福音事件?悲しい…事件だったね…
夜が明けて、叢真は早朝に福音暴走事件が終息したことを聞かされた。
詳しい事は伏せられているが、なんでも織斑と篠ノ之を中心に代表候補生達で対処したらしい。
その作戦は叢真でも無茶苦茶だと判断出来る事だったが、IS委員会の一部からの指示らしい。
アルベルトは「まぁ悪戯兎に唆されたのだろ」と笑っていたが。
そして本日は、今日までの厳しい研修を乗り越えた生徒達へのご褒美デーとなっていた。
全員が連れて来られたのは、研究所の敷地内に建てられたプールやフィットネスなどが入った娯楽施設。
温水プールに流れるプールなどを完備し、お風呂やサウナ、岩盤浴にエステまで入っている充実っぷり。
アナハイム職員やその家族なら何時でも使える施設であり、校外実習の海遊びにも負けるとも劣らない自由時間が用意されていた。
水着を用意しろってのははこの為だったのかーと叫びながらプールへ突撃する3組生徒達。
勿論、叢真に真っ先に水着を見せて褒めてもらうのは忘れない。
いくらISスーツで見慣れていても、水着となるとまたダメージが違うのだろう。
後半になると叢真は直視出来なくなっていた、顔を染めて。
大胆な水着を来てきた夕雲達のハイタッチが印象的な光景であった。
温水プールで遊ぶ者、バレーして遊ぶ者、流れるプールで流される者、エステやサウナで身体を磨く者とそれぞれ自由時間を楽しむ面々。
こんな豪華な施設が使えるなら絶対アナハイムに入るー!と決意を決める者が出ているが、仕方ない事だろう。
そんな中、叢真はアルベルトに呼ばれてプールサイドのテーブルへの椅子へ腰を降ろしていた。
そして呼ばれたのは叢真だけではない。
陽炎、長波、時雨、そして夕立もアルベルトに呼ばれ、着席している。
「さて、自由時間にすまないね。実は君達に良い話を持ってきた」
そう言ってアルベルトが、傍らに立つガエルに配らせるのは防水タブレット。
そこに表示されているのは、アナハイム製のISの情報。
「リゼル…これリゼルの情報だわ…」
「バイアラン…?バイアランって確か第二世代機で前のアメリカ代表の機体だよな?」
「ジェスタ…?」
「ジェガンっぽい…けどジェガンじゃないっぽい?」
それぞれ渡されたIS情報が違う為、首を傾げる面々。
「先ずは陽炎君。君には我が企業代表候補生としての席を設けた。日本の代表候補生選抜ベスト8の実力、実に素晴らしい」
「え…あ、ありがとうございますっ」
突然の事に一瞬フリーズする陽炎だが、自分の実力が認められたという事実に嬉しくて舞い上がる。
そして代表候補生と言うことは。
「そのリゼルは、君の専用機となる機体の情報だ。リゼルについては存じているかな?」
「は、はい!アナハイムが開発した世界初の可変型ISで、搭乗者を包む形での巡航形態へ可変が可能な高性能量産機です!」
「その通り。現在リゼルは6機量産されており、君の機体はその6機目となる」
一号機は米軍が使用し、二号機はアナハイム第二研究所で試験運用中。三号機と四号機は叢真達が良く知る神通、那珂の専用機である。
「リゼルの性能や能力は、神通君達を良く知るなら説明は要らないだろう。午後から受領して訓練に励んでくれたまえ」
「はいっ!」
嬉しそうにタブレットの情報を見つめる陽炎。
夢だった代表候補生、日本ではないが専用機も与えられ、叢真と最も近い立場、何も文句は無い。
熱心にタブレットの情報を見つめ始める陽炎から、今度は首を傾げている長波へ視線を向けるアルベルト。
「長波君のその機体は、知っての通り第二世代機を元にした機体だ」
「バイアラン・カスタム2号機ってあるけど…?」
「あぁ、一号機は現在同じように改造を施して2,5世代機として試験運用されている。その二号機は我が第三研究所で改造を施したカスタム機でね」
元のバイアランという機体は、第二世代機の中でも異質な見た目をした機体であった。
本来腕がある場所にバーニアが搭載され、高い飛行能力を目指したとされる機体。
操縦者は両手を左右に伸ばした状態で操作する為、操縦が独特となり、当時の代表以外扱える操縦者が居なかったとも言われている。
なおその空戦能力は高く、代表操縦者の力量と合わせて天空の襲撃者という渾名で呼ばれた経歴を持つ。
