イタリアでの夜は、豪華な料理とリットリオの御持て成しに溢れていた。
テーブルの上に並ぶリットリオセレクトの料理の数々。
懇談会もそこそこに、出席者は料理とワインに舌鼓を打つ。
当然ワインが飲めない未成年である叢真達は特製ブドウジュースで乾杯だが。
「明日の模擬戦闘はイタリア空軍協力の元、軍の施設内で行われる。リットリオ選手が相手だが気合は十分かね?」
「えぇ、今から楽しみですよ」
ワイン片手に上機嫌なアルベルトの言葉に、気合を漲らせて答える叢真。
次期イタリア代表と名高いリットリオとの模擬戦、いい経験になると今から楽しみで仕方がないのだろう。
「ソーマさん、楽しんでますかー」
「あ、はい、楽しませて頂いてます」
そこへ、件のリットリオが料理片手にやってくる、持ってきたのはシェフが焼いたばかりのピッツァだ。
「はい、焼き立てですよー、熱いから気をつけて下さいね」
「い、頂きます」
アメリカでのサラトガもだが、何故か巨乳のお姉さんは叢真に料理を食べさせたがる。
サラトガもステーキやらなんやらを食べさせたがったし、アイオワも一緒になって料理を食べさせてきた。
人の好意を無碍に出来ない叢真は手渡されたピッツァを、口いっぱいに頬張って咀嚼する。
その様子を実に楽しそうに見つめるリットリオ。
「あれよね、大型犬の食事を見守る飼い主よね」
「言エてるゥ~」
明日の体重計が怖いけど美味しい料理に手が止まらない陽炎とクーの会話は、叢真の耳に届く事はなかった。
翌日、イタリア空軍協力の下、人里離れた場所にある空軍基地の演習場にて、叢真とリットリオは対峙していた。
「それがリットリオさんのバウですか…」
「はい、お姉さんの自慢のISですよー」
リットリオが装着しているISは、アナハイムがイタリア空軍と共同開発をしたAMX-107、バウと呼ばれるISだった。
『それでは模擬戦闘を開始する、両者準備は良いかね?』
「いつでも」
「大丈夫ですよー」
管制塔に居るアルベルトの言葉に、短く答える叢真と、変わらずのほほんと答えるリットリオ。
開始の合図が鳴り響くと、両者実体盾を構えて後方へと飛びながらライフルを構える。
「速い…!」
「行きますよー!」
バウの加速により言葉を置き去りにして接近してくるリットリオ、叢真はライフルを打ちながらすぐさまインコムを射出、迎撃に入る。
それに対してリットリオも胸部のバルカン砲を咆哮させながら、素早い機動で叢真を翻弄する。
「ならば…!」
素早いリットリオに対して、叢真は引き撃ちをしながら両手を射出、両手にビームライフルを呼び出し、射出した両手を含め、インコムも合わせて6門のビームがリットリオの機動を邪魔しながら追い込もうとする。
「ならこちらも、バウの本当の力、お見せします!」
するとリットリオの身につけているバウの装甲が可動し、上半身を包んでいた装甲と背部ユニットが変形合体、戦闘機のような姿となり飛翔する。
残った脚部装甲と最低限の装甲を身に纏ったリットリオが、それとは逆の方向に飛翔。
「分離…!?ただの可変式じゃないのか…!」
「狙え…今よ、撃て!」
バウ・アタッカーへ指示を飛ばすと、戦闘機と化したそれが叢真へと襲いかかる。
ミサイルを放ちながら、バルカンを咆哮させて突撃してくるバウ・アタッカー。
「くッ」
その猛攻を避けるが、そこをリットリオの手にするライフルからの攻撃が叢真の逃げ場を奪う。
「一気に2対1の状態になった…!」
「アれが、バウの戦イ方なのネぇ…」
模擬戦闘を見守る陽炎と、クー。
二人は有事に備えて演習場の近くにISを装備して待機している為、叢真の焦りがよく見える。
流石は次期イタリア代表候補、バウ・アタッカーを巧みに操作しながらも自身も的確に動いて、叢真を翻弄している。
「ちぃッ!」
瞬時加速で包囲から抜け出すが、バウ・アタッカーの猛追から逃れきれない。
ワンオフ・アビリティーを使うか思案したその瞬間だった。
