ラブライブ! コネクション!!   作:いろとき まに

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活動日誌- み・はミュージックの・み! 6

「おーい?」

「――んぉ!」

「おはよぉ」

「……遅いよぉ?」

「えへへ……ごめぇん」

 

 彼女が周りを眺め、思い出に浸りながら校舎の入り口を目指して歩いていると、彼女の耳に聞きなれた声が聞こえてくる。

 その声に気づいた彼女は足を止めて、声のする方へと振り向く。

 すると雪穂同様、共に歩んできた制服に身を包んだ彼女の親友。絢瀬 亜里沙が彼女の方へと近づいてくるのだった。

 目の前に来た彼女に苦笑いを浮かべて声をかける雪穂。そんな彼女の言葉に苦笑いで返す亜里沙。

 2人はどちらからともなく、目の前を流れる真新しい制服の波に紛れて、校舎へと歩き出すのだった。

 

「良い? まずは1年生に私達の活動の内容を伝える。もし興味を持ってくれたら、今度はライブに来てもらう」

「だぁいじょうぶ……任せて!」

「本当かなぁ……」

 

 新入生達の波から離れ、校舎に入り自分達の教室へと歩いていた雪穂と亜里沙。

 彼女達は先輩達が託していった『アイドル研究部』を明日へと繋げる為。新入部員の勧誘を兼ねた説明会の為に話し合っていた。

 そう、彼女達はアイドル研究部の現在の部長と副部長。

 入学式である本日の放課後より始まる、部活説明と言う責務が彼女達の小さな肩に課せられているのだった。

 

 去年までの音ノ木坂学院の通例では、部活説明会は入学から1ヶ月ほど時間を置いて、改めて説明の場を設けていた。

 しかし、今年度は入学式直後から数日間に渡り、各部のレセプションと体験入部を設けることになった。 

 だが、それは決して去年までの通例を否定した訳ではない。

 新入生の中には入学前から部活を決めている生徒も少なからず存在する。斯く言うアイドル研究部の現在の部長と副部長もそうなのだった。

 始めから部活を決めている生徒が入学直後に入部届を提出して入部することは可能。

 しかし、決めかねている生徒は部活説明会のある1ヶ月後まで入部に踏み切れない。

 それが生徒達の在籍日数の差へと繋がるかも知れない。

 本人が自主的に入部を遅らせているなら納得がいくだろうが、この場合は学院が遅らせているとも言えるだろう。

 それならば、新入生全員に公平に部活を選ぶ機会を与えるのが良いのではないか。

 去年までの通例を体験してきた彼女達。この学院の生徒達がより良い学院生活を送れるようにと検討した事案。

 これもまた伝統校である学院の校風――託した想いを未来へ繋げる生徒達の自主性なのだろう。

 

 本来ならば彼女達にはもう1人。共にスクールアイドル活動をしてきた親友がいる。

 だが、彼女は――

 雪穂達は知らない生徒会長時代の絵里。雪穂の姉である穂乃果。

 そして真姫と言う、繋いでいった『学院生徒会長』としての責務を受け継ぎ、本日の入学式の進行に携わっている。

 それもあるのだろう。

 別の場所で自分の責務を果たしている仲間の為。自分達も精一杯、責務を果たそうと――

 言葉尻こそ普段通りの会話であるが、真面目に話し合いながら教室へと向かう雪穂と亜里沙なのであった。

 

♪♪♪

 

「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。今日から皆さんは、この音ノ木坂学院の一員です。これから始まる学院生活を是非とも楽しく、充実したものにして欲しいと願っております」

 

 此処は学院の体育館。室内では今年度の入学式が厳かに執り行われている。

 新入生への祝辞を述べながら壇上に立つ音ノ木坂学院理事長――南女史は、壇上から見下ろす光景を眺めて、ふと数年前のことを思い浮かべていた。

 

 生徒の減少により学院存続の危機に陥ったことで、来年度の生徒募集を打ち切り――

 在籍中の生徒の卒業を以って廃校にすると言う決定を全校生徒に通達した数年前。

 彼女は、この決定事項を断腸の想いで生徒達に伝えていた。

 長きに渡り大勢の生徒が、この学び舎で学び、育まれ、巣立っていった。

 それは自分の祖母の世代からの伝統。

 当然、本人も――当時は自分の娘も在籍する、大勢の生徒達の思い出が詰まっている学び舎。

 そんな、思い出の地を自分が終わりにしなければいけない。

 なんとか阻止をしようと必死でもがいてきた。あらゆる手を考え実行してきた。

 それでも叶わない。どうすることもできない。

 

