IS~Under Dog~   作:アセルヤバイジャン

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主役機より量産機が好きです

主役機級の活躍をする量産機とか大好物です


第三話

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス代表決定戦まで残り一週間。

 

土日を含めて6日しか時間が無い。

 

その為、叢真を含めた3組生徒有志は、僅かな休み時間なども利用して予定を進めていた。

 

「追加装甲の発注は?」

 

「3年の整備科の先輩がやってくれるって。神通先輩が依頼してくれたみたい」

 

「ねーねー、このカタログの3連装ミサイルポッドって無改造で付くのー?」

 

「オプションパーツだし平気じゃろ、それより推進器の増設位置なんじゃが…」

 

「システム関連弄れる先輩誰か心当たりないー!?流石にアナハイのはいじれないよー!」

 

「ちょっと待って、神通先輩に聞いてみる」

 

3組全員が、それぞれ担当の班に分かれて予定表通りに計画を進めていた。

 

機体設計班、こちらは神通の知り合いの整備科の生徒を講師に据えて進んでいる。

 

オプションパーツが豊富なジェガンの利点を最大に活かす為に、武装やユニットを吟味する面々。

 

そして一番大事な追加武装や装備を機能させるシステム関連は、現在神通が選定中の様子。

 

「すまん、遅くなった」

 

「補給物資到着っぽい!」

 

「飲み物も買ってきたよ」

 

ガラリと扉が開いて、両手にパンやおにぎり、お弁当を抱えた叢真と語尾が特徴的な少女、その後ろには袋に入った飲み物を持った三つ編み少女の姿。

 

現在学園はお昼休み、叢真を含めた数名は学食の購買から教室へ持ち込めるパンやおにぎりを買い出しへ行っていた様子。

 

「待ってたよー!」

 

「糖分が足りない!菓子パン頂戴!特にメロンパン!」

 

頭脳をフル稼働させている設計班へ叢真が急いでパンやおにぎりを渡していく。

 

今現在ずぶの素人である叢真にやれることは殆ど無い。

 

その為、同じくあまり機体やシステム関連に強くない生徒は使い走りや雑用を進んで行っていた。

 

クラス全体で1組の叢真を応援してくれている光景はいっそ異様ではあったが、頑張る男子を応援して何が悪いの精神で誰も気にしない。

 

「雨宮、放課後のアリーナと機体の使用許可出たって。HR終わったら直ぐに第四アリーナね!」

 

「分かった、何があっても行く」

 

携帯片手に告げる陽炎に、邪魔するもの全て蹴散らしてでも行くという気迫を見せる叢真。

 

とにかく時間が無いのだ、ジェガンの基礎を覚え、それから予定では三日後には機体を換装させるのでそれに慣れる必要もある。

 

「あとこれ、先輩が使ってたジェガンのメモノート。機体の癖とか書いてあるからスペック表と照らし合わせながら覚えて!」

 

「あ、あぁ、努力する」

 

大学ノート3冊にも及ぶメモと、分厚いジェガンのスペック表。

 

これを覚えるのか…と内心戦慄するが、本来関係ない3組の生徒がここまで協力してくれているのだ、弱音は吐けない。

 

「そーちゃん、そろそろ戻った方がいいっぽい?」

 

叢真の背中にへばり付いていた女子の言葉に時計を見ると、次の授業が始まるまで残り5分を切っていた。

 

名残惜しいが、叢真の担任はあの織斑千冬である。問答無用の権化であることは初日で痛感している。

 

「すまん、それじゃまた放課後に!」

 

「第四アリーナだよー!間違えないでねー!」

 

手を振る3組の面々に頷きながら廊下へ出ると、次の授業の担当らしき教師と鉢合わせした。

 

「きゃっ、あらあら、ダメよこんな時間まで他のクラスに長居しちゃ」

 

飛び出してきた叢真に驚きながらも、色っぽく「めっ」と注意してくる教師に、すみませんと素直に頭を下げて自分のクラスへ戻る叢真。

 

そんな彼の背中を見送った教師はくすくすと微笑む。

 

「何があったか分からないけど、やる気があるのは良いことね~」

 

生徒が度を越さない限りは余計なことはしないでおこうと、実に生徒思いな事を考えながら、教室の扉を開く。

 

