–––10月18日。
そう、予言の書(学校行事予定表)に記された人類(主に全国の中高生)が危惧する厄災(中間考査)が二日間。
その間に一体何人の人が犠牲になり、生き残った者は何を思うのか。
まさに弱肉強食のような二日間、約束のXデーまで残り三日にまで迫った10月15日のとある高校の一角。
やはり、その一室の様子は死屍累々な地獄絵図と化していた。現実から逃げ惑う者、諦めて現実を受け入れる者、現実を受け止められずパニックに陥る者、そして–––
「ちょっと職員室に行って問題用紙を拝借してくるッスー!」
「頼んだぞ千梅!あんたが頼りだ!」
「情報量は現金、いや、一週間あんたのパシリをしてもいい!」
「頑張れ情報屋!今俺たちに必要なのは戦に勝つための情報だ!」
「–––皆、この戦、勝利を勝ち取ろうぜ!というわけで、行くぜ我が優秀な助手君よ!」
「自分も行くの!?ちょ、引っ張らないで、髪は引っ張らないで!抜ける抜ける抜ける!」
–––いや、お前らまずは勉強しろよ、少しは足掻こうとしろよ。
うん、あまりにも目の前の光景が面白かったから実況をしてしまったけどウチも人のこと言えないね。
友人の千梅はマジで職員室行っちゃったし、今行っても先生達普通にいるから追い出されるがオチな気がするんだよなぁ。
「ねぇ、ツバキ。ここの問題なんだけど–––」
「あぁ、そこはこうして–––」
バイト戦士の三竹もさすがにこの時期ばかりはシフトを減らしたようだ。まだ受験に関わってくるかと言われると微妙だけど、点数は高いほうがいい。
後の補習とか無駄に多い課題をやるよりかは今やっといた方がいい、特に課題なんて先生も見る気なくすくらいの馬鹿みたいな量出されるし、どうせ捨てられるのがオチである。
.....教室から響き渡るチーウーメ!チーウーメ!という謎の合いの手がそろそろ煩わしくなってきた。今が放課後で助かった、帰れる。
ウチは三竹を連れて教室を出た、途中、人間一人くらいのサイズを誇る藁人形を引きずる松子と合流する。相談の結果、三人でファミレスに行くということになった。今日はテストが近いから授業自体は昼前に終わる。
理科準備室の死角のあることで有名な曲がり角を曲がると腹のところに何かぶつかったような、ぼふっという衝撃が走った。
「あ、ごめん!」
「.....気をつけろよ、目どこに付けてんだよ」
.....何とも愛想のないチビガキであった。紫色の髪が目立つからもう忘れることはないだろう、次会ったら覚えてろよ。ていうかせめて謝って行けって話だよ。
「ねぇ、あんな人同級生にいたっけ?」
「さぁ、もしかしたら先輩かもね。それか三竹の場合学校来てる頻度少ないから覚えてないんじゃないの?」
「失礼な!辛うじてクラスメイトの顔はわかるよ!」
「辛うじてなんだ」
でも、たしかにウチも見たことない気がする。一応うちの高校の制服着てたけど、あんな人いたっけな?
それに学校内なのに帽子を被ってたのもなんでだろ、しかも結構目深めの。
考えても仕方ない、ウチら三人は学校を出て近くのファミレスに寄った。ちなみに三竹のバイト先の一つでもある。食事と勉強、他愛のない雑談で16時までゆったりと過ごした。
「.....ねぇ、寄りたいところあるんだけど寄っていい?」
「いいけど、珍しいね。松子がそんなこと言うなんて」
「.....外せない用事だからね、あの人のためにも私自身のためにも」
松子の案内でやってきたのは大鳥神社という神社だった。駅からもそこそこ近くて、住宅街にもあるからお参りに来る人もよくいる。そこに彼女が信頼を置いてる占い師がいるらしい、ウチの本音としてはちょっと怖い、色んな意味で。
「.....も、もしかしてあの鳥居のところにいるおっちゃん?あれってホームレスってやつだよね?」
「.....そう、留楠さんって言うの。.....よく藁人形を売ってくれる」
「騙されてるよ松子ちゃん!お金はよく考えてから使って!!」
バイト戦士からのありがたいお言葉!しかし、あんたも人のことを言うことはできない!
