IS~Under Dog~   作:アセルヤバイジャン

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(´・ω・`)ドクター、スランプに入りました、お薬下さい


('A`)薬でスランプ治るなら世話ないわい


第十五話

 

 

 

 

 

 

叢真が連れて行かれた日から数十日後。

 

IS学園の、特に一年生は少しだけ浮足立った状態になっていた。

 

臨海学校と言われる校外実習の当日だからだ。

 

叢真の事があって、はしゃぎ回る生徒こそ居ないが、少しでも元気を出そうとする生徒達。

 

その中に、当然織斑達の姿もあった。

 

今日まで、自責の念に追われるボーデヴィッヒ達を慰め、買い物に連れて行ったりした織斑達。

 

臨海学校で使う水着などを買い、少しは元気が出た彼らだが。

 

3組の生徒達を見ると、申し訳無さで視線を伏せてしまう。

 

逆に3組生徒達は、もう織斑達を、1組生徒を見ていなかった。

 

もうお前達には期待しないと体現する態度で。

 

「あれ…バス足りなくないか?」

 

ふと織斑が、バスが3台しかない事に気づいた。

 

遅れているのではないかという篠ノ之の言葉に、かもしれないなと納得したその時。

 

正門に一台の大型バスが入ってきた。

 

「あ、来たよ一夏」

 

「あぁ…あれ、でもバス会社違うぞ?」

 

「って言うか、あれ、アナハイムの社用バスじゃん」

 

凰の言う通り、入ってきたバスはアナハイム・エレクトロニクスのロゴマークが入った社用バスで、他のバスに比べると豪華な大型バスだった。

 

そしてバスは少し離れた位置に止まると、なんと3組生徒だけがそちらへ歩いて行き、次々に乗り込んでいく。

 

「なんで3組だけ…?」

 

「もしかして、私達と一緒の校外実習が嫌とか…?」

 

オルコットの言葉に、ありえると思う面々。

 

叢真の事があって、3組の1組への怒りは半端な物ではない。

 

特に織斑達への態度は言うまでも無いだろう。

 

「何をしている、さっさとバスへ乗り込め」

 

「ちふ…織斑先生、あの、3組は…?」

 

「あぁ…3組はアナハイム側からの招待があってな、我々とは別にアナハイムの研究所での校外実習になる。3組にアナハイムのテストパイロットが所属していて今回の話になったと言う話だ」

 

「えぇ…初耳だぜそんな事…」

 

「私も担任ではないから詳しくは分からん。それより早く荷物を乗せて乗り込め!もうすぐ出発の時間だぞ!」

 

織斑千冬に急かされ、バスに荷物を積んで乗り込んでいく生徒達。

 

それを尻目に、3組生徒はアナハイムのバスへと乗り込んで、先に出発してしまう。

 

目指す先は、叢真の居るアナハイム第三研究所。

 

彼女たちの瞳には、愛しい仲間に逢えると言う希望に溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはッ!?」

 

「ソーマっ!?」

 

アナハイムの訓練用アリーナ、その壁に叩きつけられるのはドーベン・ウルフを纏った叢真。

 

クーが心配の声を上げるが、ただ弾き飛ばされただけの叢真は直に立ち上がって相手を睨む。

 

『どうした、その程度か』

 

「く…ッ」

 

視線の先に立つのは、暗い色合いのミリタリー色の濃いカラーのジェガン。

 

頭部にはセンサーユニットが増設され、操縦者の顔を完全に隠してしまっている。

 

各部の装甲は増設され、通常のジェガンとは違うという事が伺い知れる。

 

肩には対IS用大型ナイフなども装備され、まるで特殊部隊所属のような雰囲気を醸し出している。

 

いや、特殊部隊仕様なのだろう。

 

エコーズジェガンと呼ばれるソレは、この研究所の警備を行うエコーズと呼ばれるアナハイム私設部隊、その部隊の隊員達のアイデアを元に作られたジェガンの装備パターン。

 

彼らエコーズは元々は米軍などの特殊部隊所属の元軍人で構成されており、その実力は高い。

 

そんな彼らの実戦経験を元にして組まれたのがエコーズジェガン。

 

