ロビーの冒険   作:ゼルダ・エルリッチ

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23、精霊王のふしぎのくに

 おとぎのくに……、それはわたしたちの住む世界とは、時間も場所も、しぜんのなり立ちさえもことなる、ふしぎにあふれる世界なのです(今さらいうまでもないでしょうけど)。そのおとぎのくにの中のひとつを、みなさんはこれまでに(二十二章に渡って)たいけんしてきました。それはもう、いうまでもありませんよね。そう、このロビーの冒険の物語のぶたいである、アークランドです。

 

 このアークランド世界は、まぎれもなくおとぎの世界でした。ですがこのアークランド世界においてさえも、なお、おとぎのくにというものはそんざいするのです(前にもいいましたけど)。

 

 そのひとつが、精霊たちのくに。精霊たちの住むくには、おとぎのくにアークランドの中においても、まったくもっておとずれることすらむずかしい、未知なる世界でした。そういう世界は、ほかにもあります。いちばんよく話に出るのが、死者たちのくに。あの世とか、この世とか、いいますよね。らくえんのような世界もあれば、おばけがいっぱい住んでいる、ちょっとこわい世界まであるのです(フェリアルは、ぜったいにいきたくないでしょうけど)。

 

 ほかにも、悪魔たちが住んでいる、魔界などとよばれている世界(みんなぜったいにいきたくないでしょうけど)や、精霊よりももっとしんぴ的な、エーテルという、すがたを持たない生きもの(生きものとよべるかどうかもわかりませんが)たちが住んでいる世界など、わたしたちの目には見えないだけで、この世界のそばには、じつはたくさんの世界が、そんざいしていました。

 

 ですが、そんなおとずれることすらむずかしい未知なる世界とはいえ、精霊たちの世界は、ほかのたくさんの世界の中でも、もっとも身近な世界であるといえることでしょう(それでも、「ちょっと、精霊のくにまであそびにいってくるね!」「夕ごはんまでには帰ってくるのよ。」などといった親子の会話が出ることなどありえないくらいに、近くて遠い世界でしたけど)。精霊の力というものは、わたしたちの住む世界のほとんどすべてのものごとに、かんけいしていましたから(水の精霊がいなければ、水がなくなってしまいます。風の精霊がいなければ、息をすることすらできません。わたしたちが生きていくうえで、精霊の力は、ぜったいに必要ふかけつなものだったのです)。

 

 しかし、こんかいわれらが仲間たちがむかうのは、そんな精霊たちのくにの中でも、とくべつの中のとくべつ、伝説の中の伝説。もういうまでもありませんよね。精霊王の住む、ふしぎのくになのです。

 

 イーフリープとよばれるそのくには、ただのお話だと思われていました。じっさいアークランドに住むほとんどの人たちが、そんなのはただのお話にすぎないと、今でも思っています。それはイーフリープが、この世界とはまったくまじわることなく、遠く遠く、あまりにも遠くかけはなれていたためでした。

 

 どんなに力のあるまじゅつしでも、どんなにゆうしゅうな精霊使いでも(ライアンでも)、自分の力だけではイーフリープに出かけていくことなどは、できません。イーフリープとこのアークランド世界とをつなぐ道は、精霊王のトンネルとよばれるとくべつな道いがいには、まったくありませんでした(このトンネルのそんざいは、ノランなど、ごく一部の者たちのみが知っているだけでした)。そしてそのトンネルはかたくとざされていて、ごくかぎられたとくべつな力をもちいないかぎり、その入り口をひらくことなどはできなかったのです(精霊王からおくられたネックレスを使ったり、リズのようにとんでもないほどの精霊パワーを持っている者が、その力をぶつけたりしないかぎりは。ですからどんなにすごいまじゅつしや精霊使いなどであっても、自分の力だけでは、このトンネルをあけることなどはできなかったのです)。

 

 宝玉の力が弱まったことで、このアークランドの力のバランスはくずれてしまいました。それは精霊王のトンネルも同じでした。むやみにトンネルをあけてしまえば、くずれた力のバランスが、イーフリープ世界の中にまで広がってしまうかもしれないのです。そのためトンネルは、イーフリープ世界の中の精霊エネルギーによって、さらにさらにかたくとざされてしまいました(そのかたさは、およそ二ばいになりました。いぜんだったら精霊王のネックレスさえあれば、ふつうの人でもすぐに、トンネルをひらくことができましたけど、今ではそれに加えて、リズほどの精霊パワーの持ちぬしが必要になってしまったというわけでした)。かれらの世界とわたしたちの世界とは、かんぜんに切りはなされたのです。今までだって、このトンネルをあけることなどは、(それこそとくべつな力でももちいないかぎりは)ほとんどむりなことでしたが、これでけってい的になりました。このトンネルをあけることなんて、ふかのうです。大けんじゃノランにだって、むりなことでした。イーフリープはこうして、人知れず、伝説の中に消えていったのです……。ふつうだったら。

 

 

 ですが今、ふつうではないことがはじまろうとしていました。

 

 

 精霊王は、なんでも知っているのです。あけることのできないトンネルを、ロビーたち、われらが仲間たちになら、あけることができるということも。

 

 ロビーの持つ、青いネックレスの力。そしてロビーのことを助ける、仲間たちの力。それらがひとつとなれば、かれらはあけることのできないトンネルをあけて、自分のところまでやってくる。精霊王はすべて見通していました。

 

 そして今、仲間たちはそのあけられるはずのないトンネルを自分たちの力であけて、精霊王の住むふしぎのくに、伝説のイーフリープ世界へと、ふみこもうとしているところだったのです。

 

 

 トンネルの出口が、近づいてきました。

 

 イーフリープへ、さあ、ふみ出しましょう。

 

 

 

 

 「きたか……」

 

 白くかがやく石でできたバルコニーに、ひとりの人物が立っていました。その人物は目の前に広がる美しい景色をながめながら、静かな表じょうをしてそうつぶやきました。

 

 そしてそのうしろの白い部屋の中から、今もうひとりの人物がやってきました。その人物は小さなバルコニーへとゆっくりと歩みを進め、さきにいた人物のとなりに、ならんで立ちます。

 

 「えんろはるばる、ごくろうさまなことでございますな。」

 

 あとからやってきた人物がいいました。その声は、かなりのおとしよりの声でした。白い美しいガウンをまとっていて、肩からは、大きな水色のたすきをかけております。その手には、金色の糸であんだ美しいかんむりをひとつ、持っていました。このかっこうは……?

 

 そう、この人物は、シープロンドのしきょうさま。ルエル・フェルマートしきょうさまだったのです。ということは? そのとなり、バルコニーに立っている人物は……、その通り、メリアン・スタッカート王でした(ひょっとして精霊王? と思った方もいたかもしれませんね。とつぜん場面が変わりましたから。精霊王は、もうちょっとあとで……)。

 

 「ふっ。」ルエルしきょうさまの言葉に、メリアン王が小さく笑いました。「そうだな。かれらの思い通りには、ならんよ。」

 

 かれらが見つめるさき。さしこみはじめた朝日にてらされた、シープロンドの美しい景色のそのむこう。みどりの平原のむこうから今、黒くうごめく雲のようなものが、見えはじめてきました。それはゆっくりと動いていて、こちらへとむかってくるところだったのです。まさか、これって……!

 

 そうです、シープロンドのお城のバルコニーから見おろした、そのさき。そこからやってくるその黒い雲のようなものは、すべて、黒のよろいかぶとに身をつつんだ、ワットの兵士たちでした! その数は、およそ八百。ついにワットの軍勢が、このシープロンドへとせめこんできたのです!(ワットの黒の軍勢は、今そのほとんどが、エリル・シャンディーンでの戦いにむけてしゅうけつしていました。ですからこのシープロンドにせめこんできたのは、北の地の守りについている、ごくわずかな兵士たちだけだったのです。それでも、これだけの数の兵士たちが集まりました。この八百人という数字は、シープロンドにとって、きょういのはずでした。なにしろシープロンドは、軍を持たないへいわなくに。ごえいのための衛士たちが、わずかに二百人ほどいるだけでしたから。さあ、シープロンドは、メリアン王は、このきょういに、いったいどう立ちむかおうというのでしょうか?)

 

 

 今からすこし前のこと……。

 

 このシープロンドのくにの門に、人間の男せいが三人やってきました。その者たちは黒い毛がわの服を着ていて、そのうちのふたりは、腰に大きな気味の悪い剣をさしていました。からだつきもがっちりとたくましい、ふたりです。これはもう、あきらかにようじんぼうでした。武器を持たない残りのひとりのことを守るために、ごえいとしてついていたのです。では、その残りのひとりとは?

 

 あとのひとりは、うでにエメラルド色の花のマークのはいった白いリボンをつけていました。このリボンに、みなさんは見おぼえがありますよね。そう、このリボンは、使者のあかし。そしていうまでもなく、この者たちはワットの者たちでした。つまりワットの使者たちが、シープロンドへとやってきたのです! こうふくか? 戦いか? そのこたえをもとめて。

 

 「これは、アークランドの正式ながいこうである。」ワットの使者たちが、いちまいの紙切れを見せながら、門の衛士たちにいいました(がいこうとは、取りきめをおこなうために、よそのくにの人たちと話しあうことです)。

 

 「しょくんらシープロンドは、わがワットに対し、ゆるされざるつみをはたらいた。そのつみに対し、わがワットは、ここに、シープロンドへ、正式なつぐないをもとめるものである。こうふくか? いくさか? 好きな方をえらぶよう、メリアン王に取りついでいただきたい。」

 

 「その必要はないぞ。」

 

 声の方を見ると、まさに今、そのメリアン王がふたりのシープロンのそっきんたちをつれて、衛士たちのむこうからこちらへとやってくるところでした。使者たちがやってきたということは、すでにメリアン王のもとへ、あのれんらくラッパによってしらされていたのです。

 

 「わざわざのごそくろう、たいへんごくろうさまです。どうでしょう? あちらのあずまやで、ゆっくり、ハーブティーでもいかがです? おいしいクッキーもありますよ。ああ、バターケーキの方がよろしかったですかな?」メリアン王がおちつきはらったようすで、使者たちにいいました。

 

 「そうそう、じつは、新しい人形げきができたんですよ。これがまた、けっさくで。どうです? みなさんで、楽しもうじゃありませんか。きみ、すぐに、人形げき屋をよんでくれ。」メリアン王がつづけて使者たちにいって、それからこんどは、衛士のひとりにむかっていいました。

 

 「のんきなことを、いっている場合ではない!」このたいどに、ワットの使者たちはすっかりおかんむりです。「しょくんらは、はんぎゃくのつみをはたらいたのだ! そのつみは、重いぞ! アルファズレド王のとくしゃなど、考えないことだ! さあ、こうふくか? 戦いか? こたえてもらおう!」(とくしゃというのは、とくべつなゆるしということです。)

 

 ですがメリアン王は、またしてもすずしい顔をしていいました。

 

 「はて? はんぎゃくのつみとは、どういうことですかな? さっぱり身におぼえがありませんが。そなたは、なにか知っているか? ルーベルアン。」

 

 いわれて、となりのルーベルアンがこたえます。

 

 「さあ、なんのことやら、わたしにもわかりませんが。フォルテール、きみはどうかな?」こんどはルーベルアンが、となりのフォルテールにいいました。

 

 「はんぎゃくって、なんでしたっけ? おいしいの? なにしろここは、あらそいなどとは、むえんの地。そんな言葉の意味すら、おぼえておりませんね。」

 

 「く……、この……!」

 

 使者たちはこぶしをにぎりしめて、かんかんです! ですけど、使者がぼうりょくをふるってはいけません。メリアン王たちも、それがわかっていて、からかっていたのです(ほんとうなら使者をからかうなんて、してはいけませんでしたが、相手はワットの使者たちですもの、すこしくらいかまいませんよね? わたしもちょっと、楽しんでしまっているんですけど。ぷぷ!)。

 

