叢真達が日々、対1組+1への対策に明け暮れ、終に試合当日。
アリーナには、沢山の生徒が集まってきていた。
何せ、二次移行したと噂の白式や、第四世代機と噂の紅椿、そして企業代表へ就任した叢真のドーベンウルフ。
更にアナハイムの新型機まで出てくるという噂で、第一アリーナは満員状態だった。
流石に外部の人間は来ていないが。
叢真達は得られる情報を元に対織斑チームへの対策を練ってきたが、織斑達も遊んでいた訳ではない。
ボーデヴィッヒが中心となって3組の情報を収拾し、対策を立てて来た。
と言っても、その練り具合は3組とは段違いであり、その理由は全員が専用機持ちであり驕っている部分があるから。
警戒しているのがボーデヴィッヒとデュノア位なのが悲しい話だ。
織斑は相変わらず能天気で、チーム対抗戦を運動会のかけっこか何かと思ってる節すらある。
篠ノ之は無駄に自信満々、福音事件で自信を付けたのが逆効果になっている様子で。
オルコット・凰は代表候補生としてのプライドと自信でやはり驕っている。
福音事件で結束は強くなったものの、それは織斑を中心にした結束である。
横の結束が相変わらず弱く、すぐ織斑への抜け駆けだなんだで揉める。
3組の結束を見習えと言いたいレベルだった。
「叢真の機体はなんだっけ、ドーベルウルフだっけ」
「ドーベンウルフですわ一夏さん。第三世代機最大数の固定武装を持つ空飛ぶ武器庫。カタログスペックでは有線式誘導兵器まで装備してる高火力機体ですわ」
「言うなれば、シャルロットの機体の武装を全部装備してそこにティアーズ型の装備を追加したような機体だ」
織斑がピットで準備運動しながら問い掛ける言葉に、オルコットとボーデヴィッヒが答える。
学園に開示されている情報では、ドーベンウルフとしての情報しか開示されていないからだ。
「僕みたいに沢山の武装を装備してるけど、その豊富な武装を自在に扱える人が少なくてお蔵入りしていたって機体らしいね。雨宮君がどこまで扱えるか不明だけど、火力にさえ注意すればそれほど怖い相手じゃないよ」
デュノアの説明に、なるほどなと答えてISを身に纏う織斑。
「要注意なのは、私と同じ無線誘導兵器を搭載しているセインって方のクシャトリヤですわ。本国からも、要注意機体としてデータ収拾の命令が出てますの」
「それとアナハイムの新型もね、噂じゃジェガンの上位モデルらしいけど」
同じジャンルの武装を使う為、要注意だと言うオルコットと、噂の新型機を気にする凰。
「まぁ、一夏の機体も二次移行したし、私の紅椿もある。案ずることはないぞ一夏」
「おう、頼りにしてるぜ箒」
白式の致命的な弱点であるエネルギー燃費の悪さ。
それをカバー出来る紅椿の単一仕様能力である絢爛舞踏。
これが発動すれば、エネルギーを増幅させて回復させる事が出来る。
これにより、白式が単一仕様能力である零落白夜を使っても回復させられると考えての発言だろう。
「篠ノ之さん、でもその能力はまだ100%発動出来る訳では…」
「心配ない、福音の時だって私の意志で発動したんだ」
何の保証にもならない自信を持ってISを装着する篠ノ之。
苦言を呈したオルコットは、不安げな顔でそれ以上の言葉を噤んだ。
3組のように横の結束が強ければ言えたのだろうが、彼女達の関係ではそこまで踏み込めない。
特に篠ノ之は頑固で直情的な面が強い、下手な事を言って和を乱すのをオルコットは避けた。
そんな表面上は結束が強い織斑側に対して、本当に結束が強い状態になった叢真側。
ピット内でお互いに装備や状態をチェックし合い、確認を怠らない。
「それじゃ皆、作戦通りに」
「陽炎、本当に大丈夫か…」
「心配しないで、上手くやるからさ」
陽炎の言葉に全員が頷き、叢真の心配の言葉に親指を立ててウィンクする。
「相手の要は織斑、織斑を中心に纏まってる状態よ。だから…一人ずつ引き剥がす」
正確に織斑側のウィークポイントを調べ上げていた叢真達。
陽炎曰く、あんなの傍から見てれば直ぐ分かると言うレベルで結束がガタガタらしい。
あれは3組生徒曰く、結束しているのではなく、お互い抜け駆けを監視している状態だと言う。
