血盟騎士団調査室   作:神木三回

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10日の奴から段落一つ修正。


昼食会

 予定時刻からすこし遅れて店に入る。カランと音と立てて扉の上のベルが鳴った。

 それほど大きくない店内のテーブルの一つに、フードケープを被ったままのアルゴともう一人、見知らぬ男性プレイヤーが席についていた。この狭いホルンカの村で見た覚えはない。長身、たぶんアーランと同じくらい。長髪でイケメンの部類。

 アルゴの正面にアーラン、男性プレイヤーの前にタスタスという形で座る。この形を作るためにわざと遅刻した。正面に座って自分の表情を見ようとする意図を察したのか、不敵に笑ってアルゴがフードを脱ぐ。

 「おにーさん、細かいねェ」

 彼女のことは小柄な少女と聞いてはいたが、たしかに小さい。そもそもまだ中学生くらいではなかろうか。頬にヒゲのペイントが三本ずつ。ベータテスタの時代からなら素顔を隠す意図は無かったはずで、キャラを立てるにしても何をやっているのやら。

 「うちの子からバカスカ情報抜いてくれたお礼だけど、気にさわったかな」

 男性プレイヤーが笑いながら口を挟んだ。

 「ああ、確かに彼女と話す時は注意したほうが良い。五分雑談すると知らないうちに百コル分のネタを抜かれると言うからね」

 「初対面のおにーさんの第一印象悪くしてくれてありがトウ」と隣に小さく肘撃ちしてアルゴがアーランとタスタスに向きなおった。

 「この席はおれっチの招待だから、ぜんぶおれっチのおごりだヨ」

 「つまり、食事代くらいは情報を抜いていくわけだね」

 せっかくのボケなのでアーランが応じておくと、しれっとしてアルゴも答えた。

 「そうだヨ」

 

 ここで四人ともが料理を注文しながら自己紹介。ディアベルと名乗った男は、ホルンカの先、トロンダの村を目視できるあたりを主戦場にしていると告げた。話は主にディアベルのいる最前線のことだ。これだけ最前線のモンスターがでてくればその情報料で食事代くらい……と、ふとアルゴを見れば、彼女はむしろアーランやタスタスの反応を見ているようだった。おもいっきり目が合って彼女がにやっと笑う。

 「いやぁ、目と鼻の先なんだよ。ほんとすぐそこに村の門が見えてるんだよ。けど、それが遠い遠い。参っちゃうよ」

 六人パーティで駆け抜ければ全員でそのまま門をくぐる自信はあるんだけどね、と続ける。誰かがふとした拍子に足を止めたらそれまでだから、なかなかふんぎりがつかないのだと。

 もっともアーランが聞くかぎり、そのまま突っ込めば南極探険のスコット隊と同じことになりそうな気がした。村を目視できるあたりというのが物資損耗の限界点に聞こえる。自制して正解だと思う。

 タスタスがキノコにみえる何かが入ったパスタをつつきながら、

 「それだと村の中に入ったらこんどはこちらまで戻ってこれなくなっちゃいますね?」

 はじまりの街とホルンカの間の夜間移動を試したことはない。はじまりの街とホルンカに分かれて泊まっていた昨日今日、アーランとしてもホルンカのタスタスに何かがあっても駆けつけられない不安がなかったとはいえない。彼女はそれ以上だったろう。小さく謝っておく。目をディアベルに向けたまま彼女もほんのわずか頷くしぐさ。

 「戻ってくるには、あまり問題はないんだ」

 彼女に向いてディアベルが大きく笑顔で答えた。

 それは資材補充とレベリング環境の問題だ。奥に進む方向だとモンスターがやっかいなトロンダ周辺で戦う時にいちばん物資が消耗していることになるが、トロンダで資材補充して武器の耐久度も回復したあとに戻ってくる分には物資が消耗したころ相手するのはホルンカの易しいモンスターになる。

