10月29日、ある平凡な公立高校の生徒会室には全役員が顔合わせ以来初めて顔を揃えていた。
会計、冴木餅望(※天然文系)
書記、電田篭(※炬燵警備単独部隊少佐)
庶務、木暮悠介(※短気な補習常連)
副会長、添咲カルマ(※DQN)
同じく副会長、成宮ツァン(※チャイニーズハーフ)
会長、秋月楓(※魔法少女)
そしてゲスト、チェシャ猫(※魔法少女のペット)
「.....ちょっと待って楓、なんでこの面子に僕が含まれてるの?」
「え、七人の方がなんかカッコいいでしょ」
「そんな理由!?」
せっかくカルマの用意したドライアイスによる演出も無駄になってしまい、部屋には二酸化炭素だけが篭っていく。
「–––って、死ぬわ!!酸素なくなるじゃねぇか、酸欠で死ぬわボケぇ!」
「そう言うなって、ユースケ先輩!会長ちゃんの要望とあればやるっきゃねぇだろ!」
「だったらせめて換気扇回せ!それで座ってないで今すぐ窓開けろ、換気換気!ていうか、ドライアイスなんてどっから用意したんだ!?」
「あ、うちが予算下ろした」
「モチモチー!?テメェくだらねぇことに生徒会の予算使ってんじゃねぇよ、会計の財布の紐緩すぎるだろ!!」
「もう、ゆうちゃんうるさい!あぁ、おこたが暖かい」
「あんたはさっさと卒業して大学受けて炬燵ごとこの生徒会から出て行ってくれませんかね!?」
カルマが愉快に笑い、モチモチがそろばんを取り出し、コモルがミカンを食べ始める。その全てを指摘しツッコミを入れるのがユースケとツァンの二人というのが生徒会の日常である。
「–––って、ツァァァァァァン!!お前はさっきから何黙っちゃってんのォォォォォォォォォ!!?」
そう、いつもならユースケだけでなくツァンもツッコミに参加する。それなのに今日は静か、というかチェシャ猫のことをひたすら撫で回したり頬をすりすりさせたりしてる。
「.....え?」
「せめて話を聞け、ショタコン女!」
中国人の父と日本人の母の間に産まれたツァンは生粋のショタコンである。近隣の幼稚園、保育園、小学校との交流会があれば積極的に参加し、近所の道場に行って未来を支えるボーイズを指導する手伝いに行く、まさに生徒会役員の鑑だと言えるだろう。
楓に助けを求めるチェシャ猫、いや、楓ではなくツァン以外に誰でもいいからとりあえず助け出して欲しそうな表情を浮かべてる、哀れ。
「–––つーか、今日集まった理由は!?会長権限で呼び出されたけど、俺帰っていいかな!?」
「まぁまぁ、木暮先輩。こうやって親睦を深めることも大切なのですよ」
「わざわざ生徒会室に集まってやらなくてもいいでしょ!」
「わかってないなぁ、ユースケ君、おこたがそこにあればええんやで」
「面倒なので永遠にぬくぬくしててください!!」
高校五年生電田篭は炬燵の中から飼い猫を頭に乗せた!ぬくぬくしてる!
