ロビーの冒険   作:ゼルダ・エルリッチ

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15、ベーカーランドへいっちょくせん

 その森は、げんそう的なきりにつつまれていました。ここはこのアークランドからほど近い、深い深い森の中。ですがこの森がいったいどこにあるのか? それは著者であるわたしにも、じつははっきりとはわからないのです。ですからここをおとずれることができた人は、ほんとうに運のいい人なのだといえることでしょう。この森は、まったくもって、いきたいと思っていけるようなところではありませんでした。

 

 でもこの森にいけなくてこまっている、という人は、このアークランドには、たぶんひとりもいないことかと思います。なにしろこの森のそんざいそのものを知っている者が、このアークランドにはほとんどいませんでしたから。しかしこの森は、たとえ知っている者がほとんどいなかったとしても、このアークランドにとって、ひじょうに重要な森でした。それもそのはず。なにしろここは、精霊王の住む森でしたから!

 

 精霊王。そのよび名を知らない者は、このアークランドにはひとりもいないことでしょう。どんなに小さな子だって、精霊王のお話は知っていたのです。このアークランドで子どもがいちばんはじめにきかされるお話。それはきまって、この精霊王のお話でした。

 

 とってもかしこく、どんなことでも知っていて、だれよりも強い。精霊王はそんな、伝説的なまでのそんざいでした。でもそれは、あくまでもお話の中でのこと。いくらこのアークランドがふしぎのあふれるファンタジーな世界であったとしても、じっさいに精霊王のすがたを見たことのある者などは、ただのひとりもいなかったのです(これは、とうぜんといえばとうぜんのことでした。みなさんにもお伝えしておりますように、精霊というものは、ふだん目にすることなどはめったにないのです。精霊でさえもそうだというのに、こんかいは精霊王なのですから、会うことなんてまずむり! ということがよくわかりますでしょう?)。ですからその精霊王が住んでいる森なんて、だれも知らなくてとうぜんです。というよりも、じっさいに精霊王がいるなんてことをほんきで信じている者が、だれもいないといった方がいいかもしれません(小さな子はべつですけど)。精霊王というのは、このおとぎのくにアークランドにおいてさえも、じっさいにいるのかどうかさえもわからない、お話の中だけにとうじょうする、とてもしんぴ的なそんざいでした。

 

 ここがどんな森なのか? これでよくわかっていただけたかと思います。そう、ここはほんとうにとくべつな、ひみつのひみつの森。そんな森の中に、今みなさんは足をふみいれているのです。

 

 

 今、いっぽんの大きな木のその影から、ひとりの男の人がふっとあらわれました。いえ、男の人といいましたが、せいべつははっきりしません(女の人のようにも見えましたから)。その人は美しくととのった顔立ちをしていて、からだはほそく、すらりとしていました。背たけは五フィート六くらいでしょうか? みどりのきぬでおられた服を着ていて、かがやく銀色のベルトをしめております。その人が歩くたびに、長く美しいこがね色のかみが、風に乗ってさらさらと、ちゅうになびきました。

 

 その人はなんとも、ふしぎな感じの人でした。うまく言葉でいうのはむずかしいのですが、そこにいるのに、そこにいないような、そんな、あわくはかない感じがするのです。からだはぼんやりとした光につつまれ、今にもふっと消えてしまいそうでした。その人は地面につもった落ち葉の上を、音もなく、ふわふわとした足取りで歩いていきました。おどろいたことに、その人が乗っているのに落ち葉はまったく、しずみこんでいないのです! かわりにその人が歩いたところには、まるで宝石のこなをちらしたかのような、さまざまな色をしたかがやく光のつぶが、ほわんふわりんとまいちりました。

 

 ふいにその人が、あるところでとまりました。そこはこの森の中の、小さな小さなあき地でした。このあき地は、はしからはしまでが、せいぜい二十フィートほどしかありません。地面はふわふわとしたかがやくみどりのしばふにおおわれていて、そこには小さな白い花が、たくさんさいていました。そしてそのあき地をかこむように、まわりの木々にはうすいみどりのきぬでおられたカーテンがかかっていて、森の木々のあいだをさわやかな風が通りぬけるたびに、さらさらと、ここちのよい音楽をかなでていたのです。

 

 「とのぎみ。」そのあき地のはしに立ったその人が、口をひらきました(とのぎみというのは、自分がつかえている相手のことをうやまってよぶいい方です)。

 

 「やみの者たちが、動き出しております。」

 

 いったい、だれにむかって話しかけているのでしょう? しかしそのこたえは、すぐにわかりました。そのあき地のすみに人の腰ほどまでの岩がひとつあって、その岩の影から、へんじがかえってきたのです。

 

 「人間のしわざだ。」

 

 その声は高くもあり、ひくくもあり、男でも女でもあるかのような、ふしぎな声でした。まるでさまざまな人の言葉をいくつもあわせたような、なんともとらえどころのない声だったのです。

 

 「アルファズレドです。」こがね色のかみの人が、それにこたえました。「あの者の、しはいへのあこがれは大きい。それが、悪の力をよんでしまいました。まじゅつしアーザスが、かれに力を貸しています。」

 

 「力のバランスが、くずれているな。」岩の影から、ふたたび声がしました。「これはほんらい、人間たちの問題。だがもはや、これはかれらだけの問題ではない。われらにできることは、ごく、かぎられている。あとは、かの者に、のぞみをつないでもらうほかあるまい。」

 

 しばらくのちんもくのあと。こがね色のかみの人がいいました。

 

 「ロビーベルクですね?」

 

 ロビーベルク? いったいだれのことなのでしょう? なんだかロビーに、名まえがにています。

 

 「西の地に、使いを出すとよい。かの者に力を貸すよう、精霊たちに伝えるのだ。」岩の影から、声がひびきました。「かの者は、わたしのおくったネックレスを持っている。それを見れば、かの谷の者たちとて、力を貸すだろう。」

 

 「しょうちいたしました、とのぎみ。すぐに。」

 

 こがね色のかみの人はそういって、ふっと消えてしまいました(こんどはほんとうに消えてしまいました!)。そして岩の影からきこえていた声も、それっきり、ぱったりととだえてしまったのです。

 

 「たっだいま~! みんな~! もどったよ~!」

 

 ライアンの大声が、あたりいちめんにひびき渡りました。ここはどこかって? それはもちろん、かれらの帰りを心待ちにしている、みんながいるところ。そう、ここはモーグでした! いえ、もうモーグなんていうふきつな名まえは、なくしてしまいましょう。ロザムンディア。今こそこのまちは、むかしのその名まえでよぶのにふさわしいのです! 

 

 あのあと(旅の者たちが「ぎゃあああ~!」というひめいを上げながら、魔女の塔の中をいっきにすべりおりていったあとのことです。

 

 ちなみに……、そのときフログルたちはいきおいあまって、塔の底につみ重なっていたブリキの兵士たちのざんがいの中に、どっしゃーん! と落っこちてしまいました。さいわい、ざんがいがクッションになってくれたおかげで、旅の者たちはけがをしないですみましたが……。フログルたちはそれを見て、舌をぺろっと出して、「あ、すいません。」とかるーくいっただけでした……)。一行はすぐさま、ロザムンディアに帰ることにしましたが、その前にもうひとつ、たいへんな問題があったということを忘れていました。それは……、そう、ケロケロボート! かれらのいたブリキの塔は、おそろしい底なしのぬまに、すっかりまわりをかこまれていたのです。帰るためにはどうしたって、あのボートにもういちど、乗っていかないわけにはいきませんでした。

 

 もうぜったいあのボートには乗らないぞ! と心の中で強くさけんだみんなでしたが、こればっかりはしかたがありませんでした。ですからかれらは、「ぬま地をぬけるそれまでのあいだだけ」というぜったいのじょうけんのもとで、しぶしぶ、いやいや、泣く泣く、ケロケロボートに乗りこんだのです。それでもぬま地をぬけてボートがとまるまでに、旅の者たちはごうけい十二回もジャンプするはめになってしまいました……(ほんとうは七回くらいでぬま地のそとまでたどりついていましたが、みんなが「とめてとめて!」とさけんでいるのに、ボートのうんてんしゅのネリルが、「え? もう、とめるんですか? まだ早いでしょ?」といって、それから五回くらいもジャンプさせてしまったのです……。やっぱりフログルたちって、どこかぬけているというか、人の話をきいていないというか……、そんなところがあるみたいですね。いいかげんなせいかくのカルモトと気がぴったりあうのも、わかるような気がします……)。 

 

 ボートをおりてから、旅の者たちはよろよろとした足取りで、フログルたちの家であるトーディアへとむかって歩いていきました(ちなみに、カルモトは「さきにいって待ってるぞ。」といって、道あんないのカルルとクプルのふたりだけを残して、そのままボートでとんでいってしまいました。それにしてもなんでカルモトは、あのボートに乗っていてへいきなのでしょうか? ふしぎです。木だから?)。そしてようやくのことでトーディアへとたどりつくと、みんなはそろって顔を見あわせて、かたいあくしゅをかわし、おたがいの気持ちを強くたしかめあったのです。

 

 「生きて帰れてよかった! あのボートに乗るのは、ほんとうにこれっきりにしよう!」

 

 

 それからみんなは急いで騎馬たちのじゅんびをととのえると、見送りのフログルたちにあつくおれいをいって、ここロザムンディアのまちへとむかって出発したというわけでした。まちについてまずすぐに気がついたことは、まちをおおっていた、あのふきつな白いぶきみなきりが、すっかり晴れているということでした。じつはあのきりは、アルミラがまちにかけたのろいのけっかいのせいで、まちの中に生まれていたものだったのです(ですからやっぱり、ただのきりではなかったのです。なんだかおばけの顔のように見えたのも、やっぱり見まちがいではありませんでしたね)。

 

 そしてけっかいが消えた今、まちの中によどんでいたよごれた空気や、かびのような植物のほうしなども、きれいさっぱり、ほかのところへと飛んでいってしまっていました(それでも、まちの中に生えているかびとか、あつくつもったほこりなどは、これからいっしょうけんめいそうじする必要がありましたけど)。今ではまちの中にも、おひさまの光が明るくふりそそいでいました。じこくは親ぎつねのこくげん。午後の三時くらいです(ちょうど、ライアンのおやつの時間です。もっともライアンはどんな時間だってかんけいなく、おやつを食べていましたが……)。まちを出発してカルモトのことを見つけ、魔女の塔からたましいを取りかえしてここへ帰ってくるまで、わずか三時間半ほどしかたっていません。出発の前にロビーがいった言葉の通り、みんなは「すぐに」帰ってきたのです!(ほんとうに、とっきゅうびんの早さでしたね! すごい!)

