そんなお姉ちゃん達の背中を見つめていた私の耳に、緞帳が閉じる音が聞こえてきた。
えっ? 何で?? だって私達、これから前座をやるんだよ???
私はお姉ちゃん達のライブが始まる訳じゃないのに、緞帳が閉じることに戸惑いを覚えていた。
いや、良くは知らないんだけど。前座って、別に緞帳を閉じる必要はないと思うし?
それに、1番最後に歩いていた真姫さんが――
「お客さんが全員入ったら、ちゃんと合図があるから」
そんなことを言っていたんだけど、前座って別に全員が入らなくても問題ないんじゃないの?
まぁ、あまり早くにスタートしたらお姉ちゃん達に準備が間に合わないからかな?
とにかく今の現状を把握できていない私達の視界の先を、緞帳が再び完全に覆っていた。そして――
「まもなく μ'LL と Dream Tree の
ヒデコ先輩の声でライブ開始を知らせるアナウンスが聞こえてきたのだった。
そこで私は全てを把握した。隣にいる亜里沙と涼風も把握したのだろう。
3人で顔を見合わせて苦笑いを浮かべるのだった。
お姉ちゃん達は、初めから私達に『前座』をやってもらおうとは考えていなかったんだね。
前座はあくまでも私達をステージへ立たせる為の口実。
そう、最初から『合同ライブ』をやるのが目的だったのだろう。その証拠に――
まだライブが始められないと言っていたお姉ちゃん達は、既に衣装に着替え終えてステージ袖にいる。
しかも手にはしっかりとサイリウムを持って!
とは言え、ことサイリウムに関してはお姉ちゃん達よりも周りの人の方が詳しいようで、近くに来ていたカオリに使い方を聞いて、驚いたり楽しんだりしていた。
と言うか、お姉ちゃん。いくらお父さんもお母さんもしているからってバルログ持ちは周りに迷惑だからやめてよ? なんてね。
♪♪♪
「……ねぇ、亜里沙……涼風……」
「ん?」
「何?」
私はステージ袖のお姉ちゃん達を眺めながら、心が暖かくなり、嬉しくもなり、幸せな気分になっていた。
でも、それだけじゃダメなんだ。だって私達はスクールアイドルなんだから。
今度はみんなへ返す番なんだ。今の私達ができる精一杯の想いを込めて。
私はお姉ちゃん達を眺めながら、亜里沙と涼風に声をかける。私の言葉に返事をする2人。
私は2人に、とある提案を持ちかけるのだった。
「せっかく、もう1度ライブができるんだしさ……こんなビックリするような機会を与えてくれたお姉ちゃん達にも、ビックリしてもらいたくない?」
「うん! そうだよね?」
「
「じゃあ、アレ……やるからね? ……1!」
「2!」
「3!」
2人は私の意図を理解したみたいで笑顔で賛同してくれた。
私は
だけど、今度は吹き出し笑いはしない。だって既に心は暖かいし、嬉しいし、元々軽いんだからね。
それに今の私達は、この先に『お姉ちゃん達のビックリする表情』が見られるのかな?
そんなことを考えてワクワクしていたから、最初から笑顔でいたんだしね。
そんな感じで、私達は何も変わらない緞帳を眺めていた。ステージ袖にいるお姉ちゃん達に見守られながら。
しばらくして講堂内に開演のブザーが鳴り響く。私達は瞳を閉じて緞帳が開くのを待つのだった。
♪♪♪
これが私達の贈るウェルカムソングなんだ。
そう、ひとつになるんだ。みんなとこころを。
だから、ここ。このライブが私達の終わらないステージになるんだ!
不思議な景色、たくさん見たいよね?
みんなと一緒に感じたいよね?
そんな私達の願いにお姉ちゃん達が奇跡とチャンスを与えてくれたんだ。
そう、愛に包まれたこの瞬間を!
亜里沙と涼風と言う素敵な出会いをくれてありがとう。
絶対にスクールアイドルになるって言う信じるチカラをくれてありがとう。
自分達の勇気で明日は。明るいミライへ変わるんだね。
なんで今まで、私は素直になれずにいたのかな?
素直にお姉ちゃん達にも聞いて欲しいのに。
でも今は違う!
お姉ちゃん達も私達の音楽を聞いてよ!
これからはみんなで。そう、これから全力で踊ろう。
さぁ、始めるよ!
だって私達のパーティーは終わらない。
だってみんなとのパーティーは終わらない。
私達のパーティーは始まったばかりなんだから。
まだまだみんなで、この瞬間を楽しむよ。思い切りみんなに向かって歌うから!