デュノアが上手いこと立ち回っているが、それでも庇いきれないガタが見えているとの事。
「一番怖いのは、篠ノ之さんと織斑が連携すること。情報開示されたデータを見る限り、セットで運用されたら本気で危ないからね」
「あぁ、その為に陽炎には嫌な役を押し付ける事になるが…」
「だーかーら、気にしないでって。この程度、代表選抜の時じゃ常套手段よ?」
もっとエグい方法だってあるんだからと苦笑する陽炎。
IS操縦者は女性である、故に女同士のドロドロとした争いも頻繁に発生していたりする。
その経験者である陽炎が、作戦の要に名乗りを上げた。
「さ、時間よ。全員準備はいい?」
陽炎の言葉に全員が答え、順番にピットから出撃していく。
織斑側は既に全員がアリーナに出てきている。
先ずは陽炎がピットから出て空中に滞空。
続いて長波が、それに続いて夕立と時雨が出撃し、地面に降り立つ。
そしてクーのクシャトリヤがピットから飛び出し、最後に叢真が出撃する。
叢真のシルヴァ・バレトの姿に、動揺を見せる織斑側。
「あれ…叢真の機体、何か違くないか?」
「でもデータではドーベンウルフって出てる…改修された?」
「まさか…二次移行してますの?こんなに早く…?」
ドーベンウルフの機体情報はあくまでドーベンウルフであり、シルヴァ・バレトと言うのは二次移行した状態での名前だ。
つまり、織斑の白式第二形態・雪羅と同じ扱いであり、名前はあくまでドーベンウルフなのだ。
「あれがクシャトリヤ…アナハイムとジオニックが完成させた遠隔無線誘導型兵器搭載の機体…」
「あの2機が例の新型か…確かにジェガンに似た意匠が見られるが…片方は砲戦装備か」
「バイアランのカスタム機…大柄だけど凄いバーニアの大きさね…」
オルコットがライバルと言えるクシャトリヤに注視し、ボーデヴィッヒは新型であるジェスタのデータを収集。
凰はバイアランの異質な機体を眺めていた。
「なぁ叢真!見てくれよ、俺の機体二次移行したんだ。簡単には負けないぜ!」
「あぁ…そうらしいな」
叢真に呼びかける織斑、相変わらずの脳天気な態度に、叢真は苦笑すら出ない。
「叢真の機体も何か凄いんだって?いい勝負しようぜ!」
「そうなると良いな…」
楽しそうですらある織斑に対して、叢真の返事は平坦だ。
空中に叢真とクー、陽炎が。
地上に時雨と夕立、そして長波が配置される。
「篠ノ之さんだっけ?凄い機体ね、そのお姉さん特製の機体」
「初島…だったか。そうだ、世界で唯一の第四世代機だ」
突然陽炎に言葉を掛けられ、少し戸惑うが胸を張る篠ノ之。
純粋に褒められたと思ったのだろう。
「えぇ、凄いわ。普段他人扱いしてるお姉さんに恥知らずにも新型機をお強請り出来るその根性。見習いたくないわね」
「…なに…っ」
「だってそうじゃない、普段姉は関係ないとか姉のせいで迷惑してるなんて言っておきながら、都合が悪くなるとお姉ちゃんおねが~い、新型の専用機つくって~なんてお強請り出来るんだから。どういう神経してるのかしらね、その面の皮の厚さの下は」
「貴様…っ!」
「やだ怖~い、天才の妹が怒った~、お姉さんに告げ口されて負けにされちゃ~う」
「黙れっ、馬鹿にするな貴様っ!!」
「ふん、悔しかったら実力で証明したら?自分が姉の七光りでその場に居る訳じゃないって」
「良いだろう…たたっ斬ってくれるっ!」
「お、おい箒!」
「箒さん、ダメだよ挑発に乗っちゃっ!」
陽炎の煽りに、見事に篠ノ之が引っ掛かった。
慌てて宥めようとする織斑とデュノアだが、頭に血が昇った篠ノ之は聞いちゃいない。
「心配いらん、あんな量産機程度、この紅椿で叩き伏せてやるっ!」
むしろヒートアップしていた。
この様子に、陽炎は織斑達に見えないように背後で親指を立ててサイン。
全員がそれを見て、作戦通りに動く準備をする。
『3…2…1…試合開始!』
そして試合開始と同時に、陽炎へと襲いかかる篠ノ之。
それに合わせて背後へと飛び退きながら、空中へ飛翔する陽炎。
「箒!一人で突っ込むなよ!うおっ!?」
「勝負するんだろう、織斑」