 

 それからもうひとつ、まちが大きく変わっているところがありました。そしてそれこそが、旅の者たちにとっても、まちの人たちにとっても、とても大きな意味を持つ、すばらしいへんかだったのです。それはかたくとざされていたあの巨大なまちの南門、その門が今や大きく、ひらかれているというところでした!

 

 それが意味していることは、ひとつでした。つまり、ついに自分のからだを取りもどすにいたったまちのみんなが、帰ってくる者たちのために、門をひらいて待っていてくれていたというわけなのです!(まちのみんなはあれから、この南門をとざしていたたくさんの渡し木や、門の前の家具などを、いっしょうけんめい取りのぞいてくれていました。そしてすぐに門をあけられるじょうたいにしておいて、旅の者たちのことをすぐに、出むかえられるようにしてくれていたのです。さぞかし、たいへんなさぎょうだったでしょうね。おつかれさまでした!)

 

 「たっだいま~! みんな~! もどったよ~!」ライアンがよびかけたのは、まさに、その門の前にいるまちの人たちにでした(みんなもう、まちのそとまで出てきていました。アルミラののろいのけっかいは、もう消えましたから!)。そう、かれらはみんなで二百人ほどもの、「もと」ゆうれいさんたちだったのです!

 

 

 「おかえりなさーい!」

 

 「われらが勇者たち!」

 

 「待ってましたー!」

 

 

 われんばかりの大かんせい! 人々は両手を頭の上でぶんぶんふって、帰ってきた勇者たちのことをむかえました(さっそく、お酒のびんをかかげている人もいましたが……。ねんだいもののお酒が、まちのそうこに眠っていたみたいですね)。その中からひとり、すごいはやさで飛び出してきたのは……。

 

 「わあああ~ん! みんな~!」

 

 そう、それはわれらがたいせつな仲間のひとり、フェリアル・ムーブランドだったのです!(フェリアルくん、ひさしぶり!)もうフェリアルはなみだで顔をぐっしょりとぬらして、両手を広げて、みんなのところへとつっこんできてしまいました(おるすばん、たいへんだったね! 北門のしゅうりもおつかれさま!)。

 

 「隊長~! ロビーどの~! ライア~ン! さみじがったよ~!」フェリアルはそういって、そのまま先頭のライアンの騎馬、メルにつっこんでいって……、メルにひょいとかわされて、地面にべっちーん! ころがってしまいました。

 

 「フェリー! ぶじにもどれたんだね! よかった。」ライアンがメルからおりながら、地面にころがっているフェリアルの上から声をかけます。

 

 「ライア~ン! 会いたかったよ~!」ふたたび両手を広げてつっこんでくるフェリアルのことを、ライアンが「わわっ!」とかわして、フェリアルはまたしても地面にべっちーん! ころがってしまいました(う~ん、かわいそうなフェリアル……)。うつぶせにたおれたまま身動きひとつしないフェリアルの背中を、つんつんとつっつきながら、ライアンが申しわけなさそうにあやまりました。

 

 「ごめんね、フェリー。だって、なみだと鼻水で、顔、べしゃべしゃだったんだもん……」

 

 

 さあ、これでまた、四人の仲間たちがそろったのです! ばんざーい!(フェリアルはハンカチで顔をふいて、ちり紙で鼻をちーん! とかんでから、ようやくみんなに受けいれてもらえましたが……)まちを出発してからまだ数時間ほどしかたっていませんでしたが、なんだかずいぶん、時間がたったように感じますよね!(ぶよぶよおばけに追っかけられたり、木の兵士たちにつかまったり。ちゅうをとぶボートで船よいしたり、ブリキの兵士たちにかこまれたり。ちゅうづりになったり、落っこちたり……。このみじかい時間の中でこれだけひどい目にあったのですから、それもそのはずです!)まだベーカーランドへの道のりもなかばだというのに、われらが旅の者たちは、ほんとうにいろんな目にあってしまうものです。

 

 それでも、みんなはそのつど力をあわせて、それらのこんなんを乗りきることができました。それもみんな、力をあわせる仲間がいたからこそなのです。かれらの力のどれかひとつがかけても、みんなはここまで、ぶじでいられることはできなかったでしょう(もっともこんかいの冒険では、フェリアルはおるすばんすることになってしまいましたが……)。

 

 こんかいの、魔女の塔での大冒険。それは思いもよらない、いわばより道の冒険でした。ですがわれらが仲間たちのその冒険は、けっかとして、すばらしいけつまつを生むこととなったのです。旅の者たちはフェリアルのことをすくい、まちの人たちのこともすくうことができました。そしてそれは同時に、もうひとつのあるすばらしいものを、生み出すことにつながったのです。それはなんといっても、新しい、たくさんの、たのもしき仲間たちとの友じょうでした!

 

 まずは、かえるの種族であるフログルたち。今やみんなは、かれらと大きな友じょうでむすばれることになりました。かれらはロザムンディアの人たちにとって、ずっとこわいそんざいでした。ほかの種族の者たちとかかわりあいを持たないフログルたちのことを、まちの人たちは、魔女アルミラの手下なんじゃないか? とずっとごかいしていましたから。ですがこんかいのできごとで、そのごかいもすっかりとけたのです。フログルたちは人づきあいこそなかったものの、明るくようきな種族で(それはみなさんもよくわかったことと思います)、ぜんぜん悪いれんちゅうなんかじゃありませんでした(いくつかの点では、しょうしょう問題のある種族でしたが……)。

 

 このときいらい、ロザムンディアの人たちとフログルたちは、おたがいに手を取りあって、なんでも助けあうようになりました(まずはロザムンディアのまちの大そうじを、フログルたちみんなで手伝いました)。そしてロザムンディアのまちにも、トーディアをはじめとするフログルたちの家にも、おたがいの種族の者たちが自由にいききするようになったのです。

 

 そして、ロザムンディアのまちの人々。やはりこれが、このさきの道のりをゆく旅の者たちにとって、ちょくせつ的にいちばんの助けとなりました。それはつまり……、ここからさきの道あんないをつとめてくれることになった、ミリエムのそんざいです! ミリエムはみんなが出発する前にもいっておりました通り、この西の地を通ってベーカーランドまでなんどもいったことのある、ゆいいつのこの地での住人でした。なにが起きるかわからないここからの危険な道のりをゆく者たちにとって、これほど心強い助けとなるものも、なかったことでしょう(ミリエムのなんだかたよりないせいかくのことについては、べつとして)。やっぱり道を知っている者がいるのといないのとでは、旅をゆくはやさもだんちがいです。いっこくをあらそう旅の者たちにとって、この道あんないのミリエムのそんざいは、多大な危険と冒険のだいしょうをはらってさえも、なおあまるほどのものでした(わたしもミリエムが、こんなにも大きなそんざいになろうとは、さいしょはぜんぜん思っていませんでしたが……)。

 

 そして、なんといっても。

 

 それらすべてのことがうまくはこぶように手助けをしてくれた、もうひとりのすばらしき仲間、カルモトのそんざいだったのです(ここで……、ひとつみなさんにお伝えしておくことがあります。まちにもどる前、旅の者たちはカルモトにみずからの旅のもくてきのことや、このアークランドにせまるやみのこと、ロビーがいい伝えのきゅうせいしゅであるということなどを、すっかり話すべきだと思いました。伝説的なまでのけんじゃ。このアークランドにとって、こんなにも、たのもしき力となってくれるものもないことでしょう。それでみんなはトーディアを出るときに、ようやくのことで、それらのことをカルモトに話しましたが……、カルモトはとつぜん、目を大きく見ひらいて、こういったのです。

 

 「なんだと! なぜ、それを早くいわない!」

 

 いえ、話そうにも、いつもカルモトはさっさとさきにいってしまうので、話すきかいもなかったんですけど……。とにかくカルモトはしばらく考えてから、旅の者たちのことを見て、こうつづけました。

 

 「う~む……、これは、ゆゆしき問題だな。よし、心得た。わたしにできることは、かならずするとやくそくしよう。だが今は、わたしは、みずからのつとめを果たさねばならん。すまないが、わたしに、しばしの時間をくれたまえ。なに、悪いようにはせん。」

 

 やはり、みずからの運命にしたがい、そのせきにんを果たそうとしている今のカルモトのことをひきとめることなどは、旅の者たちにも、だれにも、できることではありませんでした。ですがそれはなにも、カルモトがこのアークランドのいちだいじのことを、かるく見ているというわけでは、けっしてありませんでした。カルモトはカルモトにしかできない方法をもって、このアークランドのために、力をつくしてくれるようなのです。どうやらかれには、なにか考えがあるみたいですが、それはいったい……? それはいずれ、あきらかになることでしょう)。