でも、見た目からしてかなり怪しい。そこらのホームレスと見た目は変わらないものの占い師であるというところが物凄く胡散臭い。水晶玉は持ってるけど、それだけで占い師と信じるのは如何なるものか。
「.....こんちは、留楠さん」
「おぉ、いらっしゃい松子ちゃん。今日は占いかい、それとも藁人形か呪詛か護符、釘、髪の毛、河童の腕、オーパーツ、パワーストーンかい?」
「.....占い、テストの必勝祈願といつものあれ」
「ほいほい、後ろのお友達も一緒にどうだい?」
–––見つかった、このままスルーしてくれると思ってたのに。
【たんたんたららん、危険予測を取得可能になりました】
.....こんなときにまで幻聴が、毎回思ってるけど、毎度微妙にメロディ違うんだよね、統一しろよ。
「.....どうしたの二人共?」
「いや、何でも」
とりあえず行くから藁人形出すのはやめてもらいたい。水晶玉を持って胡座をかいてる留楠さんもニッコリと微笑みかけてきてるし。
意を決してウチと三竹はせっかく取っていた距離を縮めていくことにした。
「はじめまして、まさか松子ちゃんが友達を連れてくるなんて思いもしなかったよ」
「初めまして、三竹と申します」
おぉ、これがバイト戦士の特技【営業スマイル】か!
さすが、食欲を満たすためにいくつものバイトを掛け持ちしてるだけある!
「ツバキです」
「.....ほう」
留楠さんから、笑みが消えた。
何で!?もしかして、初対面じゃないとか?
「.....どこかでお会いしました?」
「いや、そういうわけでは、なるほどなるほど」
なんか勝手に納得されて釈然としないけど、追求したらダメな気がする。後が怖い。
「では、ツバキさんからどうですかな?」
「ウチ、ですか」
.....なんか断るに断れない状態だし、せっかくなのでお願いすることにした。胡散臭いけど、お金はいらないっていうし。もしこれで料金を求めてきたのならその水晶玉カチ割っても良かった。
「ふむ、どうやら数奇な運命を辿るようですな。この影は、ウサギ?」
–––すごい、あまり嬉しくないけど当たってる。現在進行形で数奇な運命を辿ってるし、そのウサギには大変心当たりがある。
「まぁ、あまり気負いなさらず」
「は、はぁ」
適当なアドバイスだなぁ、まぁ、変に魔法少女とかのことを口にするわけにもいかないからウチとしては良かったのかも。
「じゃあ、次は松子ちゃん」
「えー、私は?」
「三竹ちゃんは最後ね、松子ちゃんのは時間を設定しないと効果が現れないタイプだから、そろそろその指定の時間だし」
.....それは一体どんな占いなんだとツッコミたかったが、不用意にツッコむのは野暮だろう。
留楠さんは慣れた手つきで水晶玉を傍に置いて、大量の割り箸を取り出す。その水晶玉は使わないんですね。
「まずはいつも通り、松子ちゃん。想い人との相性からでいいかな?」
「.....お願いします」
–––今まで見たことないくらい真剣な表情をした松子が頷く。張り詰めた空気がピリピリと伝わってくる。
ウチは思わずゴクリと息を呑んでしまう、だけどこれから行われるのが占いであることを忘れてはならない。
「ミエル、ミエルゾ!カノモノガコノキンペンニイルビジョンガ!!」
「–––よし、行こう!」
「割り箸使ってないじゃん!って松子ちゃん腕引っ張らないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、私まだ占ってもらっえないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
ちょ、ウチも!?なんでこんなときだけ無駄に力強いのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ–––−–−!!?
