魔法少女マニュアル   作:Cr.M=かにかま

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4.かいこう

 

多分この辺だった気がする。大鳥神社は近いけど、これといって特徴のない住宅街だったせいか記憶がすごく曖昧だ。それに、松子が物凄い勢いで連れ回してくれたお陰もあってか、道を確認する暇もなかった。

 

雨はまだ降り続いてる。それでも人が行き交うため中々物陰から出ることができない。同校の制服を着た人もいるし、こんなフリフリした衣装を着たウチが出たら大騒ぎになりかねない、主に千梅が大騒ぎにしそうだ。ドロワーズも変なところで通気性があるからスカートを履いてるみたいにスースーする。【水避難】の魔法を使ってるからこのトイ○ラスに売ってるようなデザインのステッキも右手に握りしめてる状態だ、恥ずかしいことこの上ない。

変身を解いて行くのも考えたけど、それだと魔法が使えなくなってしまう。つまり、雨に濡れる。傘でも持ってたら行けたんだけどね。

 

.....一番の問題はわざわざウチが来たとはいえ落とした相手がこの交差点に絶対にやってくる保証はない。寒さは感じない、でも路地裏はあまり心地のいいものではない。テスト勉強もしたいから、長居はしたくない。もう最悪の場合は時計ウサギか唐吉の馬鹿に任せたい。責任転嫁?押し付け?パシリ?いいえ、適材適所です。

 

「ツバキツバキ、一体いつまで待つつもりだい?」

「そうね。一時間ここで張って来なかったらあんたに任せることにするわ」

「.....私はあまり人前に姿を出したくないんだが、こんな見た目だし」

「たかが二頭身か五、六頭身かの違いでしょ?大丈夫、問題ない」

「大ありだよ!?」

 

まぁ、コイツが無理ならあの馬鹿に任せるか。とりあえず自分で言ったからにはここで一時間待つことにしよう。

それで来なかったら帰る、それでウチはこの件から手を引く。うん、それがいいそうしよう。

改めて警察手帳の写真を確認してみる、髪の色は白か灰、光の当たり加減によっては銀色にも見える。ハーフかクォーターか、純日本人ではなさそうだ。苗字はよくある漢字二文字でクラスメイトにもいる。名前の方は少し変わってるくらいだ。若い男性でどこか不思議な雰囲気を漂わせてる。刑事というよりは俳優にいそうな整った美形の顔立ちをしている。某ハイスピード推理ゲームのキャラクターを描いてる絵師の小松○類さんの描くキャラクターに似た雰囲気を感じる。

中学の頃にいたゲーム好きな友人、高松靖人から語られた役に立つかわからないような知識がこんなところで役に立つ、立った、のか?とりあえず警察手帳は一旦しまっておこう、濡れる。

 

雨は止むどころか、さらに勢いを増してきた。一時間経つまでまだ後40分以上もある、人も少なくなってきた。

それに傘や合羽のせいで道行く人達の顔をうまく確認することができない。

早いけど、そろそろ切り上げようかなぁ、なんて思ってたらウチの後ろから一本の影が。ウチがしゃがんでるから影が出現したことはすぐにわかった。

 

–––そこには、全身泥と生ゴミを被った異臭を放つ女の人がいた。

 

「.................」

「.................」

 

沈黙。

何と言えばいいのだろうか、というか理解が追いつかない。

目の前の頭の上に泥のついた髪で作った二つのお団子に魚の骨やら何か言葉では言い表すことのできない物体を付けた女の人はこちらをじっと見つめている。何かを訴えかけるようにこちらから視線を外そうとしない。

 

–––体感にして約五分ちょっとが経過し、お団子ヘアの女性が初めて口を開いた。

 

「.....して」

「え?」

「返して、それがないと、ナキ、困る」

 

ナキ、警察手帳に書かれた名前と同じ名前。もしかして、この人は関係者なのかもしれない。

でも、本人に手渡さなくて大丈夫なのかな?特にこんな大切なものを、本当に関係者かどうかわからないし。

 

「え、えっと.....」

「お願い。それがないと、ナキ仕事できない」

「...........」

「君が、さっきナキの警察手帳拾ってるの、見た。返して」

 

拾ったのはさっきじゃないけど、仕舞ったのを見られたのか。何だろう、何だか有無を言わせないような威圧感を感じる。言葉もどんどん強くなってきてる。時計ウサギは?さっきまで一緒にいたのに見当たらない!?