 と、そのとき。道のむこうからゆっくりとした足取りで、ひとりの老人がやってきました。その人は、ほかでもありません。ルエルしきょうさまだったのです。

 

 「これこれ、みなさま。神さまの前において、いいあらそいなどはいけませんぞ。」ルエルしきょうさまが、メリアン王たちにむかっていいました。

 

 「王さま。お客さまをからかっては、いけませんな。これは、とんだごぶれいを。 ルエルしきょうさまがそういって、ワットの使者たちに頭を下げました。

 

 「おお、ようやく、話のわかる者がやってきたか。」使者たちは、しきょうさまのたいどに、すっかりきげんをなおしたようでした。「まったく、このくにの王は、なんという王だ。これでは、話にならん。」

 

 いわれたメリアン王は、しゅーん……、とちぢこまってしまいます。ルーベルアンとフォルテールも、王さまとならんでひっこんでしまいました。ここは、ルエルしきょうさまにおまかせしましょうか。

 

 「そなたは、しきょうのようだな。では、じょうしきもわきまえておろう。しょくんらには、ワットへのはんぎゃくのつみがかけられておる。こうふくに応じなければ、ワットは武力によって、このシープロンドをせめ落とすだろう。われらとしても、そんなまねはしたくはない。さあ、早く、心をきめるのだ。ワットに、こうふくせよ。悪いようにはせんぞ。」

 

 使者たちはそういって、ルエルしきょうさまの言葉を待ちました(メリアン王にいっても、むだだとわかりましたから。しきょうさまなら、王さまと同じくらいのけんりがあるのです)。

 

 ルエルしきょうさまはしばらくだまっていたあと、「ほっほっほ。」とおだやかに笑います。そして……。

 

 

 「りゆうがわかりませぬな。」

 

 

 「な、なに?」思わぬしきょうさまの言葉に、使者たちはおどろいていいました。

 

 「あなた方がわれらにさしずする、そのりゆうがわかりませぬ。はんぎゃくですと?それは、だれのきじゅんによるものでしょう? この世のすべては、神さまのおぼしめしによるもの。われらは神さまのご意志にしたがって、われらの道を進むのみでございます。あなた方の道ではございません。あなた方のさしずは受けません。」

 

 ルエルしきょうさまはおだやかにほほ笑んでいいましたが、そこにはかたいかたい、シープロンとしてのほこりといげんがみちあふれていました。

 

 う~ん、どうにも、やくしゃがちがいます。これではさすがのワットの使者たちも、どうすることもできませんでした。

 

 「く、ぐむむむむ……!」使者たちは歯をぎりぎりとかみしめて、くやしがりました。

 

 「おのれ! おぼえておけよ!」使者たちはそういって、そそくさと身をひるがえします。

 

 「これでシープロンドは、われらの敵だ! ただちに、せめ落としてくれる! あとで泣きついてきても、もうおそいぞ!」

 

 使者たちはそうはきすてるようにさけんで、馬たちに乗って去っていきました(いかにも、悪やくといった感じですね)。

 

 「べ~ろべ~ろべ~!」メリアン王が、去っていく使者たちにむかってべろを出してやりました。ルーベルアンとフォルテール、衛士たちまでもが、そろってそれにつづけて、べろを出したり、おしりをぺんぺん! 「やーいやーい!」とからかいます(ルエルしきょうさまに、「これこれ、まったく。」とあきれられてしまいましたが)。

 

 いやはや、さすがは、メリアン王とシープロンドの者たちです。こんなワットのおどしになど、まったく応じません(ライアンのくにですものね)。でも、心配なのはワットです。これでワットは、このままほんとうに、このシープロンドにせめこんでくることでしょう。シープロンドは軍を持たない、へいわなくに。ろくな武器もありません(衛士たちの持っているのは、ほんらいかざりのためのやりなのであって、戦うためのものではないのです)。ワットのおそろしい軍勢にせめてこられたら、ひとたまりもないはずでした。いったいかれらは、ほんとうに、どうするのでしょうか? 

 

 しかし……、その点についてはご安心を。このシープロンドには、まだまだ、みなさんの知らないひみつがかくされていたのです。そしてそれこそが、たとえ大軍勢でせめてこられてもびくともしない、シープロンドのくにの強さにつながっていましたが、それはもうちょっとあとの、お楽しみ。このさきの物語の中で語るとしましょう。

 

 そしてふたたび、時間は今へ。

 

 まさに今、このシープロンドへ、ほんとうにワットの軍勢がせめこんできたところでした!(さきほどの、シープロンドのお城のバルコニーでの、メリアン王とルエルしきょうさまの会話。その会話へのいきさつは、こういうわけからでした。) 

 

 「くにのみなさまには、タドゥーリのほよう地へと、出かけていただいております。ねんのため、でございますが。」ルエルしきょうさまがいいました。

 

 「すぐに、帰ってくるだろうよ。」メリアン王がこたえます。「ワットのみなさんは、すぐに、お帰りになるからな。ワットもこれで、すこしはおとなしくなるだろう。」

 

 それからしばらく、ふたりはだまって、かなたの平原を見つめていました。

 

 とつぜん、ルエルしきょうさまが「ほっほっほ。」と笑って、いいました。

 

 「王さまも、ごりっぱになられましたな。あの冒険の旅から、もう、三十年でございますか。」

 

 「そうだな。」メリアン王が、「ふふっ。」と笑ってかえします。「今ではわたしのむすこが、同じことをしている。親子とは、よくにるものだ。」

 

 そういって、メリアン王は手にしたブローチのことを見つめました。そのブローチはライアンに持たせたブローチと対になっている、あの星がたのブローチでした。ライアンの身に危険があれば、光ってしらせるというやつです。メリアン王はライアンが出発してからというもの、はだみはなさずこのブローチを持っていて、それこそ一分とあけずにながめていました(寝ているときは、さすがにむりでしたけど。ちなみに、今ブローチはぜんぜん光っていません。ライアンがげんきだからです)。

 

 「ライアンさまは、ひとまわりもふたまわりも大きくなって、もどられましょう。」ルエルしきょうさまがいいました。「そうやって、人はみな、成長をしてゆくのです。このさきも、そのまたさきも、ずっと、変わることなく……」

 

 そうして、メリアン王とルエルしきょうさまは、このバルコニーをあとにしたのです。

 

 「さて。ちょっと、あそんでくるとしよう。」

 

 

 白いろうかをひとり進みながら、メリアン王はむかしのことを考えていました。旅のこと。かつての仲間たちのこと。

 

 「アルファちゃん……」メリアン王がつぶやきました。

 

 「また、むかしみたいに、みんななかよくできたらいいのにね……」

 

 メリアンの目には、うっすらと、なみだがあふれていました。

 

 

 

 「いくぞっ! それっ!」

 

 ライアンがいきおいよく、トンネルのそとに飛び出しました!

 

 ついにみんなは、精霊王のトンネルの、その出口へとたどりついたのです。そしてやっぱり、ライアンがいちばんに飛び出しました(出口のそとは光っているだけで、なんにも見えませんでした。ですからみんなは、意をけっして、そとに飛び出したのです)。

 

 ついに、イーフリープへ!

 

 ロビー、マリエル、リズも、ライアンにつづいてトンネルから飛び出します。さて、そこはいったい、どんな世界なのでしょう? さぞかし、あっちもこっちも、精霊にみちあふれているに、ちがいないんでしょうね。

 ですが……。

 

 

 「うわわっ!」「うわっ!」「おーっと!」

 

 

 さきに出たライアンに、つづいて出たロビーが、どしん! それからマリエルが、ロビーの背中に自分の頭を、ごつん! さいごにリズが、みんなにつまずいて、すってんころりん! どしーん!

 

 「いたたた……!」「な、なんです……!」「なんだよ、もうー!」

 

 みんなそれぞれ、腰をさすったり、頭をおさえたり。いったい、なにごとが起こったというのでしょうか? そのこたえは、みんなが飛び出した、そのさきの場所にありました。

 

 おちつきを取りもどして、あらためてまわりを見まわしてみると……、そこは小さな、部屋の中。大人が四人はいったらいっぱいになってしまうほどの、小さな小さな部屋の中だったのです。なるほど、こんなに小さな部屋に四人がいきおいよく飛び出したら、おたがいにごちーん! ぶつかりあってしまうのもとうぜんのことでした(いくらそのうちの半分が、ちびっ子でも)。

 

 でも待ってください。ここはほんとうに、「部屋」なのでしょうか?

 

 トンネルはみんなが飛び出すのと同時に、消えてしまいました(帰りはまた、ほかの出口を見つけなければなりませんね)。立ち上がって見てみると、床やかべやてんじょうは木でできていて、床の両はしには、同じく木でできた、赤いつるつるとしたペンキがぬられたベンチがつくりつけられております。ベンチはそれぞれむかいあうようにつくられていて、それぞれの席にふたりずつ、すわることができるようになっていました。ひとつのかべには小さなとびらがついていて、鉄のとってをひねると、とびらがあくようになっているみたいです。

 

 ですがそんなことよりも、いちばんに気をひくものがありました。それはこの場所をかこむまわりの四つのかべの、腰の高さより上の部分が、ガラスまどになっているということでした。つまり、ちょうどこの木のベンチにすわったときに、そのまどから、そとの景色をながめることができるようになっているというわけだったのです(あれ? こんな場所って、たしかどこかで見たことがあるような……)。

 

 そしてこの場所がどこなのか? そのこたえが、そのガラスまどのそとにあったのです。

 

 

 ここは……、はるかな空の上でした! ええっ!

 

 

 まわりはずうっと、海が広がっています。時間は、おひるごろでしょうか? いいおてんきでしたが、おひさまのすがたはどこにも見えませんでした。すいへいせんのかなたには、まっ白な雲がかかっております。

 

 いったい、今いるここって、どんなところ? そしてみんながガラスまどに張りついて、あたりのようすをじっくりながめたときに、またそのこたえが出たのです。

 

 「な、なんだー? これー!」 

 

 ライアンが思わず、さけびました。

 

 まわりはみんな海でしたが、下を見たとき、みんなは自分たちが今どんな場所にいるのか? わかったのです。ここは海に浮かぶ、どこかの島でした。そしてそれは、ただの島ではなかったのです。そのあちこちに、色とりどりのまんまるなやねがならんでいて、もっとよく見てみると、くるくるとまわる木の馬の乗りものや、すいすいと走るしゃりんのついた乗りものなどが、その地面には動いていました。そしてマリエルの出したじぇっとこーく・すくりゅーの魔法のレールと同じようなレールが、あちこちに張りめぐらされていて、その上を同じくトロッコが、びゅんびゅんかけめぐっていたのです! たくさんの風船が、あちこちにふわふわと飛んでおります。どこからか、楽しげな音楽がきこえてきました。

 

 

 こ、これってまさしく……。

 

 そう、ゆうえんちです! 

 

 

 そしてみんながいるのは、その「大かんらんしゃ」のゴンドラの中でした! ええーっ! イーフリープって、ゆうえんちだったの!