 すこし気になってアーランは訊いてみた。

 「トロンダに鍛冶屋……武器の耐久度を回復させてくれる他の何屋さんでもいいんですが、あることは確実なんですか?」

 アルゴとディアベルが顔を見合わせた。代表してアルゴが答える。

 「あるはずだ……と言いたいケド、確かに確実とは言えないネ。フレーバーテキストとしても、モンスターに囲まれて村が孤立することはある、という一文はあったけど、その状態で自給自足できるとは書いてなかった。むしろそれで困窮することがあると書いてあったハズ」

 ディアベルも棒を飲んだような顔をしていた。

 「つまり、あれかな。ほうほうの体でトロンダに駆け込んでみたは良いけれど、鍛冶屋がなく武器の手入れが出来ず、村の外に出られず閉じ込められる?」

 頭の中でシミュレーションしてみるに、まずないトラップだとは思う。パーティプレイなら後方に支援を求めれば多少のレベル差があったとしても数日で救援は届く。先頭を行く命知らずのソロを閉じ込めるのには面白いトラップだが、この世界、餓死はないはずなのだ ── 違うのか?

 「餓えでは死なないことは確認済み?」

 アルゴに訊いてみたが、言ってすぐ答えにたどり着く。まだ四日目の昼だった。

 「な訳ないか」

 彼女も頷く。

 「無理言うなヨ。たとえ初日から飲まず食わずでもまだ人は死なないヨ。ああでもトロンダで食糧の心配はしなくて良いかモ」

 聞くと牧場があることはほぼ確定らしい。食糧があるなら閉じ込められることにそれほどの恐怖はない。ただし、それはトロンダの場合だけだ。

 「まずない……とは思いますけどね?」

 「いや、参考になった。予備の武器を最低一人ひとつ、作戦の時に確認しておくことにしよう」

 アーランは内心で首を傾げた。そんな小手先の対策でなく、自分達ならストレージ共有タブのネットワークを充実させることを考える。物資の瞬間輸送ネットワークがあれば、孤立することが本質的に恐くなくなるのだ。

── 後日。やりすぎて《遺言システム》を提案して総スカンを喰らうことになるわけだけども。

 しばらくして話は西の森とホルンカに移る。前線と違い、そのあたりならアーランも口を出せる。あまり聞いているだけだと悪いと思っていたのだが、ふと話の流れていく先がおかしくなっていることに気付いた。

 「実付きをわざわざ斬ってトレインを作る風潮が出て来ててね。モンスター出現率は下がってるし、人は多いしで分からなくはないんだけど無茶だと思うだろう?」

 「ええ、斬ってはいけないってガイドにも書いてあるのに、そんなことしてるんですか」

 話の向かう先は分かったが、とぼけておく。ディアベルが片目をつぶってみせる。

 「うん。今日ホルンカに戻ってきてみて驚いたよ。しかもどうやらうまくやっているパーティがあるからいっそうタチが悪いんだよ。全員が駄目なら諦めもつくんだろうけど、他のパーティがうまくやったら自分達も、と思うだろう?」

 「へー、そんなパーティがあるんですねー」

 「うまくやる方法があるなら、教えてくれないかなあ」

 確信があるのか、とぼけても全く聞いていなかった。洩れた口はオッカムさんか ── と思うが彼の人となりに一致しない。確証を掴むとすれば、あとはクエスト受け付け口の農家に何往復もしているティクルを見張るくらい。彼の隠蔽スキルだが、相手のレベルが図抜けていればあまり意味がないそうだ。だが最前線から人を呼び戻してまで?

 ほとんど心を読んだようにアルゴが口を挟んだ。

 「オッカム氏は口を割らなかったヨ」

 「どなたです?」

 「……おねーさん、とぼけるの上手くなったねェ」

 一瞬だけタスタスのほうを向いてから残念そうに呟く。アルゴがカマ掛けで見ていたのは彼女の視線の先で返事をしたアーランでなく、隣のタスタスだったらしい。友好のために素をさらしていたであろう中央広場での出会いと違い、今日はポーカーフェイスでよろしく、と言ってある。にこにこと笑顔の大安売りだ。

