「おーい、そこのレイピア使いの子、ちょっといいかな!」
アーランが階段下から呼びかけると、少女が振り返った。気落ちしている感もないではないが無言のままで少し恐い。
中学生、身長は平均的。髮は茶で長い。容姿も相当なものだ。顔つきは整っているというだけでなく、ものを考えることに慣れている顔で、学校の成績はともかく優等生に分類されるだろう。やや神経質そうなところが見えるが、SAO に閉じ込められた境遇によるものか本来の性質かまでは分からない。本来の性質というなら学校の成績も良いはずである。
少し意外に思ったのは立ち姿での背筋の伸び方だ。境遇と成績、容姿に瑕疵がないのだから、もう少し自分に自信を持ってピンと背筋は伸びそうなものであった。おそらく今の彼女は学校のクラスで埋没している。
これでほぼ同い年であろうソロの少年が振った理由が分からない。あえて言うなら、やや表情がきつめであるということくらいか。文字どおり中二病全開でバカやって発散している脇で彼女に睨まれると、とても萎えそうなのは同情できる。
だがそれは向こうの理由であって彼女の理由にはなりにくい。彼は訊いた。
「君、なんでついていかなかったんだ? ビーター君と一緒にいかないのか?」
「彼の名前はキリトです」
まずそれが最重要であるかのように彼女は固い表情のまま告げた。
「そうなの? そいつは悪かった。で、キリト君についていかなかったのは……」
「断られたんです」
「別に君が黙ってついていっても向こうは断らないと思うんだけど。……逆だとちょっとあれだけど」
「そういうわけにはいかないんじゃないですか」
彼女自身も少し納得いかないようで、声音にむかっ腹が混じっていた。
「しかし、あれ放っておくとそのうち死ぬぞ。困るだろ?」
「そんなことは。あの人、強いですよ」
「分かるかそんなこと。死にそうにない奴は死なないもんだと少し前まで僕も思ってたけどな」
僅かに遅れて彼女が目を見開いたのが分かった。身の回りに死者が出ていないプレイヤーというものは、なるほど腹立つと思う。これが行きすぎるとゾンビ化するわけだが。
戦闘中とは裏腹にまったく動きのないことでなんとなく理由は見えた。
「君に迷惑が掛かる、とでも言われたか」
なんで分かるのかという顔で彼女が頷く。
「キリト君、さっきのあれでここに居るほとんどから縁が切れたんじゃないか。君しか味方がいない状態だと思う。君が窓口にならないでどうする」
彼女自身の待遇悪化を心配しているわけでもないだろうに動きがなく、彼は次善に切替えた。
「君の名前は? 僕はアーランと言う。あとでうちの女性プレイヤー寄越すから、出来ればフレンド登録しておいてくれないか。キリト君からのヘルプの手がせめてうちのところまで届くようにしておきたい。悪用はしないと誓おう。あっちのエギルさんでも良いんだけど」
アーラン自身よりも B隊リーダーのエギルのほうが彼女の記憶に残りやすかっただろうと候補に入れてみたが、彼女の返答はそんなところから遥か手前にあった。
知らないのを羞じるかのように彼女が小さい声で問い返す。
「フレンド登録……て何ですか?」
「……待って、てことはキリト君ともフレンド登録してないってこと? まさかと思うけど、さすがにキリト君が君の名前のスペルを知らないってことはないよね? お互いにインスタントメッセージは使えるんだよな?」
「インスタントメッセージ?」
崩れ落ちかけた彼を見兼ねたのか、思い出すようにして彼女は言った。
「えっと、スペリングは知ってます。パーティ組んでましたから。目の端の隅に見えてたので良いんですよね?」
「あ、うんそれ。最低限の連絡はつくんだね」
彼女から以外のメッセージには応えない可能性が高い。危うく完全に雲隠れされたかと彼は思ったのだった。
それから彼女はアスナと名乗った。彼で良いといってフレンド登録を交わす。意味するところはさっぱりわかっていないようだったが、これは仕方がない。フレンド登録にまつわる機能のほとんどが迷宮区では使えないのだから。ウルバスで落ち着いたらチュートリアルをする、という約束をして、この場ではインスタントメッセージとフレンドメッセージの送受信だけ確認しておく。もっとも物覚えは良さそうなのでヘルプで予習するだけで困ることはないだろう。
一度上から下まで目は通したものの、そのあたりは用のない項目だと思って読み飛ばしたらしい。言い訳するように彼女は言った。