彼女が来るギリギリまで作業をしていた生徒たちが慌ただしく席に戻るのを眺めながら、自分のクラスの生徒達の行動を微笑ましく見守る3組副担任であった。

 

 

 

 

 

 

「む、遅いぞ雨宮」

 

「すみません」

 

1組の教室前で丁度やってきた織斑千冬に注意されながら教室へ入る叢真。

 

殆どの生徒が織斑千冬の存在に慌てて席へ戻るが、数名は昼休み中ずっと姿が見えなかった叢真を気にしていた。

 

「叢真、どこ行ってたんだ?」

 

「野暮用だ」

 

声をかけてきた織斑に短く答え、借りてきたメモノートとスペック表を机に押し込んで授業に備える。

 

通常の授業にジェガンの基礎、そして対オルコット用の戦術。

 

覚える事の多さに頭痛を感じるが、不思議と充実感を感じている叢真。

 

それはやはり、無償にも近い状態で自分を後押ししてくれる3組生徒の存在が大きいのだろう。

 

彼女達が後押ししてくれなければ、きっと自分は孤立無援に近い状態で無残な結果を残していた、その確信はあった。

 

協力してくれている彼女達の為にも、オルコットにも、そして織斑にも負けられないと改めて心に誓う叢真だった。

 

「貴方、3組の生徒へ助力を願ったんですって?」

 

放課後、件のオルコットが相変わらずの態度で叢真の元へやってきた。

 

早く第四アリーナへ行きたい叢真は、厄介な奴に絡まれたと内心顔を顰めていたりする。

 

「そうだが、何か問題あるのか」

 

他のクラスへの助力を願ってはいけないなんてルールは無い上に、織斑千冬も黙認している。

 

3組の事を隠してもいずれバレる、と言うか既に叢真が3組へ足を運んでいる事は知れ渡っているのだし。

 

「問題ですって?呆れた返答ですわね、男性操縦者として恥ずかしくないのかしら」

 

「……何を言ってるんだお前は」

 

「なっ!」

 

オルコットの目には他人に頼って情けない男とでも見えているのか、叢真を嘲笑っているが、叢真は逆に「頭は大丈夫か?」と言わんばかりの声で返した。

 

当然、オルコットはそんな態度をされるとは思っていなかったのか、見下していた態度からムッとした顔になっている。

 

「恥ずかしいも何もあるか、こっちはISの搭乗時間が4時間もない素人だぞ。教えを請いて何が悪い、むしろそんな状態で戦わせようとする学園も、喧嘩を売ってくる代表候補生も恥ずかしくないのかと問いたいよ」

 

至極当たり前、常識とも言える叢真の指摘に押し黙るしかないオルコット。

 

普通に考えればド素人に、喧嘩(しかもイチャモン)を無理矢理売って公開処刑で恥をかかせようとしている痛い人だ。

 

情けない姿を晒すのは勝っても負けても自分だという認識がないオルコットに、叢真は呆れ混じりの言葉を残してさっさと教室を後にした。

 

オルコットに付き合う暇なんて今の叢真には無いのだから。

 

「あれで代表候補生とは、イギリスの選定項目には人格は入ってないのか…」

 

後にした教室から聞こえるオルコットの憤慨の声に叢真は肩を竦めて第四アリーナを目指した。

 

「あ、雨宮はん。これからアリーナかいな?」

 

「あぁ、そっちは整備室か」

 

途中、図面やカタログを片手に歩く3組生徒に声をかけられる。

 

「いくつか学園に予備として置いてある装備があるそうで、今からそれを出してまいります」

 

「学園が日本にあるからなんか、打鉄やラファールのパーツや装備ばかりやねん。残りは入荷待ちや」

 

短めの特徴的なポニテに鋭い眼光の女子と、関西弁が特徴的な明るい女子のコンビ。

 

「学園にある分だけでも不知火達で急いで組んでしまいます、雨宮さんは心配せずジェガンの操縦に慣れて下さい」

 

「せや、バッリシ組み上げてみせるで!」

 

ビシっとした態度で背中を押してくれる女子と、胸を叩いて自信ありげに頷く女子。

 

「あぁ、頼りにしてる、それじゃ」

 