その機体が、叢真の前でハンドガンを片手に構え、電子音声で挑発してきた。

 

恐らく頭部のセンサーユニットの仕様なのだろう、声が分からないように改造された音声が流れる。

 

それ故、相手が誰か分からない。

 

長い黒髪をポニーテールにしている、という部分しか分からないのだ。

 

元々装甲が多くて全身装甲に近いジェガンだ、唯一露出していた頭部を覆ってしまえば後は後頭部や一部関節しか露出しない。

 

『来ないのならこちらから行くぞ』

 

「ぐっ…!」

 

それは突然だった。

 

学園から連れて来られてから毎日、ドーベンウルフでのテストを繰り返し、クーとの模擬戦闘を行ってきた叢真。

 

今日も模擬訓練を開始しようとしたらアルベルトから、教官が到着したと連絡を受け、アリーナで待っていると現れたのがエコーズジェガン。

 

そして、問答無用で模擬戦闘を開始してきた。

 

クーも援護しようとしたが、アルベルトから手出し無用を言い渡されてその場を動けない。

 

「強い…」

 

エコーズジェガンの性能だけではない、操縦者の練度が桁違いに高かった。

 

ドーベンウルフの豊富な武装も、全て的確に捌かれて対応されてしまう。

 

装備の数も性能も、ドーベンウルフの方が上なのに。

 

この数日間で手足のように慣れたドーベンウルフでも歯が立たない相手。

 

「只者じゃない…」

 

確実に、クーや神通よりも上の技量。

 

装備や性能で劣るジェガンで叢真のドーベンウルフを圧倒しているのだ。

 

『立ち向かわねば、貴様はずっと負け犬のままだぞ』

 

「なんだと…ッ!」

 

相手の言葉に怒りを乗せ、再び斬りかかる叢真。

 

既にビームライフルは破壊され、ミサイルとグレネードは弾切れ。

 

残るのはシールドエネルギーの残量に影響する内蔵粒子兵器と、ビームサーベル。

 

無駄打ちすればジリ貧になる故、叢真は当たらない射撃より近接を選んだ。

 

『動きにまだ無駄が多いっ!』

 

「ぐあッ!」

 

斬りかかった攻撃を紙一重で避けられ、そのまま投げられる叢真。

 

その勢いをAMBACで咄嗟に利用し、再び斬りかかるが流れを利用されてカウンターの一撃を食らう。

 

「く…ッ」

 

『焦れば焦るだけ芯がブレ、動きもブレる。確固たる信念を持て、揺るがない意志を持て』

 

「………ッ」

 

相手からの言葉は全て図星だった。

 

叢真の悪い点、焦ると周りが見えなくなるという弱点。

 

周りが見えなくなるが故に、焦りが更に生まれ、相手に付け入る隙を産んでしまう。

 

それが、今の状態だった。

 

『貴様の焦りはなんだ。何が貴様を焦らせる』

 

「俺は…俺は…俺は強くならないと…!」

 

『何のために。いや、誰の為にだ。この数日間誰の為に強くなろうとした』

 

「誰の為…誰の……俺は誰の為に…」

 

相手の言葉に、深く考える叢真。

 

そもそも、叢真が強くなりたいと思ったのは何時だったのか。

 

オルコットに負けたから?違う。

 

織斑の噛ませ犬になったから?違う。

 

もっと簡単で、もっと大切な理由から。

 

自分自身のため、それよりも大きな理由。

 

叢真が強くなりたい、そう思った理由は…。

 

『アレ、ではないのか。雨宮叢真』

 

相手が指差した先、アリーナの中を覗ける内部通路の強化ガラスの向こうに、ガラスにへばり付いてこちらを見ている沢山の人影。

 

「――ッ!み、皆…!」

 

「ヘェ…来たンダァ…♪」

 

叢真の視線の先、防音仕様で聞こえないのに、必死に叢真の名前を呼んでいる3組生徒達。

 

クーが嬉しそうに笑い、叢真の瞳から涙が溢れた。

 

そして思い出した。

 

どうして、強くなりたいと思ったのかを。

 