「そのかわり、武器やモンスターについてなら、ヘルプに出ている内容はほとんど暗記しました」
「それくらいはするよね」
「へ?」
優等生顔の中高生が SAO 内で孤立し、情報を得る手段が他に無いのならまずすることはヘルプを読むことだろう。似たようなことは彼もやったので、そのあたりは想像がついた。
「しかし、キリト君はこういうの教えてくれなかったの?」
「ええ。メッセージを受け取ったところも見たことがありませんでした」
「あの少年てば……そりゃ気軽にビーター宣言するよなぁ、元からほとんど味方居なかったことになるじゃないか」
「それ、わたしもなんですけど」
「そういえばそうか。インスタントメッセージの存在も知らなかったもんね……」
視線がきつくなった彼女に両手を上げて謝る。
「二人、メッセージのやりとりが出来る相手が出来ただろ?」
少し考えるようにしてから彼女はアーランに尋ねた。
「……アルゴって人の名前の綴りは分かりますか? アールでしょうか? エルでしょうか?」
「情報屋さんの《鼠》のアルゴのこと?」
「……はい。そう言ってました」
「遭ったことはあるがメッセージをやりとりしたことはないと。アールのほう。A - R - G - O になる。三人目だね」
「はい」
知りたかったことを知った時のその満足げな柔らかな笑みは、なかなかに可愛らしかった。
そのアルゴを含めた予備隊三人がエギルのところに合流していたようだったので、アーランは彼女をアルゴのところまで連れてもどった。アルゴに気付いたアスナが深々とお辞儀する。
「アルゴさん、その節は御世話になりました」
「や、アーちゃんひさしぶり。元気そうだネ」
二人が旧交をあたためている間に、アーランはエギルにそちらはどうなったかを聞いておく。
今は亡きディアベルが最初に取り決めたとおり、ドロップアイテム等はドロップしたプレイヤーのものになるから、そちらの話は確認だけで終わったとのこと。ただ、その後の角付き合わせ、つまり誰が今後の主導権を握るかという点でしばらくもめたらしい ── というより、見れば現在進行形で揉めていた。彼はやや非難をこめてエギルに向いた。
「つまり逃げて来たのか」
うんざりした顔でエギルが答えた。
「しょうがないだろ」
しょうがなくはない。キリト達を除けば最大級の功労者が会議から抜けると重石がなくなる。反キバオウと思われているエギルがキバオウを支持する形だから右も左もまとまるのだ。彼が抜ければ反キバオウ的な、つまり元テスター達は堂々とキバオウから離反するだろう。彼がそう言うとエギルはしまった、という顔をして手で顔を覆った。キリトに対する風当たりがコントロールできなくなる可能性がある。
「で、反キバオウの旗印は誰?」
「ほら、そのキリトに難癖付けてた C隊のシミター使い。……すまん」
最悪だった。
「しょうがないなぁ……」
ディアベルとのやりとりではパーティの成果という話はあっても互いの内部のメンバーの話は出なかった。アーランは悪いかなと思いつつアルゴ達の話を遮った。ちなみに彼女達の話には何時の間にかタスタスも混じっていた。彼自身がアスナとフレンド登録する必要はなかったのではと思うが、今さらである。
「アルゴ、ちょっといいかな」
「にーサン、今おれっチはまさに友と再会を祝い、また新たな友人関係を祝っているところなんだケド?」
やや怒気を感じたので軽く謝りつつ、
「あそこのシミター使いについて教えて欲しい。君を轟然と非難した奴だ、情報公開、どんと気兼ねなく心置きなくやっちゃってくれても良いんじゃないだろうか? 向こうにこちらのことを教えないくらいの悪戯しても罰が当たることはないぞ」
明らかにアルゴの信条に反することを堂々と囁くアーランに周りは若干引きつつも、それを押しとどめる者は居ない。アルゴも悩んだものの棒読みで話し出した。
「おおー、あそこのシミター使いはリンドじゃないカ、ディアベルと仲が良く、部下としてディアベルに心酔していた男。やや無法なところもあるが、強力なプレイヤーの一人ダナ……独り言はここまでカナ。これ以上は有料にしておこうか。誰かがおれっチ自身を敵と見なしたとしても、中立は守るヨ。これは謂れ無き非難の分ダ。おれっチはウソを言うことはナイ」
「とりあえず、それで十分かな」
そう言いつつ、なんかあるだろう?と彼が期待の目をしたので、ウン、とアルゴは頷くと、手を出した。