 

 みんなは見たこともないそのふしぎな光景を、ガラスまどにぺったりと張りつきながら、くいいるようにながめ渡しました。それもそのはず。みなさんの世界だったら、ゆうえんちなんて今さらめずらしいものでもないかもしれませんが、かれらはおとぎのくに、アークランドの住人たち。こんな(あからさまな)ゆうえんちなんてものは、まだアークランドのどこにも、そんざいしていませんでしたから(カピバラ老人の鉄の馬や、フログルたちのケロケロボート、けんじゃリブレストの岩のロボットたちなどを、みんな集めたら、ゆうえんちができるかもしれませんけど。カルモトの木のモーターボートと、もちろん、マリエルのこーくすくりゅーもいっしょに)。

 

 ですから自分たちが今乗っているのが、かんらんしゃというものだなんて、みんなはまったくわかっていませんでした。あちこち見まわしてみて、ようやく、自分たちが乗っているのと同じ小さな部屋が輪をえがくようにほかにもいくつもあって(自分たちのいる部屋もふくめて、全部で十六もありました)、それらがゆっくりかいてんしているということなどが、わかったのです(そしておちついてみると、乗りものがにがてなロビーは、やっぱりベンチにしがみついて、「ひええ……!」とこわがりはじめてしまいました。なにしろ、空の上ですもの)。

 

 そしてみんながひとつ、気がついたことがあります。それはほかの小さな部屋にも、下の島にも、人や生きもののすがたがまったく見あたらないということでした(レールの上を走りまわっているトロッコにも、だれも乗っていませんでした)。小鳥の一羽や、虫の一ぴきさえ、飛んでいなかったのです。きこえてくる楽しげな音楽とはうらはらに、みんなはなんだか、不安な気持ちになってきました。小さな部屋のとびらのすきまから、風がひゅーひゅー、はいりこむ音がひびいてきます。きしきしと、部屋のまわる音が、小さくきこえてきました。

 

 

 「下に、つくみたい。」

 

 ライアンが、せまってくる地面のことをのぞきこみながら、いいました。

 

 「かってにおりて、いいのかな?」

 

 「早くおりよう。」ライアンの言葉に、すかさずロビーがこたえます(ロビーはこんなおっかない乗りものから、早くおりたかったのです)。

 

 「とびらは、自分であけるみたいだね。よっ、と。」

 

 ライアンがそういってとびらをあけましたが、かんらんしゃというものは、下についたからといって、そこでとまってくれるというわけではありません(乗ったことのある人なら、わかりますよね)。ですからまだおっかながっているロビーは、ライアンやマリエルにうでをひっぱられて、ようやく地面におり立つことができました。

 

 「ふえー、すごいな。」

 

 まっさきにおりていたリズが、かんらんしゃをかこんでいる鉄のさくの上に立って、あたりをきょろきょろとながめ渡しながら、感心していいました(ロビーのせわをしておりましたので、ライアンはリズに、さきを越されてしまったのです。それより……、そんなところに立ったら、あぶないですってば、リズさん!)。

 

 「ここにあるもの、これ、みんな、精霊のエネルギーだけでできてるぜ。このさくだって、ほら、鉄みたいだけど、鉄じゃない。」

 

 リズがそういって、くつのさきっぽで、さくをこつこつとけりました。そして、なるほど、それはただの鉄ではなくて、こまかい火花のような精霊エネルギーが、ぱあっ!とあたりに飛びちって消えていきました。 

 

 「なんだか、イーフリープのひみつがわかってきた……」マリエルが、こうふんしたようすであたりをかんさつしながら、いいました。「ここは、われわれの世界とは、あきらかにちがう。ぶっしつをかたち作っている、そのしくみすら、ちがうんです。イリアドルハのほうそくが、ぜんぜんつうようしない。これじゃ、ほんとうに、ただのお話だといわれるはずです。」

 

 だれもが知らない、自分の持っているりろんがまったくつうようしない、お話の中だけのふしぎのくに……。マリエルはまだ知れぬ世界をまのあたりにして、胸の高まりがおさえられませんでした。未知なるもの……、新しいりろん……、それらを発見することは、けんじゃをめざすまじゅつしたる者の、さいこうのしごとのひとつでしたから(ところで、イリアドルハのほうそくってなに?)。

 

 「ここのどこかに、精霊王が……」ライアンも胸を高ならせて、あたりをきょろきょろとながめ渡しながら、いいました。精霊使いならだれでもあこがれる、伝説の精霊王。その精霊王に、今自分が、もっとも近づいていたのです(でもちょっと、「ひょっとしたら、名物のお菓子屋さんがあるかも……」とさがしていたそうですが……)。

 

 「ほんとうに、ここにぼくが……」ロビーがつぶやきました。

 

 「……まったくなんにも、おぼえていない……」

 

 ノランのいうことには、ロビーは十さいになるまで、このイーフリープで暮らしていたというのです。ですがノランやアルマーク王の説明の通り、ロビーにはまったく、なんのきおくも残されてはいませんでした(っていうか、ロビーってゆうえんちで暮らしてたんでしょうか? だからこわい乗りものに乗りすぎて、それがトラウマになって、乗りものがにがてになったのかも……。とまあ、それはわたしの、かってなそうぞうなのですが)。

 

 「とにかく、」リズがいいました。「あちこち、まわってみようぜ。このあたりには、精霊王がいるようなパワーは、感じられないしな。まわってれば、そのうち会えるだろ。」

 

 「それにしても、精霊のひとりもいないのは、どうしてだろ?」すたすたと歩き出しながら、ライアンがいいました。「みんな、おひるごはんの時間なのかな? あ、精霊だから、ごはんは食べないか。」(そのうしろでは、リズがうでを頭のうしろにくみながら、「ぜんいん、はらいたで、トイレにはいってるのかもな。」といっていましたが……)

 

 

 そうしてみんなが、このゆうえんちの中へと歩み出していった、そのときのこと……。

 

 

 「おひさしぶりですね、ロビーベルク。」

 

 

 とつぜん、うしろから声がしました! みんながびっくりしてふりかえると……、そこに、みどりのきぬの服を着て、かがやくこがね色の長いかみをした、男とも女ともつかない、すらりとした美しい人がひとり、立っていたのです! ええっ!

 

 いったいどこから……! だってさっきまで、そこには自分たちいがい、だれもいなかったはずでしたから(おばけでもないみたいですし)。ということは……?

 

 そう、もちろんこの人は、ただの人ではありませんでした。このイーフリープの住人、精霊の種族の者だったのです(ちなみに、せいべつはわたしたちの世界でいえば、男ということになりました)。

 

 「待っていましたよ。」その人が、ゆっくりとこちらに歩みよりながら、いいました。「とのぎみも、あなたに会えることを、心待ちにしておいでです。大きくなられましたね。」

 

 その人は、おだやかにほほ笑んでいました。そしてもちろんこれは、ロビーにいっていたのです。

 

 「リーフィ……」

 

 ロビーが肩をふるふるとふるわせて、つぶやきました。え! ロビー! この人のことを、知っているんですか! だって、きおくはみんな、消えているはずじゃ……?

 

 「リーフィ! リーフィ!」ロビーが急に、さけびました。ロビーの中で、なにかがはじけたような、そんな感じでした。

 

 「会いたかった! ずっと、会いたかった! ぼくは、ひとりぼっちで……、ずっとひとりで……、うわああん!」

 

 ロビーはそういって、そのリーフィという人にだきつきました。大きななみだを、ぽろぽろこぼして……。ロビーはまるで、母親とはぐれていた子どものように、わんわん泣いて、そのリーフィのうでの中に飛びこんだのです。

 

 「つらかったのですね。」リーフィがロビーをだきかかえながら、静かにいいました。「ほんとうに、あなたはよくやりました。よく、がんばりました。」

 

 仲間たちにはまだ、なにがなんだか? よくわかりませんでした。ただライアンは、ロビーを取られてしまったみたいで、なんだかちょっと、いい気持ちはしませんでしたが。リーフィに、やきもちをやいてしまったのです。そんな中で、ただただロビーだけが、胸の中にふうじこめられていた強い思いをいっきにばくはつさせて、大声で泣きつづけていました。

 

 

 「はじめまして、みなさん。」

 

 そういって、リーフィとよばれたその精霊の種族の人は、みんなに静かでていねいなおじぎをしました。

 

 「わたしは、リフィルタルエ。精霊王のとのぎみにつかえております。みなさんを心より、かんげいいたします。よく、いらっしゃいましたね。」

 

 精霊王につかえている、こがね色の長いかみの、すらりとした美しい人……。みなさんはこの人物に、見おぼえがあるはずです。いぜん、わたしがひと足さきに精霊王の森のことをしょうかいしたときに(ちなみに、十五章のはじめです)、その森の中で出会った人物。そう、あのときの人物こそが、このリフィルタルエ、リーフィとよばれる人物でした。

 

 リーフィ。それはこのイーフリープで精霊王につかえている、イーフリープでの(精霊王いがいの)ゆいいつの住人でした(え? ゆいいつなの? とおどろかれるかもしれませんが、このイーフリープという世界は、もともと精霊のエネルギーだけでできている世界。アークランドのように、精霊たちがそのすがたをじっさいにあらわしたりしているというようなわけでは、じつはありませんでした。さぞかし、すごい精霊たちがうようよいるんだろうな、と思われていた方は、ごめんなさい。ちょっと、きたいはずれだったかもしれませんね。でもここはやっぱり、伝説のイーフリープ。精霊のすがたはなくても、ちゃんときたいには、おこたえできるはずですよ)。そしてこのリーフィは、イーフリープで暮らしはじめた小さなロビーの、その育ての親だったのです。

 

 ロビーは五さいのときから、このイーフリープですごしてきました。まだ小さかったロビー。わけもわからず親のもとからはなれ、とつぜん、こんなところへとつれてこられたのです。もちろんそのときのロビーに、ここがイーフリープというとくべつな場所だなんていうことが、わかるはずもありません。わけもわからない場所に、とつぜん放りこまれた、小さなロビー。そんな不安な気持ちにあふれていたロビーのことを、あたたかくつつみこんだのが、リーフィでした。

 

 リーフィはロビーに、あらゆることを教えました。べんきょう、うんどう、げいじゅつ、食べられる植物の見分け方から、肉や魚の料理のしかたまで……(もちろんこれらは、このイーフリープにはそんざいしませんでしたから、リーフィが精霊エネルギーを使って作り出したのです。

 ちなみに、このイーフリープでは精霊エネルギーをからだに取りいれることで、それがごはんのかわりになりました。じっさいにはリーフィが、アークランドと同じようなごはんのかたちにして、ロビーに食べさせていましたけど)。いつの日か、ロビーがアークランドへと帰るときがくる。リーフィには、そのことがわかっていたのです。ですからリーフィは、そのときのために、ロビーにさまざまなことを教えこみました。

 

 リーフィは小さなロビーにとって、ただひとりの家族でした(イーフリープにいたロビーでさえ、精霊王のすがたを見たことはありませんでしたから)。いっしょに、泣き、笑い、怒り、かなしみ……。その思いは、きおくをなくしたはずのロビーの心のおく底に、ずっと消えることなく、残っていたままだったのです。今ロビーはここで、そのずっとずっと会いたかった心の底の家族に、ふたたびめぐり会えました。そのしゅんかん、ロビーの心の中に消えていたはずのきおくが、いっきによみがえったのです。リーフィ、リーフィ……。そしてロビーは、そのあふれる思いを、リーフィにぶつけました。

 

 「精霊王に、つかえているんですか!」リーフィの言葉に、マリエルがおどろいてそういいます。

 

 「では、ぼくたちのことは、もう、いうまでもないはずです。精霊王のところまで、あんないしていただけますか?」

 

 「そう。精霊王からとくべつな力をさずかるようにと、ノランさんにいわれたんです。」ライアンがマリエルにつづけて、いいました。「あ、ぼくは、ロビーのせわやくの、ライアンです。ロビーの、せわやくのー。あと、いちばんの友だちのー。」

 

 ライアンはまだ、リーフィにやきもちをやいたまんまでした。それで、すこしおちついてきたロビーのことをリーフィからささっと取りかえすと、いじの悪ーい感じで、リーフィにいったのです(まったく……)。

 

 ですがリーフィは、「マリエルにいわれるまでもない」といった感じでした(ライアンのいじわるには反応しませんでしたが)。ロビーたちがやってくるということは、はじめからわかっていましたから。ですからリーフィは、おだやかにほほ笑んだまま、仲間たちにいったのです。

 

 「精霊王は、あなたたちのすぐそばにいらっしゃいます。」

 

 「えっ!」その言葉に、みんなはおどろいて、どこどこ? とあたりを見まわしました。ですけどどこにも、精霊王のすがたはありません(まさか、あそこに飛んでるくまのかたちの風船が、精霊王じゃないですよね?)。

 

 そんなおどろいているみんなのことを見て、リーフィがいいました。

 