 

 

 カルモトはみんながまちへもどるときに、いっしょについてきてくれました。それは(旅の者たちの見送りのほかに)かれがロザムンディアのまちの人たちに、いもうとのアルミラのかけためいわくのすべてに対して、きちんとおわびをしておかなければならないと思ったからでした(のちにカルモトは、アルミラの残したかいぶつによって長いあいだくるしめられてきた、はぐくみの森のフォクシモンたちにも、きちんとおわびをしにいったのです。ですが今は、さきにアルミラほんにんとのけっちゃくをつけてしまわなければなりませんでしたので、カルモトはまずは急ぎ、ロザムンディアのまちの人たちに、おわびをしておきたいと思いました)。そしてカルモトは、まちの人たちに、フログルたちのことやアルミラのことなどのすべてを、すっかり話してきかせたのです(アルミラがカルモトの、じつのいもうとだということもふくめて、すべてです。まちの人たちははじめはびっくりしてとまどっていましたが、カルモトのそのすなおな心にうたれて、それですっかり受けいれてくれました)。

 

 「わたしには、これからすぐに、やらねばならないことがある。」カルモトが、まちの人たちにいいました。「アルミラは、みなに多くのくるしみを与えてきた。そのくるしみは、はかりしれない。わたしには、アルミラに対して、みずからのそのせきにんを果たすぎむがある。そのためにわたしは、しばし、ふるさとのガランタにもどる。そこでアルミラとの、さいごのけっちゃくをつけるつもりだ。」

 

 カルモトは、遠く空のむこうを見つめてつづけました。

 

 「わたしはアルミラの、魔女としてのすべての力をうばう。そして、今までのつみの、そのすべてのつぐないをさせる。それでもたらないとは思うが、どうか、それでゆるしてはもらえまいか。」

 

 カルモトは頭を地面すれすれまで下げて、まちの人たちに心からおわびをしました。ですがまちの人たちは、そんなカルモトに対して、ちっとも怒ってなんかいなかったのです。

 

 「もう、いいんです。わたしたちのことなら。」まちの人たちはそういって、おたがいの顔を見あわせて、気持ちをたしかめあいました。「こうしてふたたび、もとのからだに、生きてもどれたんですもの。それもみんな、旅のみなさんと、そして、あなたのおかげなんです。あなたのその心が、わたしたちのことをすくってくれたんです。あなたが頭を下げることなんて、ぜんぜんありませんよ。」

 

 そのとき、みんなの中からひとりの女の人が進み出ました。それはロザムンディア大聖堂の、ティエリーしさいさまだったのです。

 

 「けんじゃさま。」しさいさまがいいました(けんじゃさまとは、もちろんカルモトのことです。カルモトがいい伝えのけんじゃのうちのひとりであるということは、すでに旅の者たちが、まちの人たちにも伝えておりましたので)。

 

 「われらは、もう、だれもうらんではおりません。ふこうにしていのちをたたれた者たちも、同じ気持ちでありましょう。」

 

 ティエリーしさいさまは静かに目をとじて、いのりをささげてからつづけました。

 

 「たしかに、アルミラのしたことは、ゆるされるようなことではありません。ですが、それでも。つみをつぐない、正しい道にもどることは、だれにでも与えられている、けんり。神のもとで、人はすべて、びょうどうなのです。」

 

 カルモトは、しさいさまの言葉に深く心をうたれました。あふれるなみだをおさえることも、もはやできませんでした。カルモトは深く深く頭を下げ、ただただティエリーしさいさまにかんしゃし、そして、まちの人たちにかんしゃしたのです。

 

 「かのじょをすくえるのは、あなたしかいません。それは、あなたのしめいなのです。」ティエリーしさいさまがカルモトに手をかざして、おだやかにいいました。「おいきなさい、けんじゃさま。そしてまた、この土地のふっこうに、力を貸してくださいますね?」

 

 カルモトは頭を上げて、しさいさまにちかいました。

 

 「おれいのしようもありません。わたしは、わたしの力の持てるかぎりをもって、あなたたちにそのごおんをおかえしする。わたしはかならず、もどってきます。」

 

 

 こうしてカルモトはひとり、かれのふるさとのガランタへとむかって、旅立ったのです。西の海に、みずからの魔法で作り出した、小さな木の船を浮かべて……(ちなみに、この木の船にはたくさんの木のスクリューがついていて、そのためこの船は、とんでもなくはやく進むことができたのです。それはまるで、みなさんの世界のモーターボートなみのスピードでした! 「は、はや~……」旅の者たちは思わず、そうもらしてしまったものです。のんびりできないせいかくのカルモトには、まさにぴったりの船ですよね!

 

 ところで。このスクリューのついたボートをアルミラの塔のあるあのしっちたいで使っていたとしても、やはりすいへいに進む乗りものである以上、どろどろのぬかるみにつっこんで、はまってしまって、さきへ進むことはできなかったでしょう。あのぬかるみを越えていくことができる乗りものは、まうえにぴょこん! とジャンプすることのできる、フログルのケロケロボートくらいのものだったのです。まあ、空を飛んでいける乗りものでもあれば、べつですけど)。

 

 旅立つ前。カルモトはさいごに、旅の者たちとあついあくしゅをかわしあい、さいかいをちかいあってくれました。

 

 「きみたちには、じつにせわになった。わたしはけっして、きみたちのことを忘れないだろう。ベルグエルムくん、ライアンくん、ロビーくん。なんというみじかい名まえだ。忘れようにも忘れられんぞ。そしてきみは、フェリアルくんだったな。いい仲間を持って、しあわせだぞ、きみは。わたしはかならず、もどってくる。」

 

 

 「いっちゃったね、カルモトさん。」ライアンが、両手を頭のうしろにくみながら、となりに立っているロビーにいいました。ロビーはカルモトの去っていった西の海のことを見つめながら、小さく「うん。」とうなずきます。

 

 「それ、そんなにすごいものなのかな?」ライアンが、ロビーのにぎっているそのネックレスのことを見ながら、つづけました。その青い石のついたネックレスは、ロビーの首に、ずっとかかっていたものだったのです(これはかなしみの森を出発するときに、ロビーが自分のにもつといっしょに持ってきたものでした。そんなの持ってたっけ? という方は、第二章のはじまり、ロビーが自分のほらあなから去るときの場面をかくにんしてみてください。ロビーが自分で、このネックレスのことをしゃべっています。ほんのちょっとだけですけど。

 

 ちなみに、ロビーはペンダントとよんでいましたが、まあ、ペンダントとネックレスは、にたようなものですから)。

 

 じつはカルモトが去っていくとき、カルモトはとつぜん、ロビーのそのネックレス(ペンダント)のことを見て、こんなことをいいました。

 

 「そのネックレスからは、とくべつな力を感じるな。ここにきて、その力が急にましたようだ。ロビーくん、そのネックレスは、だいじにしなさい。手放してはならん。きっと、きみを助けてくれるはずだ。」

 

 ロビーは首から下げたネックレスの石を手のひらに乗せて、その重さをたしかめていました。きらきらとかがやく青い石が、かたむきはじめたおひさまの光をあびて、深い色あいをかなでておりました。

 

 「これはずっと、ぼくの首にかかっていたんだ。」ロビーがその色を見つめながら、いいました。「かなしみの森にきたときから、もうぼくは、これを持っていた。だれがくれたものなのか? わからないけど、ぼくの生い立ちにかんけいがあるものだと思う。いつか、このネックレスのことを知っている人に、出会うかもしれない。ぼくの家族に出会える、きっかけになるかも。だからぼくは、これをずっと、はだみはなさず持っていたんだ。」

 

 「そうだったんだ。」ライアンが、しんけんな表じょうをしてそういいます。「じゃあ、とってもだいじなものなんだね。」

 

 ロビーは「うん。」とうなずいて、そのネックレスのことをにぎりしめました。

 

 「このネックレスにどんな力があるのかなんて、ぼくにはわからない。でも、そんな力にかんけいなく、これは、ぼくにとって、すごくだいじなものなんだ。」

ロビーはそういって、またその青いネックレスのことを、首からきちんと下げました。

 

 「いいなあ、ロビーは。」ライアンが、またもとのあっけらかんとした表じょうにもどって、いいました。

 

 「ぼくのなんて、これ、見てよ。」そういってライアンは、自分のかばんのポケットの口をあけて、その中をロビーに見せます。そこに、はいっていたのは……、そう、メリアン王がライアンに(むりやりに)持たせた、たくさんのお守りたちでした!(そういえば、そんなのありましたね! すっかり忘れてました。)

 

 「ぜんぜん、やくに立たないものばっかり。ロビーがうらやましいな。」

 

 ロビーはしばらく、きょとーんとして、ライアンのかばんの中を見つめていました。それからロビーは思わず、「ふふっ。」と笑ってしまったのです。

 

 ロビーは顔を上げて、ライアンの顔を見ました。ライアンはにこにこ、笑っていました。

 

 そしてふたりは、「ぷーっ!」と吹き出して、「あははは!」と大きな声で笑いあいました。

 

 

 こうして、ロザムンディアのまちにへいわがおとずれました。めでたしめでたし……、って、これでこの物語はおしまいじゃありません! ロビーたちの旅は、まだまだこれからなのですから!