「短いけど、とってもにーサンが必要としてそうな情報がアル」
「商売上手いね。みんなにも知られてしまって大丈夫な話?」
そう言って金貨を二つ彼女の手の平に置く。
「情報屋から無料で情報毟ってくにーサンほどじゃないけどネ。これも向こうには言わないでおくヨ。皆には、むしろ聞いてもらったほうが良いと思う。……リンドって男、ディアベルがファンレター送ってたにーサンのこと薄々気付いてる。名前は知らないみたいだけど、近付くのは注意したほうが良いヨ」
「警告、感謝。ありがとう」
「まいどアリー」
それを見て、エギルが妙な感心をしていた。
「おまえら、普通に商売っぽいやりとりもするんだなぁ……」
キバオウ達の分裂が明らかになるころ、ラストがキバオウのところに戻り、続いて「向こうも落ち着いたカ」と呟いたアルゴが、キバオウやリンド達より先行していないと商売にならないと言って彼らから離れた。わたしもこれで、とアスナがその後をついて行く。
残ったのはアーラン達のパーティ三名とエギル達のパーティ三名、それにローバッカ。
アルゴ達を追うようにメイン集団が出口に続き、出口の階段が混雑し、タイミングを失った彼らは空くのをしばらく待った。別れを惜しむように前に出て手を振っていたタスタスも戻り、今はその手でアーランの上着の裾を掴んでいる。
エギルがアーランに尋ねた。
「おまえら、これからどうするんだ? すぐ戻らないのか?」
逆向きの護送船団の準備のためにトールバーナに戻るのなら、出口の混雑は関係ないだろうと彼は言った。
「出口までは一緒に行くよ。鍛冶屋さん達に準備してもらうなら、アナウンスメールは早いほうが良い。そこでしばらくお別れってことになるんじゃないかな」
「下まで行くよりは上に出たほうが早いのか」
珍しくタスタスが二人の話に割り込んできた。
「先輩、お昼ご飯忘れてます。エギルさんも。もしかしなくても、ローバッカさんに話してないんじゃないですか?」
「おお」
二人して手を打った。自分の名前が出たローバッカも何事かと三人に向く。エギルに説明を譲られたアーランが尋ねた。
「ローバッカさん、昼ご飯、どうする予定でした?」
「特には。ウルバスで食べることになるのかな。エギルさんはどうされる予定だったんですか?」
あれもしかして、という顔でアーランはエギルに説明を求めた。
「ん、うちのパーティに入ることになった」
アーランは呆れて、
「ぜんぜん懲りてないじゃないか」
彼は幅広剣使いで、打撃武器とまでは言わないが、やはり重量が攻撃力の一部になっているタイプである。エギルが苦笑して頭を叩いた。
「こういうのもアリなんじゃないかと思えるようになったからなあ」
「分かりました。それはそれとして、話を戻しますが ──」
B隊プラスアルファ程度の食糧を持ち込んでいることを彼は説明した。
敗戦対策である。本隊メンバーで食糧持参のプレイヤーはおそらく皆無で、逃げ帰った時にさらに餓えているとトールバーナで期待しているプレイヤーに与えるイメージが悪すぎる。一方で予備隊に継戦能力は必要なく、ストレージに余裕があった。
唖然とするローバッカの肩をエギルが笑いながら叩いた。
「それだけじゃないぞ。こいつ、戦略的一時的な撤退であって負けたわけではないぞってフリで先頭に立って堂々と帰るつもりだったからな?」
全員の分を用意したのではないのだから、B隊以外はアーランの言う敗残者の群れになるはずだった。
そうそう負けること前提の話を吹聴できませんよ、と言ってからアーランはようやく空いた階段を登る。服の裾を掴んだままのタスタスが続いた。
彼は振り返って言った。
「勝ったので昼食兼ねて宴会かな。祝賀会お別れ会と追悼、それに歓迎会ですかね?」
開けっぱなしの扉の向こうには大きな岩を平らに削って造ったような小さな広場があった。そして第二層が広がっていた。眼下にみえる、はじまりの街の半分ほどの大きさのウルバス主街区、遥か南の壁際に迷宮タワー、その周囲に鬱蒼とした森。大地のほぼ中央を横切る黒い溝、おそらく長大な谷と断崖が目を引いた。
「今朝、迷宮タワーを登ってきたばっかりだけど、あれも登るわけか」
「だな」
エギルの沈み込みを看過できず、アーランは彼の背中を叩いた。
「……千里の道も、もう十里も進んだんだ。頑張って行こうぜ」
おもいっきり叩きかえされた。
「まっくらな顔してたあんたに言われたくないぞっ」