「そうだ…俺は…俺は…」

 

彼女達の…仲間の為に、大切な人達の為に、強くなりたいと願った。

 

応援してくれた皆の笑顔が見たくて、悲しい顔が見たくなくて。

 

叢真は、強くなりたいと願ったのだ。

 

『そうだ、それが、貴様の本当の強さだ』

 

知らない誰かの為ではない、自分自身の為でもない。

 

大切な仲間、愛する仲間、その為に。

 

「俺は……強くなりたいんだッ」

 

『むっ』

 

「ソーマ…!?」

 

叢真がその想いを自覚した時、ドーベンウルフが光り輝いた。

 

「形態移行だ!!」

 

「こんなに早くですか…っ?」

 

管制室のアルベルトが叫び、ガエルが疑問を浮かべる。

 

まだ叢真がドーベンウルフを操縦してから2週間と経っていないからだ。

 

「いや、早くはない。何故ならドーベン・ウルフのコアは彼のジェガンだ。初期化してないから彼のデータを蓄積している!それが今、彼に本当にふさわしい形へと変化しているのだ!」

 

興奮気味のアルベルトの言う通り、叢真のドーベンウルフは今、叢真の為に二次移行を起こしていた。

 

『そうだ、それでいい…それで良いんだ、雨宮」

 

バイザーを上げるエコーズジェガン。

 

そのバイザーの下にあったのは、叢真の恩師、長門教諭の姿。

 

元日本代表、織斑千冬の後を継いでヴァルキリーとなった、ブリュンヒルデに継ぐ7人の乙女、通称ビッグセブンの一人。

 

その長門教諭が、笑顔で叢真とドーベンウルフの進化を祝福していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「叢真(くん・さん・っち)ッ!!」」」」」

 

それぞれの呼び方をしながら、叢真に駆け寄ってくる3組生徒達。

 

「皆…うおぉっ!?」

 

両手を広げて出迎えるが、勢いに飲まれる叢真。

 

「馬鹿、馬鹿バカばかっ、心配したんだからねっ!」

 

「か、陽炎…」

 

「叢真さん無事ね、怪我してないわね、ちゃんとご飯食べてる?夕雲が居なくて寂しくなかった?」

 

「夕雲…」

 

「再会のキスいっちばーん!!」

 

「むぐっ!?」

 

「「「「「あーーーーっ!!?」」」」」

 

もう大騒ぎで収拾不可能な状態であった。

 

誰もが涙を流しながら、叢真との再会を喜び、抱き付いたり告白したりキスしたり揉んだり噛んだり舐めたりと大騒ぎ。

 

「あらあら…しょうがないわねぇ…」

 

「陸奥」

 

それを後ろで、涙を拭いながら見ていた陸奥教諭に、ISスーツ姿の長門教諭がやってきて肩を叩く。

 

「長門…貴女こんな所に居たのね」

 

謹慎中なのに部屋に居ないと思ったらと苦笑する陸奥教諭。

 

「あぁ、アルベルト氏から依頼を受けてな。理事長が私を止めた理由が分かったよ。IS学園は最初からアナハイムに彼を渡すつもりだったのだな」

 

「えぇ、その様子ね。IS委員会の一部からの指示だから、逆らえないものねぇ」

 

現在ではその一部が大多数となり、人道と道理を武器に叢真の研究所行きを推進した連中を駆逐していると言う。

 

既にIS委員会内部では叢真のアナハイムの企業代表操縦者就任は伝わっており、アナハイムという巨大な後ろ盾と立場を得た以上はおいそれと手が出せない。

 

それどころか、推進した連中は後ろ暗い理由を暴かれ、理事を辞任する羽目になったり役員を解任されたりと大荒れ状態。

 

国として推進したフランス・イギリス・中国・ドイツ・韓国などは現在劣勢に立たされているらしい。

 

後は叢真が学園に戻ると同時に企業代表就任を公開すれば、叢真は学園での生活に戻れる。

 

企業との契約で、IS学園は卒業するというのが契約条件に盛り込まれているからだ。

 

「セインさんずるいわ、叢真さんとずっと一緒だなんて!」

 