そんなバイアランを、扱いやすくかつ火力を強化したのが、長波のタブレットに表示されているバイアラン・カスタム。
一号機と二号機はそれぞれ異なる改修をされ、二号機は火力の更なる強化と高速巡航形態への簡易的な可変能力を手にした機体。
「そんな機体をなんであたしに?」
「これまでの学園でのデータと昨日の様子で判断し、君の力量なら問題ないと結論が出たのだよ。自信がないかね?」
「まさか!叢真を守る力が欲しかったんだ、この長波様に任せなよ!」
自信満々に頷いて、手元のタブレットを見る。
機体としては第二世代機、しかも元アメリカ代表位しか扱える人が居なかったピーキーな機体。
だが逆に長波のやる気は上がっていた、その位の機体でなければ叢真を守れないからと。
「そして時雨君と夕立君の機体だが…その機体は、ジェガンの上位モデルとして設計・開発がされた新型機だ。ジェガンの強みである汎用性を更に高め、どんな状況下でも性能を発揮出来る高い性能を持たせてある」
更にジェガンの特徴であった高い拡張性と耐久力も強化された、正にジェガンの上位モデル、それがジェスタ。
そんな最新鋭機を、ただの生徒に開示するその理由。
「もしかして、あたし達テストパイロットに選ばれたっぽい?」
「代表候補とかじゃなくて、純粋なテスト目的なのかな」
「その通り。本当に3組は優秀な生徒が多くて助かるよ」
時雨と夕立、どちらもIS操縦の適性がA判定と高く、かつ夕立は近接、時雨は射撃が得意と分野が分かれている。
その為、まだ4機しか存在しないジェスタのテストパイロットとして選ばれたのだろう。
また、叢真の護衛としての立場も選出の理由に当たる。
今現在アナハイムが用意出来るコアの数が限られる為、今回選ばれたのは陽炎達4人。
それでも普通に考えれば異常な事だ、4個ものコアを割り振るのだから。
これも、たった二人の男性操縦者の片割れを企業全体で守る為の処置である。
「夕立君の機体は標準機のまま機体そのもののテストを。時雨君の機体は標準オプションである重装備型の運用テストをして貰いたい」
「は、はい…」
「任せて欲しいっぽい!」
降って湧いた話に少し夢ご心地な時雨と、自信満々に答える夕立。
全員が専用機、時雨と夕立は少々違うが、ISを与えられて喜びを浮かべている。
そんな彼女達の様子を眺めて我が事のように嬉しそうに、珍しく仏頂面に笑みを浮かべる叢真。
「午後からは早速起動試験、そして叢真君とクゥ君も合わせての訓練となる。今の内に英気を養うと良い」
「「「「はいっ」」」」
アルベルトの言葉に答え、早速タブレットを片手に、何の話かなと様子を伺っていた仲間達の所へ走り出す陽炎達。
あちこちで専用機を与えられた事が話され、歓声や羨ましいという声が聞こえてくる。
ここで僻む声などが聞こえない辺りが、3組の仲の良さを表している。
まぁ陽炎が、おめでとうの胴上げからのプールへどぼーんさせられているが。
代表候補生とテストパイロットの選ばれた4人の午後は地獄と化した。
何せビッグセブンである長門教諭と陸奥教諭のマンツーマンに近い状態の指導が行われているのだから。
勿論叢真とクーも一緒であり、6人はみっちりと機体操作や操縦技術を叩き込まれている。
更に。
「Hi!ナガート!久しぶりネー!」
「アイオワ!久しぶりだな、元気にしていたか」
なんと、元アメリカ代表選手、アイオワが緊急来日。
現在彼女はアナハイム第二研究所でテストパイロットをしており、バイアラン・カスタム一号機を使っているらしい。
「Meのバイアランと同じのを使う子が居るそうネ!」
そう言ってバイアラン・カスタム二号機を纏っている長波を見て、キュピーンと瞳の星を光らせるアイオワ。
「丁度良かった、普通の機体と操縦が異なるから教えるのに難儀していてな。指導してやってくれ」
「Of course!アメリカスタイルのTrainingで直にStrongerしてあげるワ!」
ペキポキと指を鳴らすアイオワの姿に、冷や汗が流れる長波、そして青い顔のクー。
「アイオワ姉サンの訓練…すゴォくハードだヨォ…」
「久しぶりネー、クゥ。Youも面倒、見てあげるワ!」
「ヒィ!」
