ラブライブ! コネクション!!   作:いろとき まに

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活動日誌- み・はミュージックの・み! 7

 入学式より数時間後――。

 放課後となり、各部の新入生勧誘レセプションは初日を迎えようとしていた。 

 そんな中、アイドル研究部の部室でも――

 沢山の新入生が見守る中、雪穂と亜里沙による説明会が始まろうとしていたのだった。

 

 本来ならば新入生の人数を鑑みて、隣の練習スペースで行えば良い話だとは思う。

 もしくは広い場所を借りて1度に済ませることも可能なはず。

 しかし敢えて狭い部室を選び、人数を制限した雪穂達。

 それは今回が正式な部活勧誘――歴とした学院行事だからなのである。

 元々、先々代の部長が与えられたアイドル研究部の部室はこの狭い方の教室だけだった。

 それが彼女達の功績により隣の広い教室も与えられた。

 そして、彼女達の大半の活動拠点や話し合いの場は常に狭い方の部室だった。

 つまり彼女達にとって正式なアイドル研究部の部室とは、この狭い方の教室を指すのだろう。

 そして新入生達の大半の動機もまた、この狭い部室を選んだ理由の1つなのだと思う。

 新入生の動機――それは伝説と謳われている姉達の残していった功績。

 もちろん中には自分達への羨望として、この場に座っている生徒がいるのかも知れない。

 しかし大半は前者なのだろうと2人は自覚しているのだった。

 とは言え、悔しいと感じている訳でも寂しいと思っている訳でもない。

 どちらかと言えば嬉しく思っているのだ。

 姉達が降り注いだ音楽と言う名の光は、こうして大勢の心で輝いている。

 そして、そんな姉達が残していった光を自分達で曇らせることなく、輝きを増していきたい。

 だからこその、この部室での説明会――

 大好きで尊敬できる先輩達の想いと思い出が詰まった部室での説明会を選んだのだった。

 

 そんな部室を埋め尽くすほどの新入生たちが羨望の眼差しを向ける先。

 向かい合って立っている雪穂と亜里沙。そう、2人だけが説明会に臨んでいた。

 とは言え、部員が2人だけだから2人で臨んでいる訳ではない。

 この場が正式な学院行事であること。この狭い部室を選んだこと。

 それが2人だけで臨んでいる理由なのだった。

 

 そもそも、この場では部活内容を説明するだけだ。説明をするのに何人も必要ない。

 更に正式な場である以上、一般部員が立ち入るのは不自然なのだと思う。

 そう、部長と副部長――雪穂と亜里沙だけが説明会を取り仕切るのが妥当なところ。

 同じ最上級生である彼女達の親友は、入学式の事後処理に追われている為に席を外している。

 しかし、彼女がいたとしても同席は辞退していたのだと思う。

 これもまた、先輩達から学んだ礼節と秩序なのだろう。

 そして部室が狭い以上――横幅いっぱいに前列に並ばれても圧迫感と窮屈さを醸し出すだけ。

 それでは新入生にマイナスイメージしか生まない。

 そう判断してのことでもあるのだと思う。

 その代わり、残りの部員――2年生は隣の教室にて待機をしていた。

 説明会後の歓迎レセプション。隣の教室へ移動しての歓談を行う為に。

 これも雪穂達――アイドル研究部員が先輩達から受け継がれてきた『歓迎の意』なのだろう。

 

 事前に部員達が買い集めてクーラーボックスで冷やしてある紙パックのジュースと、お菓子を並べ――

 先輩達や自分達のライブの衣装を展示して、活動日誌の一部をコピーして閲覧できる様にしてある。

 そして、姉達や自分達のライブの動画を流したりもしている。

 そんな新入生達の緊張をほぐしながら、自然と部員達との色々な会話をする場として設けられたのだった。

 説明とはあくまでも一方通行なもの。

 ただ憧れているだけでは――聞いて理解していても本当の意味で理解したとは言えない。

 もちろん質疑応答は設けてある。しかし、これもまた会話の様に理解できるまで聞けるものではない。

 それならばと、会話と言う言葉のキャッチボールを経て理解を深めていってほしい。

『自分はスクールアイドルが好き』と言う想いを胸に刻んでほしい。

 そう言う気持ちで入部して頑張っていってほしい。

 数年前に行われたスクールアイドル達の合同ライブ。結成前とは言え参加させてもらった雪穂と亜里沙。

 彼女達の開いた歓迎レセプションは、合同ライブから学んだことなのだと思う。

 

□■□

 

 大勢のスクールアイドルが集まった合同ライブは長時間に渡り開催されていた。

 とは言え、大会の様に審査やパフォーマンスを中心とした構成ではなく――

 本当の意味での『お祭り』であり『スクールアイドルの素晴らしさを知ってもらう』ことを中心とした構成になっていた。

 1つのステージには1組が数分のライブを行っている。

 しかし、残りのスクールアイドル達は自分の出番の数分前までは各自で自由にお祭りを楽しんでいたのだろう。もしくはステージ以外でのパフォーマンスをしていたのかも知れない。