 「精霊王は、このイーフリープ世界、そのものなのです。」

 

 もういちど、ええっ! ここが全部、精霊王ってこと? それっていったい?(じゃ、じゃあ、あの風船も精霊王ってことで、まちがってなかったんですか? じょうだんでいったのに。) 

 

 「精霊王は、ありとあらゆるもので、そのすがたをあらわされるのです。きまったかたちというものは、ありません。あなたたちの見ている世界、すべてが、精霊王なのです。」リーフィが静かにいいました。つまりこのイーフリープ世界のすべてが精霊王のすがたなのであって、このゆうえんちも、精霊王そのものだというのでした。きまったかたちはないということなので、こんかいはたまたま、ゆうえんちのすがたになったというだけで、森や、町だったかもしれないということなのです(これで、このふしぎなゆうえんちのなぞもとけたというわけですが、それにしても、よりによって、なんでゆうえんち? ライアンのお子さまっぷりにあわせたんでしょうか? そこだけは、いまだになぞのままでした)。

 

 リーフィが説明をつづけます。 

 

 「ですが、言葉をかわすためには、精霊王はひとつの生きもののかたちに、そのすがたを変えられます。どのような生きものかは、わかりません。人かもしれないし、一羽のちょうかもしれません。そのすがたの精霊王に会うために、あなたたちはここで、いくつかのしれんを乗り越えるのです。」

 

 「しれん?」

 

 とつぜんのことに、みんなは思わずききかえしてしまいました(それが精霊王のしれんのことなのでしょうか?)。

 

 「あなたたちは、ここで、ほんとうのあなたたちのすがたをあらわさなければなりません。」リーフィがいいました。「そとからの力は、ここではやくに立ちません。マリエルさん、あなたの魔法も、ここでは力をはっきしません。ライアンさん、あなたもここでは、精霊の力をかりることはできません。すべて、あなたたちほんらいの力のみで、このしれんを乗り越えるのです。それが、精霊王に会うための、かぎとなるのです。」

 

 リーフィの言葉に、みんなはとまどいをかくせませんでした。かりものの力やわざは、ここでは使えないというのです。魔法もそとからのエネルギーが大きくかかわりますから、使えません(魔法を使うためには、その場にあるさまざまなエネルギーが必要となるのです。そのそとからのエネルギーを使うことができないというのであれば、また魔法も、使うことはできませんでした)。精霊のくになのに、精霊の力さえもかりられないということでした。そしてロビーの場合は、せいなる剣アストラル・ブレードの力も、どうやら使えないようなのです(それはロビーほんらいの力ではなく、剣の力ですから。ただの剣としてなら、使えるでしょうけど)。

 

 それがほんとうなら、さあたいへん。それでみんなは、いったいどんなしれんに立ちむかわなければならないというのでしょうか?(マリエルやライアンのちびっ子たちなら、力が出せなくても、ふつうに強そうな気もしますが……)

 

 「ロビーベルク。」リーフィが、(ライアンのものになっている)ロビーにいいました。「あなたの力は、ここで、たしかなものとなるでしょう。もう、わたしの力は、必要ないはずです。アークランドのみらいは、あなたにかかっているのです。そして、あなたのお父さんの運命も。」

 

 リーフィの言葉に、ロビーはしゃんとしせいを正しました(ロビーにだきついていたライアンが、あわててわきに飛びのきます。それでもロビーの服のはしっこだけは、つかんでいましたが)。そしてリーフィにまっすぐむきあうと、なみだのあふれた目をごしごしとふいて、しっかりと力をこめて、いったのです。

 

 「リーフィ。ぼくは、リーフィのおかげで、大きくなれたよ。ほんとうにありがとう。」ロビーはそういって、リーフィに深々と頭を下げました。

 

 「そして、今のぼくは、ぼくをささえてくれるたくさんの人たちのおかげで、ここに立っている。かんしゃしても、しきれないくらい。ぼくは、いくよ。ぼくの運命の中に。これからの道は、ぼくと、みんなで、作り上げていくんだ。」

 

 ロビーの言葉に、リーフィはおだやかにほほ笑みました。

 

 「ああ。わたしのやくめは、これで終わりました。」リーフィが静かにいいました。

 

 「ロビーベルク、わたしは、あなたといっしょにすごせて、ほんとうに楽しかった。うれしかった。もう、あなたはだいじょうぶです。あなたのみらいは、アークランドにあるのです。わたしはこのイーフリープから、あなたを見守っていますよ。わたしはあなたを、ほこりに思います。ありがとう、そして、さようなら、いとしいロビーベルク……」

 

 「リーフィ!」

 

 ロビーがさけんだときには、もうリーフィのすがたはありませんでした。ロビーはぐっと、あふれるなみだをこらえようとしました。ですがだめでした。ぽろぽろ、ぽろぽろ……。つぎからつぎへと、とどまることなく、なみだがあふれてきました。

 

 「ぼくがいるから! 泣かないで、ロビー!」その場にくずれこむロビーに、ライアンがいいました。ライアンは、さっきまでリーフィにやきもちをやいていた自分が、はずかしくなりました。ロビーの気持ちが、痛いほどわかりました。ライアンは自分も小さいころ、お母さんをなくしています。今のロビーも、きっとそんな気持ちなんだ。ライアンの目にも、しぜんとなみだがあふれてきました。マリエルも、リズも、みんな、ライアンと同じ気持ちでした。

 

 そして……。

 

 

 ロビーがこのあと、リーフィに会うことは、にどとなかったのです。

 

 

 

 「さあ、いこうよ。」

 

 リズが、ロビーにいいました。ロビーはまだ、かんぜんには気持ちがおさまっていませんでしたが、ここで立ちどまっているわけにはいきません。自分をささえてくれる、みんなのためにも、リーフィのためにも。

 

 見ててね、リーフィ……。ロビーは心の中で、かたくちかいました。

 

 ぼくは、ぼく自身を取りもどす。おおかみの姓のことも、お父さんのことも、ぼくの運命のことも、きっとみんな、なしとげて見せるから……。

 

 そしてロビーは、リズとマリエルにむかってやさしくうなずくと、自分のことをとなりで心配げに見つめるライアンに、笑顔を見せて、いいました。

 

 「ありがとう、ライアン。」

 

 

 「さーて、どれから乗ろうか?」ライアンがいろんな乗りものをきょうみ深げにながめまわしながら、いいました(ロビーがげんきになったので、ライアンもげんきなのです)。

 

 リーフィが去ってしまったあと。みんなはこれからどこへゆけばいいのか? 考えることになりました(リーフィはぐたい的な道のりのことについては、なにも話してはくれませんでしたから。それは自分たちで、考えなければならないことのようなのです)。とにかく、(話しのできるすがたの)精霊王に会って道をしめしてもらわないことには、どうすることもできません(トンネルももう消えてしまっていましたから、帰ることもできませんし)。ですがそのためには、リーフィのいったように、いくつかのしれんを乗り越える必要があるといいました。そのしれんとは、いったいなんなのか?

みんなにはけんとうもつきませんでした(どう見たって、あたりの景色はしれんとはほど遠いほどの、楽しげなものでしたし)。ですからここはひとまず、ライアンみたいに、このゆうえんちにある乗りものやたてものをひとつひとつしらべていくいがい、なさそうだったのです(でもライアンの場合は、ちょっと、もくてきがずれているような気もしますが……)。

 

 「ふーん、木のお馬さんか。」ライアンが、くるくるとまわっているきれいな木の馬たちのことを見て、いいました(これはいわゆる、メリーゴーラウンドでした)。「かわいい王子さまのぼくには、ぴったりだろうけど、ちょっと子どもっぽいなあ。」(じゅうぶん子どもっぽいライアンには、よくあっているような気もしますが……)

 

 「すいすい白鳥ボートに……、へえー、自分で走る、ゴウカアトーだって。こっちは、動物さんたちとあそぼう、ふれあい広場。って、なんにもいないじゃん。」

 

 ぶつぶついっているそんなライアンのことを先頭に、みんなはゆうえんちの中を、あれこれ見てまわります。でもとくにしれんとよべるようなものは、なんにも見あたりませんでした(頭の上を走りまわっているすごいスピードのコークスクリューに乗れというのなら、ロビーにとってはしれんになるかもしれませんが……)。

 

 「あそこに、サーカスのテントがあるぞ。」リズが、道のむこうのテントのことをゆびさしながら、いいました。「中に、くまとかラパルーとかがいて、戦えっていうのかも。それなら、しれんかもな。」(ラパルーというのはヒョウと牛をあわせたような、もうじゅうのことでした。ちなみに、このアークランドにも、サーカスはあったのです。大きなまちには、ていき的にサーカスの一団がやってきていました。)

 

 「そんなたんじゅんなわけないでしょ。まあ、とにかく、いってみましょう。」マリエルがいいました。

 

 

 「こんにちはー。大人二まいに、子ども二まい、くださーい。」ライアンがテントの入り口のカーテンをあけながら、いいました(このアークランドでも、やっぱりサーカスをみるためには、チケットを買わなければなりませんでしたから)。

 

 「子ども二まいってのは、ぼくもはいってるんじゃないだろうな?」マリエルがライアンにつっかかります。

 

 「がらーんどうだな。」中をのぞきこんだリズが、がっかりしたようすでいいました。リズのいう通り、テントの中には、たま乗りのたまひとつ、ころがっていなかったのです。

 

 「やっぱり、ここでもないみたいだ。ほかへいこうぜ。」

 

 と、そのとき……。

 

 

 ういいん、ぎっこん! ういいん、がっこん!

 

 

 な、なになに?

 

 とつぜん、テントのまん中あたりから、おかしな物音がきこえ出しました。みんながびっくりして見てみると……、どこからあらわれたのか? そこにさきほどまではなにもいなかったのに、なにやら人のようなすがたが、あらわれていたのです!

 

 そしてよく見ると、それは人ではありませんでした。全身もも色をした、うさぎ……、いえ、うさぎのすがたをした人形です。それは人と同じくらいの大きさの、ブリキでできた、(ぎこぎこと動く)一体のうさぎの人形でした!(まるで小さなブリキのおもちゃを、そのまま大きくしたかのようでした。)

 

 そのうさぎのブリキ人形は、胸の前に両手で、小さな黒板をかかげていました。その黒板には白いチョークで、なにか書いてあるようです。みんなはおっかなびっくり近づいて、その文字を読んでみました。そこには……。 

 

 

 「しれんの間」

 

 

 ええっ? ここが、しれんの間? サーカステントに、うさぎの人形。なんともしれんとは、につかわしくないような気もしますけど……。でもまあ、もともとこの場所が、しれんとはかけはなれたゆうえんちなのですから、もうなんでもいいでしょう。

 

 「へえー、おもしろいじゃんか。」リズが、「ふふっ。」と楽しそうに笑っていいました。「なにが出るのか? どっからでもかかってきなよ。」

 

 リズがそういったしゅんかん、テントの左右にひかれたカーテンが、ささーっとひらきました。そして……、左からは、大きなくま! 右からはラパルー! それぞれ一頭ずつが、中にはいってきたのです!

 

 これって、さっきリズがいった通りじゃないですか! まさかほんとうに出てくるとは! なんてたんじゅんな……、じゃなくて、相手はけっこうな強さのもうじゅうたちなのです。これはほんとうに、しれんでした。ふつうの人なら、ひええー! といちもくさんに、逃げ出してしまうところでしょう。ですけどこちらは、ひゃくせんれんまのつわものたち。くまやラパルーの一頭や二頭、なんてことはないはずです(ちなみに、このもうじゅうたちはサーカスらしく、頭にピエロのさんかくぼうしをかぶっていて、顔には赤やもも色やきいろで、ハートや星のもようなどがペイントしてありました。といっても、こわさはぜんぜん、変わりませんでしたけど……)。

 

 「ここは、ぼくにまかせてもらいましょう。」マリエルが進み出て、魔法のつえをふりかざしました。つえのさきのもも色のすいしょうを、ぴしっ! と相手につきつけて……。

 

 「ぽわんと、ぷいん、ふぉーむ!」

 

 これは、ねむりのじゅつ。その通り、相手を眠らせるじゅつです。たくさんの相手にはききづらいのですが、相手が動物の一頭や二頭であるのなら、こうかはばつぐんでした。

 

 「これで、戦う必要もないですね……、って、あ、あれー!」

 

 

 「がおるー!」「ごごあー!」

 

 

 マリエルの魔法もなんのその! 二ひきのもうじゅうたちはぜんぜんへいきで、こちらへとむかってきたのです!(たしかにマリエルは、魔法の力をひき出したつもりでしたが!)