ロックオンされて悲鳴を上げるクゥ。
なんでも彼女がまだアメリカの第二研究所に居た頃から、事あるごとに扱かれていたらしい。
アメリカ人のテンプレのような明るく開放的な性格をしているが、流石は元代表、その指導は長門や陸奥に勝るとも劣らない。
因みに肉体への負荷という点では神通の訓練が一番キツい。
神通はフィジカルを鍛えてメンタルを強化し、ISを制するという考えの元、先ずフィジカルを重点的に鍛えるからだ。
勿論、どっかの天災の妹みたいに、剣道だけやらせて終わるような事はしない、ちゃんとISにも触れさせる。
だが神通は体力ありきの訓練を行う。
対して長門はIS理論と物理学などを織り交ぜた指導をするし、陸奥はメンタルケアや精神面での指導を欠かさない。
ではアイオワの訓練はどんなものか。
ぶっちゃけると日本人が想像するアメリカ軍式訓練と、アメリカ式エクササイズを合わせた様な訓練である。
アメリカ式エクササイズのあの明るさとノリで、アメリカ軍式の訓練をやると言えば分かりやすいか。
「Hey!もっと腕を上げて!スマイルスマイル!声を出して!」
「は、はいっ」
「ハァイ…!」
長波とクーが、エクササイズしてるのか軍隊式訓練してるのか分からないアイオワの指導を受けている。
ISを装備して走ったり腕立てしたり。
意味があるのかと素人なら思うだろうが、そういった動きをISを着てもスムーズに行えると言う事は、それだけ操縦技術が要求されるという事。
流石は扱える操縦者が少ないとされたバイアランを扱って代表になったアイオワ、カスタム化して操作しやすくなったとは言え他のISと違う操縦の癖を、訓練しながら長波に教え込んでいく。
訓練内容が一巡する頃には、長波もバイアラン・カスタムを手足のように動かせていた。
「難しい事なんてthinkしないで、兎に角手足みたいに動かすのが大事、ヨ!」
「はい、先生!」
「ハァィ…」
長波は既に先生呼びで慕っているが、巻き込まれた状態のクーは疲れた顔をしている。
バイアランもそうだが、大型ISで生身と同じ動きをするのは非情に過酷なのだ。
「2号機はTransform出来るわよネ!その訓練もしましょう!Hey! come on!カゲロウ!」
「うぇ!?私も!?」
陸奥に射撃の訓練を受けていた陽炎が突然呼ばれ、慌ててやってくるとアイオワは変形してみせろと言う。
先ずは長波が変形、変形と行っても両腕を回転させて武装同士をドッキングさせ、姿勢を前傾にするだけだ。
バイアランは両手部分と生身の腕部分が繋がっておらず、操縦者の両手はバイアランの肩の部分に水平にした状態で収まっている。
普通のISなら腕の先にISの腕が装備されるのだが、バイアランの場合は生身の腕は両肩の部分で止まっており、そこから腕が生える形になる。
その為、腕が丸ごと回転したりと可動範囲が広い、生身の腕が通ってないのだから。
対して陽炎のリゼルの変形は少々複雑だ。
先ず胸部アーマーが上に展開しバックパックと接続、両手が最低限のフレームを残して外れ、両足も最低限の内蔵フレームを残して外れていく。
そして両手が陽炎の胸の前で合体し、それを挟み込むように両足が合体。
丁度バックパックユニットと両手足のパーツで操縦者を包む様に挟み込む形になり、ウェイブライダーと呼ばれる巡航形態へと可変が完了する。
「流石リゼル、BeautifulなTransformだわ!さぁ行くわよGoGo!」
「ちょ、アイオワ先生っ」
「速いっ、カスタム一号機ってあんな速いの!?」
アッと言う間に飛び立ってしまうアイオワを、慌てて追いかける長波と陽炎。
リゼルのバックパックユニットが、標準型のボックスユニットとは言え、巡航形態に変形したリゼルでも中々追いつけない。
飛行形態になった長波のバイアラン・カスタム二号機も同じで、スイスイと空を飛ぶアイオワを中々補足出来ない。
「元代表ってのはほんと、伊達じゃないなぁながもん先生と言いむっちゃんと言い!」
「でも超え甲斐があるじゃない!」
バーニアを全開にしてアイオワを追いかける長波と陽炎。
そんな様子を楽しそうにセンサーで見ながら、更に加速するアイオワ。
「ヤット開放されタワァ…」
ヘトヘトの状態で戻ってくるクー。