 順番はライブを構成する為に作られていたのだろうが――

 特に他のスケジュールや規定などは作らずに、各自の自由な時間を過ごしていたのだと思われる。

 そしてライブを見に来た観客も然り。ステージとは言え公道の真ん中に作られた特設会場。

 見に来る人が自由に行き来できるように、区切りも何もしていない客席スペースとは名ばかりのステージ前にあるスペース。

 ライブを常に見るも良し。お目当てのライブを見終わったら屋台を回るでも良し。

 逆に屋台を回って疲れたら立ち止ってライブを見るでも良し。自由にお祭りを楽しむことができる――

 さながら、広大な敷地での複数のステージを有して行われるロックフェスティバルの様なものなのだろう。

 そしてスクールアイドルも観客も、同じ場所でお祭りを楽しんでいる。

 そう、集まったファンとの交流の場だったのかも知れない。 

 そして、スクールアイドルに興味を持っている子達にスクールアイドルの素晴らしさを伝える機会を設けていたのかも知れない。はたまた――  

 オープニングセレモニーとして行われた穂乃果達 μ's が1曲目に歌ったあの曲。

 あの曲は『みんなで歌って踊れる曲』をコンセプトに参加するスクールアイドル達が協力して作り上げた曲であった。

 とは言え、あくまでも彼女達が主体。他のスクールアイドルはサポートなのだろう。

 つまり彼女達の新曲であり合同ライブのメインテーマと言う訳ではなかった。

 その為に、彼女達がメインとして歌って踊り、バックで他のスクールアイドルが踊ったのだろう。

 そう、本当に合唱して全員で踊るのは最後の最後。閉幕の時なのだから。

 しかし、あの曲のコンセプトの『みんなで歌って踊れる曲』とはスクールアイドルだけを指した言葉ではなかったのだ。

 つまり、見ていた観客にも一緒に歌って踊って盛り上げて――全ての人達の一体感を求めていたのかも知れない。だからこそのオープニングセレモニーであり、振り付け講座の役割を持っていたのだと思える。

 それを見ていた人達が自分も歌って踊りたいと感じて、周りのスクールアイドルへと教えてもらいに歩み寄る。これも1つの気軽に話をするキッカケになったのだろう。 

 

 当初この条件を出した綺羅 ツバサは『スクールアイドルのみんな』を基準に提案していた。

 ところが合同ライブの打ち合わせ中に突然言い出した穂乃果の――

 

「全員で歌って踊るのなら、お客さんも含めた全員で歌って踊りたい!」

 

 その一言で決まった――本当の意味での『みんなで歌って踊れる曲』となったのだった。

 その言葉を聞いたツバサは微笑みを浮かべていた。

 穂乃果達のキャッチフレーズを見た時に納得していた答え。

 穂乃果達の原動力であり活動する意味。彼女の言葉を聞いて実感していたのかも知れない。

 そして、ツバサは感じていた――

 彼女達ならこれからのスクールアイドルの未来を安心して託していけると。

 今よりも素晴らしい未来へと導いていけるのだと。

 そして、旅立つ自分は直接関わることはなくなるが、彼女達の行く末を見届けたいと願っていた。

 そう、演者だけでなく見ている者達さえも巻き込み、全員で楽しみ盛り上げていける――

 そんな『みんなで叶える物語』の輝かしい結末を――。

 

 後に穂乃果達が伝説のスクールアイドルと謳われる様になった背景には――

 結成1年足らずの実績にも関らず、第2回大会で有力候補の A-RISE を打ち破り、続く本大会にて優勝。その後の海外PRと合同ライブの発起が要因として挙げられているのだが。

 実は、合同ライブにおける『スクールアイドルの素晴らしさ』を大勢の人達へと伝える環境を作った。

 誰でも気軽に触れ合い、実際に活動している人達から素晴らしさを聞ける場所を設けた。

 スクールアイドルの素晴らしさを知り、足踏みしていた子達に勇気を与えた。

 そして、みんなで歌って踊れることにより、一体感が生まれて楽しさと喜びを植えつけた。

 その結果として――確実にスクールアイドル人口の増加に繋がった『企画の発案者』としての功績を知る、参加した全員が語り継いでいったのが1番大きかったのだと思う。

 穂乃果達が発起した合同ライブもまた、大会運営側とスクールアイドル達の要望により――

 大会同様、卒業するスクールアイドル達の思い出として。次世代のスクールアイドルを目指す子達へのキッカケとして。3月開催の本大会後に毎年開催される様になったのだった。

 

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