「ここ圏外じゃないか? 今ちょっと HP 減ったぞ!」
もう一度叩き返す。
ティクルが黙々とゴザを敷きはじめた。そしてそのまま宴会となった。
宴会が始まると同時に再びアーランの服の裾をつまんで、今もにこにこと笑みを浮かべてサンドイッチを食べているタスタスを彼は見下ろした。
「……君はこのままウルバスからはじまりの街に戻ってくれないか? 受け入れ側も人手が要るかもだろう」
手を止めた彼女から一瞬にして笑みが消え、彼を見上げて真顔で、
「はじまりの街で宿泊施設の用意とか要りませんよね?」
笑みが戻る。
「サーシャさん拾うのもわたしが居たほうが都合が良いですよ?」
そして彼を見上げたまま食事を再開した。
「……じゃ、ティクル」
テコでも動きそうになかったのでティクルに振ると、彼も笑った。
「そういうの無しにしましょう。レジェンドブレイブスの人達が断ってきましたから、人手足りないかもですし。あいつら、自力で迷宮区抜けるって言ってました」
「はじまりの街に戻ったんじゃ二度手間か……」
エギルがやれやれという顔で口を挟んだ。
「あいかわらず大変そうだな」
宴会が終わり、エギル達がウルバスへ降りていくのを見送ったあと、ティクルがアーランに訊いた。
「コボルドロードの二度目の《旋車》の時、恐かったですか?」
裾が引っ張られて、アーランはこわばった顔をしたタスタスに大丈夫だ、という笑みを向けてから答えた。
「……そうだな。レイドなんか二度と参加するもんか、て思ったくらいには。出るならいっそ自分で主宰するくらいはしないと。みんな準備が駄目すぎて」
「そんな認識かもって思ってました。どっかで VIT の感覚つかんどいたほうが良いっすよ。たぶんボスのスタンからの回復時間、《旋車》のクーリングタイムが目じゃないくらい早い気がします」
「どういうこと?」
「ディアベルさんもそうでしたが、エギルさん達スタン食らってしばらく倒れてたでしょう? あの人達がクーリングタイムの後の次の攻撃でちょうど HP が飛ぶくらいに攻撃力が設定されてるようでしたけど、ボス普通に動けてたじゃないですか」
「……それ、君達も?」
「ええ。多分」
アーランはタスタスを顔を見合わせた。いまさらのように彼女も目を丸くして両手で口を覆っていた。
「それでですね、《鼠》の情報公開許可どうなってます? クローズしましたよね?」
「してある。あ、アルゴにもバレてるのか」
「変な顔してましたから、たぶん」
アスナとアルゴの二人は、これから先コンビを組むことになりそうな風情でボスフロアを離れたが、内情はアスナにもアルゴに尋ねたいことがあったし、アルゴもアスナに頼みたいことがあった、というのに近い。どちらも極度に敏捷性寄りのステータス持ちで、先を急ぐと言われれば他の人は遠慮することが分かっているし、逆に二人が連れ立っていても不思議はなかった。
そういう微妙な距離感と探り合いで第二層を一望に見下ろすところまでは二人とも静かだった。そこから道を下りつつ、アルゴは話の流れを誘導してアーランの話にもっていったつもりだったが、要するにアスナのほうもそのあたりを訊きたかったらしいと気付く。ただ、情報屋を相手にするには悪い意味でも少し素朴すぎた。
アーランさんて、どんな人なんですか?というアスナのストレートな問いに対し、まずアルゴが最初に説明したのは彼の出していた情報公開許可についてだった。逆に言うと、情報屋に安易に人のことを尋ねてはいけない、という戒めである。アスナの前でアーランがわざわざアルゴと普通の売買のやりとりをしてみせたのも、たぶんその関係だ。普段のようにやりとりすると、それが初見になるアスナがアルゴに甘えるようになるのを危惧したのだろう。あれはあれでバランスシートを思い浮かべながらのやりとりなのである。トールバーナに来てからはだいぶ彼もそのあたりがエレガントになったと思う。キリトに対した時とはまた違う楽しみがあった。
「人に信用してもらうには、自分を知ってもらないといけないダロ? 特におれっチのような信頼できる情報源からサ。あのにーサンは、たくさんの人に協力してもらう必要があってネ。だから、信用してもらうためにそういう許可がでてタ。さすがに無制限じゃないヨ?」
そしてこの事実そのものがアーランの人物評の一端でもあった。アスナが理解して神妙に頷いたところで本題に入る。まずはびっくりの最新情報である。