そんな二人を見送ってから、叢真は思った。

 

 

 

 

なんであの二人、ハリセン装備してるんだろう、と。

 

 

 

何故か背中に装備されたハリセンが気になって仕方がない叢真だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、来ましたね叢真さん」

 

「お待たせしました先輩」

 

第四アリーナのピットには、既に神通、それに二人ほど見知らぬ女子生徒が待っていた。

 

「おー、君が噂の2番目の男子ですねー」

 

「明石さん、その言い方は失礼ですよ…」

 

ロングヘアーのサイドを束ねて毛先が切り揃えられた、明るい雰囲気の女子生徒、リボンの色が赤い事から3年生と思われる。

 

そんな彼女を窘めるロングヘアーにカチューシャ、メガネという如何にも「清楚な委員長」と言った雰囲気の生徒も、同じく赤いリボンをしていた。

 

「先輩、このお二人は…」

 

「紹介するわね、私が協力を要請した3年生の明石先輩と大淀先輩よ」

 

「初めまして!工藤 明石よ、整備科3年、ジェガンを選ぶなんて通だねー!」

 

神通の紹介と共に楽しげに笑いながら手を差し出してくる明石、ジェガンの機体整備に助っ人を頼むと言っていた事から、彼女の事なのだろうと叢真はその手を握り、よろしくお願いしますと頭を下げる。

 

「私も整備科の3年で大淀と言います。システムとプログラムは任せて下さい」

 

「よろしくお願いします…あの、今回は俺の問題に巻き込んでしまって申し訳ないです」

 

まさか3年生まで引っ張ってくるとは思わず、恐縮する叢真にケラケラと笑う明石と微笑む大淀。

 

「神通ちゃんの言う通り真面目な子ですねー、お姉さん的に高ポイントですよ!」

 

「気にしなくていいのよ、自分の実力を図る機会でもあるから」

 

バシバシと叢真の肩を叩く明石とウィンクする大淀、頼りになる先輩二人に、自分は本当に恵まれていると思わず深く頭を下げる叢真。

 

「あの、叢真さん、余計な事でしたか…?」

 

叢真の恐縮した様子に、もしかしてやり過ぎてしまったかと不安になる神通。

 

「いえ、そんな事はありませんよ、むしろ申し訳ない位です…」

 

「いえ、私こそ事前の相談も無しに…」

 

「はいはいそこまで。二人揃って遠慮し合わないの」

 

お互いペコペコし合う姿に、明石がストップを掛ける。

 

神通は真っ赤になって恥ずかしげだが、歩く仏頂面は伊達ではない、叢真は恥ずかしさを顔には出さずに傍らに出番を待って佇むペールグリーンの機体を見上げる。

 

重厚な装甲に鋭角なスタイル、標準武装なのか腰にはグレネード、頭部ヘルメットにはバルカンポットが装着されている。

 

「これが、ジェガン…」

 

「そう、アナハイの傑作機にして標準機である第二世代ISだよ。これはD型って言われるオプションパーツの装着・運用を前提に改修された機体で、学園にある機体で一番手が加えやすい機体なんだよ」

 

流石は整備科、機体の特徴や性能をよく分かっている。

 

学園には他に予備機としてA2型と呼ばれる機体と、初期の機体の払い下げがあるそうだ。

 

どれも基本的なフレームや見た目は変わらないが、細部が機体コンセプトや運用目的に応じて改良されている。

 

因みに明石達が言うアナハイとは、アナハイム・エレクトロニクスの略との事。

 

「追加武装の組み込みが予定されてる三日後まで、この機体を使って基本的な動きを覚えて頂きます。覚悟は宜しいですか?」

 

「……はい!」

 

覚悟なんて、3組へ足を向けた時から決まっていた事だ。

 

叢真は神通の言葉に力強く頷き、大淀が手渡してくれたISスーツを広げて。

 

「……これ、デザインどうにかならなかったんですかね…」

 

「それが一番マシだと思いますよ…女子なんて殆ど水着ですし…」

 

全身タイプのウェットスーツに近いが、腹筋やら膝やら彼方此方が露出していて逆に恥ずかしいデザインのISスーツ。

 