「.....ふにぁ」
「ったく、じゃあ、会長さんよ。そろそろ俺たちを集めた理由、もとい本日の議題に入ってくれませんかね?」
「もう、木暮先輩は見た目に似合わず真面目なんですから!.....ごめんなさい、ちゃんとやりますのでその振り上げた拳を下ろしてください」
「チッ」
一応推薦は受かってるとはいえ、ユースケも受験生である。フラストレーションが溜まってるのは当然、同級生であるツァンはチェシャ猫の癒しという良薬で発散している。
–––パン、パン、パンと三度手を叩き、楓は自然と指定席になったいつもの椅子に腰をかける。
「さて、本日皆さんに集まってもらったのは他でもありません。明日から始まる文化祭についてです」
ここからは真面目モードに入りたい楓だったが、メリハリがないのがこの生徒会の特徴である。
席に座ったのは木暮とツァンだけだ。ちなみにツァンの膝の上にはチェシャ猫がいる。だけど、それもまたいつも通りだとユースケはどこか諦めていた。
「たしかに明日は文化祭ネ、何かウチからも出し物するのカ?」
「いえ、私たちは見回りと文化祭がうまくいくようにバックアップに勤める方向でいこうと思います」
「.....それ、前日に言うことじゃねぇだろ」
「ユースケ先輩、サプライズってご存知ですか?」
「知ってるぜ、こういう風に突然クソウゼェ後輩の頭をメキメキって鳴らすこともサプライズだろ?先輩からのサプライズだ、コラ。喜べ」
「痛い痛い痛い痛い!!?ちょ、すんません、まじさーせん!」
「ま、何をするにしても予算はうちが下すから安心してよ」
「生徒会の予算はもっと計画的に使え!」
「使わずして何が予算か!?」
「だからってほいほい許可してんじゃねぇ!!予算は有限だ!!」
春、新入生歓迎に生徒会引率の四国横断旅行を行ったり、花見を週一ペースでやったり、夏には修学旅行先を沖縄からオーストラリアに生徒会権限で変えたり、近場の募金箱に一部注ぎ込んだり、コンビニで必要経費だとぬかして魔法のカードを購入し電子化させたりと予算は計画的、かつフルに活用している。
それでもまだ余りがあるらしいから、もしかしたら学校側がどうかしているのかもしれない。
「まぁまぁ、今更そういうのはできないから予算は使わずにいこう」
「えー」
「.....あんたはこの生徒会を破産させたいのか、オイ」
「.....ユースケ先輩、そろそろ離してくれませんかね?さすがの俺でもこんな理不尽な理由で保健室行くのは嫌です」
ただでさえ電田篭の持ち込んだ炬燵の電気代も予算から削られてるのだ。何でこいつが会計なんだと木暮の疑問は消えることはない。卒業しても、仮に異世界に飛ばされても忘れることはないだろう。だから、カルマの顔を強く握り締めることは仕方ないはず。うん、とユースケは自分は悪くないと思いつつゆっくりと力を抜いていく。
「で、会長さん。俺たちは一体何をすりゃいいんだ?」
「だからさっきも言った通り、見回りついでにゴミ拾いしたり、文化祭がスムーズに行えるようにしてほしい。道に迷ってる外部の方の案内とか、困ってる生徒さんへの対応とかね」
「なるほど、ネ。日本人特有のワビサビ、ありがた迷惑を積極的にやってけばいいのネ」
「ツァン、ちょっと違う。間違ってねぇけど何か違う」
「そういうことです、ご協力お願いしてもよろしいでしょうか?」
生徒会長楓の言葉にユースケとツァンは顔を合わせて苦笑いを浮かべる。特に話を聞いてなかったカルマとモチモチも似たような表情だ。チェシャ猫はどこか困ったような、戸惑った表情を浮かべ、コモルはぬくぬくしてる。
「–––それ、確認するまでないヨ。私たちは生徒会、仲間だから協力するのは当然ネ」
「–––っつーことだ、会長さんよ。あんたはどかっと座って偉そうにしてたらいいんだよ」
前生徒会長も支えた二人の言葉はしっかりと現生徒会長の楓にも伝わった。
そう、生徒会は一個人では運営できない。それぞれに役割がある分担作業。生徒会も一組織、組織は決して一人では動かない。
「あ、あとカキヤを見かけたら他の人とか気にせずに特別待遇よろしくね!彼氏なの!」
「うぉい!?」
–––ここで生徒会長の本音が漏れた。
※
唐邦祭。通称、カニ祭。
カニ祭中三日間は通常授業なんか忘れて生徒も教師も地域の人達も生物室のアロワナも無礼講だ。
生徒は朝早くから準備に追われたと思ったら、開会式に出席し、朝っぱらから打ち上げ花火をドーン!と一発ドデカいのをぶっ放すのが恒例行事となっているようだ。
.....これ、いつか近所迷惑だとか言われるやつだとウチは思います。
今までよくやってこられたなと思うくらい派手にやってるんだけど、本当に問題ないのだろうか?