 

 なにが待ちかまえているのか? ぜんぜんわからなかった、このひみつの西の道。その西の道のいちばんの心配ごとだった西の魔女のうわさは、これですっかり、かたづいたわけです(あとは西の大陸の地で、カルモトにさいごのけっちゃくをつけてもらうばかりでした)。ですけどベーカーランドまでの道のりは、まだまだこれから。ここからの道のりは、やっぱりなにが起きるか? わからない、危険な道のりであることに変わりはないのです。

 

 「ベーカーランドへいくのには、この、よろこび平原を通っていくのがいいと思いますよ。ここなら街道も通っているし、危険もすくないと思いますけど。」

 

 そうていあんしたのは、もとゆうれいであり、そして新たな旅の道あんないやくとして加わってくれることになった、ミリエム・オーストでした(ミリエムさんも、おひさしぶり!)。ここはまちの南門の、その内がわ。旅の者たちは出発にあたり、これからの道のりのことについて、ミリエムをふくむまちの人たちと、そのさいごの作戦かいぎをひらいているところだったのです。

 

 「いや、それではずいぶんと、遠まわりになる。山にそって進み、この谷を越えていった方がいいのではないか?」

 

 地面においたつくえの上に広げられた地図を見ながら、ベルグエルムがミリエムにいいました。ベルグエルムのいう通り、ベーカーランドへゆくのには、そっちの道の方がずっと近かったのです。ミリエムのいったよろこび平原というのは、山にそって、とちゅうで大きく海の方にまがっていました。ですからそこを通っていくのは、(ベルグエルムのしめした谷のさきにある)ベーカーランドにいくためには、ずいぶんと遠まわりになってしまうのです。しかしミリエムがその道をすすめたのには、大きなりゆうがありました。

 

 ベルグエルムの言葉に、まちの人たちはそろっておたがいの顔を見あわせました。ミリエムもやっぱり、重い表じょうを浮かべたままです。

 

 「たしかに、そこを通っていけるのなら、ベーカーランドまでいっちょくせんにいけるんですが、でも……」ミリエムがいいました。

 

 「でも?」ライアンが口をはさんでたずねます。

 

 「はい。その谷には、おそろしい精霊たちが住んでいるといううわさなんですよ。谷に、はいったがさいご。ふたたびもどってきた者は、ひとりもいないということです。」

 

 そういってぶるる! とふるえるミリエムに、ライアンがいつものあっけらかんとした顔をして、いいました。

 

 「なーんだ、精霊の谷なんだ。それなら、そんなこわがることなんてないじゃない。みんな、精霊たちのことをよく知らないから、おっかながってるだけなんだよ。」

 

 ライアンのいう通り、知らないから、こわがったり、ごかいしたり。そういうことはよくあることなんです。じっさいフログルたちのことについても、まちの人たちはかれらのことについてぜんぜん知りませんでしたから、あんなにこわがっていましたよね。でも……、こんかいばかりは、そういうわけでもないようでした。それはいったい?

 

 「ただの精霊なら、わたしたちも、こんなにこわがったりはしませんよ。その谷は、やみの精霊たちの住む谷なんです!」

 

 「やみの精霊だって!」ミリエムの言葉に、ウルファの騎士たち、ベルグエルムとフェリアルのふたりも、そろってさけびました。そう、その谷には、ひゃくせんれんまの騎士たちであるかれらでさえ、おそれさせてしまうような、やみの精霊という者たちが住んでいるというのです。

 

 「やみの精霊って、なんですか? そんなにおそろしいの?」やみの精霊たちのことをぜんぜん知らなかったロビーが、きょとんとした顔をして、みんなにたずねました。ですが、ロビーがやみの精霊たちのことを知らなかったのも、まったくむりはなかったのです。

 

 みなさんもすでにごぞんじのように、精霊たちにはいくつかのしゅるいがあります。かなしみの森の小川では、水の精霊たちに出会いましたよね。そしてすがたは見えませんでしたが、ライアンの使うしぜんの力をかりるわざ。あのわざを使うときにも、かならず、水や、風や、ほのおといった力にかんけいする精霊たちが、その場にいたのです(そのすがたはわざを使うライアンにさえ見えませんでしたが、たしかにいるのです)。

 

 精霊のしゅるいについては、シープロンドのタドゥーリ連山のことをしょうかいしたときに、わたしがすこしだけ説明したことがありましたが、その中でひとことだけふれたのが、やみの精霊です(ちなみに、第六章の頭のところですが)。このやみの精霊のことについては、このアークランドでは、話しをすることだけでもよくないことだといわれていました。ですからそのそんざいはみんな知っているものの、やみの精霊のことをくわしくしらべたり、本に書いたりするような者は、このアークランドにはぜんぜんいなかったのです。もちろんかなしみの森のとしょかんにも、やみの精霊について書かれた本などは、いっさつもありませんでした。ですからロビーも、やみの精霊たちのことを、ぜんぜん知らなかったというわけなのです(ライアンもやみの精霊のことについては、ロビーにべらべら、しゃべったりはしていませんでしたから)。

 

 「やみの精霊は、ただの精霊とはちがうのです。」ベルグエルムが、ロビーにいいました。「かれらがしはいするのは、文字通り、やみの力。やみの精霊とは、この世界に悪の力をもたらす、おそろしい精霊たちなのです。」

 

 「そ、そうなんですか……」ベルグエルムにこわい顔でいわれて、ロビーは思わずぶるっ! と背中をふるわせてしまいました。

 

 「しかし、かれらがいなければ、この世界もなり立たないといわれております。ぜんなるものに力を与えるためには、悪の力もまた、必要なのだと。」ベルグエルムがつづけます。

 

 「でも、われらが、たちうちできる相手ではありません。」フェリアルもロビーと同じく、ぶるる! とからだをふるわせて、いいました。「剣も魔法も、やみの精霊たちには通じない。かといって、話してわかる相手でもないでしょうし……」(かなしみの森の精霊たちのような、きよらかなる精霊たちとは、こんどはわけがちがうのです。)

 

 「う~ん……」

 

 さて、どうしたものか? ベルグエルムとフェリアルのふたりは、そろって首をひねって考えこんでしまいました。ですがそんなふたりの騎士たちに対して、われらがきゅうせいしゅであるロビーは、自信を持って、こうこたえるばかりだったのです。

 

 「だいじょうぶ。ぼくたちには、心強い仲間がいます。精霊のことなら、ライアンにたのむのがいちばんですよね!」ロビーはにこっと笑って、ライアンの方をむきました。「ねっ? ライアンなら、やみの精霊だって、だいじょうぶだよね?」

 

 「えっ?」ライアンは思わず、言葉をつまらせてしまいます。「そ、そうね。まかせてよ。はは、は。」

 

 ライアンはいつものように強がっていいましたが、じつは心の中では、ええーっ! とさけんでしまっていました。やみの精霊というのは、そんな「精霊のことならなんでもまかせて!」といいそうなライアンでさえ、しりごみしてしまうほどの、おそろしいそんざいであったのです(じっさいライアンほんにんも、やみの精霊には会ったことがありませんでした。シープロンドのルエル・フェルマートしきょうさまにも、「やみの精霊とは、ぜったいにかかわってはいけませんぞ。」とかたくいわれていたのです。そのやみの精霊が、このさきの地にいるといいました。さあ、ライアン、ピンチ!)。

 

 「ここから、よろこび平原を通って、ベーカーランドまでいくのに、どのくらいの時間がかかる?」ベルグエルムがミリエムにたずねました。これがいちばん、だいじなしつもんでした。

 

 「そうですねえ……、馬でいくなら、五日もあれば、ベーカーランドまでいけるんじゃないですか? もちろん、なにごともなければですが。」

 

 「五日だって!」ベルグエルムもフェリアルも、思わずさけんでしまいました。「われらは、南の地からこの北の地まで、二日と半分でやってきた。帰り道に、とても、そんな時間をかけてなどはいられない。」

 

 ミリエムのいうことには、よろこび平原をぬけたあと、ベーカーランドへとむかう道のりには、いりくんだ山道やまわり道が、とても多いのだということでした。ですからすいすい進むことのできた南の街道にくらべて、ベーカーランドまでたどりつくのに、ばいの時間がかかってしまうとのことだったのです。もっともそれは、ミリエムのいった通り、安全だというよろこび平原を通ってまわり道をしていった場合でのこと。今すぐにでもベーカーランドへ、きゅうせいしゅであるロビーを送りとどけなければならない旅の者たちにとって、その道をゆくことは、とてもむりなことでした。このおくれはこのアークランドにとって、かくじつにいのち取りとなってしまうことでしょう。

 

 ベルグエルム、フェリアル、ロビーの三人は、ここでそろって、あるひとりの人物のことを見やりました。その人物とは……? そう、ライアンです!