追いかけようとした織斑を、叢真の持つビームライフルが阻む。
見れば、凰とデュノアは時雨と夕立に立ち塞がれ、オルコットはクーが。
一番集団戦に慣れている筈のボーデヴィッヒは、長波からのビーム攻撃に後退を余儀なくされていた。
「くっ、嫁!相手はこちらを分断して各個撃破する気だ!」
「今更気づいても遅いっての!」
両手のロングライフルでボーデヴィッヒを追い詰める長波。
レーゲン型最大の武器であるAICは、物理的、物体でなければ止める事が出来ない。
そうなると、武装が全てビームであるバイアラン・カスタム2号機は相性が悪い。
「くっ、お行きなさいブルーティアーズ!」
「ヘェ…出すンダァ…出シチャウんダァ…!」
BT兵器を展開するオルコット、だがそれに対抗してクーもバインダー内部から12個のファンネルを射出。
「12個…!?」
「ウッフフ…ドオ?驚いタ…?デモまだマダよ…!」
無線式誘導兵器の数に驚くオルコットに襲いかかる、12個のファンネル。
その背後では、篠ノ之が陽炎を追い詰めていた。
「どうした!偉そうな口を聞いてその程度かっ!」
「それ、こっちのセリフなんだけどっ!」
紅椿の雨月と、リゼルのビームライフルからビームサーベルを発振させぶつかり合う。
「量産機程度でっ!」
「その量産機に負けんの…よっ!」
鍔迫り合いになった所で、前腕部に装備されたグレネードを放つ陽炎。
「ぐっ、この程度の小手先の攻撃で…!」
直撃し、爆炎に陽炎の姿を一瞬見失う篠ノ之。
爆炎を振り払うと、彼女の周囲には無数のリゼルの姿が。
「な、なんだこれは…!?風船…!?」
それはリゼルから射出されたリゼルの形をしたダミーバルーン。
ISの補助があるとは言え、視認は結局人の目に頼る。
故にこんなバルーンでも、一瞬姿を隠す事が出来る。
「箒っ!後ろだ!」
「なっ!?」
そこへ、織斑からの声が響いて後ろを見れば。
そこには、シールドビームランチャーを構えた、シルヴァ・バレトの姿。
「今度は庇わない」
皮肉混じりのその言葉と共にビームランチャーが放たれ、紅椿を直撃。
「ぐ…っ、この、程度…で…!」
シールドバリアもギリギリだが何とか無事な篠ノ之。
「いいえ、終わりよ」
そこへ、真上からビームライフルからビームサーベルを発振させ振り被った陽炎が飛来。
脳天から叩き切られた篠ノ之は絶対防御が発動し、そのまま地面へと落下、激突した。
「箒っ!?」
「よそ見してる暇があるのか」
その間も、シルヴァ・バレトのインコムで牽制され続けている織斑。
叢真が篠ノ之の背後に回り込めた理由が、そこにあった。
「捕まえた…ぽいっ!」
「きゃぁっ!?」
夕立のジェスタがサーベルを構えたまま凰を追い詰める。
「こいつ、衝撃砲が…っ」
本来見えない筈の衝撃砲、それがまるで見えているかのように当たらない夕立。
「ぽいっと」
「またっ、何なのよアンタっ!?」
またも衝撃砲を避けられ、焦りながら手持ちの双天牙月で切り払おうとするが、ビームサーベルで溶断されてしまう。
「素敵なパーティーしましょっ」
そう言ってバラ撒かれるのは両腰のハンドグレネード。
「しまっ!?」
合計6発のグレネードの爆発に、多大なダメージを受ける凰。
それでも何とか耐えた彼女の甲龍を貫いたのは、夕立の攻撃ではなく。
「ごめんね、ガラ空きだよ」
時雨のジェスタ・キャノンによるビームキャノンの一撃。
「鈴っ!」
「次は貴女っぽい?」
先程まで時雨と銃撃戦を繰り広げていたデュノアの前に、一瞬にして夕立が現れる。
「くっ!」
「逃してあげないっぽいっ!」
高速切替で武装を切り替えるが、ビームサーベル相手では同じ粒子剣以外では打ち合えない。
直にまた射撃武装に切り替え、得意の砂漠の逃げ水で優位に立とうとするデュノア。
だがそんな彼女を背後から撃ち抜くビームの光。
「なっ、どこから…!?」
「クフフ…甘いヨォ…」
その攻撃は、武装を全て破壊されてもう手も足も出ない状態で足を持たれて吊るされたオルコットを持つ、クーのクシャトリヤ、そのファンネルから。
「セシリアっ!」
「よそ見しちゃダメっぽい」
「がっ!?」