 ディアベルも苦笑いしていた。

 「そういう攻防戦は勘弁してくれないか……もうすこし友好的にやろうよ」

 そう言って彼は両手を広げた。もっとも、そう言うディアベルのほうも人の話を聞いていないので同類である。彼はコホン、と一つ咳払いして、

 「せめて事故は減らしたい。成功率を上げるか、そもそも挑戦を諦めてもらうか。上手くやる方法がとても難しいことが分かるというならそれでもいい。誰でも出来るような方法だったとしても、皆がトレインで乱獲すればすぐに使えなくなってこの騒ぎは終わるんだ」

 現状では手の出しようがないのだと、目で語る。せめてどんな性格の方法なのかだけでもと。

 「皆に呼びかけて止めさせることも出来なくはない……たぶんそれは出来る。でもそれでは伝説が残ってしまう。僕達が……つまり、高度な攻略法を伝える立場のプレイヤーがこのあたりから居なくなり、空白になった西の森で、後から来る新人プレイヤーが、トレインを使えば手早く出来る、という点だけを人づてに聞いてしまうのを君はどう思う?」

 それは新しい観点だった。アーランがデイアベルの懸念を聞き流していたのはその懸念が杞憂に近いことを知っていたからだが、ティクルの注意があったとしても今なお自分達を攻略プレイヤーの中の下に置く彼に後続に対する責任という視点は無かった。それでも抵抗してみる。

 「うまくやる方法、というようなものがあったとして、自力で思いつけない人が先に進むというのはどんなもんでしょうか」

 「なかなかに厳しいね。皆が皆、自力でやれるわけではないさ。みんなどこかで誰かの助けを受けている。ガイドブックを読んでホルンカに来た君達もそうだろう?」

 真っ先にガイドブックを受け取ったこと、つまり教わることの重要性を重々承知していたことを指摘している。劣勢を自覚して内心で顔をしかめた。アーランの沈黙を好機とみて、話し手がアルゴに替わった。

 「十万コルで買うヨ」

 額に驚いているとディアベルが補強した。

 「人に黙ってモンスターを狩り続けた時に出る利益ぶんくらいは出すさ」

 「いやいや、人に渡せる現金としてそれだけ持っているというのは普通に驚きですって」

 最前線グループの資金力に戦慄しただけで、そういう論理でいうなら十万コルでは安い。しかしそれなら ── という思いが湧き起こる。

 「チートしてる輩の頬ひっぱたくのに使うのも良いんでしょうが、それ、別の使い道とか考えたりしないんですか?」

 ディアベルが微笑んだ。

 「これは、まあ、チートしてる奴うらやましからん、という名分だからね。はじまりの街に戻って豪遊したりしたらキャンプには帰れないな」

 一拍置いて、

 「装備以外に、君なら使い道がある……ということかな」

 「いろいろ考えることはあります。資産はあっても現金で持ってないので何をするにも困る、という面はありまして」

 これは愚痴だなと、言ってから彼は若干後悔した。金をくれるという人達に言う言葉として意味不明すぎた。手持ち資産を現金化したとして、それを使う当てはあっても、まだ行動できるほどではない。情報料とか、そんなエキセントリックな金の渡され方をされても困るのだ。前線の人達が仕事をするのに使うか、せめてアニールブレード六本と交換といった穏健な形のほうが良かった。もちろんそれはディアベルのほうが納得しないのは分かっている。

 案の定、ディアベルが考え込んだ。

 「ふむ」

 「あー、いや」

 訂正、というのも違うか。彼は言い淀んだ。その彼の言葉に、アルゴがかぶせる。

 「それで足りないなら、おれっチの身体で払っても良いヨー」

 目を見開いた。決断は速かった。彼女の発言はいかにも不用意だった。横目でタスタスを見ながらの、揺さぶりというほどのつもりも彼女にはなかっただろうけども。

 「オーケー、君を買う条件込みで乗った。細かいラインは後で話を付けよう」

 アーランが飛びついた時、残りの三名ともが目を丸くした。

 自分達がそれだと白状してしまえば、概略を話すのにも忌避感はなかった。契約を決める前に話してしまうおおざっぱさに呆れられて多少教育的指導も貰ったが、内容については感謝された。

