冷静そうだけど怒らせるともの凄く怖いイメージがあるのは私だけでしょうか?
「それは本当か?」
「ああ、ボス部屋が発見されて、そのための対策会議をトールバーナでやるとのことだ。」
あれから1月。俺達2人は朝から朝までレベリングに励んでいた。眠くなったり疲れたりしたら宿屋で休み、それ以外はずっと敵を倒していた。
やる事が他にないからな。
「参加するだけならタダたし、万が一となれば消えればいいよな。」
「俺のステルスは教室皆に気が付かれないレベルだぜ。」
「実年齢が分かるようなことは控えようなアハト。」
「見た目からある程度は分かるんじゃないか?」
「それもそうだった。」
独りも悪くないがこうやって話すのもまた悪くない。
会議は五月蠅いだろうが情報を得られるのならば我慢しよう。
アハトのコミュ障もある程度は改善したな。
「40、41、42。42人いる。スコールとセフィロスもいるぞ。」
アハトが周りを見渡して人数を数えている。
「頼りになりそうだな。それとこの人数。多いか少ないかが問題だ。」
始まるまで暇だったので人数を数えながら待っている俺達は議論をしていた。
「ボス戦ならちょうど7PT作れるが生き残りの人数の割合からすればずっと少ないだろ。」
確か1レイド6人でボス部屋には8PTまで入れるとSAOガイドブックに書いてあった。
ベータテスターの有志が書いたものらしく、ビギナーの俺達は質の高い情報を逃すかとばかりに熟読していた。
そして現在の生存者数は昨日付けで7938人、およそ2000人亡くなっているとのこと。
死因はおよそ6割が自殺であり、残りの4割弱が敵モブ、ただしPKされた人間も僅かながらいるとも書いてあった、小さな文字で。
生存者の話だと犯人は慌てて逃げたため名前まで見れなかったが確かに殺されたと証言が書いてある。
「(40/8000……)約0.5%の人間しか来てないのか。確かに少ない。」
「ヘタレばかりってことか……それはそうと話が始まるみたいだ、聞こう。」
青髪の男が前に立ち、喋り始める。
「今日は俺の呼び掛けに応じてくれてありがとう!」
「俺の名はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!!」
ナイトって……防御の高いプレイヤーのことをそう言うのか?
胸当てだけで鎧を装備していないのでそうは見えないのだが……。
というか職業なかっただろSAOには。
「実は、俺達のパーティがあの塔の最上階でボスの部屋を発見した!!」
「まずは六人のパーティを組んでくれ!!」
うげ、グループを組むの苦手なんだよな……。
隣にいるアハトも苦い顔をしている。
苦手なんだろうなこういうの。
「スコール達を誘うぞ。」
「それだと4人だから2人足りないよな……。」
「………………。」
現実から目を背け、俺はスコール達に話しかけに行く。向こうもこちらに気が付いていたらしく、こっちに向かって来た。
「今回もよろしくな。」
「スコールか、よろしく。」
あと2人は……と。皆パーティで来たらしくほとんど組めているようだ。どこかにいないか?
「2人いるぞ。」
セフィロスが指を指した先には黒髪の少年とフードを被った怪しい人間がいた。
フードの方の性別は分からないがおそらく男だろう。
男の方がはるかに多いからな、SAOは。
「俺はレンジ、メインは片手剣。よろしく。」
「俺はキリト、同じく片手剣使いだ。こっちはアスナ。フェンサー使いだ。」
「…………よろしく。」
声が高いな。隣にいるキリトより高い気がする。
……少し身長の高い小学生か?
「俺はスコール。両手剣使いだ。よろしくな。」
「私はセフィロス。この刀の前にはフロアボスなど陽炎に過ぎぬ。」
「俺はアハト。短剣をメインに使っている。」
各々が自己紹介を済ませている。セフィロスは通常運転だな。
「役割をかく……」
「ちょう待ってんか!!」
俺がそう提案しようとしたところ、いきなり後ろから大きな声が耳に飛び込んできた。
一体何だ?全員組めたはずだろう?
