サチ≒伊13と考えると割と筆が進みました。
第29話
今日のフロアボス会議は不穏だったな。
珍しくキバオウが来たと思ったら軍の末端が暴走気味な気がするから力を貸してもらうことがあるやもと言って来た。
そのせいで会議があまり進まずまた明日会議を開くことになった。
攻略組は基本的に迷宮区の探索しか興味ないからな……DDAのサブは装備を整えるためにフィールドを探索したりしているようだが。
キリトはマッピング兼レベリングだけしているようだ。
全速力で駆け抜けてすれ違いの一閃を浴びせて倒す。
これから来るプレイヤーのためと言っていたからアイツらしいと言えばらしいか。
「25層のフロアボス……強敵なのだろうか。」
スコールに話しかける。
ちなみにこの場にはスコールしかいない。
アスナはすでに寝ているしセフィロスは……レベリングだろう。
アハトとホークは一緒に遅い夕ご飯を食べている。
「10層20層のフロアボスに目立った強さはなかった。10というキリのいい層であるにもかかわらずだ。この層で1/4が攻略完了するとなると茅場が強敵を配置して実力を見てくるだろうな。ここで出て来ないなら1/3が攻略完了となる33層だろう。」
20層は多少時間がかかったがまあ時間がかかったというだけであって危険という危険はなかったな。
死者も出ていない。
「となるとキリトを呼び戻すべきか……。」
「そうだな、本人が応じるかは別として呼び戻しておいた方がいいだろう。」
できることはやっておいた方がいい。
「メッセージを……ん?キリトから来てるな。今25層のどこにいる?だとさ。」
「…………。」
とりあえず俺は主町区のホールにいるとメッセージを返し、到着を待つことにした。
20分後、キリトが来た。
「頼みがあるんだ。」
来た途端、キリトがそう切り出す。
「頼みと言うのはそこにいる女の子のことか?」
「ああ……頼む!!サチを保護してくれ!!」
そう言うとキリトは土下座をした。
「頭を上げてくれキリト!!」
いきなりやられても困惑するというかなんというか……とにかく戸惑う。
「キリト……?」
スコールも俺と同じ様子だ。
「理由を話してくれ理由を。考えるから。」
人道的には保護すべきなんだが……金だって有限だ。
おいそれと連れて来られても養えないしスパイの可能性だってあるし。
「……理由は、俺の、わがままだ。」
「我が儘、か。」
……その一面もあるだろうが、少女の赤い目を見ていればなんとなくは分かる。
「我が儘。理由はそれだけか?」
スコールの視線がキリトを射抜く。
「っ……!!それ、だけだ。」
………………どうしたものか。
「分かった。3日だけホールの一室を貸す。それ以降はサチ……だったか、自分で考えてくれ。」
名前を思い出すのに夢中になってつい呼び捨てにしてしまった。
「ありがとう……!!」
「ありがとう……ございます。」
「……キリト、その子のことをしっかり見てやるんだぞ。」
「……レンジさん、そのことで少し相談が……。」
たまにさん付けする時があるがその時はだいたい頼みごとをする時だ。
「分かった。部屋に行こう。お茶を出す。」
ボス会議は今日始まる前にまとめておいたから大丈夫だろう。
そしてお茶にスキルが適用されなくてよかった。
「サチさんも来てくれ。まあ無理に来なくて構わないが。」
「は、はい。」
「お茶だ。いろいろあったんだろうしまずは落ち着きな。」
「すみません、いただきます。」
「い、いただきます……。」
こんなこともあろうかと茶葉は高級なものを用意している。
アハト以外からは好評だ。
アハトはもの凄く甘いコーヒーを好んで飲んでいるようだ。
「お、美味しいですね。」
サチが微笑みを浮かべて言う。
「高いもの使ってるしな。さて、本題に入ろう。相談とはなんだ、キリト。」
「サチを……できればSOLに入れて欲しい。戦闘のプロは無理だろうけど、鍛冶や裁縫のプロなら戦わなくてもできるはずだから、そこでなんとか……してくれませんか。」
解釈が難しいな。
「……背景が見えないぞキリト。えーっと……。戦いたくないから後方支援に入れて欲しいってことか?」
「そういうことだ……です。」