–––その後、松子がひたすら走り回った挙句、ウチらが解放されたのは三時間後の出来事だった。
※
松子の想い人である唐吉は実の従姉であるツバキを溺愛している、敬愛もしている。
壁一面にはブロマイドを貼り巡らし、床にもツバキの視線を、もちろん天井からも見下された表情を拝むことができる、我々の業界ではご褒美です。
そして神棚にはツバキの等身大の偶像を設置し毎朝決まった時刻に祈りを捧げている。同居人であるツバキに想いを伝えるために、自分の存在を少しでも身近に感じてもらうために彼は努力を惜しまない男である。
最近ツバキの飼い始めた妙に人間味のあるウサギもツバキが連れてきたという理由であまり気に留めたこともない。彼女が連れてきたのだから、それでいいという認識だ。
ツバキの等身大の抱き枕を傍に置き、ベッドから起き上がる。そろそろ待ち合わせの時間だから出かけるだけだ、特に深い意味はない。ちなみに唐吉の学校は今日は創立記念日でお休みである。
自転車で出かけるような距離でもないため街をゆっくりと歩くことにした。
元々隣町で住んでいたのだが、親に頼み込んでツバキとの同棲を許可してもらった。その際に色んなこともしたのだが、あえて省略させてもらおう。人生知らない方が幸せなことだってあるし、話すほどのことではない。さて、まっすぐ行こうか、友人である柿也のところへ行こうか。
とりあえずコンビニで軽く食事を済ませることにした。このコンビニはツバキがよく行くことは調査済みである。もしかしたらいるかもしれないという淡い期待を抱いたが、叶うことはなかった。代わりに刑事さんのような人が複数いた、何か事件でもあったのだろうかもしれないが、唐吉には関係のないことである。
のんびりと歩きながら目的地である大鳥神社に辿り着いた。まだ夏の暑さが少し残ってる夕暮れではあるが、参拝者はいるレベルである。
日はほぼ沈んでいる、唐吉は境内には目を向けることなく鳥居の下にダンボールを敷いて不気味な雰囲気を漂わせてる男の元へと足を進めた。
「どもッス、留楠さん。商売どんな感じッスか?」
「唐吉君か、相変わらずだよ。常連さんしか話しかけてくれない」
「ハハッ、そうみたいッスね!」
–––留楠は怪しげな笑みを浮かべる。
こんな不気味な男の元へ足を運ぶなど常連でなければ余程の物好きくらいである。
「それで、君はツバキちゃんに想いを告げることができそうなのかい?」
「んー、まだまだってところッスね。正直最近避けられてる気もありますから」
「そうかそうか、だけど、避けられてるってことはツバキちゃんが君の一面を知っているということだよ。そこを理解してるってことは脈はある」
「なるほど、俺の一面を知ってもらってるだけマシってことッスね!」
「そういうことさ、君はありのままの自分でいればいい」
「へへ、そうッスか」
恋する青年、唐吉の青春はまだ始まったばかりである。もう何冊目になるかわからないツバキとのことを書き記した日記を今日も更新せねばならない。
最初は留楠には色んなことを占ってもらっていたが、最近ではこういう雑談から悩みを聞いてもらうことが多くなった。留楠としても話し相手がいて助かるという形で互いにwin-winの関係が築けている。
「–––留楠さん、ホントいつもありがとうございます!俺、自信持てそうッス!」
「それは良かった、また恋に悩んだらいつでもおいで」
唐吉はこの日、あまりにも上機嫌な故にツバキに晩飯時に心配されたがそれはそれでまた一歩前進したと捉えた。
ちなみにその時の表情はしっかりと記憶に刻みつけ、忘れぬうちに紙に描き記した。
※
翌日、10月16日。
奈樹という名前の刑事がいつもと変わらず笑顔を浮かべながら頭を抱えていた。理由はもちろんいくつかあるが、主に実妹の破天荒っぷりと居候のことである、それもいつものことである。
今回はどちらでもなく、昨日の聞き込み中に警察手帳をどこかに落としてしまったせいで捜査から外されたなんて恥ずかしくてとてもではないが誰にも言えない状況に笑っていた。
いやぁ、まさかこんなところでドジをするなんて思いもしなかったと奈樹は先日辿った道を記憶を頼りに再度辿っている。解雇一歩手前の状況で笑ってられるのもこの男の芯の強さか、はたまた本当に馬鹿なのか定かではない。
夕方、女子高生三人組とぶつかってしまった交差点が一番怪しいと思い現地へ赴くのであった。
※
「.........」
「そんな深刻な顔をしてどうしたんだ?相談に乗るよ」
「いや、ウサギに相談したところで、ていうか誰かに相談したところで解決することじゃなさそうだし、いいわ」
–––なんで、ウチのポケットから誰かもわからない警察手帳が出てくるの?