トゲトゲ頭は階段を4段跳びで落ち着きなく飛び降り、ディアベルの隣に立った。
「ワイはキバオウってもんや。ボスと戦う前に今まで死んでいった2000人にワビ入れなアカンヤツがおるはずや!!」
こいつは何だ?と周りを見ていると早くもセフィロスの様子がおかしい。
「ベータ上がり共は、こんクソゲームが始まったその日に、ビギナーを見捨てて消えよった!!」
9000人のビギナーを1000人で面倒見ろって無理だろ。保育園じゃないんだから。
「奴らはウマい狩り場やらボロいクエスト独り占めして自分らだけポンポン強なって、その後もずーと知らんぷりや!!」
情報収集すればビギナーでも強くなれるぞ、というか他のビギナーは情報収集したんだろうか。
ガイドブックが半月くらい前に配布されたはずだ、ビギナーは無料で。
俺達のとこにも来たっけな、20日ほど前に情報屋を名乗るプレイヤーが。
SAOで珍しい女性だったから覚えてる。
「こん中にもおるはずやで!!ベータ上がりのヤツらが!! そいつらに土下座さして溜めこんだ金やらアイテム吐き出してもらわなPTメンバーとして命は預けられんし、預かれん!!」
煩いな……調子乗ってるのか?
金やアイテムを脅し取って後がどうなるのか分かっているのだろうか。
そんなことになればここが血で血を洗う戦場になることは間違いない。
仮に平和的に脅し取れた(平和的にと言うのも変だが)としても分配をどうするのだ。
「地に伏せるのはベータではなく、貴様だ。」
気が付くとセフィロスが椅子から飛び上がり、キバオウの前に降り立った。右の背中だけ羽が生えている幻覚が見えたぞ。刀まで構えているし。
それはそうと続きだ。
金の場合は……俺の所持金が今3万ほどで今の生存者が8000人だったっけ。
ビギナーとベータテスターの割合が同じだと仮定し、生きているベータテスターが800人として吐き出させた金が2万として1600万コル。
これを生存者の7200人で割ると……暗算だと難しいから7000だな。
7000で割ると…………2200……いや、2300弱か。
2300コルでいったい何ができるのだ。
武器防具を2つとポーションをいくつか買えば無くなるぞ。
「なんやお前は!!さてはベータテスターだな!!」
「違う。煩いから私が直々にその口を切り刻んでやろう。」
セフィロスがまた物騒な物言いをする。
煩いし会議が進まないから切り刻むのは賛成だが殺すのは止めといた方がいいと思うぞ。
「俺はスコール。アンタ、それは正気で言っているのか?」
スコールが立ち上がって言う。
アンタじゃどっちに言っているのか分からんぞ、人名を入れろ人名を。
おそらくキバオウのことだろうが。
「なんやお前らは!!ワイの邪魔をするつもりなら容赦せんで!!」
…………アイテムはもっと難しい。
1人1つと言うほど数が無いのだから配りようがない。
脅しても無いものは出て来ないのである。
このキバオウに人脈はなさそうだから1人ないし仲間内で脅し取ったアイテムを独占するのだろう。
「まずはお前らから土下座して金とアイテムを出してもらおうか!!!!」
あーもう、煩い。
考え事が出来ない。
ディアベル、この場のリーダーなんだから止めろよ。
「レンジだ。煩いから文句は個人の間でやってくれないか?」
こう言って俺は一旦最下段まで飛び降りて2ステップでセフィロスの隣に降り立った。
スコール、俺、セフィロスの3人が武器を持ってキバオウに向かい合う。
「セフィロス、刀を仕舞ってくれ。こいつを切り刻むのは会議が終わってからにしよう。ボス部屋に1人で放り込んでもいいわけだし。」