「無理に敬語を使わなくていい。……まあ後方支援は募集してるっちゃしているから出来なくもないが……。」
正直入れてもいい。
後衛が不足気味だからな。
俺達がパーティを組んだ場合の役割はセフィロスとホークとアスナがアタッカー、アハトが遊撃手というか避ける壁。
スコールはアタッカーよりタンクの役割が強いか。
俺が後ろで指揮を出す兼スイッチ役だ。
ちなみに指揮は全員できるように訓練をした。
アハトが一番覚えるのに苦戦し、逆にスコールは何もしなくても普通に指示を出していた。
だが、本人からの言葉を聞いていない。
ならばやることはひとつ。
「サチさん。何故戦いたくないんだい?」
俺は出来る限り口角を上げて笑顔を作って問う。
無表情よりはマシ……のはず。
「………………。」
やはり黙るか……だが今は待ちの時、本人が話すまで待とう。
「そ……」
俺はキリトを睨み、そしてゆっくり首を横に振る。
「「「……………。」」」
苔が生えるほど永い時間、音がしなかった。
「死にたく、ないんです。」
心からの言葉が俺を撃つ。
「分かった、サチさん。solitudeに是非入ってくれ。」
「あ、ありがとうございます……。」
「あ、ありがとうレンジさん!!」
「気にするな。さて、今日はもう遅いから寝た方がいい。キリト、今時間をくれ。攻略含めて話し合う必要がある。」
気が付いたら12時を回っていた。
んで詳しい事情は……明日でいいか。
「分かった。」
「お休み、サチさん。」
「あの……。」
「どうした?」
「キリトさんと一緒にいて……いいですか?」
詳しい事情を聞こうと思ったんだが……。
「…………キミがここに来た事情とか込み入ったことを話すけど、それでもいいなら構わないが……あまりオススメはしないぞ。」
「……大丈夫、です。」
そう言ってサチはキリトの右腕にそっと抱き着いた。
「……この直前、何があった?」
「……サチが行方不明になって探しに行ったんだ。それで、死にたくないって、戦いたくないって、そう言ったんだ。だからレンジなら何とかしてくれると思って……。」
「………………なるほど。下手に1人で頑張るより俺を頼ってくれたのは嬉しいが、次から前日に一言くれ。準備がある。」
「すみません……。」
「緊急事態だったから仕方ないが。んで、サチのこれからだが本人から要望は聞いているのか?」
「えーっと……。」
「聞いてないのかよ……。サチさんは何かやりたいことはある?あ、呼び捨てでいいか?」
「………………はい。」
どっちの「はい」なんだ……?
「何があるんだ?」
「えっと……呼び捨ての方が、だ、大丈夫です。」
話しにくいな……。
「わ、分かった。それでやりたいことは……あるかな?」
「…………………。」
黙ってしまった。
「えっと……本人は……」
「キリト、これはサチ本人が立ち向かわなければならないことだ。すまないが今は口を閉じていてくれ。でも、もし言いたくても言えない。そうだと感じた時は背中をゆっくり押してあげて、な。」
きっと本人は闘っている。
だから邪魔をしてはならない。
俺も含めて。
1秒が1分に感じられるほど濃密な時間が流れる。
ある人からすれば沈黙で心が和むかもしれない。
だがほとんどの人は気まずく感じるだろう。
それでもこの沈黙は守らねばならない。
「戦いたく、ないんです。だから、それ以外のことだったら……なんでも……します。」
「…………何故…………戦いたくないんだ?あ、話したくなければ黙ってていい。」
「死にたく…………ないんです。でも、どうしたらいいかわからない。生きていたいのかもわからない。キリト…………レンジさん…………私を…………わたしを…………。」
そう言ったきり声をあげずに泣き始めてしまったサチ。
……泣かすつもりはなかったんだがなぁ。
俺もキリトの事は言えないな。
「キリト、後は頼んだ。お前の方が適任だ。」
「わ、分かった。」
「すまないな、サチのことは真剣に考えておく。心を……支えてやってくれ。」
「任せといてください。」
そう言って俺は部屋を出た。
ドアを閉める時、はたと気が付いた。
「「あっ。」」
今日寝る場所どうしよう。
俺の部屋に2人いるよな?