 

「–––返して」

「......わ、わかった」

 

冷や汗が止まらない、思わずわかったと言ってしまった。

 

「良かった、乱暴せずに済んだ」

 

警察手帳を受け取った女は口一文字から笑顔に変わった。そのはにかんだ表情がさっきの雰囲気から一変したことに恐怖を覚えてしまった。

 

「–––君が抵抗してきたら、その服を剥いでぺろぺろして脇汗をなめなめしてからゆっくりと気持ちよくしてあげようと思ってたから、少し残念」

「ひ!?」

 

–––訂正、さっきよりも圧倒的な恐ろしさを感じてた。

そのまま女の人は何も言わずにジャンプして屋根に頭をぶつけてコンクリと派手にキスをしてから、ゆっくりと立ち上がり雨に打たれながらどこかへと行ってしまった。

ていうか、さっき倒れた時女の人のスカートの中で何か丸いものがもぞもぞしてた気がするけど、気のせいだよね?うん、気のせいだ。

 

.....それで、えっと、一応目的は果たしたし帰ってもいいよね?

いつまでもここにいるわけにもいかないし、そういえばさっき時計ウサギがいなかったような...

 

「ふぅ、雨足が強くなってきたな」

 

–––何事もなかったかのように現れたぞ、この兎肉。今晩のオカズにしてやろうか。

 

「あんた、今までどこに...?」

「警察手帳の持ち主がいないかもう少し表に出て探してたんだ。結局現れなかったけどね、まだ待つのかい?」

「いや、帰るよ。あんたがどっか行ってる間に持ち主こっちに来たし」

 

正確には本人じゃないけどね、面倒だし言っても変わることじゃないから言うことでもないっしょ。

 

「........」

「ん、どうしたの?」

「.....いや、何でもない」

 

珍しく悩んだ表情を見せた時計ウサギと仕方なく一緒に部屋に戻った。

 

部屋に戻り、あの馬鹿が戻ってないことと監視カメラとボイスレコーダーが再び仕掛けられてないことを入念に確認してから変身を解く。

 

【パラリラパラリラ、警戒魔法と第六感が取得可能になりました】

 

ふぅ、やっぱりあのフリフリの服は慣れないや。まぁ、滅多に着ることもないし昔は憧れてたから内心ウキウキしてるけど、女の子だし。時計ウサギとか周りには口が裂けても天地がひっくり返っても万が一にもウチが唐吉にベタ惚れすることがあっても言うことはないだろう。

とにかく勉強だ、三日後にはテストが迫ってる。

 

 

 

テスト一日目、二日目と全てのテストが終了した。え、ダイジェストにするなって?じゃあ何、問題一問一問紹介すりゃいいの?

見たら頭が痛くなるような問題を見たいっていうの?

ウチは嫌だからね、テスト終わった後の生徒集会で帰れないってだけで既に頭が痛いっていうのにこれ以上痛めるのは嫌だからね。

 

「はー、だるい」

「.....眠い」

「困るよね、こういうのは事前に言っといてくれないと。早くしないと期間限定の牛豚丼が売り切れちゃうよ〜」

「フフ、私は既に本日生徒集会が行われるという情報は入手してましたけどね!」

「だったら教えろやァ!」

「ちょ、まっ、バイト戦士さんがまさかのご乱心!?」

 

.....もう、目を当てるのもめんどいや。あ、生徒会長さん出てきた。相変わらず美人さんだこと。

三つ編みにメガネは本当よく似合ってらっしゃる、しかもウチらと同学年っていうのがねぇ、隣のクラスだし。喋ったことないけど。

千梅と三竹が何やら争ってるのそっちのけで生徒集会を進めるスルー力よ、こいつら結構騒いでるのに。他でもちらほらと話し声は聞こえてなお透き通るような声、惚れ惚れするよ。

–––でも、生徒会長として、というよりも普通にうるさいから注意した方がいいとウチは思うよ?