 「地形か……」

 ディアベルが考え込んだ。戦う時には当然場所を選ぶ。しかしそこまで細かく配慮してきたかというと。

 「デーさん? これ、ガイドに書く許可が出ても、ひろめるのは無理だヨ。多分ノウハウの塊じゃないかナ」

 「ん? どのあたりが?」

 さまざまな地形に対するモンスターの行動の変化を事前に熟知する必要がある。まさに水も洩らさず。その知見に穴があれば、蟻の一穴からダムが崩れるようにモンスターに奇襲を受けることになる。奇襲の対策に頭捻るくらいなら正統な壁と火力の定石が優る。アルゴからそう指摘されてディアベルが天を仰ぐ。

 「そっか」

 アーランはフォローを入れる必要を感じた。

 「この件については前線さんが心配しなくていい。アルゴさんの協力というか、身柄があるなら一週間かからず終わるよ」

 「そこでわざわざ身柄と言い直すニーサンが地味に恐いんだけド」

 両手で身体を抱いて震えるまねをする彼女を皆で笑ったあと、ようやく空気が落ち着く。

 

 しばらくは攻略ガイドブックに対する駄目出しを皆で ── つまりディアベルも含む ── アルゴにぶつけて遊ぶ。

 アーランがティクルに作らせたガイドブックに対する赤ペンを入れたメモを受け取ったあたりまではまだ感謝する余裕をみせたものの、助けをもとめた先のタスタスから食堂についての抗議を出されてついに沈没した。

 「ブルータスお嬢サマ、あなたもですカ」

 「ごめんなさい。でもやっぱり、みんながとても頼りにしているガイドブックなので。被害が出るのは良くないと思うんです」

 

 そろそろ切り上げようかというころ、ふとディアベルが訊いた。

 「君達はいつごろ前線に上がってこれるかな? まだ目処を立てるのは難しいかもしれないが」

 今度はアーランとタスタスが顔を見合わせる番だった。戯言だ、と前置きしてから三十層までに合流する話をする。

 「ちょっとちょっと、戯言といっても、そこまで先を考えてる奴は最前線にだっていないよ。トールバーナを見すえてる奴だって一人いるかどうか。しかし、そっかー、二ヶ月かー」

 言葉のわりにディアベルは厳しい表情を作っていた。アルゴもまた。何のことだと目で問うと、彼女が身を乗り出した。

 「にーサン。二ヶ月は前線組(フロントランナー)でももたないヨ。みんなそこまで強くない」

 二ヶ月というのは第一層クリアすらできずに新年を迎える、ということを意味した。振り払うようにディアベルがパンと両手を打ち合わせる。

 「よし、いいだろう。君達の挑戦受けた。一ヶ月で第一層をクリアする。そのかわり、一ヶ月以内にボス部屋にたどり着いたら君達もボスレイドに参加してほしい」

 アーランの表情が動くのを指を立てて止める。

 「謙遜は無しだ」

 「断る」

 さすがに表情を変えた。

 「いや。僕は参加する。それは約束しよう。こちらも向こう一週間は仕事が多い。そこから仕上げて二週間。適当なパーティと野良で組んで調整に一週間。一ヶ月以内のボスレイドでうちのパーティ三人ともを間に合わせることはできない。間に合って一人だ」

 「そうか……それは、そうだな」

 ディアベルが浮かせていた腰を落ち着かせた。六人パーティの形が整い始めているらしい前線と状況が違うことを彼も理解する。アーランは彼に目を合わせた。

 「だから君も約束してほしい……一ヶ月は短い。君らの力量がどれほどか知らないが、それでも一ヶ月は短いと思う。どこかで無理して、ここは俺にまかせて先に行けとかいうロールプレイ、やらかさないでくれよ」

 女性二人が吹き出した。ディアベルも頭をかいて笑った。

 「それはやっちまいそうだな。気に留めておくことにするよ」

 アーランはタスタスを連れ、ほとんど逃げ帰るようにしてはじまりの街に戻った。会議室でティクルと合流する。

 「あ、ボス、どうでした?」

 ソファにひっくりかえるように座ってアーランは目を閉じた。

 「いやぁ、参った参った。あれが前線組か、ほんとこれはぜんぶ任せて寝てて良いんじゃないかと思うな」

 ティクルがタスタスに目を向けると、

 「そーですねぇ。わりとおされっぱなしでしたねー」

 「……マジっすか」

 「おう。何が恐いって、ティクル、君の存在が半ばバレてるってことだな。元ベータテスタってことは知られてないみたいだが、トリックプレイヤーってことでマークされてた。何時からだろう」

