「マスター、朝ですよ」
落ち着いた気持ちのいい声で目が覚めた。
何かが頭をなでる。
それが心地よくまた、夢の中へと入ろうとするが理性がストップをかけた。
…自分は床で寝たはずで枕なんてなかったはずだが…。
頭に感じる優しい感触と目の前の小麦色のお山は何なんでしょうか?
膝枕ですか!?なう?いま膝枕ナウなの!?
「…ああ」
冷静に行け自分!
自分に自分でエールを送る。
私はマタ・ハリの手をつかんだ。
「…なぜ、あんなことをした」
自分でも少し声が震えているのがわかる。
聞いておきたかった、自分なんかのためにこの人は自分の命を投げ出したのだ。
「…私は君たちが知っているマスターではなくそれを取り込んだだけの別人だ。なのに、なぜ君は自分の命を使った」
つかんだ手を優しく握る。
「私ね、戦えないの」
いきなりのカミングアウトに一瞬だが思考が止まる。
「戦力にならない私を、戦えない私をあなたは家族としてみてくれた。寂しい時はいつでも隣にいてくれた。体目当てじゃなく私を好きと言ってくれた。あなたは確かにマスターじゃないかもしれない。でも、それでもあなたはマスターなの。こんな弱い私をこんなに心配してくれる人なんてマスターしかいないもの」
「…そう…か」
「そうよ」
頬が何かに濡れる。
おかしいな、あくびもしていないはずなんだが。
「マスターは泣き虫ね。そんなところも私は好きよ」
「そう…か」
優しくなでてくれているマタ・ハリ。
時間を忘れ自分はその感触に身を任せた。
親に見つかりました★
★
「で、この人は誰なの命?」
家族会議なう。
チキチキ命が女を連れ込んだ!
どうしてこうなった。
いや、連れ込ん…ではいるのだが決していかがわしいことをしていたわけではない。
そんなことも一切思ってない。
「え、えーとだな」
親父殿はすでに会社に出勤した。
要するに逃げ道はゼロである。
昨日のせいで体も少しおかしくなっており今日は学校は休んだ。
「お母さま実は」
自分が言いよどんでいるとマタ・ハリが話し出した。
内容的には昨日襲われそうになったところを自分が助けた、夜で道にも迷っていたために仕方なく自分が家に泊まるかと提案し彼女がその案を受けたと。
まあざっくら省いたが内容的にはあっていることだ。
「まあ、この子が?何気に正義感の強い子だとは思ってたけど」
母よ、相手が英雄だというのもあるから仕方ないがだまされすぎやしないか?
少し心配である。
「まあ、それなら仕方ないはね。マタ・ハリさんだったかしら?」
「はい」
何か考えるように言う母。
「親御さんに連絡はしたの?」
「いえ、小さいころに両親は他界したので」
すっと影を落とすマタ・ハリ。
こんなところで演技に全力をだすな!
「そう、なら少しこの家にいなさいな。心配なことはあるけど命もいるし大丈夫でしょう」
なに言ってんの母よ!
「いえ、私なら大丈夫なので」
「だめよ、女の子一人で何ならこの家に住んでもらってもかまわないから」
マジで何言ってやがりますか!
★
その後なんだかんだで住むことに決まってしまった。
家にいるのも少し気まずいので、マタ・ハリと母を家に置いて外に出た。
「…殺す覚悟持たないとこれ以上はダメだよなぁ」
近くの自動販売機で珈琲を買う。
そのまま歩きながら少し考えた。
このまま物語が進むにつれて相手を殺すこちらが殺されるという場面は多い。
自分のせいで曹操はこの町にいるし堕天使も自分に目をつけている節がある。
『殺すのが嫌なら倒しちまえばいいじゃねぇか』
簡単に言ってくれるなよ。
金時の言葉に返し空を見上げる。
「空は青いのになぁ、おさきは真っ暗だぁ」
『重症だなオイ』
うるせぇのよ!酒呑童子にいまだに恋心を忘れられないくせに!だまし討ちしたことを後悔してるくせに。
『ぐはぁ!』
『…的確に攻撃しているな』
「アーシア!」
「一誠さん!」
「なんでいるんだよ」
頭を抱えた。