ラブライブ! コネクション!!   作:いろとき まに

52 / 62
Track 4 ともに目指す場所
活動日誌17 はろー ・ ほしをかぞえて! 1 『まきりんぱな』


「……まぁ、大会の話は追々(おいおい)するとして? そろそろ反省会を始めないと時間なくなっちゃうね?」

 

 意気込(いきご)んで見つめ合っていた私達の耳に、花陽さんの優しい声が聞こえてきた。

 その言葉を聞いて我に返った私は、少し恥ずかしくなって顔の火照(ほて)りを覚えていた。

 目の前の亜里沙と涼風も、少し顔を赤らめている。

 ほら? 今日は昨日のライブの反省会(・・・・・・・)の為に集まったんだしさ?

 私達3人だけ(・・)で集まっている訳じゃないんだもん。

 それに、今から意気込んだって仕方のないことなんだ。

 だって、大会が開催されるって聞いただけなんだからね。

 

 周りを見ると、お姉ちゃん達は既に椅子に座っていた。そう、立っていたのは私達だけ。

 まぁ、実際にお姉ちゃん達は大会の経験者だし、優勝者。

 私達と違って大会そのものに興奮はしていないんだろう。 

 だからなのかも? 私達を見るお姉ちゃん達の表情が、何処か懐かしい光景を見ているような、そんな(おだ)やかなものに感じられた。

 大会そのものに意気込んで、あの大きなステージに立てることを夢見て――

 ただ純粋に出場を目指して頑張ろうと決意をしていた、あの頃の自分達のことのように。

 

 とは言え、別に私は、お姉ちゃん達のラブライブ! に対する熱が冷めたと思っている訳じゃない。

 そして、お姉ちゃん達(自分達)が絶対に出場できると言う、そんな自信からくる態度だとも思っていない。

 お姉ちゃん達は経験者。そして前回の優勝者。

 去年1年間で受け取ってきた、お姉ちゃん達を応援する、周りの全ての人達の想い。

 絵里さん、希さん、にこ先輩から託された想い――ううん。違うのかな?

 お姉ちゃん達は音ノ木坂学院のスクールアイドルなのだから、この学院の卒業生全員から託された想いなのかも知れない。

 そして、ツバサさん達のように、スクールアイドルを卒業していった人達からの託された想い。

 そう言うものを全部受け取って、胸に刻み込んでいるんだ。次へ繋げようと思っているんだ。

 だから、お姉ちゃん達には『やるべきこと』があるんだと思う。

 

 受け取った想いに、自分達の精一杯で(こた)える為。きちんと先を見据(みす)えているから。

 それに向かって頑張るだけだから、こうして落ち着いていられるんだと思えた。そして――

 どんな時でも自分達は自分達。自分らしくいることが何よりも大事だって知っているからなんだろう。

 

♪♪♪

 

 お姉ちゃん達は去年の絵里さん達の卒業――正確にはラブライブ! 第2回大会の終了を()って μ's を終わりにするつもりでいた。

 あっ、ローカルアイドルの話をする訳じゃないよ?

 

 μ's は9人だけのものにしたいと言う、メンバーの総意。そんな想いからくる結論だったよね?

 それが卒業式当日。突然舞い降りた海外からのオファーで話が急展開した。

 そんな突発的な出来事に、全員で思い悩んで出した結論を簡単に(くつがえ)したお姉ちゃん達。

 周りからすれば唐突(とうとつ)すぎて、意味がわからないのかも知れない。

 だけど違ったんだよね? 別にお姉ちゃん達は、自分達の結論を覆した訳じゃないんだ。

 だって、そもそもラブライブ! の大会自体、お姉ちゃん達は優勝を目指していなかったんだから。

 

 いや、目指していなかったって言うと嘘なのかも知れないんだけど。

 お姉ちゃん達が優勝を目指したのは『絵里さん達との思い出を最高の形で残したい』って言う想いからきたものなんだ。

 ラブライブ! の大会において『最高の形』が『優勝』だった。それだけなんだと思う。

 そして、大会が終わったらおしまいにする――

 第2回大会は卒業式直前の開催。大会が終わってから、卒業式までには残された時間なんて全然なかった。

 残りの短期間で、これ以上に形に残せる節目(ふしめ)なんてないと思う。

 そう、あの時点では大会の後に思い出として形に残せる機会なんてなかったからね。

 だから大会終了を自分達の到達点(ゴール)に決めたんだろう。

 つまり、お姉ちゃん達にとって最初から大会は『思い出作り』に過ぎなかったってこと。

 

