ラブライブ! コネクション!!   作:いろとき まに

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活動日誌9 わんだー・ぞーん! 3

「……ふーっ……うん! ……ありがとう。あのね? ――」

 

 色紙を乗せ終えたことりさんは、椅子から下りて一呼吸をすると、色紙を見上げて満面の笑みを浮かべて納得の声を上げていた。

 そして私達に振り返り、改めて礼を告げると――涼風を見つめて、ミナリンスキーさんとしての話を全て打ち明けたのだった。

 自分がメイドカフェでミナリンスキーとしてアルバイトをしていること。

 さすがに自分で伝説とまでは言わなかったけどね?

 飾ってある色紙はお店で書いたサインだったのだけど、にこ先輩の手に渡った色紙だったのだと。更に歓迎会で話された内容を全て、優しい微笑みを添えて語ったのだった。

 そして――

 

「……私はメイドの仕事が大好きなの……誰かの為に何かをするのが好き……誰かの笑顔が好き……だから、私は今でもアルバイトを続けているし、メイドの仕事に誇りを持っているの。そして、色紙(アレ)の持ち主だった……にこちゃんがアイドル研究部に託してくれた。みんなが飾っていることを望んでくれた。だから、飾っていたいと思うんだけど……良いかな?」

 

 そんなことを涼風に語りかけていた。

 確かにお姉ちゃん達 μ's のメンバーと私と亜里沙は飾っていることを賛同(さんどう)した。

 だけど涼風だって立派なアイドル研究部員なんだよね。だから彼女にも賛同を得ようとしたんだろう。

 ことりさんの話を真剣な表情で聞いていた涼風は笑みの表情に変えると――

 

「私も目標(・・)として飾っていてほしいです!」

「ありがとう……今度、お店の方へ遊びにおいでね?」

「ありがとうございます! 是非、お邪魔します!」

 

 そう言い切るのだった。

 

 ことりさんは賛同に対して礼を告げると、微笑みを浮かべてお店の方へ遊びに来るように伝えていた。それを聞いてパッと花が咲いたような笑顔を浮かべて、涼風が礼を告げていたのだった。

 私はそんな2人のやり取りを微笑ましく眺めていたんだけど、ふいに視線を棚の上の色紙に移した。

 いや、気になるじゃん? 見開きの2枚入るフレームの片方しか入れないのが!

 特に色紙を入れている時には、他に何も入れている気配(けはい)がしなかったし?

 そんな風に思ったからフレームを眺めたんだけど、片方には今入れていたサイン色紙が入っている。

 そして、もう片方には――何かの文字が(つづ)られていたのだった。

 つまり鞄から取り出した時には、もう中に入っていたのだろう。

 私は目を()らして何が書いてあるのかを確かめる。

 文字、文章、歌詞。

 段々と私の思考が文字を読み取り始めて、書いてある文字がアノ曲の歌詞だと気づいた。

 そう、ことりさんが作詞をして路上ライブで歌ったアノ曲。

 その歌詞をことりさんの綺麗で可愛らしい文字で書いてあったのだった。

 

 これは私の推測なんだけど――

 ことりさんは歓迎会の時に皆から飾っていることを望まれた時点で、自分も色紙を飾ることに賛同していたんだろう。

 その上で、キチンとフレームに入れることを考えていたんじゃないかな?

 額なし(はだか)の状態で置かれているのって、サインを書いた本人として、なんとなく気が引けるのかも知れないしね?

 だけど生徒会や練習が忙しい――正確にはフレームは色紙2枚の入るサイズだから、簡単に学院に持ってくることは難しいのだと思う。

 いや、学生鞄は学校の教科書やノートや練習着が入っているだろうし? 中々、持っては来れなかったんだろう。

 だけど今日は練習が休みだから、普段なら練習着を入れているスペースが空いている。だから空いているスペースに入れて持って来れたんだと思う。

 そして、色紙と一緒に歌詞を綴る――これも自分の誇れることだから。

 自分がミナリンスキーとして頑張ってきたから、完成することができた詞。

 だから、一緒に飾りたかったんだろう――どちらも自分にとってかけがえのないモノ(宝物)なのだろうから。

 

 だけど、堂々と飾ると言うのは性格的に恥ずかしかったんだと思う。

 だから誰もいない部室でコッソリと手早く済ませたかったんじゃないかな?

 そんな風に焦りながら色紙を取ろうと悪戦苦闘(あくせんくとう)――いや、始めから椅子に上れば良いとは思うけど?

 実は、パイプ椅子って安定性が悪いんだよ? 少しの体重移動でもぐらついちゃって(・・・・・・・・)倒れるか――背もたれの方に体重かけると(はさ)まれるからね?

 いやいや、椅子は座るもので上るものじゃないから――危険なんだから、あんまり1人で上っちゃダメだよ?

 上りそうなお姉ちゃんと凛さんは特に! なんてね。

 正直こんなことで怪我(けが)をしてしまっては、アイドル活動に支障(ししょう)が出る。だから無理に上ろうとはしなかったんだと思う。

 

 そんな感じで、安全に済ませることを優先して――棚に手を伸ばしていたところに私達が来た。だから少しの間だけ何事もなかったように振舞っていたんじゃないかな。

 だけど待っていても私達は部室を出ることはない――だって、今日は練習がないんだから。

 そうしている間にも時間は過ぎていくのだ。

 このままだと皆が部室に来てしまう。

 かと言って、一旦フレームを持ち帰って、明日持ってくるのは大変だろう。そして、明日から練習が続くから持ってこれるスペースもないだろうしね。

 まぁ、ロッカーに置いていくって手はあるんだけどね?