だって私達のパーティーは終わらない。
だってみんなとのパーティーは終わらない。
みんなが楽しめることが何よりも奇跡なんだ。
みんなの与えてくれる笑顔が私達を無敵にするんだ。
そう、今はそんな気分なんだよ!
♪♪♪
再び私の耳に、緞帳が開き始める音が聞こえる。そして私達の前から遠ざかったと感じて、ゆっくりと瞳を開いて前を見据える。そんな私達の目の前を――
講堂を埋めつくすほどの、色とりどりのサイリウムの光と、割れんばかりの歓声が包み込んでくれていたのだった。
「いつか私達――必ずココを満員にしてみせます!」
もう実現しちゃったね? なんて言わないよ?
だって、これはお姉ちゃん達が与えてくれた奇跡。そして、お姉ちゃん達が頑張ってきた証しなんだから。
でも、この光景は忘れない。いつか自分達の力で実現するんだから!
そんな想いを込めて、私達は一礼する。そんな私達に大きな拍手が鳴り響く。
顔を上げた私達は、講堂を埋め尽くす生徒達に見守られながら――
ステージの中央で最初の立ち位置に立つとイントロが流れるのを待つのだった。
ステージ上の照明が落ち、ピンスポットの光が私達に降り注ぐ。
刹那、ピアノのイントロが講堂全体に響き渡る。
お姉ちゃん達のファーストライブ。お姉ちゃん達のスタートダッシュ。
今私達が身に纏う、この衣装を着て歌って踊ったアノ曲。
私達のファーストライブで歌った、このステージに立たせてくれた奇跡の曲。
私達にスポットライトの眩まぶしさと暖かさと心地よさ。そして――
私達にスクールアイドルへの想いを深く刻み込んだ奇跡の1曲。
そんなお姉ちゃん達の曲のメロディに包まれながら――
私達の『私達だけの』ライブが始まるのだった。
「アイ セーイ……ヘイ ヘイ ヘイ――」
「!?」
イントロが流れ始めて、私達が歌い出した瞬間。お姉ちゃん達を始めとする全員が驚きの表情を浮かべる。
だけど聞き間違いなのだろうと、全員が普通の表情に戻る。
私は心の中が嬉しい気持ちになっていたんだけど、表情には出さずに曲に集中していた。
一瞬だけ驚いたけど、普通の表情に戻っていた全員も、歌い出しの亜里沙の歌を聴いて再び驚きの表情へと変化させていた。
そう、これが『お姉ちゃん達へのビックリのお返し』であり『みんなへの精一杯のお返し』なんだよ。
そして、これが私達の『私達だけの』ライブなんだ!
私達はお姉ちゃん達の曲のメロディに包まれながら――
私達だけで紡いだ『私達の歌詞』に、精一杯の想いを込めて私達の『STOMP:DASH!!』を全員に送るのだった――。
♪♪♪
以前、真姫さんから私達へ出されていた
私達3人で言葉を繋いで1つの曲を作ること。
この曲は、私達が3人で言葉を紡いだ曲だった。
うん。私達にとってもね? この曲は大切な
だから、この曲のメロディに言葉を繋げたかったんだよね。
お姉ちゃん達が伝えてくれた言葉を受けて、お姉ちゃん達を見続けてきた私達の――
この曲への、お姉ちゃん達への
曲が終わると、講堂内を
あ、あれ? なんで??
だって、さっきは絵里さん達とツバサさん達とミキ達しかいなかったけど拍手が聞こえてきたのに。
私は静寂の意味に
もしかしたら、怒っているのかも?
だって、目の前の生徒達は、全員がお姉ちゃん達のファンなんだから。
いくら妹だからって、いくらアイドル研究部の後輩だからって。
お姉ちゃん達の曲の『替え歌』を披露されたら良い気分はしないのかも?
そんな風に考えた私は、自分の
とは言え、時間は巻戻らないんだ。なかったことにはできないんだ。
だから、今私達にできること。
とは言っても、早々にステージを下りることしかできないんだけど。
私達は一礼をすると、足早にステージを下りようとしていた。その時――
「良かったよー」
「これからも頑張ってねー」
「応援しているよー」
そんな客席からの声と、溢れんばかりの拍手が講堂中に鳴り響く。
ステージ袖を見ると、お姉ちゃん達も満面の笑みを浮かべて拍手を送ってくれている。
私達は客席の方へと向き直り、もう1度深々と頭を下げる。
そしてステージ袖へと向き直り、お姉ちゃん達に向かって深々と頭を下げるとステージを下りるのだった。
こうして私達の――Dream Tree のファーストライブは、優しくて暖かな空気に包まれながら幕を閉じた。
今は、お姉ちゃん達のライブ中。私達はステージ袖でお姉ちゃん達を見つめている。
わかっていたことだけど、やっぱりお姉ちゃん達は凄い。改めて私達との差を感じながら見つめていたのだった。
色々なことを学んで、色々なことを経験して、色々なことを考えさせられたファーストライブ。
それでも、全て私達が進んでいく為の
そして、本当の意味での私達のミュージックが始まったんだ。
いつか私達だけで、この講堂を満員にしてみせる!