 

 「きいてないじゃん! しっかりしてよね、マリー。よーし、それじゃ、やっぱり、ここはぼくが!」ライアンがマリエルのことをおしのけて、前に出ました。

 

 「風の力を、われに! ライアーン……、ウインズ・ブレーズ!」

 

 ライアンがそうさけぶと、おそろしいほどのいりょくの風の剣たちが、もうじゅうたちに、ががーっ! とおそいかか……、りません! それどころか、なんにも起こりませんでした! どういうこと?

 

 「さっき、リーフィがいってたやつかも……」ロビーがふたりのちびっ子たちにいいました。「ここでは、魔法も、精霊の力も、使えないって。やっぱり、ほんとうだったんだ。」

 

 「ほんとに、そうくるー? じょうだんだと思ってたのにー!」ライアンが思わず、そういいます。ライアンはさっきのリーフィの話も、半分信じておりませんでしたから。精霊のくになのに精霊の力がかりられないって、そんなわけないじゃん。でもまあ、ぼくなら、たとえ精霊の力が半分になったとしたって、ぜんぜんよゆうだけどね。ライアンはそう、たかをくくっていました(そのため、ほんとうに精霊の力がかりられないのかどうか? あらかじめためしてみることもしていませんでした。ライアンらしいですね)。

 

 そしてマリエルは? というと、これは「げんじつしゅぎ」の子でしたから、ほんとうに魔法が使えないのかどうか? 自分でじっさいにためしてみて、けっかを自分の目で見てみたいと思いました(マリエルらしいですね)。それでねんのため、(どのルートでこのゆうえんちの中をしらべまわったら、いちばんこうりつがいいのか? たくさんの計算をおこなったあとで)ためしに魔法を使ってみて、ほんとうに使えないのかどうか? たしかめてみようとしましたが、(マリエルの長い計算にしびれを切らした)リズとライアンが(「もうー、さきいっちゃうよ!」と)さっさとさきにいってしまったので、あわててマリエルは、かれらのことを追いかけたのです。ですけどマリエルは、自分の力の強さをよく知っておりましたから、「まあ、ぼくなら、たとえ魔法の力が半分になったとしても、問題はないんだから、わざわざためすまでもないかな」と、そのあとはたかをくくってしまったというわけでした(このように、計算ずくで動いているわりには、ちょっと自信かじょうなところがあって、それでへまをしてしまうというところは、なんともマリエルらしいですね。

 

 ちなみに、すこし説明を加えますと……、魔法というものは、「ちょっとねんじれば、いっしゅんですぐに使える」というわけではないのです。マリエルほどのまじゅつしであっても、魔法を使うときには、どんなにかんたんな魔法であっても、まず「魔法を使うためのせいしんじょうたい」に自分のからだを持っていって、それから「魔法の言葉」をとなえなければなりませんでした。ですからすぐに魔法が使えるかどうか? ぱっとためすというようなことは、できなかったのです。ですからマリエルも、今まであえてためすというようなこともなく、このしれんの間までやってきてしまったというわけでした。でもまあ、いっしゅんでは使えないとはいっても、せいぜい五びょうもあれば、魔法が使えるかどうか? じゅうぶんためせましたけどね。たかをくくってしまっていたことが、わざわいしてしまったというわけなのです。

 

 ところで、マリエルはさきほど、もうじゅうたちに対して眠りの魔法を使ったわけですが、それはマリエルが「使った気になっていた」というだけのことで、じっさいにはなんの魔法の力もはたらいていませんでした。マリエルはあまりにもあたりまえに魔法の力を使っておりましたので、自分のからだが「魔法を使うためのせいしんじょうたい」になったかどうか? なんていうことは、いちいち気にするまでもないことだったのです。ですからマリエルも、じっさいに魔法の言葉をとなえてみるまで、魔法の力がはたらいていないということに気がつきませんでした。以上、説明終わり!)。

 

 さあ、ほんとうにたいへん。ふたりのさい強なちびっ子たちが、ほんとうにその力をはっきできないのです! ノランべつどう隊、あやうし! ですが……。

 

 ノランべつどう隊は、このふたりのちびっ子たちだけではないのです。さて、このあたりで、いよいよ、この人にもかつやくしてもらうとしましょう。それは……、そう、リズのことでした(すいません、ロビーのかつやくは、もうすこしあとで……)。

 

 「やれやれ、ここは、おれの出番みたいだな。」

 

 リズが「ふう。」と息をついて、前に進み出ました。でも待ってください。いくらリズがシルフィアで、強力な精霊パワーが使えるといっても、それはあくまでも精霊の力。ライアンのときみたいに、また精霊の力は、ふうじられてしまうのではないのでしょうか?

 

 いいえ、リズはライアンのように、「そとからかりた精霊の力」を使うのではありません。リズは、リズの中にひめられている、「自分の精霊の力」だけで戦うのです(ここがシルフィアのすごいところなのです。シルフィアの精霊パワーは、そのからだの中にもともとそなわっているものなのであって、そのためその力は、かりものではない、自分自身の力として使うことができました。なんだかちょっと、ずるいような気もしますが……、やっぱりすごい)。リーフィも、いってましたよね。ここではすべて、あなたたちほんらいの力のみで、しれんを乗り越えるのですと。リズの力は、まさにその、「自分ほんらいの力」でした!

 

 さてさて、リズはいったい、どんな精霊パワーでもって、どんな戦いのわざをくり出そうというのでしょうか?(まさか、精霊パーンチ! とかいって、すででなぐるとか? 精霊のたつまきでこうげき! というのも、ライアンとかぶってしまいますから、おもしろくありませんし。いや、べつに、かぶるとかおもしろいとかの問題じゃ、ないんですけど……)

 

 でも(もう一回)待ってください。いくら強力な精霊の力をそのからだの中にひめているのだとしても、リズの武器は、ほんらい剣であるはずです。もと剣じゅつしなんやくですもの。ですからここはやっぱり、剣を使った方がいいんじゃないでしょうか? と思いましたけど……、ここでわたしは、だいじなことをひとつ忘れていました。今のリズは、自分の剣を持っていないのです!(リズの剣は今、リズの家の床の上に、ほこりをかぶってころがっていましたから。ロビーたちもその剣をわざわざ、持ってこなかったのです。重いですから……)ロビーの剣をかりるという手もありましたが、「ここは、おれの出番みたいだな。」といってまで、さっそうと剣も持たずに前に進み出たというのに、またうしろにもどって、「やっぱりロビー、その剣貸して。」などというのも、なんだかかっこ悪いですし……(いや、べつにかっこ悪いとかの問題じゃ、ないんですけど……)。

 

 ですからやっぱり、リズにはなにかほかの考えがあるみたいでした(まさかほんとうに、自分が剣を持っていないということに、気づいてないわけじゃないでしょうから)。じゃあやっぱりここは、精霊パワーで戦うんですね、って思いましたが……、じつはリズの武器は、それだけではなかったのです(なんどもすいません)。

 

 リズには(剣と精霊パワーのほかにも)もうひとつ、強力な武器がありました。それは今のリズが、「すべてをささげる!」といってまで、のめりこんでいるもの。「世界の人たちのために、自分のできるいちばんふさわしいことをしたい」といって、剣をすててまで、その身をささげている、あるものだったのです。

 それは……?

 

 音楽!

 

 そう、リズは音楽にすべてをささげるために、人里はなれたぶっそうな山の中に住みはじめたのです。自分には剣よりももっと、人々のやくに立てることがあるんじゃないか? リズにとって、それが音楽でした。

 

 自分の作った曲で、世界中のたくさんの人たちのことをげんきにし、勇気づけ、助けることができる。こんなにすばらしいことはない。リズはそう思って、音楽にうちこみはじめたのです。もちろん、剣のわざをみがいて、それで人々のことを助け、はげますことも、またそれを見ききした世界中のたくさんの人たちの心を動かし、勇気づけることができるでしょう。人々のことをすくう道には、さまざまなものがあるのです。その中でリズは、音楽が自分にいちばん、むいていると思いました(いいかげんなようでいて、あんがいしっかり考えているんですね! リズのことを、だいぶ見なおしてしまいました。よーし、わたしも本を通してみんなをげんきづけられるように、がんばるぞ!みんな、げんきになってー!)。

 

 「青がみのぎんゆう剣士」。いつしかリズにつけられた、通り名です(青がみとは、青いかみの毛という意味です。リストールも青がみでしたよね)。音楽をかなでながら物語を語ってきかせる、ぎんゆうしじん。リズの場合は、それに剣が加わるのです。それで、ぎんゆう剣士。なんともリズにぴったりな、いえ、リズだけにあてはまる、とくべつなよび名じゃありませんか。

 

 リーフィのいった、「自分ほんらいの力のみで、しれんに立ちむかわなければならない」という言葉。ここでいう「ほんらいの力」とは、自分自身のみの力。自分ひとりで出すことのできる力のことなのです。精霊使いのわざや、まじゅつしの魔法の力は、そとからのたくさんの助けによってなり立っていますから、自分自身だけの力というわけではありません(精霊のわざはそのまま精霊の力をそとからかりるわけですし、魔法はその場にあるしぜんのエネルギーをかりるわけなのです。ですから自分自身だけの力というわけではありませんでした。ちょっと、ややこしいですけど)。それに対してリズの音楽の力は、まぎれもなく、そとからの精霊の力でも魔法の力でもない、リズ・クリスメイディンの力でした。そしてどうやらリズは、この音楽の力でもって、戦いにのぞもうとしているようなのです。でも音楽の力で戦うっていわれても、なんだかぴんときませんけど……、いったいそれでどうやって、戦おうというのでしょうか?(そもそも音楽って、戦うためのものじゃないし……)

 

 

 「いくぜ、イー・マイナー・セブン!」

 

 

 リズがさけぶと……。

 

 なんと、リズの左手から、青白く光りかがやく光の剣があらわれました!(ちょっと! そんなことができるんだったら、はじめからいってよ!)これはリズ自身の精霊エネルギーを、剣のかたちに変えたものでした(シルフィアって、こんなことまでできちゃうんですか!)。いわばこの光の剣は、リズのからだの一部だったのです!

 

 そしてよく見ると、その剣はちょっとおかしなかたちをしていました。剣みたいでしたが、そのやいばの上に、なん本ものほそい「げん」が張ってあったのです(全部で六本あるようでした)。これは……、がっきじゃありませんか! つまりこれは、がっきの剣。もっとはっきりいえば、みなさんの世界でいうところの、ギターの剣だったのです! う~ん、なんだか、すごいような、すごくないような……。やっぱりすごいかな。

 

 ファンタジーの世界ですから、それはほんとうはギターではなくて、リュートという、ギターみたいながっきでしたが、それでもこれはただのリュートではありません。いうなれば、エレキギターならぬ、エレキリュート! リズの音楽パワーがそのリュートの中にぎゅいんぎゅいんひびいて、それをひくリズの手によって、こせい的で力強い音色が、そこからくり出されるというわけでした。そしてその音色の力強さこそが、そのまま戦いのエネルギーとなって、リズのこの光の剣の強さとなっていたのです(音楽の力で戦うって、そういうことなんですね! ようするに、このがっきの剣から出る音楽の音色の力を、戦いのエネルギーに変えて、敵をこうげきするということのようなのです。これは、強いはずです! なにしろシルフィアの精霊パワーと、剣じゅつしなんやくの剣のわざと、音楽家としての音楽の力が、すべてこのいっぽんの剣にしゅうけつしていましたから!)。

 

 

   でゅるり、でゅるり、でゅるり、でゅるり、でゅるりーん! 