念の為に男性用に試作されたのを借り受けてきたらしいが、何とも表現に困る見た目だった。

 

大淀の苦笑の言葉に、それもそうかと諦めて更衣室へ足を向ける叢真。

 

別にイケメンでもモデルでもない自分の微妙な露出を見て誰が喜ぶんだと内心愚痴りながら。

 

「それじゃ、背中から身体を預ける感じで。そうそう、後はISがやってくれるからね」

 

ピッチリとしたISスーツに着替え、明石の誘導でジェガンを装着する叢真。

 

他のISと異なり、胴体なども装甲で包まれるジェガンは、窮屈な感覚よりも守られている安心感の方が強い。

 

『どうですか?頭が痛かったり異常があったりしませんか?』

 

「…いえ、大丈夫そうです。むしろ、着心地が良いって言うんですかね…凄く、力強く感じます」

 

先にISを展開してアリーナへ出ている神通からの通信に答えながら、ジェガンの右手を開いたり閉じたりしてみる。

 

訳が分からないまま終わった打鉄やラファールの時と違い、確りとジェガンの存在を感じる叢真。

 

「それじゃー行ってみようか。基本は大丈夫?」

 

「はい、頭に叩き込んできました」

 

明石の言葉に答えながら、ピットのカタパルトへと移動。

 

歩くことを確り考えられたジェガンは両足を踏みしめながら射出装置の上へ。

 

「進路クリア、ジェガン発進どうぞ」

 

「雨宮、出ます!」

 

オペレーターを担当してくれている大淀の言葉に従い、両足を踏み込むと射出装置のロックが外れて機体が押し出される。

 

PICの効果で加速の衝撃を受ける事なく飛び出したジェガンは、その勢いのまま上昇し、上空で待つ神通の元へ。

 

「あら、三回目なのに上手ですね」

 

「ジェガンの性能ですよ」

 

ISを展開して待つ神通は、水着のようなISスーツの上にグレーとオレンジの装甲を身に纏っていた。

 

彼女の愛機の名前はリゼル、アナハイム・エレクトロニクスが開発に成功した量産型可変ISであり、第三世代機でもある。

 

「それでは先ずは飛行に慣れる事から始めましょう。どんな形でも良いです、自分が飛ぶイメージを確立すれば、ISはそれに応えて飛んでくれますよ」

 

身振り手振りを交えつつ、実際に飛んでみせる神通。

 

その飛び方は、叢真とは明らかに異なり、滑らかで無駄な動きがない。

 

「イメージ…自分が飛ぶイメージで……うおっ!?」

 

自分が一番頭に思い描きやすい飛ぶイメージ、それは戦闘機やロケットのように空気を切り裂いて進む姿。

 

それを思い浮かべた瞬間、ジェガンがそれに応えてスラスターを噴射し、PICだけでは生み出せない加速で叢真を空へと押し上げた。

 

「ふふ、お上手ですよ、その調子で私を追いかけて下さい!」

 

「ちょ、そんないきなり…!」

 

飛び出した叢真のジェガンを余裕で追い抜いて、曲芸飛行のように優雅に舞う神通と、口ではあれこれ言いながらも何とか追いかけ始める叢真。

 

優雅に飛行機のように飛翔するリゼルと、それをロケットのように追い掛けては無理矢理曲がるというハラハラするような飛び方で追いかけるジェガン。

 

「搭乗経験3回目、通算時間4時間弱でこれなら、案外早く習熟するかもしれませんね…」

 

「そうだねー、それにあの子、ジェガンの特徴を掴んできてる…。これなら、“アレ”が使えるかも…」

 

「それは流石に無茶ですよ、ジェガン乗りの半数も出来ない難易度Aの技術ですよ?」

 

「そうだけどね…でもそれ位の隠し球がないと、流石に経験の差は埋め難いから」

 

せめて相手がこれでもかって慢心と油断してくれたらねーと顔を顰める明石。

 

叢真の飛行データを記録しながら、一年生とは言え代表候補生ですし…と渋い顔の大淀。

 

二人が見つめるアリーナの空には、必死に空を舞う青年の姿が眩しく輝いていた。

 

 

 

 

 

 




艦これ界のアストナージこと明石さん登場
これで何があっても大丈夫(ぉ

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