 だけど明日から生徒会も当分忙しくなるだろうから、いつまでも飾れなくなってしまう恐れがある――再来週の頭に控えた新入生歓迎会に向けて色々と準備があるんだって。

 だからロッカーに置いていても、ずっと飾れない――ううん、単純に焦っていて思考が回らなかっただけなのかも知れない。なんてね。

 

 でも、それ以上に――

 ことりさんは涼風がいたから、今飾ることにしたんだと思う。

 アイドル研究部。それは涼風も含めた9人からなる部なのだから。

 涼風だけが知らないと言うことはあってはならない――そんなことを考えていたんだと思う。

 だからキチンと打ち明けるつもりではいたんじゃないかな。

 そして、飾る前にその場に居合わせたから涼風に了承を得たんだと思う。

 たぶん、ことりさんなら――賛同を得なかったら色紙を飾るのをやめていたのかも知れない。

 まぁ、涼風がそんなことを言うとは思えない――

 ずっと気にはなっていたとは思うし。だけど聞いて良いものか悩んでいたのだろう。

 ことりさんから教えてもらい、納得してスッキリした――と言うより、凄く嬉しそうな表情で食い入るように色紙を眺めている涼風。

 きっと私と亜里沙と同じ気持ちなんだと思っっていた。

 私達も目標として、みんなを笑顔にさせられるアイドルになれるように頑張っていきたいって。涼風の横顔を眺めながら、そんなことを考えていたのだった。

 

 その後、私達が歓談をしていると順々にお姉ちゃん達が部室にやって来たのだった。

 お姉ちゃん達は部室に入ってくると、真っ先に色紙の変化に気づいていた。

 その光景を見ながら、お姉ちゃん達はいつも部室に入ってくると1番に色紙を見ているんだってことに気づく。

 それが、お姉ちゃん達の言う目標なのだろう――

 色紙を最初に見ることによって、自分自身のアイドルとしての心構えを再確認しているのかも?

 そんな風に思えたのだった。

 この点は私達にはなかった部分なので、私達もこれからは1番に色紙を見て気持ちを引き締めたいと思った。

 その日の帰りに亜里沙と涼風にそんな話をしたら、2人も色紙は見ていなかったみたいで少しホッとしたんだけどね?

 ほら? 私だけだったら、どうしようって思ったから――まぁ、涼風に関しては今日知ったんだから当たり前なのかも知れないんだけど。何となく安心できたのだった。

 

 とは言え、お姉ちゃん達は特にフレームと歌詞に関して言及することはなく――無言でことりさんに微笑みを浮かべるだけだった。

 ことりさんも微笑みを返すだけ。

 そんな温かな空気に包まれながら、アルパカの世話をしているのだろう――まだ部室に来ていない花陽さんが来るのを待っていたのだった。

 

♪♪♪

 

 私達が今こうして、アイドル研究部にいられるのはお姉ちゃん達のおかげだ。

 でも前にも書いたけど、3人が入部したのは必然じゃなくて偶然なのだ。

 私と亜里沙と涼風の3人が揃って入部することは不思議な出来事だったのかも知れない。

 もしかしたら、私達はお姉ちゃん達に呼ばれたのかな?

 スクールアイドル μ's と言う――不思議な空間から呼ばれた、聞こえない心の声に答えて走ってきたのかな?

 そして私達が3人揃った時点で、きっと不思議な夢の始まりを告げたんだろう――お姉ちゃん達のようなアイドルになるって言う、夢の始まりを。

 

 アイドル研究部の部室やお姉ちゃん達――私達にとっての不思議な空間が私達を強くしてくれたんだろう。

 それは辛くても諦めない心――夢に向かって走り続ける心。

 そして、走り続けた先に――私達に熱い喜びを招いてくれるミライを与えてくれるんだろう。

 一緒に感じられる亜里沙と涼風――2人と熱く動きだせるんだ! 

 ぐっと大きな夢が始まるんだ!

 勇気消えそうで不安な時もあるだろうけど――うんと背伸びして前向いて。

 何度も3人で確かめ合って、合図を送りながら進んでいくんだ!

 

 そうやってお姉ちゃん達だって進んできたんだから――私達だって進んでいけるよね?

 そんなお姉ちゃん達を受け入れ続けてくれた不思議な空間――私達も受け入れてくれるよね?

 これから、私達3人のことも――お姉ちゃん達と同じく、よろしくお願いします。

 私は心の中で部室の不思議な空間にお願いをしてから――

 アノ曲を心の中で口ずさみ、この不思議な空間に包まれていたのだった。 

 




Comments ことり

今日はアノ話なんだね? 
……なんか恥ずかしいな? 嬉しいんだけどね?
でも、椅子に上った時――
私が無神経だったね? むしろ、私の方がごめんね?
でも、にこちゃんが託してくれて――みんなが賛同してくれた色紙。
キチンとフレームに収めておきたかったから、今は凄くホッとしているよ?

えっ? 私のアルバイトって、そんなに知れ渡っているの!?
お母さんも気づいているのかな?
でも、何も言われていないから大丈夫かな?
私はメイドの仕事が好きだし、これからも続けたいと思っているから――
今度、みんなでまた遊びにきてね?

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