーがいる。2人だ。」
転移したプレイヤー側にいた生き残りか。
「チッ……担ぐぞ。」
「壁どうするんですか……。」
「言うまでもない。」
脱出できるプレイヤーは全員脱出し後は俺達5人だけだ。
「…………俺?」
「大の男担げるか?」
「おとなしく壁やります。」
壁と言っても受け止める壁ではなく避ける壁であるが。
アハトは集中してひたすら避けている。
飛び、地に伏せる。
時に壁を使って空を舞う。
パワーが違いすぎるから弾きのためのソードスキルは一切使わない。
なんとか外に2人を運び出し、無事アハトも撤退が成功。
「死ぬかと思った……。」
「任務は……成功なのだろうか。」
俺が見ただけでも死者は7人。
45人スタートだとして消えていたのが全員死者だとすれば合計で41人死んだと言う事になる。
「……成功だと思いましょうよ、スコールさん。生きている人がいるんですから。」
ホークの言葉は自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
「……そうだな、任務は成功だ。ホールに帰ろう。」
「そこの2人、転移結晶はあるか?」
「いや、ない……。」
「……ほれ、これでさっさと帰れ。」
アハトが歩きながら結晶……おそらくは転移結晶を投げ渡す。
……帰るか。
レンジside―――――
「で、この様か。」
「……ハイ、ソノトオリデス。」
DDAのパーティを見送った後、俺は転移結晶で逃げてきたプレイヤーを引き摺って事情聴取をしていた。
簡単にまとめるとジョーというプレイヤーに軍の幹部が騙された。
ここからは推測だが攻略組の分裂に軍の弱体化を狙ったのだろう。
SOLやDDAを狙うのは困難を極めるからな。
ジョー……おそらくはPoHの側近のジョニーだな。
以上。
またかあのPK集団。
どうにかしたいのだが一番適任のセフィロスが1週間耐久レベリングに出かけてメッセージの返信がないため後回しになっている。
殺した方が早いとは思うが裁判も無しに殺すのはどうなのだろうな……。
まったく、殺人すら推奨しているとなると茅場はやはり狂っていると判断せざるを得ない。
いや俺も同じか、犯罪者とはいえ殺人やらかしている訳だし。
自衛隊……は違うか、軍の兵士とか敵軍を殺すときどう考えているのだろう。
俺ですらこう考えている訳だからキリトやアハトが殺人をしているようだと精神病にかかる可能性が高いな。
メンタルケアを十分にやらないと……カウンセラーいるかな、SAO内に。
いないか。
やれるとすれば………………俺かスコールか?
「レンジ、任務完了だ。」
「お疲れ様、スコール、アハト、ホーク。生存者は?」
「4人しか残らなかった。1人はPKを明らかに誘っていたからPoHと絡んでいるのでは、と推測した。」
「同じく。後フロアボスは頑丈な壁役が必要だ。攻撃力が高すぎて当たっても無いのにHPが減った。」
「了解した。後はDDAに任せてある、休んでくれ。起こしてすまなかった。」
「問題ない。」
「……困った時はお互い様ってことですよ。」
「大丈夫だ……。」
「ホーク。死を見るのはキツイか?」
「キツイな……。血を流して倒れられるのも嫌だがポリゴンとなって散られても死の実感がない。」
でも実際は死んでいるのだ。
ゲーム開始から3日後、運営から動画が届いたのだがその内容はナーヴギアに脳を焼かれて苦しみながら死んでいく人達の姿だった。
悲鳴がまだ記憶にある。
「でも死んでいるんだよな…………ウェッ。……すまない。最近吐き気が酷い……小町…………いつになったら会えるんだ…………小町…………。」
そう言ってアハトはMAXコーヒーの瓶を取り出して一気に飲み干した。
「大丈夫か!?って大丈夫じゃねえよな……俺も最近よく眠れねえよ……。」
ホークも飲み物を取り出してちびちびと飲み始める。
学生組が精神的に弱っているな。
そういう意味でも時間制限は短いな。
学生と言うとキリトもそれっぽいから危ないな。
黒猫団から帰って来たら時間を取るか。
「スコール、お前は大丈夫か?」
「助けられなかったことは悔しいが割り切っている。」
「そうか、もしできるよならホーク達の相談に乗ってやってくれないか?俺もやるが他にそういうことができそうなのはスコールしかいないんだ。」
セフィロスは相談方面ではアテにできないし。
攻略だったらトップなんだけど。
「……分かった。あまり得意ではないがやってみよう。…………。」
スコールが左上を向いて黄昏れている。
何か過去にあったのだろうか。
そうだ、シヴァタにメッセージを……って帰って来たな。
「帰還したぞ。SOLに押し付けてすまなかった。」
「大丈夫だ、死者はいないか?」
「ああ、24人全員無事だ。ボス部屋も見たが誰もいなかった。追加の偵察はすまないがしていない。」
「うちのメンバーがしてきたから追加の情報も併せて午後の会議で話す。リンドにもそう伝えておいてくれ。」
「了解した。」
「レンジはん…………すまない。」
っと、キバオウか。
「元気ないなキバオウ。」
「軍のこれからが胃痛なんや……。1層のプレイヤーに物資や金をもっとよこせ言われ、幹部にも文句を言われ……どうすればいいんや……。」
「軍はいったい何人いるんだ?」
「700人ほどやが……SOLが羨ましいんや。」
「そうでもないぞ。セフィロスとかキリトがいるぞ。厳密に言うとキリトはソロだが。」
指示聞かないからなー特にセフィロス。
まあ戦闘中にメッセージ開いている暇がある訳ないんだが。
ソロプレイじゃないんだぞこのゲーム。
「………………すまんかった。レンジはん……現実に戻ったら、一杯付き合ってくれや。」
「…………喜んで受けよう。はぁ…………。」
「はぁ…………。」
後始末が大変だよ全く。
「なんでVRでも中間管理職なんや……。」
キバオウよ、団長=社長だと……あ、上に攻略組がいるのか。
「課長とかなのか?」
「係長や。どっちにせよ下からも上からも文句言われることには変わりないんや……。」
「とにかく、この事件をどうするかが問題だ。」
「面倒やし全員死亡でいいんちゃうんか?」
それで……まあ、いいか。
眠くて考えがまとまらん。
「あー……それでいいか。寝よう。もう5時近い。」
眠い。
サチもすでに部屋に戻っているし。
「そうやな……ワイも寝るわ。空きあるん?」
「一番奥が空いてたはずだからそこ使ってくれ……。」
「恩に着るで……。」
はぁ……………頭が痛い。
明日準攻略組が騒ぎ出しそうだな……。