 

   ぴらり、ぴらり、ぴら、ぴらり、ぴらり、ぴら、ぴらりーん!

 

 

 リズのギターソロ!(リュートソロ?)う~ん、かっこいい! って、ききほれてる場合じゃありません。二ひきのもうじゅうたちが、目の前にせまってきていましたから!(そうでした! もうじゅうのことなんて、すっかり忘れてしまっていましたね!だいぶ説明が長くなってしまいましたから……。本を書くのって、たいへん!)

 

 「エネルギーはもう、じゅうぶんだ。待たせたな!」

 

 リズがえんそうをやめて、リュートの剣をかまえました!(どうやらエネルギーをためるために、ソロをひいていたみたいですね。このように力強い音色をこの剣にためていくことで、この剣はどんどん強くなっていくそうです。やっぱりずいぶんと、変わった剣です。ちょっと、めんどくさい?)

 

 「とき放て! ミンストレル・シュリルサウンド!」 

 

 

   ぶいんぶいん! ぶいんぶいん! どっごお~ん!

 

 

 リズの剣から、大きな、かまのようなエネルギーがふたつ! くまとラパルーにむかって飛び出していって……、大ばくはつ!(なぜ、ばくはつするんでしょうか……?)サーカステントの中は、土ぼこりと白いけむりで、いっぱいになってしまいました(いつものパターンです)。

 

 ごほんごほん!

 

 しばらくたってから、ようやくけむりがひくと……。

 

 そこにはくまとラパルーのすがたはなく、かわりに地面に落ちていたのは……、小さなかわいい、くまのぬいぐるみと、ラパルーのぬいぐるみ! そう、じつはこれこそが、もうじゅうたちのしょうたいでした!(さすがは、なんでもありのイーフリープですね。)

 

 「かわいそうだから手かげんしてやったのに、人形だったのかよ。これなら、ほんきでぶっ飛ばしてやればよかったな。」リズが、やれやれといった感じでいいました。こ、これで、手かげんしてたですって? リズもふたりのちびっ子たちに負けないくらいの、おそろしい強さです!(音楽パワー、おそるべし!)

 

 さて、これでぶじに、(ぬいぐるみの)もうじゅうたちをやっつけたわけです。精霊王に会うためのしれんは、これで終わったのでしょうか?

 

 

 いえいえ、どうやらそんなわけには、まだいかないようですよ。

 

 

 テントのむこうのかべにまで吹っ飛ばされてしまったブリキのうさぎが(そういえば、うさぎもいましたね。リズのパワーで、いっしょに吹っ飛ばしてしまったみたいです。ごめんね)、ぎっこんがっこんと音を立てて、またこちらに歩いてきました(よかった、こわれてなかったみたいですね)。そしてうさぎは胸の前に持っている黒板をみんなにむけて、それをくるりとうらがえしたのです。そこには……。

 

 

 「ラウンド・ツー」

 

 

 やっぱりきました、ラウンド・ツー! わたしもこれだけでは、終わらないと思っていました! さあ、こんどはどんなもうじゅうが出るんでしょうか? やっぱりサーカスだから、ライオン? それとも、トラでしょうか?

 

 みんなが、こんどはなんだ? と思っていると、テントの中のすべてのカーテンが、さーっとひらいていって……。

 

 

   がちゃんがちゃん、がちゃんがちゃん!

 

 

 あっちからも、こっちからも! ブリキでできたうさぎのたいぐんが、その手に(長さが二フィートほどもある)ふとくて大きなにんじんをいっぽん、にぎりしめて、こっちにむかってきたのです! その数はどう見ても、百体以上! ひ、ひええー!

 

 「ちょ、ちょっと! こんなの、きいてないよ!」ライアンが身がまえて、思わずさけびました。

 

 「やつらみんな、目がほんきだぞ!」マリエルも手にしたつえをかまえて、ライアンにつづきます。

 

 もも色や、赤いのや、青やきいろ。さまざまな色をしたブリキのうさぎたちが、マリエルのいう通り、目を血走らせて(ブリキですから、ほんとうはペンキでそのように、えがかれているだけでしたが)、上からもうしろからもおそいかかってきました! しかもみんな、手にしたにんじんのかたちをしたこんぼうを、ぶんぶんふりまわして!(こ、これはこわい! 夢に出そうです!)

 

 今やまわりは、うさぎだらけ! かんぜんにかこまれてしまいました(しかもこのうさぎたちは、びっくりするほどすばやいのです!)。出口もすでに、うさぎでうめつくされています。もうこうなったら、やるしかない!

 

 「相手にとって、ふそくはないぜ!」リズがさけびました。「こんどは、ほんきのサウンドをきかせてやる!」

 

 「ぼくだって、こんなうさぎの、百ぴきや二百ぴき!」ライアンがつづけていいました(精霊の力が使えないんですから、あんまりむりしない方が……)。

 

 「しかたありません。ふりかかる火の粉は、はらわねば!」マリエルもさらにつづきます(魔法の力が使えないんですから、あんまりむりしない方が……)。

 

 「ぼ、ぼくも、この剣で戦うよ!」ロビーも、腰の剣アストラル・ブレードをぬいて、うさぎたちにむかいました。魔法や精霊の力が使えないふたりのことは、ぼくが守ってあげなくちゃ!(リズの方は、自分の助けがなくてもだいじょうぶそうでしたから。ちなみに、前にもちょっといいましたが、剣の力もここでははっきされませんので、今はせいなる剣も、ただの剣として使うしかないのです。)

 

 

 せんとうかいし!

 

 

 もうつぎからつぎへと、にんじんが飛びかってきます!(見た目はかわいいのですが、その力のおそろしいこと! にんじん、おそるべし!)リズはかたっぱしから、そのリュートの剣で敵を切りふせていきましたが、なにしろ数が多すぎました。さっきみたいに、ひっさつわざのパワーをためているひまが、ぜんぜんありません。ですからリズは、「めんどうだ! まとめて相手になってやる! 早びき、リフ・ウインズ!」目にもとまらないほどの早わざでリュートをひいて、小さなエネルギーをつぎつぎと飛ばし、うさぎたちをぼんぼん吹き飛ばしていきました(いろいろとべんりですね、音楽って。ほんらいの使い方じゃないでしょうけど……)。

 

 そしてロビーだって、負けてはいられません。せいなる剣をにぎりしめ、にがてながらも、せまりくるうさぎたちにえいえいと切りつけていったのです(それを見ていたリズに、「ロビー! もっと腰を落とせ!」とか、「足を使えるようにしろ!」とか、いろいろいわれてしまいましたが。さすが、もと剣じゅつしなんやく。やっぱり剣のことにかんしては、口をはさまずにはいられないようですね。でもリズさんも、そんなよゆうはないんじゃ……)。

 

 しかしうさぎたちは、まだまだおそいかかってきます(あとからも、ついかであらわれたのです。ずるい!)。ロビーはリズの背中を守って戦っていましたが……、しかくになっていた上空から、一体のうさぎがロビーめがけて、ぶーん! にんじんをふりおろしました! あぶない! 

 そのとき!

 

 

   ひゅっ……、ががん!

 

 

 なにかが目の前を横切ったかと思うと、大きな音とともに、ロビーの頭の上にいたうさぎの人形が、ばらばらにこわれて地面に落ちてきました! な、なにが起きたの?

 

 ロビーの目の前に、そのなにかが、上からしゅたっとおり立ってきました。そこに立っていたのは……。

 

 「マリエルくん!」

 

 ロビーがびっくりしていいました。そう、そこには、つえをかまえて「ふう。」と息をついている、マリエルのすがたがあったのです! これは、いがい! 魔法を使えないマリエルは、ライアンといっしょに、うさぎから逃げまわっているものとばかり思っておりましたのに!

 

 「あぶなかったですね、ロビーさん。上にも気をつけてください。」マリエルがれいせいな顔をして、せまりくるうさぎたちにびしっとつえをかざしながら、いいました。

 

 「いい忘れましたが、ぼくのぼうじゅつは、ノランおししょうさまじきでんです。安心してください。魔法が使えなくても、ぼくは強いんですよ。」

 

 「あ、そ、そうなの?」マリエルの言葉に、ロビーがめんくらってこたえます。

 

 「それは、心強いね……」

 

 せまりくるうさぎたちを、つえで、がん! がん! なぎたおしていくマリエルのことを見て、ロビーは安心しつつも、「やっぱりマリエルくんって、いろいろすごい……」とひとり思いました。

 

 

 「ちょっと、ロビー! ぼくだって! 見てよ!」

 

 

 ライアンの声がして、ロビーが、えっ? と見てみると……。

 

 「とりゃー! せい!」

 

 ライアンが、せまりくるうさぎたちのにんじんをうででぱぱっとふりはらい、そのいきおいをりようして、ぶーん! うさぎたちをつぎつぎと、テントのいちばんむこうはしにまで、かるがると投げ飛ばしていたのです!(そしてかべにげきとつしたうさぎの人形たちは、またしてもばらばらになって、こわれてしまいました。つ、強い……)

 

 「いちおうぼく、ごしんじゅつなら、なんでも使えるから。まかせてよね。せやー!ひっさつ、うらひつじ投げー!」

 

 つぎつぎとうさぎの人形たちをばらばらにはかいしていく、ちびっ子たち。ああ、まったく、このふたりのことは心配するまでもありませんでしたね……。

 

 「ふん。あまく見たようだな。」うさぎたちに、マリエルがいいました。

 

 「そのていどの動きで、ぼくに勝てるつもり?」ライアンが「ふふん!」と鼻をならして、マリエルにつづけました。 

 

 そして……。

 

 「かわいいからって……」

 

 ふたりのちびっ子たちはそろってそういうと、つえやゆびをうさぎたちにびしっ! とつきつけて、ポーズをきめていいました。

 

 「なめないでよね!」

 

 

 

 「やれやれ。ずいぶん多かったな。」

 

 「ふう、ふう。」と息をととのえながら、リズがいいました。さすがのリズでも、これだけの数を相手にするのは、たいへんだったようです(うさぎたちのうちの七わりくらいは、リズがやっつけましたから)。

 

 「あとかたづけが、たいへんだね。ま、いいけど。」ライアンが、もはやぽんこつになったうさぎ人形の部品の山をつっつきながら、つづけました。

 

 「それより、これで、しれんは終わりなのかな?」ロビーがそういいます。そう、この戦いは、あくまでも、精霊王に会うために必要だというしれん。もしこのしれんが力をしょうめいするためのものであるのだとしたら、もうじゅうぶん強さははっきしましたし、これで精霊王も、会ってくれるんじゃないでしょうか?

 

 こんどは、どうなるんだ? みんながあたりを見まわしていると……。

 

 ぽんこつのうさぎ人形の山の中から、がらがらと音がして、はじめにあらわれたあのもも色のうさぎが一体、立ち上がったのです(立ち上がったといっても、半分部品の山にうもれて、かたむいたままでしたが……)。そしておなじみ。あの黒板の文字は……。

 

 

 「おくにお進みください。おくにお進みください。」

 

 

 やれやれ! ようやく、このテントから出られるようですね! そして黒板には文字といっしょに、白い矢じるしも書いてありました(その矢じるしはテントのてんじょうをむいていましたが、それはただ、うさぎがまがって立っているからでした)。どうやら、テントのおくのつうろをさししめしているようです。

 

 みんなが用心して、そのつうろを進んでいくと……。

 

 つうろは、テントの出口につながっていました。明るい光がぱあっとふりそそぎます。そとに出ると、そこには古ーいぼろぼろのやかたがいっけん、たっていました。かべにはつたがからんでいて、いかにもおばけが出そうといった感じのたてものです。やかたのまわりにはたくさんのお墓がならんでいて、このやかたをよりいっそう、ぶきみなものに見せていました。

 

 ですが……、かんじんのまわりの景色が、ゆうえんちです! お空もまっ青! 飛びかう風船、楽しげな音楽。ですからこのおやしきも、そのせいでちっともこわく見えませんでした。

 

 そしてよく見ると、お墓の石も、たてものも、ほんものの石でできているのではなかったのです。にせものの石で古く見えるようにつくられた、見た目だけのつくりものでした! つまり、このたてものは?

