「2人は敵を素早く殲滅させろ、俺が壁になる。」
俺は全力疾走しながら言う。
「……後で覚悟しとけよっ!!」
「覚悟しなさいよね!!」
怖い怖い。
俺が一番先に着きそうでヘイトを向けないといけないから……ソードスキルでまとめて吹き飛ばすか。
となると……ラウンドスラッシュが妥当か。
「はあっ!!」
俺は敵のど真ん中に飛び込んでソードスキルを繰り出す。
このスキルは回転斬りを繰り出して全方位を切り払う。
だから集団戦に向いている。
「ここは俺達が引き受ける。下がれ。」
「あんたたちは……。」
「いいから下がれ。」
苦戦しているのにいられても邪魔なだけだ。
続いてアスナが斬り払ったスペースに飛び込んでリニアーやオブリークを繰り出して確実に仕留める。
虫型だから頭を的確に突いて仕留めたい。
おっと、右から来るな。
後ろがいるため回避は不可能。
ならば、弾く。
「ふっ。」
バーチカル・アークで弾きつつ返しを当て、スラントで追撃をかけて撃破。
次は……前か。
とは言っても後2体だからキリト達が倒してしまうだろうな。
ほどなく戦闘が終わり、俺達は自己紹介をすることにした。
「た、助けてくれてありがとうございます。月夜の黒猫団のリーダーのケイタです。みんな同じ部活に入っていてそれでここでもギルドを組んでいるんです。」
「副リーダーのテツオだ。」
「ササマルだ、よろしくな。」
「ダッカーだぜ。」
「……サチ、です。」
黒猫団の自己紹介が終わったので今度は俺達か。
「キリトだ。ソロでやってる。今日はたまたま知り合いと素材集めに来てたんだ。」
「私はアスナ。キリト君の付き添いよ。私はギルドに所属しているわ。」
「レンジだ。ギルド、solitudeの団長を務めている。」
嘘をつこうとも思ったがバレた時が面倒なのでつかないことにした。
理由と言ってもなんとなくくらいしか思いつかなかったし。
「solitude……?確か二大攻略ギルドのひとつでしたよね?少人数でありながらその実力はDDAと並んでいる……?」
「そうだ、キリトは入ってないけどうちと組むことが多い。」
その中でも年が近いアハトと組むことが多い気がする。
「強い人がいるならぜひ入って欲しかったんだけど……攻略組を目指しててそのことを知りたいので。」
「キリト、入ってみたらどうだ?あと攻略組のことは夜話そう。」
変態レベルアッパーもたまには休んで欲しいのでそう提案を出す。
「えっ……?」
「そうね、入ってみるのもいいんじゃないかしら?キリト君ずっと戦いばっかりだから下層でしばらくゆっくりするのもいいと思うわ。というわけで団長、しばらく休みをもらいたいの。」
「いいぞ。」
「あっさりだなー。」
だってうちのギルドはフリーダムを信条としてますから。
ただセフィロス、一人でフロアボス討伐はダメだ。
「素材集めの続きをしたいんだがいいか?」
キリトよ、そんなに戦いたいか。
「あのねキリト君……。」
「こちらからもお願いしたい。戦闘を見せてもらいたいんだ。」
ケイタがそう提案する。
危機に陥ったのだから黒猫団達のメンバーはもう休むのかと考えていた。
引き際というのを分かっているのだろうか……。
「いいぜ、ついて来な。」
「私も行くわ。」
「俺も行こう。ケイタ、自分とギルドのメンバーの身まで俺達は面倒見切れないからその辺頼むぞ。」
「分かりました。」
俺達はキリト無双を見ながら戦闘指導を行った。
その日の夜 宿にて―――――
「黒猫団の戦いぶり、どう思う。」
「話にならないな。」
「私も同じね……。」
一言でまとめよう、黒猫団の戦闘力はダメダメだ。
立ち回りが1層の俺より酷い気がするのだが……。
「とりあえず話し合おう。時間もらった訳だしな。」
ツッコミ所が多すぎるためまとめる時間を頼んだのだ。
まずソードスキルを効率的に使えていない。
基本ソードスキルは不意打ちを除いて敵の攻撃の後隙に差し込んで行くのだが考えもせずに繰り出している。
同じ敵にソードスキルを繰り出したりメイス装備なのに胴体を狙ったりとツッコミが追い付かん。
だがこれは1人を除いてなんとかなる。
「次なんかあるか?俺は装備が貧弱そうに見えたんだが。」
「有り余る金を持っていたキリトと一緒にするな。」
「そうよ。」
「これは聞いてみよう。次。」
「ステータスとかパッシブスキルがあることを理解しているか怪しい気がする。」
ステータスはHP力防御敏捷のことで、パッシブスキルとは常時発動するスキルである。
有名なものだと索敵・隠密とかがある。
索敵はモンスターや人に気付く距離が延び、隠密は気づかれる距離を短くするスキルだ。
ただ隠密は服装や本人のセンスも影響するがな。
例えば森で緑っぽい服を着ると隠密が上昇し、逆に赤なんかを着ていると発見されやすくなる。
マイナー所だとバトルヒーリング・アドレナリン・アヴェンジャーが今のところ発見されており、条件も開示されている。
条件が厳しく、あまり会得するプレイヤーはいないが。
