ラブライブ! コネクション!!   作:いろとき まに

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活動日誌19 ベイビー ・ めいびー ・ コイのぼたん! 3 『まきりんぱな』

 真姫さんも一瞬だけ怪訝な表情を浮かべていた。

 だけど気を取り直して言葉を紡ぐと、手に持っているノートを開く。そして私達の詞が書いてあるページ上を見た瞬間に、驚きの声をあげるのだった。

 私は真姫さんの驚きの声に姿勢を正して、身体を強張(こわば)らせていた。隣に座る亜里沙と涼風も同じように背筋を伸ばす。

 だけど真姫さんは、すぐに何事もなかったかのように、視線だけ滑らせてノートを真剣に見つめ始めた。

 真剣に見つめている途中、時々視線が止まり、微笑みを浮かべる。小さく吹き出し笑いをする。

 そんな表情を不思議に見ていた私達――だって、そこに書いてあるのは『歌詞だけ』のはずなのに。

 

 真姫さんの視線が下の方へ行き着いて、一瞬だけ瞳を閉じる。

 私達はその仕草に固唾(かたず)を飲んで、言葉を待っていた。

 だけど真姫さんが目を開けて私達を見つめ、口を開いて言葉を紡ごうとした瞬間――

 締め切った室内では通るはずのない一陣の風が、真姫さんの手元にあるノートの1ページ目と2ページ目の間を吹き抜けて、フワッと見ていたページを(めく)ろうとしていた。

 だけど風は途中までページを捲りあげると、勢いを弱めて何事もなかったかのように、また元のページに戻っていた。

 何だったのかがわからない私達は、呆然(ぼうぜん)と真姫さんを見つめていたんだけど。

 真姫さんは何かを思うような表情で――おもむろにページを捲る。そして、捲ったページをジッと見つめていたのだった。

 だけど、そのページには何も書いていないんだけど?

 そんな疑問が頭に過ぎっていた時――私の脇腹に、軽く小突(こづ)かれる感触を覚えた。

 私は小突いた方向――隣の涼風を見つめる。涼風は唖然とした表情で真姫さんを見つめていた。

 彼女の表情の意図が掴めないでいる私の脇腹を、今度は反対側から小突かれる感触。

 反対を振り向いて亜里沙を見つめると、涼風と同じ表情を浮かべて真姫さんを見つめている。

 私は2人の表情が気になり、視線の先――真姫さんが見ているノートを凝視(ぎょうし)してハッと気がついた。

 そして、心の中を恥ずかしい気持ちが充満している感覚に(おちい)った。

 そう、私は真姫さんに見てもらうことに緊張して『見せるノート』を間違えていたのだった。

 

 花陽さんの、私がノートを差し出そうとしていた時に驚きの声をあげた理由。

 それは、花陽さんが見たノートとは違うノート(・・・・・)を差し出していたから。

 花陽さんが見た――部室に持っていったノートは、実は今日の休み時間に提出用として別のノートに書き直したモノだった。

 そして今、真姫さんが見ているノートは、私達が3人で言葉を繋いで完成した後に書き上げて練習に使っていたモノ。

 練習で使っているから所狭(ところせま)しと、練習の時に感じたことや考えたことの走り書き――まぁ、他の人から見たら落書きに思えるんだろうけど。

 そんなものが書かれている。

 たぶん真姫さんはソレを見て微笑んだり、吹き出し笑いをしていたのだろう。

 そう、だからキチンと清書して別のノートに書いたのに――緊張して練習用のノートを渡していたのだった。

 本当に緊張していたんだよ? だって、自分達の作詞を見てもらうんだもん。

 だから緊張のあまり、私達は誰もノートの違いに気づかなかったんだよね。

 だけど真姫さんが次のページを捲って真剣に読んでいることで、亜里沙と涼風は違いに気づいた――渡した本人はまったく気づいていなかったんだけどね。

 それを私に教えようと脇腹を小突いていたんだろう。

 

 そして、それが練習用のノートだと気づいた私達は『もう1つの見せられない理由』を思い出して、恥ずかしい気持ちが充満していたのだった。

 