 

 「こうなれば、道はひとつだ。やみの精霊の地をぬけることに、かけよう。」ベルグエルムとフェリアルが、しんけんな顔をして、ライアンの顔を見ながらいいました。

 

 「ライアンがいれば、こわいものなしですよね!」まだじょうきょうがよくわかっていないロビーが、ライアンの肩に手をおいて、にこっと笑っていいました(う~ん、知らないというのは、ときにおそろしいものです……)。

 

 ライアンは心の中でまた、ええーっ! というひめいを上げていましたが、もうこうなったら、やるしかありません。ライアンはひきつった笑顔でロビーの笑顔にこたえると、それからなかばやけになって、両手を空につき上げて、さけびました。

 

 「もう~、なんでもこ~い! 大精霊使い、ライアン・スタッカートさまの力を、見せてやる~!」

 

 

 こうして、みんなの旅はふたたびはじまったのです(ちなみに、ロビーもやみの精霊のこわさをあとであらためてよくきかされて、「ど、どうしよ……、ぼく、ライアンに、むりなこといっちゃったかな……」とはんせいしましたが、でももう、道はきまっちゃいましたから)。ここからの旅は、ベーカーランドへとむかう、そのさいごの道のりでした。ここから切り分け山脈の西がわにそって、いちにちずっと南までくだり、そして話に出たやみの精霊の谷を越えれば、そのさきにすぐ、めざすベーカーランドの地があるのです。うまくいけばそこまで、二日とかからずにいける道のりでした。ですがほんとうに、そんなにうまくいくのでしょうか……?(ここまでの道のりでも、ずいぶんと、よそうがいのことばっかり起きちゃいましたからね。)

 

 みんなはきたいと不安を胸に、出発しました。馬に乗って、切り分け山脈のふもとの道を、いちろ、南へ。

 

 と、その前に……、ひとつ、忘れていたことがありましたね。ヒントは、ティエリーしさいさま。それに、ライアンです。そのこたえは……? そう、たましいがもどったら頭をなでさせてあげるという、ひみつのやくそく。あのやくそくは、どうなったのでしょうか? じつはライアンはのちのちまで、ずっと教えてくれませんでしたが、かれはこの出発の前に、ティエリーしさいさまとのそのやくそくを、しっかりと守ったのだそうでした。ですけどそれは、さいしょのやくそくよりも、ずいぶんとちがったものになってしまったようで……、ロビーにもあまりくわしくは、話していなかったのです。そのロビーにきいた話が、こうでした。

 

 「あの……、みんなが出発する前に、ライアンが『トイレにいってくるから待ってて』っていって、まちの方へむかったんです。それから十分くらいしてもどってきたんですけど、もう、ふらふらになってて、かみの毛はぐしゃぐしゃだし、服もぼろぼろだったし……。どうしたの? ってきいたんですけど、かれは『トイレにおばけが出て……』としかいいませんでした。」

 

 ライアンの身になにが起こったのか? わたしはこの物語のげんこうをすっかりまとめ上げたあとで、ようやくそのときのことを、ライアンほんにんからきくことができたのです(そのためにわたしが、どれほどたくさんのお菓子を用意したことか!)。ですけどライアンのめいよのためにも、ここできいた話は、ほかのみんなにはだまっていてくださいね。あんまりみんなに話が広まってしまうと、わたしがライアンに、どんな目にあわされるか? わかりませんから……(ほんとうはライアンからも、「しゃべったらどうなるか? わかってるよね?」とねんをおされていたのです。わたしは今ほんとうに、自分のいのちをかけてこの文章を書いています)。

 

 じつはティエリーしさいさまは、ライアンがかわいかったのと、もとのからだにもどれたそのうれしさで、ずいぶんとはしゃいでしまったようで……、ライアンの頭をなでたあと、がまんができなくなって、「きゃー! かわいいー!」と力いっぱい、ライアンのことをだきしめてしまったそうでした。それだけならまだよかったのですが、よそうがいだったのは、ティエリーしさいさまの、だきしめるその力の強かったこと! ライアンはたまらず、「ぎゃああ~!」とひめいを上げましたが、しさいさまはもうかんぜんにかわいいもの(ライアン)にむちゅうになってしまっていて、声もとどきませんでした。それでライアンは、なすすべもなく、ほおずりされたり、ほっぺにちゅーまでされて、ぼろぼろになって帰ってきたというわけだったのです……。う~ん、さいなんなライアン。ふだんおしとやかな女の人ほど、変わればこわいものですね……。

 

 女の人(しかもしさいさま)に力でまったくかなわなかったライアンは、男として、かなりショックだったようで……、それでみんなには、このときの話を、あまりしたがりませんでした。そしてこのときいらいライアンは、「かわいすぎるのも、考えものかも……」と、ちょっと思うようになったということです。

 

 

 さて、話がずいぶんと、それてしまいましたが……、とにかく出発なわけです!

 

 ベーカーランドへとむかうここからの旅は、思いもかけず大人数となりました。まずはお伝えしておりますように、ロザムンディアをだいひょうして、道あんないのミリエムが加わっていたのです。そしてフログルをだいひょうして、カルルとクプルがもういちど、みんなのおともをしてくれることになりました(ほかのフログルたちもみんな、「わたしもわたしも!」といきたがりましたが、さすがにそれでは、ひみつの旅というわけにはいかなくなってしまいますので……。

 

 ところで。ここでちょっと、まじめな話をつけ加えておきます。フログルたちもまた、カルモトと同じように、このアークランドにせまるやみのことについては、なにも知ってはいませんでした。かれらはロザムンディアのまちの人たちと同じように、ずっと、そととのつながりを持ってはいなかったからです。旅の者たちはカルモトに伝えたように、フログルたちにも、それらのことを伝えました。そのけっかとして、かれらはこのアークランドのためになにかできることがないかと考えて、こんかいの旅の、そのおともをしてくれることになったのです。

 

 さらに、フログルたちははじめ、かれらの持つおよそ四十人の兵士たちをみんな集めて、「わたしたちも、いくさの場におもむきます!」といってくれましたが、はげしいいくさの場にかれらをつれていくようなことは、とてもできるようなことではありませんでした。かれらはたしかに、うんどうのうりょくにすぐれた、ゆうしゅうなる兵士たちです。しかしいくさの場で戦うためには、それに対しての、きちんとしたくんれんが必要とされました。ただ強いというだけでは、いくさの場では、じゅうぶんな力をはっきできなかったのです。いくさの場でたいせつなのは、とうそつ力と、そして、はんだん力。しきかんのめいれいをきちんと受けとめ、それにふさわしい隊れつをくみ、てきかくな行動が取れるか? という力が、もっとももとめられるのです。そのためのくんれんを受けていないかれらをつれていけば、かれらをいたずらに、きずつけてしまうことにもなりかねません。そんなことは旅の者たちにとっても、とてもさせるわけにはいきませんでした。

 

 そのかわり。フログルたちにはこれから、この西の地と北のはぐくみの森にいたるまでの土地のけいごを、受け持ってもらうことになったのです。これはひじょうにたいせつなしごとでした。この西の地をふたたび、旅人たちのいきかうもとの安全な土地にもどすことができるかどうかは、ひとえに、かれらフログルたちの、これからのかつやくにかかっていたのです。でもきっと、かれらならやりぬくことでしょう)。

 

 これで、旅をゆく者は七人です。ですがひみつの旅にはそれだけでも多いくらいでしたのに、このうえさらに、かれらとともにゆく者たちがいました。それは……、カルモトの木の兵士たちと、木の音楽隊の者たち! じつはカルモトはかれらのことをすっかり忘れて、まちのそとにかれらをおきっぱなしにしたまま、旅立っていってしまったのです!(それにしてもカルモトは、かれらのことをよく忘れますね……)

 

 「ちょっとー! これ、どうすんのさー!」思わぬことで木の者たちのことをおしつけられたライアンが、遠く海のむこうにさけびましたが、もちろんその声がカルモトにとどくはずもありません……。みんなはしばらく話しあったうえ、この木の者たちはカルモトの家の近くまで送っていってやるのが、いちばんよいというけつろんを出しました(ちょうど道のとちゅうでしたし、そこからなら、自分で家までもどれるでしょうから)。木の兵士たちについては、剣のうでも立つ強い者たちです。ようじんぼうとしても、心強い味方になってくれることでしょう。

 

 でも問題がひとつ。かれらは全部で、十二人もいたのです!(そのうち木の音楽隊が、半分の六人でした。もっとも、かれらのことを人と数えていいものかどうかは、ぎもんでしたけど。でももう、かれらは仲間なのですから、人数に数えてもいいですよね。)

 

 こんなわけで、もう「これのどこがひみつの旅なんだ?」といいたいくらいの人数で、旅の者たちは出発しました。その数、全部で十九人!(これじゃまるで、山のぼりの遠足にむかう、小学校の子どもたちみたいですね……。さしずめベルグエルムが、みんなをひきいる先生といったところでしょうか?)

 

 ところで、ロビーたち旅の者たちは、みんなそれぞれの騎馬たちに乗っているわけですし、木の兵士たちと音楽隊も、それぞれの木の馬たちに乗っていたのです。ですからもう、馬の背中はいっぱいでした。ではカルルとクプル、それにミリエム、の三人は、歩いていくのでしょうか? 