もしかしてあの時か、松子に連れまわされてた時に長身の男の人とぶつかった時落としたと思って拾った生徒手帳だと思ったものがこの警察手帳だったの?
ていうことはあの人刑事さん?
どうしよ、これ交番に届けていいものなのかな?ていうかそもそもウチの生徒手帳は、あ、普通に鞄に入ってる。落とそうと思っても落とせない場所に入ってる。
せっかくの休日だからテスト勉強でもしようと思ってたのに、気が気でなくなってしまった、本当にどうしよ。
「.....本人に届けた方がいい、よね?」
「何のことかよくわからないが、こういう時こそ使ってよ魔法」
「えー、また変身するの?」
「いや、変身してよ。お願いだから、あれ以来一回もしてないじゃん」
.....時計ウサギと出会って必要な書類とやらを作ってから、ウチは一度も変身してない。当たり前だ。
魔法も一々変身しないと使えないらしいし、その上使えるようで使えない魔法しかない。ていうか実質使えない。
あと、唐吉の馬鹿がうるさい。魔法少女の正体に守秘義務とかはないらしいけど、うざい。
何でかあいつは時計ウサギのことをすんなり受け入れてるし、やはり馬鹿なのか。
「ていうかさ、ウチが変身するメリットってあるの?」
「あるさ、魔法少女として変身することは必要なことだよ。私の面子にも関わってくるし」
「なら、必要ないか」
「人の話聞いてた?」
いや、だってねぇ。あんなフリフリで露出度の高いのを一々着たいなんて思いませんよ。しかも髪型まで変えさせられて、恥ずかしいったらありゃしない。アキバにでも行ってろって話だよ。
「とにかく、これを本人に届けるだけでわざわざ変身するまでもないよ。ウチだけでも十分だし」
「.....変身すれば身体能力底上げだよ?」
「電車使えばいいし」
「.....変身すれば探し人を特定できるよ?」
「名前も顔写真もあるし、もしものときは交番に渡せばいいし」
「.....どうしても変身してくれないの?」
「しない」
だって、あんな格好でウロウロすんの恥ずかしいじゃん。もし友達とか知り合いに見られたらどうしてくれよう。
そもそも好き好んで変身する方が珍しいのではないだろうか。
今日はあいにくの雨だ、正直外に出る気は出ないけど、これ持っててもウチも困るからね。
「.....雨かぁ」
「雨避けの魔法ならあるよ?」
「.....しつこいなぁ、ていうかそんなのあるんだ」
「【水魔法】と【危険予測】があればできるよ」
なるほどねぇ、そんなに変身させたいのか。
「.....一応両方は揃ってるっぽいけど」
だけど、ここで心を折って変身してしまえばこいつの思うツボみたいで何か嫌だな。でも、傘は今唐吉の阿呆が持って行ってるせいでない。
.....急ぎの用、だから。仕方ないか。
「.....今回だけ、ね」
–––時計ウサギにアイアンクローをした後、誰にも見られてないことを確認し、部屋に潜んでるかもしれない唐吉への警戒を済ませ、部屋に仕込まれていた監視カメラを全部撤去した後、センサーの類も全て取り壊しわしてから仕方なくステッキを手に取り変身した。
.....スカートも胸元もお腹も首元もスースーするから慣れないのよね、ホント。ツインテールってだけでも恥ずかしいのに、極めつけはバニー、死にたい。
それで、この自称ウチの使い魔が言うには水道で水で手を洗った時に身についた【水魔法】と昨日留楠さんのところで身についた【危険予測】の二つを応用して雨避けができる、と。
【水避難】か、うん、雨がウチを避けてあらぬ方向に飛んで行ってるよ。ありえない角度で。雨宿りしてる人、ホントにすみません、制御できないんです。しかもこの魔法発動中はステッキを手に持っておかないといけないのが辛い。
最初から使える【跳躍魔法】を使って屋根から屋根へと移動する、気分はニンジャーだ。ただし、結構人の目が辛いけど。雨だから注目を浴びるのが少なくて良かった。それでも写メとか撮られるのは辛い。
「さて、まずはどこを探すんだい?」
「なんでついてきてんの?」
「使い魔だからね!」
–––ハァ、魔法少女も楽じゃない。
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