一瞬の隙を突かれてシールドでのタックルを受けるデュノア。
篠ノ之が落ちてからはもう既に一方的な試合だった。
織斑は叢真に釘付けにされて自由に動けず、凰とセリシアも落ちた。
ボーデヴィッヒが善戦しているが、陽炎と長波の波状攻撃に徐々に追い詰められていく。
ここに来てデュノアは、己の失策を悟った。
相手は最初から、紅椿を落とす事を考えてきていたのだ。
こちらの、女子同士の結束の薄さを見破られ、的確にそこを突かれた。
「ラウラっ、一度合流して…あうっ!?」
夕立を振り払い、時雨に牽制の攻撃をしながらラウラと合流しようとしたデュノアだったが。
突然の2本のビームキャノンに貫かれて墜落する。
誰がとそちらを見れば、織斑の攻撃を避けながら、肩部ビーム・キャノンをこちらに向けていた叢真の姿。
「しまった…最大の敵は…彼だったんだ…!」
最初の篠ノ之の時もそうだった、叢真は織斑を釘付けにしながら他の仲間の援護を的確に行っていた。
見れば今も、右手のビームライフルで織斑を狙いながら、インコムでボーデヴィッヒへ牽制を掛けている。
「気づいても遅いよ…残念だったね」
「あ…」
まだシールドエネルギーが尽きてないデュノアだが、目の前に降りた時雨の持つライフルの一撃にエネルギーが切れる。
「でぇぇぇいっ!」
「舐めるなぁっ!!」
ビームライフルから発振されたビームサーベルを構えて突撃する陽炎を、AICで止めるボーデヴィッヒ。
そしてすぐさまワイヤーブレードで迎撃しようとするが、リゼルの背後からのビーム砲撃に肩のレールガンを撃ち抜かれる。
「ナイス長波!」
「囮サンキュー!」
「く…おのれぇ…!」
陽炎のリゼルを壁にしてロングライフルで武装を撃ち抜いた長波。
お互いを信じあった連携に、追い詰められるボーデヴィッヒ。
「ラウラっ、大丈夫か!?」
「心配するな嫁っ、この程度で…!」
織斑の言葉に気丈に返すボーデヴィッヒだが、既に武装の一部を消失し、相手はAICの弱点を的確に突いてくる。
「落ちろぉぉぉぉっ!」
ロングライフルからビームサーベルを発振させ、突撃してくる長波。
「くっ!」
AICで止めつつ、陽炎の動きにも気を配るボーデヴィッヒ。
だが陽炎のリゼルは動かない、何故、ならば他のやつかと視線を巡らせるがクーは相変わらずオルコットの足を持ったまま動かず、時雨と夕立は警戒するだけで動かない。
何故だと怪しんだ彼女の背筋を、悪寒が駆け上がった。
その正体は、死角からこちらを狙う2個の有線式誘導兵器。
「ぐあっ!?」
インコムから放たれたビームがボーデヴィッヒに直撃し、AICが解ける。
つまりは。
「もらったぁっ!!」
「が…っ!」
既に斬りかかる態勢だった長波に切り裂かれ、エネルギー切れになるレーゲン。
これで残るのは、織斑とエネルギー切れ寸前のオルコットだけ。
とは言えオルコットはもはや囚われの状態で何も出来ない。(頭痛が痛い的な意味の重複)
「くっ、卑怯だぞ叢真!」
「何がだ。お前は運動会の徒競走でもしてるつもりか織斑」
叫ぶ織斑だが、叢真の淡々とした言葉に反論を詰まらせる。
そう、織斑の頭の中では、どこか遊びの感覚が強かったのだろう。
ISが格闘技に近い物だという感覚が無かったのだろう。
「くそ…っ」
先程から一度も叢真に攻撃を与えられていない事に焦る織斑。
開始から終始牽制と釘付けで、攻めると逃げて逃げようとするとインコムとライフル、ミサイルで包囲される。
まるで砂漠の逃げ水のようなその攻撃に、織斑は完全に囚われていた。
そして恐ろしい事に、そんな状態に織斑を追い込みながら、篠ノ之に一撃を入れ、デュノアとボーデヴィッヒにも致命傷を与えている。
多数の目標を同時に相手にする多対戦闘能力、そしてそれを可能にする機体。
正に叢真は、ドーベンウルフを、シルヴァ・バレトを活かす為の才能を秘めていた。
「こうなったら……正々堂々勝負だ!叢真っ!!」
暗に一対一で相手しろと宣言する織斑に、何を言っているんだろう彼は…と白ける会場と陽炎達。
「いいだろう…」
だが叢真は受けた。