突然、演習場近くの倉庫が爆発、爆炎を上げて燃え始めた。
「ッ、なんだ!?」
「これは…!」
戸惑いながらもセンサーをそちらに向ける叢真と、バウ・アタッカーと合体して同じくセンサーを向けるリットリオ。
「な、何事!?」
「っ、ソーマぁ!」
同じく戸惑う陽炎に対して、クーは瞬時にISを飛翔させて叢真の名前を叫ぶ。
「ッ、IS反応!?」
「はーっはっはっはぁっ!!」
突然現れたISの反応、その反応から響く高笑い。
黄色と黒の機体が、突如として叢真へと襲い掛かってきた。
「ぐっ、なんだ貴様…!」
「捕まえたぜぇ、二人目!」
「ソーマさん!」
8個の装甲脚を絡ませながら、叢真に組み付く謎の襲撃者。
リットリオが咄嗟に助けに入ろうとするが、その行動を複数のビットが妨害する。
「貴様らの相手は私だ」
リットリオと飛んできたクー、陽炎の3人と叢真を分断する様に、濃い青色の機体が割り込んできた。
『馬鹿な、あれはアラクネに、あっちはイギリスのサイレントゼフィルスじゃないか!どういうことだ!?』
『アルベルト様、叢真様が!』
管制塔で叫ぶアルベルトと、ガエル。
「離せ…こいつっ!」
「邪険にすんなよ二人目、お前自身には用はないんだからよぉ!」
そう言って、40センチ程の謎の機械を取り出す襲撃者。
そしてそれを、シルヴァ・バレトへと張り付かせる。
「なんだこれは…ぐあっ!?」
すると4本の脚が伸びて、電流を流してきた。
電流により捕縛されたシルヴァ・バレトは、強制解除が始まり、コアが露出。
「し、シルヴァバレト…!?」
「頂くぜ、お前のISのコア…!」
「止めろ…止めろぉォォ!?」
露出したコアに手を伸ばす襲撃者、電流に襲われて動けない叢真が叫びを上げた、その時だった。
「――っ、避けろオータム!」
「あん…?――ぐあっ!?」
もう一人の襲撃者の声に、オータムと呼ばれた女が怪訝な声を上げた瞬間だった、彼女の装備するアラクネの装甲脚を薙ぎ払うかのようにビームの奔流が襲いかかった。
「離せ…ッ!」
「く…なにやってやがるエムぅ!」
「新手だ、高速で接近するISが2機…1機は通常の機体より速いぞっ!」
足止めされていたリットリオ達とは違う方向から、ビームがオータムへ向け放たれ続ける。
叢真も抵抗したため、堪らず離れるオータム。
そして演習場の外から侵入してきたそれは、赤い装甲を太陽に晒しながら、叢真の前へと現れた。
「どうやら、間に合ったようね、ふふ、褒めて良いのよ?」
そう言って、長い金髪を風に靡かせて、女性は笑った。
「貴女は…」
『今度はシナンジュじゃないか、どうなってるんだ!?』
通信越しのアルベルトの狂乱、管制室でも突然現れた3体のISの存在に混乱しているらしい。
「丁度いい演出ね、そこで見ていなさい、私の活躍をね!」
「ぐはっ!?」
瞬時加速、それも連続してのそれに、オータムは反応出来ずに蹴り飛ばされる。
「ちっ、行けッ!」
「無粋ね、数だけの兵器なんて」
エムと呼ばれた襲撃者の、ビット兵器が6機殺到するが、女性は残像を残す程の速度でそれらを全て回避。
そしてシールドからロケットバズーカを切り離し、ライフルに装着。
「Feuer!」
流暢なドイツ語と共に放たれた弾頭が、空中で炸裂。
「くっ」
「逃がさないわよ…甘く見ないで!」
爆発の炸裂から逃れるエムだが、ロケットバズーカの爆発にビットを3機破壊される。
「舐めんじゃねぇぞてめぇっ!!」
「あら、舐めてなんていないわよ」
半壊した機体のまま、残った装甲脚を展開して襲いかかるオータムだが、再び瞬時加速で避けられてしまう。
「そこよ!」
「ぐはぁっ!?」
シールドに装備されたビームアックス、ビーム刃を発生させたそれで、オータムの背後から残る装甲脚を全て切り飛ばしてしまう。
動きに一切の無駄が無く、隙も見えない。
「オータム、流石に3人は抑えきれん!」
「ちっくしょぉぉ…なんでここにビスマルクが居るんだよぉ!!」
「あら、私が何処に居ても私の自由でしょう?」