そんなクーの機体のバインダーをコンコンと叩くのは、長門教諭。
「さぁ、次は私と近接訓練だ!」
「ヒィィィィッ、ソーマ助けテェ!」
ドナドナドナーと連れて行かれるクーを、南無と手を合わせて見送る叢真。
「やっぱりジェガンとは基本性能が段違いねぇ…」
「凄く動きやすいっぽい!」
こちらはジェスタのテストを見守る陸奥教諭。
彼女の前では、夕立がシャドーボクシングのような動きをジェスタを装着して見事に行っていた。
「ジェガンをそのまま第三世代機にしたみたいだよ先生。凄く使い易いのに性能が高いんだ」
ジェスタに専用のオプションパーツの増加装甲や武装を装着した通称ジェスタ・キャノンに乗る時雨も、武装を確認しながらその性能の高さに驚いている。
ジェガンの上位機種という位置づけは伊達ではなく、テストをしていてもその性能の高さを感じる事が出来る。
「そんな機体を任されたんだから、確りテストして結果を出さないとね」
「「はいっ」」
陸奥教諭の言葉に確り返事をし、与えられたテスト項目を消化していく二人。
「雨宮君、貴方も射撃訓練の後は近接模擬戦闘よ」
「はい」
陸奥教諭に言われ、時雨達と一緒に射撃訓練に入る叢真。
ジェスタ・キャノンと呼ばれるだけあって、時雨の機体は叢真のシルヴァ・バレトに劣らない火力を見せる。
その射撃の正確さは、時雨の技量もあるが、それを補助するシステム面の効果もあるのだろう。
全てがハイスペックに纏まった、ジェガンの正統後継機であるジェスタ。
その2機を任された時雨と夕立は、懸命にテストを消化してその性能と自身の技量を示そうとしていた。
土曜日の午後、アナハイム研究所の中央広場前に停められたバスに、3組生徒達が乗り込んでいく。
彼女達は他の生徒より一日長い校外実習を終え、今日IS学園に帰還する。
それを見送るのは、アナハイム職員の指導員達や、アルベルト、ガエル、鳳翔、そして叢真。
だけでなく、クーに陽炎、長波、そして時雨と夕立も残っている。
叢真は日曜日に企業代表就任の会見があるのでまだアナハイムに居る。
そしてクーと陽炎は、企業代表候補生としての就任式が。
長波、夕立、時雨はテストパイロットとしての顔見せと、テストが残っているからだ。
「では、生徒達を頼むぞ、アイオワ」
「OK!Meに任せて、ナガート!」
バスの前で握手する長門教諭とアイオワ。
長門教諭も生徒達と一緒に学園に戻る為、指導をアイオワに任せた。
アイオワが来日した理由も、アルベルトが手配した教官としてだった。
因みに長門とアイオワは代表時代のライバルであり、何度もやりあった仲なので意外と仲がいいとは陸奥教諭の談。
「叢真さん、早く帰ってきてね~!」
「学園で待ってますからねー!」
夕雲や海風が心配だわ心配だわという表情で声をかけてきて、叢真も流石に苦笑する。
「陽炎ー、叢真はんの事頼むでー!」
「長波ー、叢真っちのお宝映像あったら録画よろしくー」
黒潮の言葉に親指を立てて答える笑顔の陽炎と、秋雲の言葉に親指を下にして答えるげんなり顔の長波。
「時雨ー、夕立ー、頑張ってねー!」
「先に戻ってるからねー!」
「任せてよ」
「頑張るっぽい!」
白露や村雨の言葉に、力強く頷いて答える時雨と、元気いっぱいに宣言する夕立。
「「「クーちゃんは自重してねー」」」
「エ~」
何度も抜け駆けして叢真を色仕掛けしたり性的接触が多いクーに、クラスメイト達が自重しろと注意を飛ばすが。
言われた本人はどこ吹く風である。
やがて出発の時間となり、バスが動き出すと、全員が窓側にやってきて叢真達に手を振る。
それに手を振り返すアナハイムに残る面子。
やがてバスが見えなくなると、アルベルトが叢真の隣へやってくる。
「さて、それでは会見のための打ち合わせをしようか」
「…はい」
遂に、自分の行く末が確定する。
アルベルトの言葉に大きく息を吸って答え、アルベルトに付いて行く叢真、そしてクーと陽炎。
「さ、ワタシ達はテストの続きヨ!」
「「「はい!」」」
残った長波達は、アイオワ指導の元で機体テストの続きへと挑む。
そんな彼らの未来を祝福するように、白い鳩が静かに羽ばたいていった。
アイオワ可愛いよアイオワ
キャラが金剛と混ざって書きにくぅい!(本音