「–––えっと、二人共?な、仲良く、ね.....?」
「「誰がこんな奴と!?」」
なんでウチがこんな生意気なクソガキと仲良くしなくちゃいけないの!?
眼鏡をかけた生徒会長は両肩にかけた大きな三つ編みを握りしめながらウチらを宥めるようにしてるけど、この、クソガキとは、仲良くなれない、気が、します!!
「楓、やっぱりこいつの記憶を消そう!早くステッキの用意を!」
「で、でもそんなことに魔法を使うなんて.....」
「前体重を減らすために変身した楓にどうこう言う資格はないだろ!」
「ひう!?そ、それ内緒!」
紫髪のクソガキは頭上の耳をぴょこぴょこさせながらウチのことを睨みつけてくる。
–––ん、ちょっと待って?何か端々に気になる単語がちらほらと。
「もう、チェシャ猫は節操ないんだから!そんなんだからモテないんだよ!」
「ふん、この程度で愛想を尽かされるくらいなら、僕の見当違いだったということさ」
「まったく、可愛くないんだから!」
.....そもそもがおかしかった。どうしてウチが生徒会室の前で聞き耳を立ててのがバレたのだろう。
この二人は途中まで気がついてなかった、絶対ではないけど音もウチは立てなかった自信だってある。なのに、何のきっかけもなくバレた。
いきなり扉が開いて、このチェシャ猫と呼ばれてるガキに中に連れられた。そこにいたのは生徒会長とチェシャ猫だけ。
–––ていうか、魔法?ステッキ?
「ねぇ、まさか生徒会長も、魔法少女だったりします?」
「そーだよ」
–––あっさりと返ってきた。
バラバラになっていたパズルのピースを組む動作に入る前に先に答えを言われてしまったかのような感覚。
魔法少女に守秘義務はないって時計ウサギは言ってたけど、ここまであっさりとバラしてしまってもいいんだろうか?
「私は魔法少女でーす!キラッ☆」と現役女子高生が堂々と言っているようなものだ。恥ずかしいことこの上ない。
「あなたも、魔法少女なんでしょ?使い魔は一緒じゃないの?」
「家に置いてきました」
「あ、哀れな」
チェシャ猫がドン引きしてる、何で?
「うわぁ、本当にいたんだ!私以外にも魔法少女、嬉しいなぁ、しかも同じ高校にだなんて!」
「だから言ってただろ。魔法少女は結構あちこちにいるって」
「ごめんって、拗ねないで。今夜秋刀魚の塩焼き買ってあげるから!」
「.....うん」
....,仲良いんだなぁ、この二人。まるで姉弟みたいだ。
耳をピコピコさせてるチェシャ猫はどこか愛嬌を感じさせられる気がしたけど、気のせいということにしておこう。
「よし、せっかく誰もいないし変身しちゃおうかな!」
「え!?」
「えぇ、ウチいるんですけど!?」
「あ、そだったね」
いやー、うっかりうっかりと生徒会長は頭を掻いてる。
「まぁ、でも君も魔法少女みたいだしノーカンノーカン。いいでしょ、チェシャ猫?」
「いいよ、ちょっと本部に掛け合って人払いするから待ってね」
「.....やっぱ人力なんだ」
チェシャ猫がガラケータイプの携帯電話を操作する。
外を見てみると学校近辺の道に立ち入り禁止の標識等が各所に設置され、校内放送で害虫駆除のため残ってる生徒は帰宅するようにと放送が流れた。
.....いや、毎度思うけどこういうときこそ魔法でどうにかすべきだと思う。
「もう、いつもここまでしなくてもいいのに」
「するさ、楓のコスチュームは目の当てどころがない」
生徒会長から目を逸らすチェシャ猫を無視して先輩はステッキのボタンを押す。
–––周囲に水色の光が包み込み、光が生徒会長の制服を巻き込み形状が変化していく。肩にかかってた三つ編みは後ろ髪両サイドに再び三つ編みに編み込まれ、脚部にフリルのついた黒いラバー状のレオタード姿になる。さらに白く透明度の高いレインコートのようなマントを纏い、猫耳と猫の尻尾が装着される。
–––変身を終えた生徒会長はくるっとターンを決め、眼鏡の上からウィンクに右手でピースサインを作る。
「...........」
「い、いぇい!」
「無理しなくてもいいんですよ!?」
沈黙に耐えきれなくなった生徒会長が声を出したが、どこか恥ずかしそうで声が綺麗に裏返った。
ていうか、コスチュームがどこからどう見てもスク水にしか見えない。
胸も、結構デカイし、レインコートがなければ破廉恥すぎることに、いや、レインコートがむしろ余計破廉恥に見せているのかもしれない。
「–––改めて、私は楓。この高校の生徒会長で魔法少女よ。この子は私の使い魔のチェシャ猫」
「まぁ、よろしく」
「あ、つ、ツバキです。ウチも魔法少女、です?」
なんとなく認めるのは嫌だったが、他に名乗る肩書きもないので名乗っただけである。なかったらなんか寂しいし。
「それで君は変身しないの?」
「え"?」
やっぱり、変身しなきゃ、ダメですかね?