あ、ちなみに今日は皆制服ではなく、自分たちのクラスでデザインしたクラスTシャツを着てる。
「.....楽しみ」
「ん?松子ってこういうの好きなの?」
「.....結構、好き」
「へー」
なんか意外ね。今日も変わらず両目を隠す長いストレートの黒髪によくわからない読むだけで呪われそうな本を持ってるのはいつも通りだけど。
「.....カップルとか、多いから、いい練習になる」
.....そう言って藁人形を取り出してるけど、何の練習?あまり聞かないでおこう、正直怖い。
生徒会長さん、もとい楓先輩の挨拶も終わり、ウチらはそれぞれの教室に戻ってる。開校は10時から、今は開校30分前。それまでにクラスの模擬店である焼きそばの準備をしなければならない。
「–––お前らー!我らが教室にテレビが欲しいかー!?」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
「祭りは好きかー!?」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
「–––よろしい、ならば戦争だ。命をかけた戦じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!絶対勝つぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「「「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
.....えっと、何だこれ。
担任のふさっち置いてけぼりくらってるよ、千梅。盛り上げるのはいいんだけど、うん、松子も神城も普段とは違うテンションだし。学祭恐るべし。
特に校長の思いつきで「今年はいっぱい入学生入ってきてくれてガッポガッポでお金が結構余ったからね、よし、文化祭で売り上げ一番になったクラスには教室にテレビを、体育祭で総合優勝したクラスには焼肉屋ミッチーの一日食べ放題引換券を贈呈しようじゃないか!」と、体育祭のときに割と本気で言って生徒の前で現物まで見せられたらやる気が上がらないわけがない。
しかも、実際夏に行われた体育祭で賞品贈呈されてたし、公立高校怖い。
「接客班はこっちに集まれ!ミーティングやるよ!」
「おぉ!バイト戦士の三竹さんが本気だ!」
「プロの目だ!」
調理班にいてはつまみ食いで客に出す分がなくなってしまうと追い出された三竹が燃えている!
43歳、未だに独身のふさっちが「み、三竹さーん?うちはバイト禁止ですよー?」とか言ってる気がするけど気にしてはいけない。
「あ、ツバキちゃんもこっちこっち」
「ん?」
あれ、ウチはたしか調理班って聞いてたけどいつから変更になったんだろ?
「調理班集合ッッッ!こちらも最後のチェックと仕込みを行う!」
「すげぇ気迫だ!」
「あの五つ星レストランの息子にして次期後継者、さらには料理番組や雑誌でも取り上げられてる押忍の兄貴!」
「先月なんか、フランスに料理修行に呼ばれてたらしいぜ」
「しかも彼女持ちで書道部所属!」
「料理部所属じゃないの!?」
.....あいつ、そんな経歴持ってたんだ。ていうか男子の大半が調理班なんだ。ふさっちも調理班みたいだけど、あの暑苦しさについていけるのかな?
そういえば三竹に呼ばれてたんだっけ、何の用だろ?
「ねぇ、ウチってたしか調理班だったよね?」
「うん、ちょっと兄貴に言って変えてもらったんだ。ツバキちゃんには客寄せやってほしくて」
「そうなんだ」
そういうことは本人であるウチを通して欲しかったけど、急遽決まった感じなんだろうな。三竹も忙しいわけだし、あまり責めることもできないなぁ。まぁ、いっか、別に困ることでもないし。
「それで、ウチはビラでも配ればいいの?」
「それもそうなんだけど、ちょっとついてきて」
「?」
「あ、ミーティングは終わりね!総員配置について、わからないことがあれば即時電話で連絡を入れること!」
「はい!」
「わっかりましたー!」
グッと親指を立てた三竹に対して、ビシッと敬礼した接客班の皆さん。よくわからない団結力だ、ここは軍隊じゃないんだよ。
調理室に向かう上京して一人暮らしを始めてみたはいいけど、彼氏どころか浮いた話が20年近くないふさっちが「み、三竹さーん?校内でのけ、携帯電話の使用は、禁止、です、よ?」と弱冠自信なさげに言ってるけど気にしてはいけない。
開校18分前、ウチは三竹に連れられて女子更衣室にやってきた。更衣室の扉には男女共に鍵付きで女子更衣室のロッカー一つ一つに鍵が付いてると二重ロックとなってる。それでも下着泥棒なんか普通にあるので、男子の執念すごいなとたまに感心してることは内緒である。
「ごめんね、実は兄ちゃんに頼んでた衣装が間に合わないはずだったのに、何故か一着だけ間に合ってツバキちゃんに合うサイズだったから」
「.....なんでウチのサイズ知ってるの?」
「健康診断の時に」
なるほど、と納得しかけたけど納得しちゃダメなやつだ。
「それで本来なら接客班の女子皆に着てもらいたかったんだけど、そっちは間に合わなくてね」
「.....もしかして、これ?」
「そう、これ!」
–––さて、調理班に合流するか〜。
「ちょ、ちょっち待ってツバキちゃん!お願いだから待って!」
「いやいやいや、いくらなんでもこれはないでしょ!どういうコンセプトでこんなデザインなわけ!?」
「兄ちゃんの趣味」
「ちょっとあんたの兄ちゃんと直接話がしたい!」
いや、だってなんか色々おかしいもん。青を基調とした丈の短い裾や袖にフリルのついたワンピースインナーの上に白いフリルたっぷりのエプロンドレスのようなメイド服もどきなデザイン。同じく白色で清楚な感じの手袋に紫と黒のボーダーのソックス、さらには茶色のブーツまであるしさ。ぴょこ、と頭に付けるであろう黒の大きなリボンもきちんと用意されている。
ていうか明らかに焼きそば屋とミスマッチすぎて怪しいわ!