あえて物騒な言い方をしてキバオウの今の安全を確保させる。後の事は知らん。
「それもそうだな。どう楽しもうか……。」
「流石に殺すような真似は控えろ。(こんなトゲトゲ頭で息が臭そうな奴でも)一応は攻略する仲間なんだからな。」
2人が一旦武器を仕舞ってくれた。
あとスコール、聞こえてるぞ。
「とりあえず反論させてもらう。「2000人に詫び入れろ。」についてだが、その中の6割は自殺している。ベータが止めろと言ったって無理だ。絶望してるんだから。そして死んだ2000人の中にもベータがいるんだぞ。死んだベータは許すのか。随分勝手な言い草だな、お前。そもそもこれがデスゲームになったのは茅場が原因だからそれは茅場に言え。」
手に力が入る。あと死因にPKもあるが余計な火種になりそうというか火種にしかならないから黙っておく。
言ってきたら反論するが、面倒だ。
「ぐっ……。」
「「ビギナーを見捨てて消えた。」とあるが全員そうした証拠はあるんだろうな?俺はベータだがビギナーを3人程見てたぞ。2人はいつまでも世話になるわけにはいかないと言って途中で別れたがな。残った1人が隣にいるセフィロスだ。」
スコールが引き継いで反論する。
剣を肩から降ろしたらどうなのだろうか……。
「見捨てたベータもいるやないか!!」
「お前がそう言っている時点で見捨てていないベータもいると言っているようなものだ。そして見捨てたベータだって好きで見捨てた訳じゃない。自分の命を守るのが精一杯なベータもいたんだ。それを覚えていろ。」
「なんや……なんなんや……!!」
キバオウさん、もう少し論理武装してから文句を言いに来ようよ……。
「ちょっと発言いいか?」
後ろから声がしたので振り返ると浅黒い大男が立ち上がって発言の許可を求めてきた。
俺が首を縦に振って許可を出すと男は話し始めた。
「俺の名前はエギル。「ウマい狩り場やらボロいクエスト独り占め」とあるが、ガイドブックにそういうウマい狩り場やボロいクエストが載っているぞ。それに生き残るための戦術指南や敵の情報も載っている。このガイドブック、アンタももらっただろう。」
俺も貰ったな。
「もろたで……それがなんや!!」
「このガイドブックはな、半月ほど前にベータテスターがはじまりの街の主街区の道具屋、中央広場、出口、宿屋などのありとあらゆる主要施設で配っていたものだ。最近だと他の町や村でも配られていたな。つまりこれがある時点でベータテスターが独り占め、なんてことにはならないはずだ。ガイドブックがある時点で情報はあったんだ!!それでも犠牲者は出てしまった。犠牲者を出さないためにどうするか話し合いに来たんだがな……。」
「くそっ……!!」
どんどん旗色が悪くなるキバオウ。
撤退しようとしているが2人の眼光に怯んだのかその場で動けないでいる。
あのー、なんで俺の左手を見ているんですかね……何も持ってないはずなのだが。
「何故雑魚共に金や道具を恵んでやらねばならん。命をやり取りするフロアボスにおいて甘えは一切通用しない。道具を恵んでやっと立てる人間に命を預けようなど戯れが過ぎる。キバオウ、命が惜しければ迅速に立ち去り二度と面を見せるな。」
その通り、俺達2人は参加しないけど他の40人は殺すか殺されるかのやり取りをするのだ。甘えで勝てるほど優しくないぞ、SAOは。
だから刀を降ろそうか、キバオウが震えてる……可哀想に思えないけど。
ってよく考えたら俺達レイド組んじゃったからほぼ参加前提じゃないか?