「……ねぇ? 凛、花陽――ちょっと?」

「なに、真姫ちゃん? ……」

「どうかしたのかニャ? ……」

 

 私達が顔を赤らめながら真姫さんを見つめていると、真姫さんがノートから目を離さずに、私達の隣に座る凛さん達に声をかける。

 ――あっ、凛さんはノートを渡した時に解放されて、私の隣に逃げてきたんだよ。

 呼ばれた凛さん達は真姫さんの方へと近寄った。そんな2人にノートを見せる――2人にわかるように捲る仕草をする真姫さん。

 2人は真剣な表情でノートを捲り、2ページ分を見つめていたのだった。

 

「……どう?」

「うん、良いと思うよ?」

「とっても良いニャ!」

「そうよね? ……読ませてもらったわ」

「「「――は、はい!」」」

「それじゃあ――」

 

 ノートを見つめていた2人に、真姫さんが優しく声をかける。その言葉に満面の笑みを(こぼ)して答える2人。

 そんな2人に向かって微笑みながら言葉を紡いだ真姫さんは、私達の方を向いて読み終えたことを伝える。

 私達は緊張しながら返事を返す。そんな私達に優しい微笑みを浮かべて――

 

「この『新しい詞と、もう1つ』に曲をつけることにするわね?」

 

 そう言葉を繋いでくれた。

 真姫さんの言った『新しい詞』と言うのは、昨日のライブで歌った曲。

 それをオリジナルの歌詞に仕上げたもの。

 あっ、元々オリジナルではあったんだけどね? あくまでも『替え歌』だったって話。

 実は替え歌を書き終えて、この曲で練習していた――まぁ、別にライブで披露しようとは考えていなかったんだけど。

 最初は真姫さんに曲を作ってもらう『課題』として書いたものだった。

 だけど、書き終えた時にね? これで良いのかなって思ったんだよね。

 

 ほら? あくまでも真姫さんに曲を作ってもらったら『私達の歌』になる訳じゃん?

 確かにお姉ちゃん達の曲は好きだし、目標なんだけどさ?

 それでも、替え歌に曲を付けてもらうのは違う気がしたんだよね。

 真姫さんだって、海未さんの詞に想いを寄せて曲を作っている訳なんだから。

 歌詞だけ変えた替え歌に、新しい曲をつけてもらうのって失礼な気がしたんだよ。

 だから3人で話し合って、メロディーラインの取れない。

 オリジナルの詞を作り直していたのだった。

 そう、昨日のライブは本当に偶然だから。お客さんの誰もいない最初のライブ――お姉ちゃん達の曲を披露して終わるライブの予定だったから。

 私達は別に、あの歌をみんなの前で。ライブで披露するつもりはなかった。

 あの曲で練習していたのは、お姉ちゃん達だけに見せるだけの為なんだもん。

 お姉ちゃん達のアノ曲への『アンサーソング』であること。

 私達の素直な今の気持ちと少しは成長できているところを見せる為。

 替え歌の方がわかりやすいと思ったから。

 お姉ちゃん達だけの前で、披露しようと思っていたから練習していたんだもん。

 それが、ねぇ? あんな結末になっただけなんだよ。

 

 つまり、昨日の時点で披露を済ませた『替え歌の歌詞』は役目を終えたってこと。

 そして、真姫さんに提出したノートの詞は、私達の本当の意味でのスタートダッシュ。

 完全なオリジナルで綴る『私達だけが歌う』詞になっているのだった。

 

♪♪♪♪♪

 

STOMP:DASH!!

 

作詞:Dream Tree (高坂雪穂・絢瀬亜里沙・高町涼風)

 

 

大きい翼を広げて

遠い空へと羽ばたく

希望の鳥に光が差すよ

 

信じていなきゃダメだね

いつか隣を飛ぶから

今でも感じているんだから (ときめきの鼓動)

 

未来! 繋がれ! 想いの全てを繋げ!!!