これで勝機が見えたとでも言うのか、嬉しげに笑う織斑と、仏頂面の叢真。
だがこのまま戦ってもまた砂漠の逃げ水の様に囚われてしまう。
だから織斑は起死回生の一撃に打って出た。
「行くぜ雪羅ぁっ!」
左手の多機能武装腕である雪羅を展開し、エネルギーを充電する織斑。
本来ならそれに付き合う必要はない、だが叢真はあえてそれを受けた。
「バレル展開…!」
同じく左腕に装備されているシールドのビーム・ランチャーを展開。
ビームランチャーからメガ・ランチャーへと可変したそれを、織斑へと向ける。
「いっけえぇぇぇぇッ!!」
「発射ッ!」
同時に放たれる荷電粒子砲とメガ・ランチャー。
アリーナの中央でぶつかり合うエネルギーの奔流。
「まだだ!零落白夜っ!」
エネルギーが減るのを分かった上で、単一仕様能力を発動。
荷電粒子砲にエネルギー消失効果が加わり、メガ・ランチャーの砲撃が掻き消されていく。
そして終にメガランチャーごとシールドが荷電粒子に飲み込まれて融解。
「なっ!?」
だが、そこに叢真の姿は無かった。
さらに、織斑の左腕にビームが突き刺さり、雪羅が爆発。
視線を向ければ、そこには宙に浮くシルヴァ・バレトの右腕。
無線式ハンドビームの一撃だった。
「どこに…っ!?」
「おぉぉぉぉぉぉッ!!!」
荷電粒子砲の余波で視界が悪い中、叢真が両手にビームサーベルを構えて飛び出してくる。
本来IS用の大きさのサーベルを、ほぼ生身の腕で掴んで。
シルヴァ・バレトの両腕は、切り離して無線式ハンドビームとして運用が出来る。
その間、叢真本来の腕は最低限のフレームに包まれた状態で自由に動かせる。
それ故に、先ず左手を射出して砲台とし、撃ち合いの最中に右手を射出し、織斑を狙った。
「くっ、叢真ぁっ!!」
「これで…終わりだッ!!」
右手の雪片弐型の一撃を、ワザとビームを消して打ち合わず、もう片方のサーベルで破損している左腕を切り裂く。
「ぐあっ!」
「落ちろッ!」
そしてバツの字に織斑を切り裂くと、元々エネルギーを消費していた白式は、それだけでエネルギー切れとなる。
これで6対1となり、残ったオルコットは何も出来ない。
「ぎ…ギブアップ…ですわ…」
「オ利口お利口…クフフ」
クシャトリヤの手腕とサブアームで捕らわれ、動けないオルコットがギブアップした事で、勝負は3組が勝利の完全試合となった。
1組側のピットは重い沈黙に包まれていた。
6:0で負けた事だけではない。
あの後、篠ノ之が卑怯だなんだと騒ぎ、それなら織斑を除いた5対1でやろうという提案がされた。
叢真対、織斑を除いた5人で。
そして結果は、今の彼女たちの姿だった。
「叢真って…あんなに強かったんだな…」
「違うよ一夏…強くなったんだよ、雨宮君は…」
織斑の言葉に、苦笑して訂正するデュノア。
結局彼女達の敗因は、織斑も含めて、叢真が弱いままだと思っていた事だ。
叢真は1対5と言う、多対戦闘において終始優位に戦っていた。
豊富なその武装をそれぞれに的確に使いこなし、同時に多数を相手に戦い抜く叢真。
先ずはまたも篠ノ之が落とされ、次にオルコット。
そして凰が落とされ、デュノアとボーデヴィッヒも落とされた。
勿論叢真側もダメージを負っている、だがそれでも1対5でほぼ五体満足な状態での勝利。
企業代表となった叢真の、本当の強さを垣間見た瞬間だった。
「おまけに3組の生徒もあんなに強いなんてなぁ…」
修理が間に合い、織斑も戦う事になった相手は、自称一番弱いという時雨。
だが、織斑は為す術無く撃破されてしまった。
砂漠の逃げ水を時雨が使えた事もそうだが、ジェスタ・キャノンの性能を甘く見すぎていた。
結局彼女達が負けた理由は、相手を舐めすぎていたという点に尽きる。
そして織斑が負けた理由は、二次移行したからと言って本人の技量が上がっている訳ではないという点。
織斑本人は知らないが、今の彼の単純な技量は、IS学園では下から数えた方が早いと言う事を。
そして今回の負けが、彼の評価にどう繋がるか、いまだ織斑は理解していなかった。
切りが良い所で完結にするべきか、書ける範囲で続けるべきか悩むこの頃(´・ω・`)