 元ベータテスタが身内に居ることは意識的に隠してきた。表向きの行動はすべてガイドブックに載っている範囲であったはずである。それでもティクルを連れて行くかどうかはぎりぎりまで迷ったのだ。二人になるかも、とは伝えてあったが、出てみれば向こうは「切札は表舞台に連れて来ないのが当然」という顔で座っていた。

 「強力な索敵スキル持ちがうろうろしてるようだからホルンカでの隠蔽は自粛な。あまり変なことしてると思われたくない」

 「了解っす」

 「あー、でも例の問題二点、ふたつとも解決しそうだから配役原案で話進めるぞ。ティクルは買い出し役だから、ホルンカに出入りせずにすみそうだ」

 「俺が買い出しって、鉱石以外どーすんすか? このあたりの人、そんなに金持ってませんよ」

 「手持ち資金が十万コル増えた。これで買う」

 「はあ?」

 問題の一つ目、金は解決した。残るもう一つの問題は知識の問題である。そのためにアルゴを買った。

「アルゴの身体」でなく「アルゴ」を買ったと言い換えた意味を説明すれば、本人も笑っていた。むしろディアベルのほうが羨望含みの渋い顔をしていた。

 なお、西の森でトレインを作る風潮をディアベルが懸念していたが、彼が心配するほど事故は起きていない。三人がごっそり乱獲した結果、ノーマルのリトルネペントに遭遇するのすら難しい状況になっていたからである。トレインを作る風潮は、つまりトレインでも作らないことにはどうにもならない、という状況の反映だった。

 「ピッカリング大佐(スポンサー)が出て来た。最前線プレイヤーのようだが、ディアベルという名に心当たりは?」

 「……無いっすね」

 「ベータ時代もそこそこ目立ったろうから名前変えたか。まあいいか。現金(コル)に色は着いてない」

 明言はされなかったがディアベルは元ベータテスタであろう。多忙を極めた初日のアルゴが頼れるツテ先は、すべて元ベータテスタであったろうから。

 「まず、素行調査から始めよう」

 ティクルが調べてきたプレイヤー鍛冶屋の人物一覧を取り上げた。

 最前線のキャンプに戻る帰り道。新人二人組と分かれてすぐディアベルから笑顔が消えた。「そこまでかな?」と思いつつ、横を並んで歩いていたアルゴは彼を下から覗き込んだ。

 「デーさん、にーさん達を誘うつもりじゃなかったのかナ? お目がね適わなかっタ?」

 初日の注文は元々そういうニュアンスだったはずである。初心者(ニュービー)で、攻略パーティに入れてもよさそうな人を探してくれ、といった。

 アーラン氏、たまにちらつかせる言葉の刃がなかなか恐い人物だが、本来的には人が良いのか警戒心があまり長続きしないところがある。隠蔽スキル持ちの三人目を連れてこなかったことを恐縮していたのがかわいい。チートが三人目の仕事ならそうすべきだが、普通にアーランの仕事なのだろうから、警戒するほどでもなかったはずである。

 ガイドブックへの修正・追加要求がアーランへのロールシャッハテストとして機能してしまったことも、たぶん自覚がない。そのあたりは後輩さんのほうがちゃんとしていた。たしかにすぐ前線に上がってくるつもりはないようで、突っ込みは街中の日常生活関連のものが多かった。きちんと鍛えてくるならアルゴとしては歓迎である。手品のタネをさっさと割ってしまったのは特に酷く、真似されないという自信があったのならともかく、他人にも使えると思っての開示だから無茶苦茶である。

 トータルでみてディアベルが取り込むにもそこそこいける人材だと思ったのだが、彼から提案がなかったのだ。

 ディアベルは顔をしかめた。

 「冗談じゃないよ。ギルド乗っ取られて終わるじゃないか。三十層、半年とか言ってたよな。それまでに思いっきり逃げて差をつけとくさ」

 


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