一応ステッキはあるものの、何かと恥ずかしい気持ちはある。まだ慣れない。けど、生徒会長は変身したわけだし、ウチも変身するのが礼儀、なのかな?
「早くしなよ」
イラッ、このクソガキ!
ええい、ままよ!!
–––ステッキのボタンをやけくそ気味に押した。
ウチの周囲に光が舞い、衣服を脱がしてあのコスチュームに着せ替えられていく。あー、やっぱ色んな所すーすーする。それに何より...
「.....うぅ、やっぱ恥ずかしい」
「いいじゃん!似合ってるよ、ウサギ耳!」
「ど、どうも」
猫耳の生徒会長に言われても、なんか、辛いです。
「ツバキちゃんって魔法少女になってどのくらい経つの?」
「ええっと、大体一カ月くらいですかね?」
「そうなんだ!じゃあ、新人さんなんだね!」
「は、はぁ」
やけにテンション高いな、生徒会長。ていうか、変身しっぱなで話するの精神的に結構くるのがあるんですけど。
でも、生徒会長もそのままだし戻るタイミングもないからいいか、諦めよう。
「えっと、生徒会長は?」
「楓でいいよ。私はねー、今年で二年目くらい」
ぶいぶい、と生徒会長は左の人差し指と中指を立てる。二年かぁ、ということは結構前から魔法少女って色んな所にいたんだなぁ。
「ねぇ、他に聞きたいこととかある?私とチェシャ猫が教えてあげるよ」
「おい、なんで僕が巻き込まれてるんだ?」
目のやり場に困ってるのか、チェシャ猫はさっきからこっちを見ようとしない。聞きたいことかぁ、結構あるけどまずはやっぱりあれかな。
「どうして、ウチがこの部屋の前にいるってわかったんですか?」
そう、これである。
「あぁ、なるほどね!たしかに気になるよね。でも、わかったのは私じゃなくてチェシャ猫なんだよ」
「え?」
「魔女の声って言葉は知ってる?」
「し、知らない」
「.....君、もっと使い魔と会話した方がいいよ」
まったくだ。
「君が魔法を手に入れる時、頭の中に声が響くでしょ?」
「あの、電子音みたいな声?」
「そう、それが魔女の声。僕たち使い魔もそれを聞くことができるんだ。自分が使えてる魔法少女以外に発せられた魔女の声でも、ね」
「あ」
–––そういえば、この部屋の前であの声を聞いた気がする。
「.....本当に知らなかったんだ」
ということは、もしかして時計ウサギはチェシャ猫の言ったこと、いや、他にも何か知っていることがあるってこと?
魔法少女なんて現実味ないことだから意識的に避けてたけど...
「大丈夫だよ、ツバキちゃん!私も最初のうちはそんなんだったから、チェシャ猫もまともに目を見て話してくれなかったんだもん!」
「そ、それは、だな!」
「にやにや」
「生暖かい目線ヤメロー!」
なるほど、チェシャ猫は見た目通り初心なんだな。うんうん。
「あれ、そういえばこのコスチュームって使い魔がデザインしたものじゃないの?」
「違うよ、僕にそんなことできるんならもっと目のやり場に困らないコスチュームを申請してるよ!」
そうなんだ、これはてっきり時計ウサギの変態の趣味だと思ってた。
【うほほーい、疑惑魔法が取得可能になりました】
「あ、魔女の声!どっち?」
「今のはウチ」
「本当に魔法が取得可能になる条件とかタイミングってわからないわよねぇ、何が取得可能になったの?」
「疑惑魔法」
「何それ」
「わかりません」
生徒会長につられてウチも笑った。何だろう、この人といると楽しい気がする。
同じ境遇の立場の人に会えたから?