希望! 明るい

優しい 光を抱きしめながら 

繋がってる ほら 先を目指し駆け出そう

 

苦しい気持ちに閉ざされて

立ち止まってる僕じゃない

強い夢 いつでも描いていく筈だよ

苦しい気持ちに閉ざされて

立ち止まってる暇はない

ずっと (ずっと) 僕の (今の)

オモイ (さきを) 夢見るチカラ

気づいてるよ…そうさ STOMP!! STOMP!! 未来へ

 

 

虹を見つけたときにね

似ているような気分で

辛さ不安もときめきにしよう 

 

信じていればできるよ

いつか絶対叶うさ

光を信じて進めばね (みんなで進もう) 

 

未来! 笑うよ!! かならず未来は笑顔!!!

希望! 包んでる僕たちをずっと

想い! 掴んだよ!! 届ける想いをすべて!!!

いつか 幸せな

眩しい 光に包まれみんなで 

輝いてる ほら きみの笑顔のもとへ

 

輝く時間を抱きしめて

僕は手を差し伸べる

暗い道 ぼくならきっと連れ出せる筈だよ

輝く時間を抱きしめて

僕は手を 掴むだろう

いつも (いつも) 見てた (君の)

笑顔 (そして) 届ける笑顔

あの場所へ…だから DASH!! DASH!! 一緒に

 

 

いまここに 希望芽生え…   

 

 

苦しい気持ちに閉ざされて

立ち止まってる僕じゃない

強い夢 いつでも描いていく筈だよ

 

輝く時間を抱きしめて

僕は手を差し伸べる

暗い道 ぼくならきっと連れ出せる筈だよ

輝く時間を抱きしめて

僕は手を 掴むだろう

いつも (いつも) 見てた (君の)

笑顔 (そして) 届ける笑顔

あの場所へ…だから DASH!! DASH!! 一緒に

 

♪♪♪♪♪

 

 とは言ってもねぇ?

 新しく作り直すのは時間的にも、気持ち的にも得策(とくさく)じゃないと思っていたから。

 あくまでも、詞の言葉を修正したリメイクって感じなんだけどね?

 でもやっぱり、詞に込めたアンサーな部分は私達の想いなんだもん。

 そこは残しておきたかったんだよ。なんてね。

 

 そして真姫さんの言った、次のページに書かれていた、もう1つの私達の詞。

 作詞が楽しく思えていた私達はオリジナル――この歌詞を書き終えた時に、新しい詞を作ろうと言う結論に至っていた。

 そこで私達は、自分達のユニット名――真姫さん達に託された想いの名前。

 夢の木が歌詞に出てくるアノ曲のアンサーソングとして、自分達のオリジナルの歌詞を書いてみたのだった。

 だから――夢の木。

 

♪♪♪♪♪

 

夢の木

 

作詞:Dream Tree (高坂雪穂・絢瀬亜里沙・高町涼風)

 

 

ありがとうぜったい 伝えたい 

だから 想いを届けたい

ありがとうぜったい 始まったばかりさ 育つよ ほらこの場所から

 

 

育ってよ そうさ みんなの為に見つめたら

増える笑顔きっと 誰かを照らす 

予感から

かがやきに繋がる道が ここにあるよな晴れた青空(そら)

時々夢を見るけれど 今がなくちゃたいへん 

焦っちゃ だめだよ みんなの思い出 新しい瞬間(とき)へ繋げ

 

さぁ!

頑張ろうぜったい 輝いた

未来 希望だけ胸に秘め

頑張ろうぜったい 微笑んでいてね いつも そうあの夢の木へ

 

 

続いてよ どうか 辛くても見守っていてよ   

続いたら光る 音色が草木

照らすから

悩んでる見えない道の その先にある知らない明日

突然僕らの目のまえを 包む白い霧に

怯えちゃ だめだよ みんなの思い出 この胸に刻み込んで

 

ありがとうぜったい 伝えたい

だから 想いを届けたい

ありがとうぜったい 始まったばかりさ 育つよ ほらこの場所から

 

 

時々夢を見るんだ 歌で愛が実る

一緒にいるんだ 夢の木の実よなれ永遠(とわ)

 

 

さぁ!