 

 いえいえ、その心配はありません。フログルたちはそれぞれ、トーディアからロザムンディアにくるときに、ビポナというへんてこな生きものに乗ってきたのです。ビポナはきいろいからだにみどり色の羽を持った、かぶと虫にそっくりな生きもので、フログルたちはこの生きものをかいならして、馬のかわりに、その背に乗っているというわけでした(木のみつをバケツいっぱいにためて、それをがけの上においておくと、すぐに一ダース近いビポナたちが集まってくるということです。ビポナはたいへんにおとなしいせいかくでしたので、敵意さえ見せなければ、ものすごくかんたんにつかまえられるのだということでした)。つき出た大きなつのに、たづなをつけて乗るわけですが、おどろいたのは、その足のはやいこと! 六本の足で馬よりもはやく、大地をかけぬけていくのです! ですからビポナに乗れるのは、乗りなれている(そしてうんどうしんけいのすぐれている)、フログルたちだけでした。つまりこういったわけで、ミリエムはクプルの背中に「ひええ~!」としがみつきながら、この旅を進んでいくはめになったのです……(う~ん、気のどくなミリエム。せっかく、もとのからだにもどれたばっかりだというのに……)。

 

 そんなおかしな一行の旅は、大人数にもかかわらず、思いのほかじゅんちょうに、なにごともなく進みました(それとも大人数のおかげでしょうか?)。しっちたいの広がる土地をぬけ、切り分け山脈のふもとの道を、山にそって南へ。みんなはあたりや空の上にまで、じゅうぶんに気をくばりながら進んでいきましたが、ワットの黒騎士たちのすがたはおろか、けものいっぴき、かれらの道をはばむものはあらわれませんでした(もっとも、野生のけものいっぴきくらいでは、この大人数のかれらの道をはばむことなんて、むりでしょうけど。山のようにでっかいけものがいっぴき、とかいうのであれば、話はべつですが)。

 

 でも、とちゅうひとつだけ。クプルが「あっ! フワフワだ!」といって、ビポナの背からぴょこん! ととびおりて、そのまま原っぱの中にとびこんでいってしまったのです(残されたミリエムが「ぎゃあー!」とさけんだのはいうまでもありません)。「しょうがないな。」といってつれもどしにいったカルルも、もどってきません。しばらくしてふたりが(けろっとした顔をして)もどってきましたが、ふたりとも口いっぱいにフワフワをほおばっていて、肩から下げたかばんの中にも、フワフワがぎっしりはいっていました。

 

 「フワフワの、たいぐんでしたよ! むしゃむしゃ。みなさんのぶんも、いっぱいつかまえてきましたから、どうぞ!」

 

 ど、どうぞといわれても……。みんなは手をかざして、「ご、ごめん。今、おなかいっぱいだから……」といってごまかしました(やっぱりこのふたりは、つれてこない方がよかったかも……)。

 

 それからみんなは、ぶじにカルモトの家へとつづくその道の前までたどりついて、そこで木の兵士たちと音楽隊に、おわかれをしたのです。木の者たちはきりつ正しくこうしんしていって、道のとちゅうにこちらをむいて、きれいに、びしっ! とせいれつしました。それからかれらはくるりとむきを変えて、ふたたびカルモトの家のある木の塔へとむかって、その山道の中をこうしんしていったのです。

 

 かれら木の者たちは、カルモトの家の前で、カルモトがもどってくるのをずっと待ちつづけるのでしょう。旅の者たちが手をふっても、木の者たちがそれにこたえることはありませんでしたが、旅の者たちにはかれらがさきほど、こちらをむいてきれいにせいれつをしたのは、みんなにむかって、さいごのおわかれをしていたのだと思えてなりませんでした。

 

 

 さて、これでようやく、ひみつの旅らしい人数にもどったわけです(といっても、まだ七人もいるわけですが)。ここからさきは、このうちすてられた土地の中でも、さらにおく深い、だれひとりとしてよりつかない土地。旅の者たちはこれから、その土地の中へとふみこんでゆくのです。ここでいちばん、たよりになったのは……、やはり、この旅のいちばんのみちびき手である、あの人(ベルグエルムではありません。ざんねんながら)。この土地のことをもっともよく知っている、ミリエム・オーストでした。

 

 じつはミリエムはもともと、ベーカーランドよりもさらに南のくに、ブリスタットというくにの出身で、そのくにからロザムンディアのまちの大聖堂のオルガンそうしゃとしてやってきたのが、かれだったのです(オルガンがひけるなんて、いがいなさいのうですね! 

 

 ちなみに、ミリエムの生まれたブリスタットですが、このくにはグラン河という美しくゆたかな大河に守られていて、その河のほとりに育つたくさんのくだものは、このアークランドの中でもとくに高いひょうばんを受けていました。とくにブリスタットベリーというくだものがゆうめいで、このくだものは見た目はプラムににていましたが、とってもあまくて、みずみずしくて、かおりがさわやかで……、とにかく、やみつきになっちゃうおいしさなんだそうです。そう、じつはわたしも、まだブリスタットベリーを食べたことがないんです! う~ん、くやしい。こんどぜったい、食べてみたい!)。

 

 そんなわけですから、ミリエムはこの西の街道を通ってブリスタットからベーカーランドまでのあいだ、そしてベーカーランドからロザムンディアまでのあいだを、なんどもいききしたことがありました。この土地の道あんないには、ミリエムはまさに、うってつけだったというわけなのです(もっともミリエムはロザムンディアのまちでずっとゆうれいになっておりましたから、かれがこの道を通っていたのは、もうなん十年もむかしのことでした。ですからちょっと、心配ではありましたが……。

 

 ちなみに、ミリエムのからだはゆうれいになったそのころのままでしたので、見た目はとっても若く見えましたが、じっさいには、ベルグエルムよりもずっと年上だったのです。う~ん、なんだかちょっと、ふくざつですね)。

 

 

 そのミリエムのあんないで、一行はこの古びたむかしの道のりを、どんどんと進んでいくことができました(やっぱり道を知っている者がいるというのは、ちがいますね)。古い街道はもう、ほとんど消えてしまっていて、道を見つけるのがとくいなベルグエルムでさえも、街道をたどっていくのはこんなんになっていました。ですから正しい道を進んでいくのには、むかしのけいけんを持っているミリエムの、そのきおくだけが、たよりとなったのです(大きな木が立っていたりとか、大きな岩があったりだとか、そんなものが道の手がかりとなったのです。でもときおりミリエムは、「あれ? おかしいな、ここは、どっちだったっけ? う~ん……」となやんで、みんなをはらはらさせましたが……。まあ、だいぶ時間がたって、景色もずいぶんと変わってしまっておりましたから、もんくはいえませんでしたけど。もっともミリエムの場合は、たんに、きおく力の問題であることが多いようでしたが……)。

 

 やがて日が落ちてしまってからも、一行は夜のやみの中をずいぶんと進みました。ですが、さすがにもう、これ以上は進めません。こうして、長かった今日いちにちの旅が終わったのです。

 

 

 みんなはもう、くたくたでした。今日はずいぶんと、いろんなことがありましたから。いえ、ありすぎましたから。はぐくみの森を出発してからモーグにはいり、フェリアルがおばけになって、カルモトに会って……。それから、魔女の塔での大冒険です。これだけのことをいちにちのうちに終えましたから、むりもありません(魔女の塔での冒険についてはフェリアルはさんかしていませんでしたが、かれはそれと同じくらい、たいへんな目にあってしまっていましたから、やっぱりみんなと同じくらい、へとへとだったのです)。みんなは街道のわきの原っぱに野宿のじゅんびをさっさとすませて、つめたいままのごはんをがつがつ食べると、すぐに、深い眠りに落ちていってしまいました。ありがたいことに、つかれたからだの旅の者たちのために、カルルとクプルがこうたいで、見張りに立ってくれるということでした。ですからみんなはフログルたちにかんしゃして、心おきなく、ぐっすりと眠ることができたのです(ちなみに、ミリエムは旅の者たちよりもさきに、すぐにぐーぐーいびきをかいて寝てしまいました。まあ、ビポナに乗っているのも、たいへんなのでしょう)。

 

 よく朝。みんなは生きかえったかのようにげんきになりました。こんなにぐっすり寝てしまったのも、ひさしぶりな感じです。みんなは「う~ん……!」と両手をのばし、朝のすがすがしい空気を、おなかいっぱいにすいこみました(でもひとつだけ問題が。みんなが朝起きたら、起きて番をしてくれているはずのカルルとクプルが、そろってぐーすか、気持ちよさそうに寝ていたのです……。なにごともなかったからよかったものの……、やっぱりフログルたちにまかせるのは考えものだと、みんなは心から思いました……)。

 

 それからみんなはふたたび、街道をいっちょくせんに進んでいきました(ライアンはまだ朝のおやつがすんでいないといって、はちみつをたっぷり乗せたマフィンを三こも、口にほおばりながら出発しましたが)。空はうすぐもり。風はそよ風。寒すぎることもなく、おだやかな朝でした。

 

 「今日のうちに、なんとしても、ベーカーランドへとたどりつかねばならない。」ベルグエルムが、たづなをにぎる手に力をこめて、みんなにいいました。「進めるうちに、どんどん進んでおかなくては。われらに、休んでいるひまなどない。ライアン、今日は、おやつの時間はなしだぞ。」

 

 「えーっ! そんなー!」いわれて、ライアンがさけびました。

 

 「しょうがないよ。」ロビーも、ベルグエルムの言葉にこたえてそういいます。「今日は、キャンディーだけでがまんしてね。」

 

 ですが、ライアンがキャンディーだけでがまんできるはずもないということは、ロビーにもよく、わかっていました。

 

 「いいもん! メルに乗りながらおやつにするから! ロビー、ぼくのお菓子、しっかり持っててよね!」

 

 やっぱり……。ロビーはライアンにおしつけられたお菓子のはいったかばんをかかえこみながら、「はあ……」と深いため息をつきました。

 

 

 それからみんなの騎馬たち(とビポナたち)は、大地を走りに走りました。とちゅう、おひるごはんのきゅうけいをわずかにはさんだほかには、みんなはほんとうに、馬(もしくはビポナ)からおりることもせずに、南へ南へ、いっちょくせんに進んでいったのです(ところでライアンはほんとうに、走りながらおやつを食べました。ひとつお菓子を食べるたびに、「ロビー、チョコクッキー取って!」とか、「つぎは、ふにゃふにゃグミのキーズベリー味!」とか、うしろのロビーにいうのです。かわいそうなロビーは、さからうこともできず、ライアンのわがままに、だまってしたがうほかありませんでした……)。

 

 そしてもう日もかたむきはじめ、あたりがだんだんと、夜のしはいにつつまれてゆこうかという、ちょうどそのころ。

 

 「あそこです。あそこが、分かれ道ですよ。」

 