 単純に、来年度も生徒を募集して今以上に生徒を減らしてでも入学させる。それは確かに可能だろう。

 しかし、それでは下手をすれば今の在校生を卒業させられない可能性が生じる。

 経営状況はそれほどまでにも切迫していたのかも知れない。

 そんな学院の存続と在校生の行く末。その2つを天秤にかけた結果の廃校なのだろう。

 しかし、それは理事長としての自分の責任であり、理事長としての悩み。

 そして、学院の話であり、経営陣としての話なのだ。

 母親としての悩みや話ではない。つまり、実の娘に不安や心配な顔は見せられない。

 だから、ことりに廃校の話を聞かれた時。

 娘に心配をさせない様に、学院の生徒を不安にさせない様に。

 敢えて「終わったら何処か旅行にでも行きたいわね」と、気にしていない様に言ったのだろう。

 しかし内心では悲しみに打ちひしがれていたのだと思う。

 娘に投げた言葉。

 自ら引き際を決めて、後進に道を譲る。

 その際に心の底から満足感と充実感を得ながら笑顔で言える日を夢見ていたのだろう。

 それがこんな形で、強制的に引き際を決められてしまった。

 そして偽りの言葉として言うことの虚しさ。自分自身の不甲斐なさ。

 更には、卒業生。在校生。そして教職員。全ての人達への罪悪感を胸に刻んでの決定だったはずである。

 

 だがしかし、事態は彼女も予想だにしていなかった方向へと進んでいった。

 それはきっと――

 学院を心底愛し、学院の為に必死で悩み、そして胸を痛めていた彼女を見続けていた学院に宿る神からの恩賞だったのかも知れない。

 

 学院の危機に直面して、初めて芽生えた生徒達の学院への愛。

 何とか存続させようと奮起した生徒達の決意と、困難を打破する為に発案された活動。

 穂乃果の提案で始まり、彼女の周りに集まった8人の生徒達。その彼女達が行った『スクールアイドル』と言う活動。

 彼女達は学院に宿る神からの使い――『9人の音楽の女神』に選ばれし9人だったのだと思う。

 

 その後の彼女達の功績により無事に廃校の危機を乗り越えた音ノ木坂学院。

 例年通りの晴れ晴れした気持ちで羽ばたいていく生徒達を見送ることができた、絵里達の卒業式。

 ――それから数日後に行われた入学式。

 

「……新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」

 

 今と同じく入学式の祝辞を述べる為に壇上に上った南女史は目の前に広がる光景に。

 その光景を再び与えてくれた9人の女神達に。

 多大なる感謝をすると共に、新たなる希望に満ち溢れた新入生を見渡しながら言葉を紡ぐのだった。

 

 それから2年の月日が流れ、先日執り行われた卒業式――

 学院に希望と活力を与え続けた9人の女神達は、最後の3柱の巣立ちを以って全ての役目を終えた。

 しかし、彼女達はこの学院に大きな希望を残していったのである。

 彼女達が大空へと羽ばたく為に広げた大きな翼。

 それは、在籍中に育んでいった羽根の集まりなのだろう。

 想いや願い。希望と言う名の羽根――

 その羽根を飛び立つ際に学院に残る生徒達。学院に携わる全ての人達へと降り注いでいったのだった。

 

 彼女達が託した想いと言う名の羽根を握り締め、受け継いだ彼女達の妹がいる。

 そんな彼女達を支え、明日へと繋げていこうと言う願いを胸に刻んだ後輩達がいる。

 そして学院の全ての人達が新しい希望に向けて歩み出そうとしている。

 それは紛れもなく9人の女神が託していった想いを受け取り、明日へと繋いでいこうとしていることなのだろう。

 その希望に満ち溢れた目の前の光景を目にした南女史は心の中で、役目を終えた9人の女神達への変わらぬ感謝と、彼女達の意志を受け継いだ生徒達を全力で守る決意。そして巣立っていった卒業生達、今目の前に座る生徒達へ――

 いつまでも国立音ノ木坂学院を愛し、大好きだと言ってもらえる様な学院であり続ける。

 改めて、より良い学院生活を送れる様に導いていく。そう邁進する決意をしながら祝辞を述べるのであった。


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