 それが、卒業式が終わり、全てを終えて全員で校門まで歩いてきた――本当の意味で終わりを迎えた帰りがけ。

 花陽さんの一言から始まった、目の前へと舞い降りた海外PRのオファー。

 それはきっと――風に舞い散る桜の花びらのように。なんてね。

 

 言ってみれば、もう1度思い出作りができる――

 音ノ木坂学院アイドル研究部としての『卒業旅行』のような感覚だったんだろう。

 そして、もう1度ステージに立てる。ライブができる。素敵な思い出になる。

 更に、スクールアイドルにとっての明日に繋がる。そんな可能性を秘めている。

 だから、お姉ちゃん達はオファーを受けたんだと思った。

 別に結論を覆した訳じゃない。ただ――

 最後の曲を歌い切って舞台袖に戻った時に、海外(客席)からのオファー(アンコール)が聞こえた。

 その声に応えて、お姉ちゃん達はステージに戻ってきた。それだけなんだと思う。

 

 まぁ、そもそもの話?

 あの時点でお姉ちゃん達が終わりにするのを知っていたのは、お姉ちゃん達の周りの、本当に一部の人だけだったはず。確か、公表はしていなかったと記憶している。

 だから、ファンの人達は――

 絵里さん達の卒業は知っているだろうけど、別に μ's が解散するなんて思わなかったんじゃないかな? 話を聞く前の亜里沙みたいに。

 もちろん、お姉ちゃん達は考えていたと思うよ? 卒業式の後日、ラストライブをすることは。

 きっと、おしまいにすると決意した時には考えていなかったんだろうけどね。

 

 大会が終われば、周りの人へ「解散する」と言っても、納得してくれるだろうって思っていたのかな?

 絵里さん達が卒業するんだから解散するのは、誰もが理解できるって思っていたのかな?

 だけど亜里沙の件で『周りの人へのけじめ』を意識したのかも知れない。

 自分達だけの決断では誰かを苦しめる、悲しませる恐れがあるって気づいたのだから。

 そこで大会が終了してから正式に、ラストライブを開催して発表するつもりだったんだろう。

 

 でも、お姉ちゃん達にとって――

 ラストライブも大事だけど、絵里さん達の卒業式も大事なこと。

 そんな大事な式を目前にして、(あわただ)しくするのは全員にとって良い思い出になるとは考えられない。

 だから、卒業式を終えて気持ちが一段落してからラストライブをするつもりだったのだろう。

 その為に用意していた曲と衣装。それが海外PRで歌われた曲なんだと思う。

 だって、あんな短期間で完成しているとかあり得ないでしょ!

 そんな、発表しようと思っていたラストライブがPRのライブに変わった。

 その後の展開的にも、ねぇ? おしまいにするって、中々言い出しづらかったんだろうし。

 そのまま話が進んでいってしまっていただけなんだと思う。

 だけど、続けてほしいって話が浮上してきていて、自分達も今後について、もう1度考えなおしていた。

 それでも、やっぱり気持ちは変わらない――

 でも、自分達の為に集まってくれたスクールアイドル達に、後ろめたい気持ちがあったのかな?

 だから、合同ライブの前日に『おしまいにする』って宣言したんだと思う。

 つまり、何も知らされていないファンは、結論を覆したとも思っていなかったんだよね?

 もちろん知っている私達だって、最初から覆したなんて思っていないんだから、お姉ちゃん達は何も間違ってはいなかったと言う話なのだった。

 

 そんな想いでオファーを受けて降り立った、初めての知らない土地。

 目に映る全てが――人も景色も建物も。それこそ空の景色でさえも、自分達の知らない世界に思えていたのだろう。

 ――と言う話を亜里沙としていたら、亜里沙と絵里さんはロシア生まれ。

 お祖母様の故郷とは言え、初めて日本に降り立った時には同じように感じていたらしいよ。

 それにしては、亜里沙は未だにハラショー(そんな感覚)のままのような気がするんだけど?

 まぁ、亜里沙らしいし、私は好きなんだけどね。

 それに、希さんと真姫さんは海外に行ったことがありそうだから。それ以外の人達ってことで!