「ツ、ツバキちゃぁ〜ん」
「.....仕方ないなぁ、今回だけだからね」
「ありがたき幸せ!」
時間もないことだし、いつも着てる魔法少女のコスチュームに比べたら露出も少ないからいいだろう。まだマシだ。あくまでも接客業と思えばなんの問題もない、うん、大丈夫大丈夫。
【ギ.....ピピ、ガガガッ、ザザー...】
着替えてる途中で魔女の声が聞こえた気がする。でも、いつもと違う、何だかノイズが走ったような声が頭の中に響いた感じだ。
改めて鏡の前に立ってみたが、何というか、自分でも嫌って言うくらい似合ってる気がする。本当に最初からウチのために作られたような、そんなわけないけど、そう感じてしまうほどしっくりくる。
「.....なんか、髪型がしっくりこないね。ツバキちゃんちょっと座って」
「え、もう開校まで時間が」
「大丈夫大丈夫、私一応美容院でもバイトして二年経つから!」
「ちょっと待って!?それおかしくない!?」
たしか三竹はウチと同い年で同級生だったはず!まさか、サバを読んでる!?
「細かいことは気にしない気にしない!さ、大人しくしててよね!」
「う、うん」
※
カッ!!
起床した唐吉と時計ウサギが向かい合ってツバキの置いていった朝食を食べていると、従姉弟の勘を働かせた唐吉の目が大きく開かれる。
「高校の更衣室でツバキ姉が三竹先輩と百合百合してる電波をキャッチしたッス!」
「お、おう」
「–––こうしちゃいられねぇッス!行くッスよ、ウサギっち、ツバキ姉の元へ!」
「待て、女子更衣室はさすがにマズイのでは!?」
※
三竹の兄、桐助は引きこもりで変態である。
居住する世界は八畳間。壁を埋め尽くすはカレンダーと多くの聖典とブロマイド、偶像崇拝の傾向があると思われる。最新鋭のPCが三台、それぞれにモニターが五つは取り付けられている。そして極め付けは冷蔵庫。兵糧戦にはもってこいな状況だが、平和ボケした現代社会において役立つことは数少ないであろう。
三桁を越える体重を他人が動かすことは難しい、まさに動かざること山の如し。かつて、この家に泥棒が侵入し、この部屋の目を当てられたのか、哀れみとどこか怯えたような様子で何も盗まずに撤退していったという。
彼の体格を見て恐れをなしたという者もいれば、何か霊的な存在がへやに住みついてて追い払ったと言う者もいる。
そんな外に出ること自体が稀な桐助でも金を稼ぐ手段は得ている。
現在、とある会社に衣装デザインを提供しているのだ。専属で、しかも高給ということで桐助本人も満足している。そういえば先日三竹に試作品の服を一着渡した気がするが、その日は気分良く酔っ払ってたのであまり覚えていない。
–––MAGIC GIRL DRESS_MODEL ALICE–PROTOTYPE_05、まだ完成していないデザインの一つだ。
デザイン面に問題はない、だが、どこか物足りない、何かが違う。契約会社側とも幾度とない打ち合わせをしているが、答えは見えないままである。
「–––魔法少女、ね」
何時間ぶりか、いや、何度目かわからない独り言を桐助は静かに呟くのだった。セットしておいたタイマーが3分を告げる、カップラーメンができあがった。
一先ず食事をしようと桐助の体重でギシギシと悲鳴を上げる回転椅子をぐるりと回転させた。
※
.....どうしてこうなった。
カニ祭が始まり既に二時間が経っている、昼時ということもあり食べ物を販売してる模擬店はどこも賑わっている。焼きそばをやってるうちにも言えることだが、それでもウチはあまり喜べない、というより素直に喜んでもいいのかわからない状況が目の前で起こってる。
「すみません!カメラ目線お願いします!」