バトルヒーリングは簡単に言うと自動回復スキルだ。
会得条件はイエロー以下に落ちた状態でポーションを飲んで戦闘を行い、ポーションの回復中一度もグリーンに復帰しないことを10回ほど繰り返すと会得できるらしい。
キリト曰く、他にも条件があるようだ。
セフィロスと俺が習得できたのでおそらくは武器の熟練度が濃厚だろう。
ちなみに回復量は20秒ごとに最大HPの0.5%と焼け石に水だがこれは熟練度が低いからであり、そのうち期待できる回復量になるだろう。
アドレナリンはHPがレッドの時に自動発動するスキルで全能力が上昇し、LV×0.5%で致死ダメージを受けても1で耐えると説明文に書いてあった。誰も試さなかったがな。
これはリンドが会得したものを情報屋に流して共有し、現在キリトとセフィロスが会得しようとしている。
条件はおそらくHPがレッドになったそのエリア内で敵を100体連続で倒すことである。
キリトが楽しようとしてレッドになって1層で無双したが会得できなかったためおそらくこんな感じだろうと推測している。
アヴェンジャーは中堅ギルドの1人がPoHの手下と思われるプレイヤーと遭遇した時に会得したらしいスキルである。
条件はオレンジプレイヤーにパーティーメンバーを殺されう、その場で
効果はオレンジプレイヤーに対する攻撃力が1.5倍になり、受けるダメージを0.75倍にするとのこと。
「索敵と隠密はパーティーに1人は必須、できれば2人欲しいくらいには重要だよなー。」
「そうね……。」
「うちのメンバーは全員会得済みだ。」
言おうと思ったら全員会得していたことには少し驚いた。
ソロかペアでレベリングすることが多い都合かもしれないが。
「それくらい重要だよな……次行こうぜ。」
「スイッチができていないように見えるわね。」
「ように、じゃなくできてないんだ完全に。」
後隙フォローとか全然やってないからな。
「ソードスキルが上手く使えていない、理解していないからスイッチの大切さがわかっていないんだろうな。」
「ソロでやっているお前が言うか……。」
「お、俺だってパーティー組んでる時はわかってるって……。」
「じーーーーー。」
「善処するからそう睨むなってアスナ。」
「だって……。」
たぶん善処しないな、キリト。
「……次行くぞ。壁が壁をしていない。」
「確かに。サチって子が特に気になった。後ろで怯えているならまだしも前で怯えていると盾を持っていようが死ぬぞ。」
死にやすさとしてレベルが同じなら一番死にやすいのが軽装のアタッカー(短剣や盾無し片手剣持ち)、続いて重装アタッカー(槍や両手武器持ち)で一番死ににくいのが壁役(盾持ち片手剣など)であるが……壁役といえど盾で攻撃をきちんと防がなければダメージは重装備アタッカーとほぼ同じになってしまうのだ。
「ああ、死ぬ。俺の見立てだとそう遠くない未来だ。」
「そ、そこまで言う?」
キリトが断定し、アスナが信じがたいような声をあげる。
「すまないが命がかかっているんだ。戦場では冷静さを失った者から死んでいく……1層だって、15層だってそうだっただろう?」
15層でDKBから1人だけ死者が出てしまったのだ。
壁役だったのだがクリティカルを食らってレッドに落ち、パニックになった所に止めのソードスキルが入ってしまったのだ。
「それはそうだけど……。」
「サチという少女はスコールのように鍛冶や何かを覚えてもらうのがベストだな。出来なくても槍のままがいい。というか男達がヘタレすぎる。」
「積極的に壁になれ、とは言わないけど怯える少女を盾にするって……アスナ的にはナシか、やっぱり。」
「当たり前じゃない。堂々と立ち向かって欲しいわけじゃないけど……、あとキリト君?あなたは堂々と立ち向かいすぎだから、自重してね?」
フロアボス戦で誰かがピンチになった時、たまにキリトが壁になっているからこう言ったのだろう。
一番多いのはアハトだが。
「死なない程度に気を付けるさ。」
「まあ明日付き合うとすれば俺が壁になる。とりあえずはこんな内容でいいか?」
「そうね、そろそろ行きましょ。」
「ああ。」
……先が激しく不安だ。
バトルヒーリングの習得条件を少々変えています。
・超高レベル戦闘スキルの『バトルヒーリング』だと思われる――けれども、あれはスキルを上昇させるのに、戦闘で大ダメージを受けつづける必要があるので、現実問題として修行するのは不可能と言われている
とあることから具体的かつ実現可能な会得条件を以下に記します。
・まずポーションを飲んだ時のHPはイエローまたはレッドであること。
・その受けたダメージはモンスターまたはモンスターから与えられた毒や貫通ダメージが80%以上であること。
・ポーションを飲むと100秒の間1秒ごとに最大HPの1%を回復し続けるがその間一度もHPゲージをグリーンにしないこと。
・これを10回繰り返す事。
としています。
スキルの熟練度を上げるにはバトルヒーリングでの回復量が一定に達すると10ずつ上がって行くシステムに設定しています。