「ゴメンネェ、でモ仕事ダシィ…♪」

 

さり気なく叢真の傍に居るクーに、夕雲達叢真のお世話し隊がずるいずるいと抗議していたりする。

 

「でもさー、これから数日一緒だし、叢真も学園に戻るんだからいいじゃん、江風達もずっと傍に居られるようになるじゃん」

 

「それよ江風さん!叢真さん、今日から夕雲達がばっちりお世話してあげるからねぇ…♪」

 

「お、お手柔らかに…」

 

夕立や巻雲、嵐達に抱き着かれ登られている叢真は、夕雲の気合の篭った言葉に苦笑で返すしか出来ないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナハイム側の御持て成しに3組生徒が大満足すると共に、明日からの研修に向けて英気を養っている時間帯。

 

叢真は一人、整備室に鎮座する己の愛機を眺めていた。

 

「雨宮」

 

「…長門先生」

 

「すまなかった」

 

そこへ現れた長門教諭は、一言謝罪するとその頭を下げた。

 

「何で先生が謝るんです…ッ」

 

「お前の気持ちも知らずに、指導だの次だの言った愚かな私からの謝罪だ」

 

負けて研究所行きが確定し、気持ちが死んでいた叢真に、心を抉るような事を言った自分が許せないのだろう。

 

そんな長門の謝罪を、叢真は確り頷いて受け入れた。

 

「気にしてませんよ。長門先生のあの言葉は、本当に嬉しかったから」

 

「そうか…そう言ってくれるか…」

 

「はい。だから、ここに居る間…いえ、学園に戻ってからも指導をお願いしますよ、ビッグセブンの長門先生」

 

「昔の話だ、今はただのIS学園教諭だぞ」

 

織斑千冬を除いた7人のヴァルキリー、その筆頭にして織斑千冬に最も近い乙女と言われた長門教諭。

 

代表時代での輝かしい戦歴を持つ、確かな実力者である。

 

「だが指導は手加減しないぞ、今日のようにな」

 

「えぇ、その方が身になります」

 

機体性能で劣るエコーズジェガンで叢真に圧勝して見せた長門教諭。

 

神通相手にも操縦者としての差を感じていたが、もっと隔絶した壁があることを再認識した。

 

以前の叢真ならその壁に焦り、一人暴走していただろう。

 

だが。

 

「どんな高い壁も、超えて…いえ、撃ち砕いてみせます、俺と、こいつで」

 

見上げるのは、灰色へとその色を変えた相棒の姿。

 

「ドーベンウルフ、私でもその火力は手に余るこいつを使いこなせるか?」

 

「一緒に使える様になってみせます…そしてこいつの名前は、シルヴァ。シルヴァ・バレトです」

 

二次移行により、各部の形状や武装に変化が起きたドーベンウルフ第二形態、銀弾(シルヴァ・バレト)。

 

大きく変わったのは頭部のヘッドセットで、ドーベンウルフの物と違い、どことなくジェガンに近いバイザー型になっている。

 

また、手持ち武装が大きく変化し、ビームライフル兼メガランチャーだった武装はジェガンのシールドに似た物と合体したシールドビームランチャーへと変化、2連装ミサイルランチャーが追加されているのでデータはジェガンのシールドから持ってきたのだろう。

 

腹部のメガ粒子砲は装甲板に隠され、全体的に軽量化と安定性が増し、機体の完成度が高くなったと機体チェックをしたアナハイム職員は言う。

 

「シルヴァ・バレトか…いい名前だ。銀の弾には魔を討ち滅ぼす意味が在るという。お前の中の焦りや不安、恐怖という名の魔物を撃ち殺してくれるだろう」

 

「はい……俺には勿体無い位の相棒ですよ」

 

長門の言葉に深く頷いて、叢真はそっと相棒に手を翳す。

 

「一緒に行こう…シルヴァ」

 

その言葉に、鎮座するISはコアを明滅させて応えるのだった。

 

 

 




もうちょっと感動的な二次移行にしたかったけど作者の技量ぎゃ無理でしたナムサン


そしてドーベンウルフが好きな人、ごめんね!(ゲス顔

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