「こっちも、ちょっとポーズ変えてみてもらってもいいですか!?」
「いっそのこと脱いでくれても、ぐへへへ」
「はいはいはーい!押さないで押さないで、順番ですよ、お一人様100円になりまーす!」
–––売り子として、宣伝はうまくいった。だが、今は焼きそばの売り上げよりもウチの撮影会の方が僅差で勝ってしまってる、正直申し訳ない。押忍君が午前以上に気合い入れて作ってるから教室前は大所帯となってしまってる。
ていうか唐吉に時計ウサギ、しれっと並んでんじゃねぇ。
「写真撮影の列はこちらになります、焼きそばの列は向かって左手の列へお並びください!」
「写真撮影の列と焼きそばの列は別になってます、ご注意ください!」
それにしても不思議だ。押忍君を筆頭にして作った焼きそばは普通においしかった、それこそよくわからないくらいに。おいしいから評判になるのはわかる、そこで一緒にウチの話が出るかもしれないというのもわかる。こんな奇抜な格好してるんだから。
それにしても人が多すぎる気がするのは気のせいだろうか、さっきコスプレ界で有名なカメラマンさんから名刺までもらってしまったし。世間が狭いとかそういうのでは説明できないレベルな気がする。
.....もしや、三竹は今ウチの近くで列整備と撮影代を徴収している。儲けのために撮影会をすると言ったのは三竹だ。ふさっちが「み、三竹さーん、ツバキさーん?なんで先生の教室こんな人いっぱいなのー?ていうか凄いかわいい服!後で先生にも–––」とか四十路の担任教師らしからぬ発言をしてたので社会科教師のセージに連れて行かれてた、多分生徒指導室だろう。
まぁ、いいや、三竹とは話せる位置であることに変わりない。
「ね、ねぇ三竹、そういえば千梅はどこ?」
「千梅ちゃん?千梅ちゃんにはビラ配りと宣伝と情報操作頼んでおいたから近所走り回ってるんじゃないかな」
「.....それって、ウチのことも?」
「美人な売り子がいるって宣伝もしっかり頼んどいたよ!」
やっぱりあいつか!次見かけたらアイアンクロー確定!!いや、それだけじゃ足りないかな、ちょっと練習してるプロレ「すみませーん!視線お願いしまーす!」あ、はいはい。
「ツバキ姉!なんで俺のツバキ姉が大衆に晒されることになってるんですかッッッ!?」
「いつからウチはお前のものになった!」
馬鹿な弟分がいたのでとりあえずアイアンクロー。うむ、今日もメキメキといい音が鳴ってる。
周りのカメラマン達もいいぞ、もっとやれみたいな表情でパシャパシャとシャッターを切り続ける。
「気持ちいいいいいででででででででででででで!!?ちょ、ウサギっちぃ、ヘルプヘーループー!」
「.....まったく、そろそろ放してやったらどうだツバキ」
.....なんか、この二人微妙に仲良くなってない?
「ていうか、なんであんたまで来てんの?」
「君の従兄弟君に連れ出された、それ以前に私は君の使い魔だ。傍にいるのが本来は当たり前なのだが」
「知らないし」
周りに聴こえないような声で会話する、魔法少女関連の話だと大っぴらに話すわけにはいかない。
楓先輩は堂々と使い魔を連れ回してたから凄いと思う。ていうか人型だったし、時計ウサギは動物に近いのに、何か違いがあるんだろうか?
「早速だけど、ツバキ姉!一枚撮らせて–––」
「ざけんな」
※
「.....な、何故唐吉様とツバキが、一緒に?も、もしかして、私もこうしちゃいられないわ。今すぐ秋葉原に行かなきゃ」
松子は違う意味で戦慄し、とある決意を固めていた。
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