ビットとライフルでリットリオ達を抑え込んでいたエムの言葉に、絶叫するオータム。
そんなオータムのセリフに、ふふんと笑う女性、ビスマルク。
「ビスマルクだって…?」
叢真の呟き、彼でも知っている、いや、世界中の人が知っている名前。
現最強の戦乙女、ドイツの英雄、アンチェインメイデン。
織斑千冬引退の後、多数のブリュンヒルデが生まれたが、その中で最強と言われている存在。
それが真紅のISを駆る乙女、ビスマルク。
ISを知る人間なら誰もが知っている存在、それが叢真の目の前に不敵に微笑んでいた。
「やっと追いつきました~、ビスマルク姉さま、援護します!」
「遅いわよプリンツ、もう出番は無いわよ」
「そんな~」
そこへ、遅れて空軍基地へ侵入してきたIS、金髪をツインテールにした少女まで登場。
「オイゲン先輩…!?」
「ソーマさん、無事で良かった、もう大丈夫だからね!」
現れたのは、紫色のISを身に纏ったIS学園の先輩、3年生のプリンツ・オイゲンだった。
「引くぞ、これ以上は無理だ」
「くそがぁ…覚えとけよ二人目っ!!」
現役最強であるビスマルクに、次期イタリア代表と言われるリットリオ、更に3人の代表候補生。
作戦失敗を悟ったエムの言葉に、オータムは殺気を漲らせた言葉を叢真に向け、そしてその場を離脱していった。
「逃がすかっ!」
「ファンネルっ!」
陽炎が機体を変形させ、クーがファンネルを多重射出させて追撃。
だが、エムが手元で何かを操作すると、突然地面が爆発。
「なにっ、煙幕っ!?」
「センサーがァ…!」
爆煙に撒かれ、センサーが一時的に不調に陥る。
何かが混ざった煙幕らしく、センサーが復帰する頃には、エムとオータムの機体は遥か遠くへと移動していた。
『追跡はイタリア空軍が行う、今は兎に角叢真君の無事を!』
「く…っ、了解しました」
「しテやらレたワァ…」
襲撃者達が逃げた方を見て、悔しげな陽炎とクー。
たった6機のビットに、良いように弄ばれたのを悔やんでいるのだろう。
「やられたわね…足止めされるなんて、情けないわ…」
そこへ、リットリオがボロボロになった実体盾をパージしながらやってくる。
彼女は何とかエムを突破しようとしたのだが、エムの戦闘力に突破が成らず、実体盾が破損してしまった。
「それにしても、どうしてビスマルク選手が居るのかしら…?」
「え?イタリアの招待とかじゃないんですか?」
リットリオの言葉に、イタリアが招待したんじゃないのかと疑問を口にする陽炎。
だが陽炎の言葉に、リットリオは首を振って否定する。
「それなら連絡があるもの、少なくとも私もイタリア空軍も彼女の入国を知らないわ」
「え…それって…」
「流石アンチェインメイデンねェ…」
冷や汗を流す陽炎と、何かを納得しているクー。
彼女達の視線の先には、叢真の前に降り立ったビスマルクの姿。
「Guten Tag、私はビスマルク。よおく覚えておくのよ」
「間に合って良かったソーマさん」
ビスマルクと、その後ろに降り立ったプリンツ。
機体が強制解除され、露出してしまったシルヴァバレトのコアを抱えた叢真は、呆然としながらビスマルクを見た。
「どうしてビスマルク選手が…」
「あら、私が何処に居るかは私が決めるのよ、覚えておきなさい」
「あわわ、ビスマルク姉さま、それじゃわかりませんよっ」
叢真の疑問に、無駄に自信満々にドヤ顔で答えるビスマルクだが、答えになっていない。
「ソーマさん、無事ですか!」
「叢真、大丈夫!?」
「ゴメンねェソーマァ…」
そこへリットリオ達がやってきて、叢真の身体の無事を確かめ始める。
それに答えながら、叢真はシルヴァ・バレトのコアを抱え…静かに奥歯を噛み締めた。
「この屈辱…忘れはせん…!」
オータムという女と、エムという少女。
明確な敵という存在に与えられた屈辱が、叢真の心に刻まれた瞬間だった。
ドイツ勢は袖付きのMSがよく似合うと勝手に思っている私ガイル(´・ω・`)