 つづく道のそのさきをゆびさして、とつぜんミリエムがいいました。道はその場所で、大きく右へまがっています。ですがよく見ると、道はそれだけではありませんでした。小さなほそい道が、そのまままっすぐ、南へとつづいていたのです。

 

 その小道は、なんともおそろしげな道でした。草木がぼうぼうにのびていて、張り出したえだが、その道をふさぐようにいくつもたれ下がっていたのです。そのえだや葉が、山からの風にこたえて、さわさわ……、ひゅるひゅる……、となんともものさびしい声を上げていました。

 

 「道にそって右へいけば、そのさきは、よろこび平原へとつながっています。このまままっすぐ、あの小道をいけば、道は、山のおく深くへとつながっていて、そのさきには……」

 

 「やみの精霊の谷があるというわけか。」ベルグエルムが、ミリエムのかわりにいいました。

 

 「そ、そうです。」ミリエムが、おびえたようにこたえます。

 

 「ねえ、ほんとうにいくんですか? 今からでも、おそくありませんから、考えなおした方が……」

 

 ミリエムはそういって、不安そうに旅の者たちのことを見渡しました。ですがミリエムになんといわれようと、みんなはここで、道をそれるわけにはいかなかったのです。

 

 「われらは、なんとしても、この道をゆかねばならない。ここでのおくれは、このアークランドの運命を変えてしまうことになるだろう。」ベルグエルムが、かたいけついを持っていいました。

 

 「ここからさきは、われらだけで進みます。ここをぬければ、ベーカーランドまでは、もう、目と鼻のさきだ。ミリエムどの、ごあんない、心よりかんしゃいたします。」ベルグエルムはそういって、ミリエムにウルファの敬礼をおくりました。

 

 「なーんか、おばけでも出そうなところだね。」ライアンが、ロビーといっしょにその小道をながめながら、いいました。「こんどこそ、ほんとうのおばけが、うじゃうじゃいるかも。しっかりたのむよ、フェリー……、あれ? フェリー?」

 

 ライアンとロビーはまわりをきょろきょろ見渡しましたが、そこにはフェリアルの騎馬だけがぽつんといるばかりで、主人であるフェリアルのすがたが、どこにも見あたりません(ま、まさか、おばけにさらわれちゃったんじゃ……!)。

 

 「あのー、フェリアルさんなら、さっきから、わたしの背中にくっついているんですが……」

 

 そういったのはカルルでした。見ると、フェリアルがカルルの背中にしがみついて、そこからびくびくと、つづく小道のようすのことをのぞきこんでいたのです(まったく人さわがせな)。なんだかフェリアルは、自分がおばけになってしまってからというもの、前よりももっと、おばけぎらいになってしまったようですね。この小道の「おばけムードまんてん」なようすを見て、フェリアルはすっかり、おじけづいてしまったというわけでした(でもフェリアルのめいよのためにもいっておきますが、かれは相手が「おばけかんけい」じゃなければ、とってもゆうかんで、りっぱな強い騎士なのです。それはガイラルロックたちや黒騎士たちとの戦いの場面を見れば、よくわかりますよね。こんかいのこの西の地での冒険は、相手や場所が、あんまりよくない場合が多いみたいです。オーリンたちの谷では、おばけの出そうな谷の底で、おばけみたいに出たり消えたりするかいぶつに出会ってしまいました。それからこんどは、おばけのまちそのものにふみこんでいって、そこで二百人ほどものゆうれいさんたちに出会ってしまったのです。そしておつぎは、やみの精霊たちの住むという、おばけの出そうなこわーい道……。フェリアルにとっては、だいぶ、かわいそうな旅になってしまいました。ですからみなさん、かれのことを見て、「なさけないなあ……」とか、あんまり思わないであげてくださいね。これからきっと、たくさん、かつやくしてくれるはずですから。相手が「おばけかんけい」じゃなければ)。

 

 「まったく……、なにやってんだか、もう。」ライアンが「はあ……」と深いため息をついて、あきれたようにいいました。「こら! それでも騎士なの! しゃきっとしなさい、しゃきっと!」

 

 「は、はいっ!」ライアンに怒られて、フェリアルは思わず、しゃん! と背すじをのばしてしまいます。

 

 「騎士は、みんなを助けるのがしごとでしょ! まったく、だらしない。」ライアンが、ぷんぷん怒っていいました。

 

 「い、いや、わたしは、みんなの安全のために、道をようくしらべておこうと……」

 

 くるしい、いいわけをするそんなフェリアルの顔を、「ふ~ん。」とのぞきこみながら、ライアンがさらにこういって、フェリアルのことをつっつきました。

 

 「そっか。じゃあ、みんなの安全のために、さきに、フェリーひとりで、谷をしらべてきてもらおっかなー。」

 

 「ええーっ! そ、そんなー!」フェリアルが泣きそうな顔をしていいました。

 

 「た、隊長~!」

 

 フェリアルはそういって、ベルグエルムに助けをもとめましたが、そんなべルグエルムもまた、いたってまじめな顔をして、こうこたえるばかりだったのです。

 

 「うむ。それもいいな。もし、おばけが出てきたら、すぐに、わたしたちにしらせてくれたまえ。」

 

 「た、隊長まで、そんな~!」

 

 とまあ、これも全部じょうだんでしたが……、ちょっと、やりすぎちゃいましたね(フェリアルのことをからかうのはやめにしましょうと、前にもいいましたのに、もう)。ほんとうに泣いてしまったフェリアルに、ライアンもベルグエルムも、「ご、ごめんね、フェリー。」とあわててあやまりました。

 

 「ロビーどの~!」ロビーにしがみついてわんわん泣いているフェリアルでしたが、そんなロビーも、よしよしとフェリアルのことをなだめながら、心の中でちょっとだけ、こう思ったのです。

 

 フェリアルさんって、けっこう、めんどくさい……。

 

 

 こうして旅の者たちは、そのおそろしいやみの精霊の谷へと、ふみこんでいきました。はたしてみんなはぶじに、この谷をぬけて、そのさきにつづくめざすベーカーランドの地へと、たどりつくことができるのでしょうか?(たどりつけなきゃこまりますけど。)

 

 みんなは見送るミリエムとフログルたちに、もういちど手をふって、その暗い小道をぱかぽこと馬で進んでいきました(ミリエムをひとりで帰すわけにはいきませんでしたので、カルルとクプルのふたりとも、ここでおわかれでした。ちょっとさみしいですけど、また、げんきなすがたを見せてもらいたいものですね!

 

 ところで……。ミリエムたちのその帰り道の中でのこと。かれらは道のとちゅう、思わぬできごとに出会ってしまったのです。かれらが野宿をしていると、そのむこう。西のほうがく、海のほうこうの荒れ野の地に、今までだれも見たこともないような、かがやくまちなみがあらわれました! ミリエムはなんともびっくりぎょうてんしてしまって、「あんなものは、見たこともきいたこともない! むやみに近づかない方がいいですよ!」といいましたが、こうきしんおうせいなフログルたちが、じっとしていられるはずもありませんよね……。

 

 こうしてかれら三人は、ビポナを走らせて、そのかがやくなぞのまちへとむかったのです。そこでかれらが見たものは……?

 

 ごめんなさい! ミリエムたちのその冒険について、ここでくわしくお話ししているわけにはいきません。それをみんな書いていたら、この本がもっと、ぶあつくなってしまいますから! この物語は、あくまでも、「ロビーの冒険」なのです。ですからまことに申しわけないのですが、「ミリエムとフログルのふしぎな冒険」の物語については、またのきかいにお話しすることにしましょう。かいつまんで説明しちゃったら、もったいないくらいのお話なので。ほんとにごめんね)。小道を進むにつれて、あたりはどんどんと暗くなっていきます。まだ日も落ちきっていないというのに、この暗さはやっぱり、ふつうではありませんでした。ということは……?

 

 「やっぱりここは、やみの精霊たちがしはいしているんだ。」ライアンが、あたりのようすをきょろきょろと見渡しながら、いいました。「この暗さは、かれらの力によるものだよ。かれらの力には、どんな光だって、かなわない。かれらにおそわれたらさいご。人はみんな、かれらの力に、そのからだをくいつくされて、おばけの仲間いりになっちゃうんだって。」

 

 ライアンがそういうと、うしろからフェリアルの「ひええ……!」という声がきこえてきます(おばけムードまんてんの場所できいて、楽しいような話題でもありませんでしたから)。

 

 「そ、そんなおそろしい精霊がおそってきたら、どうやって戦うの?」ロビーがライアンに、おそるおそるたずねました。

 

 「う~ん、そうだね。だれかひとりがおとりになって、そのすきに……」ライアンはそういって、うしろのフェリアルの方をふりむきます。

 

 「じょ、じょうだんはやめてくださいよ!」フェリアルがライアンに、さけびました。

 

 「うそだよ、フェリー。」ライアンはそういって、けらけら楽しそうに笑いました(ほんとにいじわるなんだから、もう)。

 

 「かれらと戦おうとしたって、むだだよ、ロビー。前にもいったけど、精霊たちの力には、ぼくたち生身のからだの者たちには、とうてい、かないっこないんだ。だって相手は、この世界、そのものなんだから。」

 

 そんなライアンの言葉に、ベルグエルムもつづけてロビーにいいました。

 

 「ライアンのいう通りです。われらはけっして、かれらと戦ってはならない。かれらのきげんをそこねないように、なんとか、かれらの谷を通らせてもらうのです。それいがいに、道はありません。」

 