「実はアーちゃんよりレベル上じゃないカナ? タブン、キー坊と同じくらい」
「え、それは無いんじゃないですか?」
驚くどころかばっさり否定するアスナに、アルゴは、にやっと笑った。レイド前はアルゴもそう思っていた。アーランの自己評価通り、レイド参加メンバーの平均よりやや下というところ。ティクルはともかくタスタスはレイド参加はまだ早い位。
アーランがスタンから異常なほど素早く復帰したことに、ボスに対峙していたアスナやキリトは気付かなかっただろう。《旋車》で誰もがまだ倒れている中、一人だけほとんど無傷がごとく振る舞った異質さにアルゴはぞっとしたものである。もちろん二度目の《旋車》の直前に半狂乱になったタスタスを必死になって抑えつけたティクルは知っていたのだろうけども。アルゴが居たため彼は密談できずに困っていて、彼女も少し席を外そうかと思ったものの、外しても外したと信じてくれそうになかった。隠蔽スキル持ちの欠点である。そうこうしているうちにキリトが止めを刺してしまって、ようやくタスタスも落ち着いたのだったが。その後、こちらに連絡を寄越すでもなくアーランがアスナをナンパしにいった時、タスタスがボス部屋に飛び込んでいったのはさすがにティクルも止めなかった。
(なんて言うかサ。にーサンも存分に叱られてしまえば良いと思うヨ?)
あのタイミングでスタンから復帰するための条件を考えるに、彼の VIT は異様に高い。明らかに STR に振られている分と合わせるだけでもアスナとレベルが並ぶだろう。さっぱり強く見えないのは彼が武器スキルを剣とメイスに割っているということもあるのだが。
「
あくまでも一般論であって、彼についての情報ではない。そこからアスナが何を読みとるかは彼女の自由である、とアルゴは思う。情報公開許可が
ともかく、アスナはアーラン達が次のボスレイドに出てこないという話を聞いて失望したはずなのだ。彼女は途中まで次のレイドが彼ら三人のパーティのデビュー戦となることを疑っておらず、パーティに入れてくれとオファーする寸前だった。慌ててアルゴは彼らが当面休む話を割り込ませた。このほうがまだ傷は浅いだろう。彼女の顔色が変わったことはタスタスにも伝わっていて、別れ際に感謝されている。
アルゴはアスナを見た。
将来の超級プレイヤーだとしても、まだまだ素人で危なっかしい。キリトがあずかるのなら理想的だと思っていたが、彼が彼女をふるとは思わなかった。アーラン達には後ろに沈むのでなく是非とも前に出ていただいて当面の保護者をやってほしいと思うのである。多少の思考誘導くらいは許して欲しいものであった。
少し考え込んでいたアスナが顔を上げた。
「途中で休むのはデメリットが大きいと思います。追い付けるものなんですか?」
ボスレイドって人数多いからね、とアルゴは言った。ドロップ総量は多いし、トップの取り分も大きいから目立つが、平均で言うならフィールドで頑張ってもそれほど遜色はない。ラストアタックボーナスを狙ったり、攻撃量を多くして取り分を多くしてみたりするつもりがないなら、つまり目立つつもりがないなら、出ないというのも選択肢の一つではあった。
「それでも大変かもだけどネ」
「アルゴさんはあの人達を認めてるんですね?」
アルゴの言葉に彼らへの非難がないことにようやく気付いたのか、そんなことをアスナが訊いた。アルゴは頷いた。しめた、と思ったがもちろん顔には出さない。
「ウン。どういう予定でどうするつもりなのか聞いた時は三十分くらいあのにーサンの独演会だったから、立ち話じゃちょっとね。興味があるなら直接訊いたほうが良いと思うヨ」
第二層のボスは攻撃力はそれほどないが、状態異常攻撃を混ぜてくる。ベータ時代は装備を固めるための層だった。アーランにとっては、ほとんど投資せずにボス攻略に参加できる階層になるはずであり、彼のレベル・力量が正直に現れる相手でもある。翻意まではいかなくても、アスナに引きずられてレイドに参加する、というものがアルゴにとっての最良の結果だった。
引っ張りだせずにアスナがソロで参加して、こちらはまず間違いなく参加するであろうキリトと再会したあげくコンビを組むようになるのでもかまわないが。
第一層でのアスナが(上層時に比べ)背中をまるめ気味なのはアニメ描写準拠だが、アスナの歩き方はアニメOPには準拠してない。
普段の歩き方が綺麗なやつとアレなやつを描き分けたアニメって見たことないからまあいいかと。