相手が先輩で生徒会長だから?
いや、違う。松子や千梅、三竹といるときと同じような楽しさ。ウチはこの人と友達になりたいんだ。
「–––楓先輩」
「なーに?ていうか楓でいいよー、もう!」
「そういうわけにはいきませんよ。先輩なんですから!というわけで友達になりましょう!」
「ふふ、いいよ後輩ちゃん」
–––ウチの腹が盛大に鳴り響き、楓先輩と帰りにノックバーガーに寄った。
あぁ、そういえばチェシャ猫もいた。
※
「うー、ただいまー」
「.....おかえり」
目黒の中心住宅街から少し離れた、まだ空き地や駄菓子屋のあるちょっとした団地にある長屋の一室が千梅の家である。
刑事である兄の奈樹と彼が保護した年上の家出少女の桜が同居人だ。
「あ、桜さん!兄貴いますか?」
「ナキはいない、でも私がいる」
「ハハハ、そうですね!」
「.....うん」
桜はほんのりと頬を赤く染める。一室を借りているため部屋数が少ない、そのため千梅と桜は同室になってる。数年前、一人暮らしを始めたナキの部屋に押しかけたのが実妹の千梅だ。
理由は至極単純、母親とキノコタケノコ論争で意見が合わず家出したのだ。ちなみに千梅はキノコ派だ。
「お風呂、沸かしてるけど、一緒に入る?」
「いや、私もそんな子供じゃないんで、遠慮しときますよ!ていうか狭いでしょうに」
「–––狭いほうが、いい」
「え?」
「なんでもない」
千梅は気がついてないが、桜はレズビアンである。そして恩人の妹である千梅を密かに狙っている。
この間出会ったウサ耳の魔法少女も良かったが、本命は千梅だ。千梅が風呂に入ったのを見計らい、彼女の脱いだシャツ、パンツ、ストッキング、ブラジャーを洗濯機に入れながら密かにかつ大胆に堪能する。
次に千梅がさっきまで踏んでたバスマットを、その次に千梅の下着の入っているタンスの中のパンツの入れてる場所に忍び込んでいる使い魔であるハンプティパンティを掴み出す。
「.....チウメに迷惑かけちゃダメ」
「いや、何度も言ってるがこれは生理現象だ。やめれば俺は存在を維持できなくなっちまう」
「この際しなくていい」
「酷くね!?」
「次ここにいたら叩き割る。ここは私の場所」
「いや、サクラ、ここは千梅嬢の場所だ」
全く、人の楽しみを奪うなんてなんという卵だ。桜は三分ほどの幸福感を味わった後、タンスをそっと閉じる。
千梅がいない時にはやらない。何故なら彼女が初めてこの部屋という空間に存在することによって千梅の下着にも生気が宿るからである。
–––桜はその場でステッキを手に取り、静かに変身した。
「それで、次はどこに行けばいいの?」
「.....急に仕事顔になるのやめてくんねぇかなぁ、どうも慣れねぇ」
やれやれ、と言いつつハンプティパンティは小型のデバイスを取り出し操作を始める。
「特に、かな。今日も東京の見回りだけでいいだろ、ていうか別にサクラがする必要ないんだぞ?」
「やる、チウメとナキに迷惑ばっかかけてられない」
「.....俺はいいのかよ、ったく、サクラが変身して外に出ると金がどんどんなくなっていくんだから、少しは遠慮してほしいぜ」
「それでも、やる」
桜は魔法少女である。
今でも魔法少女を必要としてる地域はたくさんある。
例えば地域復興、例えばイメージキャラクターとして、例えば地元アイドルとして、例えば募金を募る者として、例えば一日警察署長としてだったり例を挙げればキリがない。
「–––チウメ、ちょっと出かけてくる」
「はーい!気をつけてくださいよー!」
魔法少女桜は往く、この世界で魔法少女を必要としている場所へ。
「あ」
「だぁぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁ、玄関から行こうって行ったじゃんかよォォォォォォォォォォォォォ!!」
–––窓から足を踏み外して室外機に激突、いつも通りである。
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