 

♪♪♪

 

 初めての知らない土地。目に映る景色は、どれも本やインターネットで見ていたものばかり。

 それが目の前に広がることで実感や喜びを感じると同時に、ホームシック(孤独感)を覚え始める。

 日本語が通用しない。聞こえてくる言葉が理解できない。見えるもの全てが馴染みのないものばかり。

 もちろん楽しいって感覚はあったと思う。新鮮に感じられていたとも思う。

 だけど全員がいるから感じられていることも、1人の時間になると、ね?

 どうしても寂しさとか? 不安とかが芽生えるんだろう。

 まぁ、お姉ちゃんが招いた海未さん達の件が、全員に『知らない場所』って言う認識を植えつけたのかも知れないんだけど? なんてね。

 

 そんな空気感を誰もが抱いていたのかも知れないけれど、メンバーの中で1番感じていたのは花陽さんだったみたい。性格的にも嗜好(しこう)的にも。

 そして、1番気にしないでいられたのは凛さん――別に悪い意味じゃないですからね?

 本当ですよ? 凛さん。物怖(ものお)じしないって意味ですからね?

 そんな風に感じていた花陽さんは、人知れず、親友である凛さんにだけ胸の内を伝えたんだって。

 ホテルで自分達の部屋に戻って、2人になって窓から見える『自分達の知らない遠い場所』の夜景を眺めながら。

 

 その時、凛さんは言葉ではなく(ぬく)もりを与えた。それが1番安心するからって。

 ――実際には、安心させられる言葉が見つからないからって理由みたい。

 まぁ、不安な気持ちが(やわ)らいだ訳じゃなくて、物怖じしないから普通でいられた凛さん。

 その理由を説明できなかったんだろう。なんてね。

 

 それでも何とか花陽さんの気持ちを軽くしてあげよう――凜さんはそんな風に考えていたのかも知れない。とは言え、花陽さんだけの為でもないんだろうけどね?

 

 街の人達が、自分の知っている人達と同じように優しい。街の雰囲気も優しい。

 そして上手く説明はできないけれど、自分らしくいられる気がする。

 街を(いろど)る空気に触れ、お姉ちゃん達は徐々(じょじょ)に気持ちが軽くなっていった。

 それでも、何となく伝わるメンバーの不安みたいな感情。

 それを取り(のぞ)ける決定的な一言を、凛さんは探していたみたい。

 

 そんな時に、全員でビルの屋上から見下ろした街の夜景を眺めながら、凛さんは探していた答えを見つけたんだって。それが――

『この街はアキバに似ている』と言うこと。

 凛さんの言葉を聞いてお姉ちゃん達は、心に引っかかっていた今の気持ちに名前を付けられたのだろう。

 この街の優しい雰囲気や空気。段々と居心地の良さを実感していったお姉ちゃん達。

 だけど、その気持ちの変化を曖昧に受け止めていた。それが凛さんの一言で納得したらしい。

 とは言え、漠然と『街がアキバに似ているから』ってだけで納得したんじゃないんだと思う。

 

 日本語が通用しない。聞こえてくる言葉が理解できない。見えるもの全てが馴染みのないものばかり。

 降り立った時から心に芽生えていた、知らない土地への不安。

 つまり、自分が『ここにいても良い』と言う安心感が得られなかった。

 わかり(やす)く言えば、アウェー感って言うのかな?

 まぁ、わかり易いのか判断できないんだけど。なんてね。

 

 そんな感情が無意識に積み重なって、自分らしく自然に振舞(ふるま)えなかったんだろう。

 そんな自分達にも、街の人達や包み込んでくれた街の雰囲気は優しくて暖かかった。

 それはまるで――自分達が慣れ親しんだアキバのように。

 

『目まぐるしく移り行く時間の中にある、そんな新しい自分や時間でさえも受け入れてくれる不思議な空間』

 あの曲で伝えたかったアキバのイメージ。そんなイメージをこの街にも感じていた。

 それで気づいたんだろう。結局自分らしくいれば良いのだと。

「ラブライブ! ドーム大会実現の為に、何としてでもPRを成功させよう」

 もしかしたら、無意識にそんなことを思って肩肘(かたひじ)を張っていたのかも?

 まぁ、表面上では自分らしく振舞っているつもりなんだろうけど。

 

 その話を聞いていた私は、ふいに『ハロウィンイベント』の時の話を思い出していたのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。