消えようにも前に出て目立ってるし初対面のキリトとアスナに出会っているからそれも無理……。
……やってしまった。
煩いからって俺まで飛び込むことはなかった……。
「アンタの不満や不安……そんなこと聞かされても俺には何も言えないだろ?そんなことは壁にでも話してろよ。なんなら話させてやろうか?」
おいスコール、剣と殺気を仕舞え。
そしてセフィロスも無言で刀を首にあてるんじゃない。
アハト、どうに……駄目だ、斜を向いて知らん振りをしている。近くにいるキリトとアスナも同じような様子。
「とまあキバオウさんの文句は全て反論出来るという訳だ。話が進まないからこの辺にしとこう。スコール、セフィロス。トゲトゲ頭を血祭りに上げるのはこれが終わった後にしておけ。ディアベルさん、邪魔をしてすまない、続けよう。」
そろそろ止めないと会議が進まないと考え、止めにかかる。
物騒な事を言わないとスコールはともかくセフィロスは止まらないだろうからこう言うしかない。
キバオウさん、生きてるといいが……。
「了解。」
「………。」
「あ、ああ……。」
「チッ……覚えとけよ。」
あ、キバオウさん死んだな……南無
全員一旦は矛を収めてくれ、元いた場所に飛び戻ってくれた。
俺も左手のナイフを仕舞って飛び戻り、話を聞く態勢に移る。
って俺はいつの間にナイフを抜いていたんだ?どうりで途中キバオウが左手を見ていたわけだ……気を付けよう。
ディアベルが説明を再開する。
「今回のボスは少し前に偵察に行った際に確認した。『イルファング・ザ・コボルドロード』、そして取り巻きは3体『ルイン・コボルド・センチネル』だ!!」
反応は無い。原因は言うまでもなく俺達だ……ああ、憂鬱。
「武器は斧とバックラー。ここからはまだ不確定だがHPバーの最後の1段が赤くなると、武器を持ち替えるらしい。ベータテスト時の情報によれば、曲刀カテゴリーのタルワールに持ち替えるようだ。」
ふむふむ、斧だとすれば片手斧でも俺の剣でガードするのはキツイな。
現状だと回避一択か。
「だがあくまでベータテスト時のものだ。この通りではない可能性がある!!十分に気を付けてくれ!!」
不測の事態に備えるのは基本だな。
死者が出てパーティ崩壊には最も警戒すべきことだな。
「これよりそれぞれのパーティの役割を決める!!重装備の……そうだな、君達は右からA~D隊としよう。ABCD隊はボスを攻撃!!盾持ちがいる……左をE隊、右をF隊としてEF隊はタンクとなってボスの攻撃をひきつけてくれ!!後ろの比較的軽装のパーティはG隊だ!!G隊は取り巻きの排除を担ってくれ!!一番気になる日時だが、パーティの連携も考えて明日の14時にしようと思う!!何か質問はあるか?」
俺達は遊撃か。安全度が比較的高そうで良かった。ひとつ質問があるから手を挙げる。
「レンジ君か、何かな?」
さっきのやり取りで覚えられてしまったか……。
「俺達G隊は取り巻きの排除を終えたらボス攻撃に回っていいのでしょうか?」
騒ぎを起こすつもりはありませんよというアピールのために敬語を使う。
「ああ、G隊は取り巻きの排除が終わったら遊撃に回ってもらう予定だ!!主力が不意打ちをされないように頼むよ!!」
ベータテストの通りなら2人で1体のルイン・コボルド・センチネルにあたれるな。数がそう増えたり減ったりはしないだろう。
「他に質問はあるか?……ないな、では解散!!」
最初にやることはアハトに謝罪だな……迂闊だった。
「アハト、すまなかった。ここまで人数が少ないとは予想外だった。」
「大丈夫だ、俺もボスを一目見たいと思ってしまったからな。あの大立ち回りにはビックリした……俺はまだ無理だわ。」
人が大勢いるところで喋るのは緊張するからな。
「アレは止めなくていいの?」
フード付きの男?の……アスナが指を指している。
今思えば女っぽい名前だな、ネカマってものだろうか。
アスナが指を指した先を見るとセフィロスがキバオウを片手で持ち上げていた。
そしてどこかに引き摺られていった。
「自業自得だ、そっとしておこう。」
左手に刀を持っているため周りも見て見ぬ振りをしている。
怒りのパワーって凄い。
「煩いのに耐えらないヤツだから仕方ない。とにかくパーティを組む以上合わせが必須だ。よって今から迷宮区で合同戦闘を行う。」
俺も煩いのには耐えられないタイプだからな……まあでもあの行動が正しいかと言われたら自信が無い。
「分かったが……あのセフィロスって人には伝えなくていいのか?」
キリトがもっともなことを言う。
「俺がメールで伝えておくから問題ない。」
スコールも慣れたものである。
「俺がおかしいのかな……?」
何もおかしくはないです。むしろキリトの反応が正しいです。
「俺達5人で先に行くぞ。ついて来い。」
「ま、待ってくれよ!!」
これからパーティを組む以上慣れてもらわないとな、俺達に。
今回文字数が長くなったのは暴れまわった3人のせいですね、はい。
キバオウさんがDisられてますが私は嫌いではありません。
セフィロスが暴走した結果です。