 「そ、そうなんですか……」ロビーが不安げにこたえます。「で、でも、きっと、ライアンがいれば、だいじょうぶですよ。ライアンなら、かれらと話しができる。話しあえば、きっと、わかってもらえると思うから。」

 

 「だと、いいんですけど……」フェリアルが、ロビーよりももっと不安げにいいました。「わたしはもう、おばけなんかになるのは、ごめんですよ。」

 

 「いちどなったんだから、二どや三ど、なったって、おんなじじゃない?」ライアンがまた、いたずらっぽく笑ってフェリアルにそういいます。

 

 「じょ、じょうだんじゃない! もう、にどとごめんです!」フェリアルがむきになって、かえしました。

 

 

 やがて道はどんどんせまくなり、ついに一行は、馬が一頭ようやく、くぐれるか? というくらいの、そのなんともおそろしげな門の前までたどりつきました。いえ、門といいましたが、両がわにこけが生えた石のはしらが二本立っているだけで、とびらもやねもありません。ですがそのさきはあきらかに、この世界のものではありませんでした。くらやみの中にゆらゆらと動く葉のない木々が立ちならんでいて、地面にはまっ黒いねずみのような生きものたちが、ちょろちょろとはいまわっております。そしてときおり、影そのものがまるで生きているかのように、ぐにょぐにょとそのかたちを変えて、動きまわっているのが見て取れました。

 

 まさしくこの門のさきは、やみの精霊の谷。この世界の者たちが、むやみに立ちいっていいような場所ではなかったのです。

 

 「きょ、今日は、精霊さんたちは、いそがしいみたいですね。また、日をあらためて……」

 

 「こら! 逃げるな!」

 

 いかにもおばけが住んでいそうなそのおそろしいふんいきのことを見て、フェリアルがいそいそとひきかえそうとしましたが、そんなフェリアルのえり首をライアンがぐいっとつかまえて、ひきもどしました(やっぱりほんめいの場所は、これまでの小道よりももっと、おばけムードまんてんだったのです……。門の中はおばけのまちだったころのロザムンディア、つまりモーグよりももっと、おばけが出そうなふんいきでした。かわいそうなフェリアルくん……)。 

 

 「みんな。なにがむかってこようと、ぜったいに手出しをしてはならないぞ。」ベルグエルムがみんなにむかって、きつく注意をしました(とくにフェリアルには、ねんをおしていいました)。

 

 「中にはいったら、いっちょくせんに前に進むんだ。よけいなことは考えてはいけない。うまくいけば、なにごともなく、この谷を通りぬけられるかもしれない。」

 

 そういってベルグエルムは、とうとう、その門をくぐって中にはいっていったのです。

 

 「なにごともなく、なんて、ありそうにないけどね。」ライアンが、やれやれといった感じで、そのあとにつづきました(とうぜん、うしろに乗っているロビーもいっしょに中にはいりました)。

 

 「フェリー! 早くこないと、おいてっちゃうよ!」ライアンがうしろをふりかえって、まだぐずぐずとためらっているフェリアルにむかって、さけびます。

 

 「ま、待ってくださいよー!」そしてフェリアルも泣く泣く、ライアンのことを追いかけて、そのあとにつづいていきました。

 

 

 ここはいったい、どんな場所なのでしょう? 旅の者たちはその谷にはいったとたん、なんともぶきみな感かくにつつまれました。まるであたりからたくさんの見えないやみの手が、自分のもとへとのびてきていて、その手が自分のからだ中のエネルギーを、つかみ取ろうとしているかのような……、そんな感じにおそわれたのです(なんともいやーな感かくです)。空気はしっとり、ぴりぴり、ひんやりとしていて、黒いきりのようなものが、あたりをゆらゆらとただよっております。地面には黒いマシュマロのようなものがいくつも集まっていて(ぜったい、やいて食べてみようとは思いませんけど)、その上や木々のみきなどには、黒いねずみや、りすや、そのほかのふわふわとした生きものたちが、たくさん動きまわっていました。

 

 中でもみんなをいちばんびっくりさせたのは、まっ黒な人のかたちをした、影たちでした。その影たちは身長が七フィートほどもあって、目のあるところに小さな白いあながぽっかりとあいているばかりで、鼻も、口も、ゆびもありませんでした。その影たちが、あっちやこっちを、のそのそと歩きまわっていたのです。

 

 はじめは、かれらがやみの精霊なのかと思いました。ですからみんなは馬をとめて、かれらにこの地を通してもらおうと、話しかけたのです(話しかけたのは、もちろんライアンです)。ですけどかれらはまったく耳を貸さず(というより、きこえていないみたいです)、あいかわらず、ただのそのそと、あてもなくあたりを歩きまわっているばかりでした。

 

 「だめ。話が通じないみたい。」ライアンが手を上げて、ベルグエルムにいいました。「かれらは、やみの精霊じゃないみたいだね。でも、しぜんのエネルギーが、ものすごく強いよ。」

 

 ライアンのいう通り、じつはこの人のかたちをした影たちは、この土地に集まっているやみのエネルギーそのものが、人のすがたになって、動きまわっているものだったのです! かれらは言葉もわかりませんし、感じょうもありませんでした。ですからかれらに話しかけても、むだだったのです。

 

 ですが、それからしばらく進んだところで。旅の者たちはとうとう、この土地のほんとうの住人たちに出くわすことになってしまいました。

それは……、そう、やみの精霊です!

 

 「ぎゃあ! で、出たー!」とつぜん、フェリアルが大声を上げてさけびました!

 

 「どうした!」ベルグエルムが馬をとめて、あたりを見まわします。

 

 「だめだね、かこまれてるよ。なんか、こんなのばっかりな気がするけど……」

 

 まことにライアンのいう通り。旅の者たちは、すでにかれらに、すっかり取りかこまれてしまっていました!(ほんとうに、こんなのばっかりですけど……)

 

 フェリアルがひめいを上げたのも、むりはありません。かれらやみの精霊たちのすがたは、まるでじごくの底からはい上がってきた、ゆうれいたちの親玉、といった感じの、それはそれはおそろしいものだったのです!(これにはさすがのベルグエルムでさえ、おじけづいてしまったほどです。)

 

 かれらのからだは人のかたちをした、もえさかるまっ黒なほのおでした。そのからだからはぴりぴりと、いなずまのようなエネルギーが吹き出しています。つり上がった、まっ赤なふたつの目! その目はまるで、こおりのようなつめたさで、こちらをぎろりとにらみつけていました。そして大きく、さけた口!

 

 それは精霊というよりも、ほんとうに、じごくのおばけそのものといった感じでした。旅の者たちは今、そんなおそろしい者たちに、まわりをすっかりかこまれてしまっていたのです!(これなら木の兵士たちにかこまれたときの方が、ぜんぜんましです!)

 

 いったいかれらは、なん人くらいいるのでしょうか?(精霊を人と数えるかどうかは、べつとして。)見渡してみれば、あっちもこっちも、赤い目、さけた口、赤い目、さけた口! 旅の者たちはすっかりふるえ上がって、それぞれの騎馬たちをよせあい、肩をよせあいました。

 

 「ラ、ライア~ン! は、早く、なんとかしてくださいよ~!」フェリアルがたまらずに、ライアンにいいました。

 

 「かれらにいって! ぼくたちは、敵じゃないって!」ロビーもライアンにしがみつきながら、おびえた声でいいました。

 

 さあ、それではいよいよ、大ほんめい! ライアンくんの出番です! このときばかりは、みんなライアンにたよりきるほかありませんでした(ベルグエルムでさえ、しっかり! ライアン! と心の中であついせいえんを送っていたほどでした)。大精霊使いライアンさまの力を、今こそぞんぶんに、はっきしてもらわなくっちゃ!(っていうか、ほんとにお願い! なんとかして~!)

 

 ですが、みんなに思いっきりきたいされちゃっているライアンでしたが、そんなライアンだって、やみの精霊にむかいあうのは、これがはじめてのことなのです。なんでもこ~い! などと、いきおいでいってしまったライアンでしたが、小さいころから精霊になれ親しんできていたかれでさえ、やみの精霊たちと、はたしてほんとうに話しあうことができるのかどうか? それはぜんぜん、わからないことでした。でも、やらなければなりません!

 

 ライアンは、ごくりとつばを飲みこんで、「よ、よーし!」ときあいをこめました。そして手をまうえにかざして、「自分たちは敵ではない」ということをしめしながら、かれらにいよいよ、話しかけようとしたのです(ほんとうなら精霊に話しかけるときには、その精霊の力にあわせた道具を使った方がいいのですが、やみの精霊にあわせた道具なんて、ライアンは持っていませんでしたから)。 

 

 ですが……。

 

 そのつぎのしゅんかん。旅の者たちにとって、まったく思いもかけないできごとが起こりました。そしてそれは、もう今まででいちばん! といっていいくらいの、信じられないほどの、おどろきのできごとだったのです。

 

 ライアンがやみの精霊たちに話しかけようとしていた、まさにそのとき。そのやみの精霊の中のひとりが、大きくさけた口をひらいて、こんなことをいいました。

 

 

 「おまえたちを待っていた……。われらは、おまえたちに協力する……」 

 

 

 え……? ええーっ!

 

 

 これはいったい! どういうことなのでしょう!

 

 さあ、旅の者たちの冒険は、またしても、このさきよそくのできないほうこうに進んでいってしまうみたいです。それは、よい道なのか? 悪い道なのか? 物語はさらにつづきます。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告。


   「……じゅんびは、ととのっております……」

      「なぜ、王さまがぼくたちのことを?」

   「かれらのことを、信じよう。」

      「全隊! せいれーつ!」


第16章「エリル・シャンディーン」に続きます。


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