 

 

 ゆうえんちには、これまたよくあるしろもの。

 

 そう、おばけやしきです!

 

 

 「ここへはいれ、ってことか?」リズが、おばけやしきの前に立っていたひとつのかんばんをさししめしながら、みんなにいいました。そのかんばんにも、さっきのうさぎの黒板と同じように、「こちらにお進みください。こちらにお進みください。」という言葉が書いてあったのです。

 

 「おばけやしきか。」ライアンがいいました。「なかに、なーにがいるんだろうね?フェリーがいたら、もっとおもしろくなるんだけどなー。」

 

 ライアンはそういって、「うふふ。」と悪ーい笑い方をします(たぶんフェリアルのことをからかう、新しいアイデアでも思いついたのでしょう。なにを考えているんだか……。

 ちなみに、このアークランドにもやっぱり、おばけやしきというものはありました。夏のおまつりのときなんかには、たびたびあらわれたのです。こわさですずしくする。どこの世界でもにたようなことが考えられているんですね)。

 

 「まあ、なにがきたって、ぼくたちの敵ではなさそうですね。」マリエルが、つえをかまえていいました。「今までのデータから考えれば、ここも、ぼくたちが力をあわせれば、問題はないでしょう。」(いかにもマリエルらしい。)

 

 「じゃあ、さっさといこーぜ。」リズがあっけらかんとしたいい方でそういって、すたすたとたてものの入り口にむかって歩いていってしまいました。

 

 「み、みんな、おばけとかだいじょうぶなの?」ロビーがあわててみんなのあとを追いかけながら、そういいます。「おばけには、今まで、ろくな目にあわされてこなかったよ?」

 

 ロビーのいう通り、おたまじゃくしのかいぶつや、たましいをうばう影のおばけ(かれらはほんとうは、おばけとはちがいましたが、まあ、にたようなものですから)。おばけには今まで、ろくな目にあわされていませんでしたから、ロビーの心配はもっともでした。

 

 でもこのノランべつどう隊にかぎっては、おばけなんて、さっきのうさぎとたいして変わらないようなものでした。ライアンは、(かわいいわりには)きもがすわっていますし、「おばけが出たら、びんにつめて持って帰ろうっと。」などといっております。リズは、「べつに、なんでも同じだろ」といった感じですし……。マリエルにいたっては、「おばけなんてものは、われわれがかってにそうよんでいるだけなのであって、じったいは、ただのせいしんエネルギーにすぎません。せいしんエネルギーに意志がやどったとしても、なんのふしぎもありませんよ。」といつものちょうしでした(いかにもマリエルらしい)。

 

 「へいきへいき。早くいくよ、ロビー。おてて、つないでってあげよっか?」ライアンがにこにこ笑って、そういいます。ロビーはそんなライアンにひっぱられながら、「う~ん……」とうなるばかりでした。

 

 

 「おじゃましまーす。おばけさん、いませんかー?」ライアンがまっさきに入り口の門をくぐってから、いいました。

 

 「こんどは、がいこつでも出てきて、黒板を持ってるのかもな。」リズがあたりをきょろきょろとながめやりながら、つづけました。

 

 ですが、あたりはしーんと静まりかえっていて、なんの物音もしません(どうやら中には、だれもいないようでした。すくなくとも、生きている者は)。

 

 門をくぐると、そこは小さなげんかんホールになっていて、左右に暗いろうかがそれぞれいっぽんずつ、のびていました。かべにはろうそくがいっぽんかかっていて、あたりをぼんやりとてらしております。さて、どうしましょうか?(右に進む? 左に進む? それともここで、アイテムを使う?)

 

 「やっぱり、チケットがないとだめなのかな? 大人二まいに、子ども二まい、おねがいしまーす。」ライアンがいいました(このアークランドでも、やっぱりおばけやしきにはいるためには、チケットを買わなければなりませんでしたから)。

 

 「子ども二まいってのは、ぼくもはいってるんじゃないだろうな?」すかさずマリエルが、つっかかります(さっきと同じですね……)。

 

 すると、びっくりすることが。かべにかかっていたろうそくのほのおが、とつぜん、ぼぼぼ……、と小さな音を立てて動き、それが矢じるしのかたちに変わったのです!(なかなか、こったしかけですね!)

 

 「こっちだってよ。」リズが矢じるしのむいた方(左のろうかでした)をゆびさしながら、いいました。「危険はなさそうだし、いってみようぜ。」

 

 「こら、そんなにかんたんにしんようするのは、あぶないぞ。」マリエルがいいましたが、リズとライアンは、もうすたすたと、ろうかを歩いていってしまいます(なんだか、こんなパターンばっかりですね)。しかたなく、マリエルとロビーも、そのあとを追っかけていきました(ちなみに、はんたいがわの右のろうかのさきはどうなっているのか? というと、そのさきはいきどまりになっていました。ほんらいこういうおばけやしきにはかかりの人がいて、お客さんのことをあんないするものなのです。この場合では、「おやおや、おばけのほのおが、みなさんのことを、左のろうかにあんないしていますよー……」なんて、説明するところでしょう。そのため、あんないする必要のない右のろうかのさきは、作られていませんでした。お金もかかりますしね)。

 

 そしてみんなが、暗いろうかをしばらく進んでいくと……。

 

 「あれ? いきどまりか?」リズが急に立ちどまって、いいました。

 

 そこはまるい広間になっていて、かべにはどこにも、とびららしいものはありません。

 

 「あれー、おかしいなー。」ライアンが、かべをぺたぺたさわってしらべていると……。

 

 「うわっ!」

 

 手がするりとかべをつきぬけて、ライアンはそのまま、かべのむこうにばたーん! たおれこんでしまいました!

 

 「いててて……。なんだよ、もうー!」

 

 どうやらこのかべは、まぼろしのかべのようでした(ここもほんらいは、かかりの人がお客さんをかべのむこうまであんないするところなのです)。おばけやしきでおばけのかべをすりぬける、「おばけたいけん」といったところでしょうか?(なかなか、こったしかけですね。)

 

 「やれやれ、ちょっと考えれば、すぐにわかることじゃないか。」マリエルがあきれたようすで、ライアンにいいました。「ここに書いてあるよ。『ここは、おばけのかべ。目に見えるものばかりがしんじつではない』。まったく、子どもだましのトリックだね。」

 

 マリエルのいう通り、ライアンのたおれこんだそのかべの上に、古びた(ように見せてある)木のプレートがひとつついていて、そう書いてあったのです。すたすたとかべをぬけてくるマリエルに、ライアンがぷんぷんいいました。

 

 「それ、さきにいってよ!」

 

 

 かべをぬけたさきは、またしても暗いろうかになっていました。あちこちにかんおけが立てかけてあって、いかにも中から、ミイラ男でも飛び出してきそうなふんいきです。が……。 

 

 なーんにも出ません。

 

 ライアンがいくつか、かんおけのふたを(「せりゃー!」と)あけてのぞきこんでみましたが、中はみんな、からっぽでした(ここもやっぱり、ほんらいはおばけやくの人がこのかんおけの中にはいってお客さんをおどかすといったぐあいでしたが、さきほどから、このおばけやしきの中にはだーれもいませんでしたから、このかんおけもやっぱり、からっぽだったのです。ちょっとざんねん?)。

 

 「つまんないなあ。さっきから、なんにも出ないじゃん。やる気あるの?」ライアンがぶーぶー、もんくをいいました(やる気といわれても……)。

 

 「なんにも出ない方がいいよ。それより、しれんって、いったいなんなんだろう?」ロビーがあたりのようすをきょろきょろ見まわしながら、つづけました。

 

 「こんどは、おばけが五百ぴき、とかか? めんどくさいぞ、そんなの。」リズが「ふう。」とため息をついて、そういいます。

 

 「どうやらここが、もくてきの場所のようですね。」とつぜん、マリエルがいいました。みんなが「えっ?」といって、見てみると……。

 

 ろうかのさきに、入り口のとびらのない、四かくい小さな部屋がひとつあって、その入り口のアーチの上に、さがしていた言葉が書いてあったのです。

 

 

   「さいごのしれんの間」

 

 

 「やっとついたか。」リズが「ふふん。」と鼻をならして、いいました。どうやら、気あいはじゅうぶんのようです。

 

 「さいごだって。これでようやく、精霊王に会えるみたい。」ライアンがわくわくしていいました。

 

 「でも、おかしなことが書いてあるよ。」

 

 ロビーがそういってゆびさした方を、見てみると……、部屋の中にひとつだけあったとびらの上に、またしても古びた(ように見せてある)木のプレートがひとつついていて、そこには、こんなことが書いてあったのです。

 

 

   「きょうふの部屋。ひとりずつはいること。」

 

 

 きょうふの部屋? なんだかこわそうな部屋です(しかも木のプレートの両がわには、けらけら笑う、がいこつのかざりがひとつずつ、つけられていました)。いよいよ中に、おそろしいおばけでも待ちかまえていて、おそいかかってくるとでもいうのでしょうか? 

 

 部屋のすみには木のつくえがひとつあって、つくえの上には紙が山づみになっていました。その紙には、まるい金色のわっかが大きくひとつえがかれていて、そのわっかの上に書いてあった言葉は……。

 

 

   「勇者のあかしのスタンプ」

 

 

 さらに、つくえに取りつけられた、ひとつの金色のきんぞくのプレートには、こんな言葉が。

 

 「きょうふの部屋の中に、スタンプ台があります。きょうふの部屋では、あなたは、おのれのきょうふにうち勝たなければなりません。きょうふにうち勝って、スタンプをおしましょう。スタンプをおせたら、すてきなプレゼントがもらえるぞ!」

 

 つまり、そういうことみたいですね。この紙を持って、ひとりずつきょうふの部屋にはいる。そこでスタンプをおして、ここにもどってこられたら、かかりのおねえさん(たぶんおねえさんなような気がします)にそれを渡して、プレゼントをもらって、このおばけやしきもクリアー! ということらしいのでした。う~ん、やっぱり、しれんというよりは、ゆうえんちのアトラクションといった感じですね(もともとゆうえんちのアトラクションなのですから、とうぜんですが)。

 

 でも忘れてしまいそうですが、ここはただのゆうえんちではないのです。精霊王のふしぎのくに、イーフリープなのですから。そんなにかんたんに、いくのでしょうか……?

 

 「あはは、笑っちゃうね。」ライアンが、思わず笑っていいました。「これが、さいごのしれん? これこそ、子どもだましじゃない。」

 

 ライアンはそういって、つくえの上から紙をいちまい、ぱっとつかみます。

 

 「こんなの、さっさとやっちゃおうよ。ひとりずつらしいから、ぼくがいちばんにいくよ。」

 

 「ふんふん。」と胸を張って、ライアンがまっさきにとびらにむかいました(やっぱり。ライアンがいちばんにいくと思いました)。

 

 「ほ、ほんとにだいじょうぶ?」ロビーが心配してたずねます。

 

 「なにが出るか? わからないんだぞ。ここは、みんなでいった方がいい。」マリエルがれいせいにぶんせきして、いいました。

 

 「だーいじょうぶ、だいじょうぶ! ぼくをだれだと思ってるの? 二十びょうでもどってくるよ。」

 

 そういってライアンは、さっさととびらをあけて中にはいっていってしまいました(どきょうがいいというか、なんというか……)。とびらがばたん! といきおいよくしまります(これは自動的にしまるしかけのようでした)。

 

 そしてそれから、すこしたって……。

 

 

 「みぎゃー!」

 

 

 とつぜん! とびらの中からライアンのひめいが! しかも、今までにきいたこともないようなひめいです!(みぎゃー! なんて、ふつうのライアンがいうはずもありません!)