そして、いつか絶対にお姉ちゃん達と一緒にライブをしてみせる!
そう、絶対に隣を飛ぶんだ!!
私達はそのことを心に深く刻み込みながら、真剣な表情でお姉ちゃん達のライブを見つめていたのだった。
♪♪♪
そんな感じで幕を閉じたアイドル研究部のお披露目ライブ。
当然ながら、お姉ちゃん達のライブは、アンコール付きの大興奮なライブだった。
ライブが終了すると、
全ての生徒が帰って、誰もいなくなった講堂を確認してから、私達も下校することにしたのだった。
みんなと別れたあと、私とお姉ちゃんは一緒に帰宅する。
まぁ、姉妹なんだから当たり前なんだけどね?
それでも最近は別々に帰ることが多い私達。
普段から姉妹で良く会話をする方だとは思うんだけど、今日は普段より話をしながら帰り道を歩いていた気がする。
ライブの興奮が冷めていないのかな?
だけど、不思議とお姉ちゃんとの距離が近くなった気がする。錯覚なのかも知れないんだけど?
私がお姉ちゃんと同じステージに立てたからかな? そうだと良いな?
そんな風に思った私は、少し前を歩いていたお姉ちゃんの背中に――
「ありがとう、お姉ちゃん……大好きだよ」
そう呟いていた。もちろん呟き程度の声だし、背中向けているし、
だけど、今は言葉にできただけで良いんだ。だって背中を追いかけている今の私には、これで十分なんだから。
それでも必ず、いつかは隣を歩いて、ちゃんとお姉ちゃんに聞こえるように言いたいな?
私は、お姉ちゃんの小さいけど大きな背中を見つめて、そんなことを思っていた。
そんな家までの帰り道。少し遠い距離のお姉ちゃんに近づくように、一生懸命追いかけながら歩いていたのだった。
♪♪♪
翌日の昼休み。私達は部室を目指して歩いていた。
今日はライブの翌日と言うことで、朝練も放課後の練習もお休みだった。
でも、その代わりにお昼休みに昨日の反省会をしておこうと、部室に集合するように花陽さんに言われていた。
だから私と亜里沙と涼風は
「「「お疲れ様です!」」」
「――た」
「「「……?」」」
私達が挨拶をして中に入ると、PCに向かい背中を向けている花陽さんが目に入った。
花陽さんは私達が入ってきたことにも気づかずに、
私達が疑問に思いながら見つめていると――
「た、た、た、た――」
花陽さんは、未だにPCに釘付けになりながら、徐々に声が大きくなっていき――
「たいへんですぅーーーーーー!!」
突然、大音量で叫んだのだった。
そして、叫んだかと思うと凄まじいほどの勢いでキーボードを叩きながら、画面を食い入るように見つめて何やら独り言を呟いていた。
そんな
そう、お姉ちゃんは――
「花陽ちゃんが『大変ですぅー!』って叫びながら豹変する時は、必ず楽しいことが始まる
そう言っていた。
楽しいこと。それは私達にも降り注いでくれるのかな? そうだと嬉しいな?
そんな期待感と
国立音ノ木坂学院アイドル研究部へと降り注ぐ新しい『楽しいミライ』を知る為に、花陽さんの方へと近づくのだった。
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Comments 穂乃果
ライブお疲れ様!
あんなこと言っちゃって怒んないかな? って心配だったけど、私の言いたいことを理解してくれて嬉しかったよ。
ライブも凄かった。ビックリしちゃった。
本当に雪穂達の曲! って思えるくらいにね?
帰り道の言葉。今は見なかった……ううん。聞かなかったことにしておくね?
だけど、いつか必ずに私の隣で聞かせてね?
ファイトだよ! ……うん。ファイトだよ!
……ところで、花陽ちゃんの驚きは何だったんだろう?
凄く気になるね? でも楽しみだよね?
新しく訪れた楽しいミライ。一緒に楽しんでいこうね!