頑張ろうぜったい 輝いた

未来 希望だけ胸に秘め

頑張ろうぜったい 微笑んでいてね いつも そうあの夢の木へ

 

♪♪♪♪♪

 

 これも原曲の詞を大事に、私達の想いを寄り添う形にしたかったから、原曲をイメージした形になっている。

 タイトルと歌詞の雰囲気で3人とも理解してくれたのかも。

 詞を読んでいる時に、3人とも微笑みを浮かべながら真剣に読んでいたから。

 

 とは言え、真姫さんは私達が2曲も作っていたなんて考えていなかったと思う。

 そもそもライブで歌った歌詞とは違う、真姫さんの知らない歌詞。

 まぁ、リメイクではあるんだけど。

 ライブで歌った詞に曲をつけるとしか言っていないんだしね?

 まぁ、私達も言っていないんだから知る訳がないんだけど。

 だから真姫さんの負担になるだろうからって、3人で話し合って、別のノートにSTOMP:DASH!!(最初の曲)だけ書いて提出する予定だったのに!

 ――まぁ、知らせずに歌詞を書き直したから、怒られちゃうかなって思って、身体を強張らせていたんだけどね?

 私がウッカリしていたから、結局真姫さんの負担が増えてしまったのだった。

 あっ、清書(せいしょ)したのは落書きだらけだから見せられないって言うのも、元々思っていた本当の理由の1つだからね?

 だけど全然怒る素振りを見せずに、2つとも曲をつけてくれると真姫さんは言ってくれていた。

 凛さんと花陽さんも、私達の詞を良いって言ってくれていた。

 それが私達には凄く嬉しかった。そして、渡せたことと認めてもらえたことに安堵を覚えていた。

 私達は昨日のライブが終わった時のような安心感に包まれながら、しばらく真姫さん達の会話を眺めていたのだった。 

 

♪♪♪

 

「……そう言えばさ? 夢の木で思い出したんだけど……」

「何?」

 

 私達の詞を眺めながら、唐突に花陽さんが真姫さんに声をかける。

 その言葉に真姫さんが聞き返すと――

 

「アノ曲って、真姫ちゃんの作詞作曲なんだよね?」

「……そうだけど、何よ?」

 

 私達の夢の木の詞を見ていて思い出したように、真姫さんに話かける花陽さん。

 そうなんだよね。あの曲は、お姉ちゃん達がスクールアイドルになる前に出来上がっていた曲。その曲に惹かれて、お姉ちゃんは真姫さんに作曲をお願いしていたんだから。

 その言葉を怪訝そうに聞き返していた真姫さんに向かって――

 

「あの頃の真姫ちゃんって、誰とも仲良くなろうなんて、思っていないんだと思っていたけど――本当はみんなと仲良くしたかったんだね?」

「――ヴェッ! な、何言い出してんのよ!?」

「そう言われてみれば、そうニャ! 真姫ちゃんは素直じゃないニャ!」

「り、凛まで何言ってんのよ!」

 

 花陽さんは、優しい微笑みを浮かべて言葉を繋いでいた。花陽さんの言葉に驚いて、顔を真っ赤にしながら言い返す真姫さん。

 そんな2人のやり取りに、さっきの仕返しとばかりに、凛さんも花陽さんの援護射撃に加わっていた。

 私達はそんな3人の仲睦まじい姿を眺めながら、暖かい空間に包まれていたのだった。




Comments 真姫

とりあえず、来てくれたことには感謝するわ。
色々と言及しておきたい部分はあるのだけれど……凛と花陽をお説教しておくから、その点は良いわ。

でも、まさかあの短期間で2曲も完成していたなんてね?
……3曲と言う方が良いのかしら? 
まぁ、どっちでも良いわね? とにかく、お疲れ様。
最初のページを見た時、歌詞が違うことに気づいて驚いたけど――
そうね? 雪穂達の曲である以上、貴方達用に新しい曲として作っていきたいから――そうしてもらえると助かるわね?  

でも、3人で分担しているとは言え、海未よりも早いんじゃない?
なんて言っていたら私が海未に睨まれた蛙になるのかしら。
と、とにかく!
預かったからには良い曲をつけるから、楽しみにしていてちょうだい。
ラブライブ! も控えていることだから早めに仕上げるわね?

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