 

 「どうした!」

 

 みんながとびらにかけよります! ですが……。

 

 とびらがひらきません!

 

 「おいっ! どうなってるんだ!」リズがとびらをばんばんたたいて、ののしりました。

 

 「ぼくの魔法が使えれば! こんなとびらなんか、かんたんにあけられるのに!」マリエルがこぶしをにぎりしめて、くやしそうにいいました。

 

 「ライアーン!」ロビーはなんども、ライアンの名まえをよびつづけます。

 

 

 そしてなすすべもないまま、それからしばらく時間がすぎて……。

 

 

 ぎいい……、とびらがひらきました! そして中から……、よろよろになったライアンが出てきたのです!

 

 よかった! どうやら、けがはしていないようです。しかしかなり、すいじゃくした感じでした。いったい、なにがあったというのでしょう?

 

 「ライアン! だいじょうぶ?」ロビーがかけよって、たおれこむライアンのことを受けとめました。ライアンは目もうつろで、放心じょうたいです。

 

 「なにがあったの!」

 

 ロビーのといかけに、ライアンはようやく、小さな声でこたえました。

 

 「あはは……、へいきへいき……。なんでもないよ……」

 

 ライアンはそういって、にぎりしめていた紙をロビーに見せます。

 

 「ほら、スタンプ、おしたよ……。みんなも早く、中に、はいりなよ。ぜんぜん、たいしたこと、ないから。だいじょうぶ、危険は、ない、よ……」

 

 ライアンはそこまでいうと、目をとじて、がくっと力を失ってしまいました。

 

 「ライアーン!」ロビーがゆさゆさと、ライアンのからだをゆさぶります。ま、まさか!

 

 「いたた……、生きてるってば。」ライアンが目をあけて、いいました(びっくりさせないでよ、もう!)。

 

 「それより、早く、スタンプ、おしてきちゃいなよ。これが、しれんみたいだし。みんなおせたら、起こしてよ、ね……」

 

 「寝たな。」

 

 すーすー寝息を立てはじめるライアンのことを見て、リズがいいました。

 

 「いったい、中に、なにがあるってんだ?」

 

 「でも、どうやら、危険なものではないみたいですね。」マリエルがこたえます。「こんなに弱りきっているところを見ると、なにか、せいしん的なこうげきを受けたのかもしれません。それが、きょうふということなのかも。」

 

 「よし、ここは、ぼくがたしかめてきます。」マリエルがそういって、つくえの上から紙を取りました。

 

 「どうやら、ここにはいれるのは、いちどにひとりだけらしい。どのみちみんな、はいるんだったら、ぼくがさきに中をたしかめてきた方が、こうりつがいいでしょうね。」

 

 マリエルらしいりくつでしたが、ほんとうにだいじょうぶなんでしょうか? 

 

 「ぼくは、自分の感じょうをれいせいにぶんせきすることができます。きょうふなんて、ぼくには通じませんよ。だいじょうぶです。」

 

 マリエルはそういって、とびらにむかいました(「感じょうをれいせいにぶんせき」というわりには、よく怒っているような気が……)。とにかくここは、マリエルにまかせるほかはないようです。

 

 「マリエルくん、気をつけて!」ロビーの言葉に、マリエルはにこやかにうなずいて、とびらの中へとはいっていきました。

 

 そしてそれから、すこしたって……。

 

 

 「ぴぎゃー!」

 

 

 とつぜん! とびらの中からマリエルのひめいが! しかも、今までにきいたこともないようなひめいです!(みぎゃー! なんて、あのマリエルがいうとは信じられません!)

 

 「どうした!」

 

 みんながとびらにかけよりますが、やっぱりとびらは、ぴくりともしませんでした。まったくもって、さっきとおんなじです! 

 

 

 そしてなすすべもないまま、それからしばらく時間がすぎて……。

 

 

 ぎいい……、とびらがひらきました! そして中から……、よろよろになったマリエルが出てきたのです! 

 

 よかった! どうやら、けがはしていないようです。しかしかなり、すいじゃくした感じでした(まったくもって、ライアンとおんなじでした)。そしてライアンとは、ちがうところが。それはマリエルの服やズボンが、よれよれになっているというところでした。しかも服のボタンが、ところどころ、はずれていたのです(いったいこれは?)。

 

 「マリエルくん!」ロビーがさけびました。ライアンをかかえているので、かわりにリズが、マリエルのもとにかけよります。

 

 「おい、だいじょうぶか?」リズが、たおれこむマリエルのことを受けとめながら、いいました。マリエルは目もうつろで、放心じょうたいです(まったくもって、ライアンとおんなじです)。

 

 「なにがあった?」

 

 リズのといかけに、マリエルはようやく、小さな声でこたえました。

 

 「ふ、ふふ……、へいきですよー、ぼくは、へいきですよー、なんてことありませーん……」

 

 「ぜんぜんだめじゃんか、おまえ。」リズがいいました(リズのいう通り、どうやらだめっぽいですね……)。そしてマリエルのその手には、ライアンと同じように、スタンプのおされた紙がにぎりしめられていたのです。

 

 

 しかし、あのマリエルまでもが、こんなことになるなんて!

 

 まったくもって、このきょうふの部屋、あなどれません!

 

 

 でもじゅんちょうとはいえませんでしたが、これでふたりが、このきょうふの部屋のしれんをとっぱしたわけです。残りは、リズとロビーのふたり。やっぱりここは、かれらも、このしれんをさけて通るというわけにはいかないようでした。

 

 「よし、つぎは、おれがいってやる。」リズが「ふん!」と鼻をならして、いいました。「おれは、こいつらのようにはいかないぜ。」

 

 「リズさん、気をつけて!」

 

 ロビーのせりふがはいって、これで三人目。

 

 そしてとびらがばたん! としまって、しばらくしたころ……。

 

 「待て! 待て! やめろ! うわああー!」

 

 とびらの中から、リズのさけび声が! またです! もう、なにがなんだかわかりません!

 

 そしてまた、しばらくたって……。

 

 ぎいい……、とびらがひらきました! そしてそこから出てきたのは……、全身ぐっしょりにぬれた、リズのすがただったのです! ど、どうしたの!

 

 リズは、「ぜい、ぜい……」と息をついて、びちゃっびちゃっと、いっぽいっぽ、こちらへと歩いてきました。そして手にしたスタンプのおされた紙を、ぐしゃ! っとにぎりしめると……。

 

 「ロビー……、敵は……、手ごわいぞ……」

 

 ばたーん! そのまま、その場にたおれこんでしまったのです!

 

 「リズさん!」ロビーがいいましたが、リズはすでに、しゃべることすらできないほどに、ぐったりしてしまっていました(ちなみに、リズのからだをぬらしていたのは、水ではありませんでした。なにか、くだもののしるみたいなのです。まったくもって、わけがわかりません)。

 

 リズまでも……。これはほんとうに、よそうがいのことです。ですがここで、逃げるわけにはいきません(たおれていった、仲間たちのためにも……、って、まだ生きてますけど)。ロビーは三人の仲間たちのことを部屋の床にそっと寝かせると、意をけっして、自分もスタンプの紙を持って、きょうふの部屋のとびらのとってに、手をかけました。

 

 

 ぎいい……、ばたん! 

 

 

 とびらがしまりました。

 

 そこは、うす暗い部屋でした。かなり広いようです。

 

 なにもいません。なんの物音もしません。

 

 目をこらして見てみると、部屋のおくに木のつくえがひとつあって、そこにスタンプ台がひとつ、おかれてあるのがわかりました。あのスタンプをおせば、しれんはおしまいです。ですが……。

 

 そうかんたんにはいかないということは、すでに三人の仲間たちが教えてくれていました。身をもって。

 

 おそるおそる、スタンプに近づきます。

 

 そして、部屋のまん中にさしかかったころ……。

 

 なにかが暗がりの中で動きました! ロビーがはっと見てみると、そこにさっきまではなかった、おかしなものがあらわれていたのです!

 

 それはみどり色と茶色の、人の背たけほどの、おかしな物体でした。しかも気がつけば、あっちにもこっちにも! いったいこれは?

 

 ですがそれらのなぞの物体(生きもの?)のしょうたいが、なんなのか? ロビーにはすぐにわかったのです。なぜなら……。

 

 それは、ロビーのいちばんきらいなものだからでした!

 

 

 ピーマン! ピーマン! ピーマン! 

 

 たまねぎ! たまねぎ! たまねぎ!

 

 

 そう、それらのみどり色と茶色の物体とは、まさしく、ピーマンとたまねぎのことだったのです! しかもそれらにはみんな、大きな口と、大きなひとつ目がついていました。まさに、ピーマンおばけに、たまねぎおばけ! そんなおばけたちが、あっちにもこっちにも、うじゃうじゃいたのです!

 

 

 「いぎゃー!」

 

 

 ロビーがさけびました! ピーマンとたまねぎだけはだめです! だめなんです! ロビーは小さいころ、このピーマンとたまねぎのおかげで、死にそうな目にあいましたから!

 

 ウルファであるロビーは、生のやさいが食べられません(食べられないこともありませんが、おなかをこわします)。ですがあるとき、ロビーがローストビーフのサンドイッチだと思ってかぶりついたものが……、生のピーマンと生のたまねぎスライスの、サンドイッチだったのです! それも、中身山もりの! のどにつまって、はき出そうにもはき出せず、生のピーマンとたまねぎの、つんつんとしたにおいが、頭のおくまでしみ渡って……、そのときにロビーがさけんだ声が、「いぎゃー!」もう、じたばたするしかありませんでした。やっとのことでミルクを流しこんでおちついたころには、もう、ぐったり。それからというもの、ロビーはなにをおいても、ピーマンとたまねぎだけはだめになってしまったのです。

 

 そのときのきょうふが、ロビーにようしゃなくおそいかかってきました! そんなロビーに、おばけたちがつぎつぎとふりかかってきます。あのつんつんとしたしげきのあるにおいを、ふりまきながら。これはきつい!

 

 あっというまに、ロビーのからだはピーマンとたまねぎの山の中に飲みこまれていってしまいました(黒いしっぽと耳だけが、その中から飛び出していました)。それでもロビーはさいごの力をふりしぼって、スタンプ台まではっていきます。がんばれ! ロビー!

 

 ようやくのことでスタンプ台までたどりついたときには、もうロビーの頭の中は、まっ白でした。そしてロビーは自分でもわけがわからないまま、なにも考えることもできずに、手にした紙に(ほんのうのままに)そのスタンプをおしたのです。

 

 

 ベタンッ! 

 

 すると……。

 

 

 部屋をうめつくしていたピーマンとたまねぎのおばけたちが、さーっ! まるで波がひくかのように消えていきました! やった! そしてあとには、もとのなにもいない、なんの物音もしない、広い部屋だけが残ったのです。

 

 

 ロビーは、きょうふに勝ったのです! でもロビーの頭の中には、そんなことはまったく、はいってはきませんでした。なにも考えることもできません。あいかわらず、からだにはピーマンとたまねぎのにおいが、しみこんでおりましたから(おばけたちが消えたのに、このにおいだけはそのままでした。いっしょに消えてくれればよかったのに!)。

 

 ロビーはそのまま、よろける足でなんとかとびらまでたどりつくと、この(いまいましい)きょうふの部屋からぬけ出しました。そして、横たわっている三人の仲間たちのとなりに、そのまま、ばったん! たおれこんでしまったのです。

 

 

 「もう、だめ……」

 

 

 四人が目をさましたのは、それからなん時間もたってからのことでした。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告。


    「いつでもよろしいですよ、王さま。」

       「うわあああー!」「ば、ばけもの!」

    「どーする? これ。」

       「まっていたぞ。」


第24章「ほんとうの強さ」に続きます。


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