 

「あー、終わった終わった!」

「じゃ、私は千梅ちゃんの奢りで牛豚丼を食べに行ってくるよ〜」

「うぅ、わだじの、わだじの樋口さんがぁー」

 

生徒集会は思ったよりも早く終わった、近くに不審者が現れたので注意することと二週間後に控えた学祭に関係することだったので生徒たちもやる気になり、最初の不満はなくなってた。

生徒会長、恐るべき手腕!

 

三竹に引きずられながら千梅は退場したので、ウチと松子が二人きりになった。

 

「じゃ、ウチらも帰ろうか」

「.....ごめん、ちょっと図書館に用事がある」

「そうなんだ、それじゃまた明日!」

「.....うん」

 

松子と別れてウチは教室を出る。

正直松子が唐吉のことを好きって聞いたときから中々話しにくくなってた時期があったけど、ウチが唐吉と従姉弟であるということは何故か知られてないと知ってからは心がちょっと軽くなってる。そもそも二人はどういう出会いをして松子があの馬鹿を心酔するようになったのかは本当にわからない、うん謎だ。千梅は頼りにならない情報しか持ってこないから聞いても無駄だろうし、この前なんか渋谷の街に飛ぶエイリアン少女が現れただの、どこぞの宗教家が大企業に喧嘩を売っただのと頓珍漢なものばかりだ。

 

掲示板を確認してから、トイレに行ってから帰るか。花を摘み手を洗ってトイレを出ると、この間ぶつかった深い帽子を被った紫髪の小柄な男が前を過ぎった。

やっぱり見たことない。あんな小さな少年のような生徒はこの学校で見たことない。ちょっと、後をつけてみよう、どこに向かうのか気になる。ていうかここの生徒じゃないなら何でここにいるの?

今日が最終日とはいえ、テスト期間中に部外者が歩き回るなんて。部活動の可能性も考えたが、それにしては迷いがなさすぎる。この校舎の構造に慣れてる。何度も来たことある証拠だ、それに部活なら大抵決まった場所にしか行かない。歩き回るなんて不自然すぎる、彼は校舎のあちこちを休むことなく10分近く歩き続けてる。

 

そして、最後に辿り着いたのは生徒会室、前回と同じだ。

前回も行き止まりの場所に位置する生徒会室のところへ向かったのだ。生徒会の関係者なら問題ないんだろうけど、それでも気になるものは気になる。

ゴクリ、と固唾を飲み込み今まで行ったことのなかった生徒会室に近づく。

 

時間はまだ早い。

テスト最終日で部活をする生徒以外は午前で帰宅している。人気も少ない、目の前の生徒会室からは話し声が聞こえる。ギリギリまで近づいて、息を潜めて中から聞こえる声を聞くために耳をドアのギリギリにまで近づける。

 

「も–、また––をウロ––––たの?」

「う––––な、別に––––––。––––よ」

「それ–––こで大–––––くれな–––るの!––––説明する–も大–––だ––ね!」

 

生徒会さんと、誰だろう?ちょっと高めの男の声、さっきの小さい子かな?

 

【ピーガガガ、ピーヒャラララ、ピー、地獄耳を取得可能になりました】

 

会話も途切れ途切れで聞こえにくいなぁ、それに今の幻聴のせいで余計に聞き取りにくいし。不意打ちにこれはやめて欲しいよ。

 

「.....楓」

「ど––––の?」

「気を–––ろ、今–––––––女の–が–––た」

「.....何––って?」

 

 

「–––魔法少女が近くにいるぞ、それもかなり近い」

 




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