IS~Under Dog~   作:アセルヤバイジャン

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書くと分かる、ドーベン・ウルフの武装の多さ(驚愕


第十四話

 

 

 

 

 

 

 

叢真が研究所へ連れて行かれた日から一日。

 

学園全体は暗い雰囲気に包まれていた。

 

全校集会で伝えられた、叢真の研究所行き。

 

勿論、建前としてのIS研究に従事するという理由を伝えられたが、貴重な男性操縦者なのだ。

 

不自由な生活が強いられ、下手をすれば命にも関わる、そう想像するのは容易い事だった。

 

「嫁…私は…私は…」

 

「ラウラ…」

 

自身も軍の実験により生まれた存在の為、他の生徒よりもリアルにその想像が出来てしまうボーデヴィッヒは、昨日からずっと青い顔をしており、織斑やデュノアが慰めている姿が何度も見受けられた。

 

1組生徒達も同じように青い顔をした生徒が多く、普段はのほほんとしている少女も暗い表情を隠さない。

 

だが一番暗い表情をしているのは、間違いなく3組生徒達だった。

 

担任の長門教諭が謹慎で数週間不在になり、陸奥教諭だけでは慰める手が回らない。

 

その為、神通達も交流がある彼女たちを慰める為に、叢真専用と化していた整備室を訪れていた。

 

そこには、3組生徒が一人を除いて全員が集まっていた。

 

「先輩……叢真が…叢真がぁ…」

 

「陽炎さん…」

 

昨日まで気丈に振る舞って、他の子を慰めていた陽炎だが、限界だったのだろう。

 

神通の姿を見た途端涙が溢れ出し、泣き崩れてしまった。

 

「みんな、泣いちゃダメだよ、泣いたら…泣いたらそーちゃんが心配しちゃうよ…」

 

「那珂さんだって、泣いてるじゃないですか…!」

 

「だって…だって…」

 

舞風達を慰める那珂ちゃんだったが、やがて限界になり涙を零してしまう。

 

それを野分に指摘されて、何度も涙を拭うが途切れる事はない。

 

「どうにか…本当にどうにかならないんでしょうか…」

 

「IS委員会が主導してるんじゃ、私達じゃどうしょうもないね…複数の国の役員が賛同してるなら尚更…」

 

一晩泣き腫らした夕雲の言葉に、川内が悔しさを声に滲ませて首を振る。

 

もはや、彼女たちがどうこう出来る話の規模ではなくなってしまっていた。

 

「ねぇ…ジェガンは?叢真のスタークジェガンはどこ行ったの…?」

 

ふと、白露が整備台に鎮座している筈の叢真の愛機が無い事に気づいた。

 

まさか、ジェガンまでIS委員会に奪われたのかと憤慨し始める少女たち。

 

そこへ、二人の生徒が入ってきた。

 

「良かった、皆居るわね」

 

「明石先輩…大淀先輩も…」

 

安堵の表情を浮かべる明石と、何かの書類を持った大淀の姿だった。

 

「明石先輩、叢真のジェガンが…!」

 

「あぁ、ジェガンなら今アナハイムの研究所よ。叢真君と一緒にね」

 

「「「「「え…」」」」」

 

明石の言葉に、呆然となる面々。

 

研究所は分かる、元はアナハイムの機体なのだから。

 

だがそのアナハイムの研究所に、叢真が居る。

 

つまり、実験を主導しているのはアナハイムなのかと、勘違いする少女たち。

 

「先ず誤解が無いように言っておくけど、IS委員会直属の研究所ってのはアナハイムの事じゃないわ」

 

「で、でも、ジェガンと叢真が一緒って…!」

 

「それなんですが…」

 

すっと前に出る大淀。

 

彼女が書類を手にしながら話した内容は、衝撃的な事実だった。

 

IS委員会の叢真研究所行きを快く思わない委員会理事と役員が、アナハイムと通じて彼を企業代表という国家代表の企業版に据え、研究所行きを回避しようとしている事。

 

その為に、IS委員会に連れ去られる前に昨日、アナハイムの社員の手で先に連れ出した事。

 

今現在、アナハイム極東支部こと第三研究所で守られている事などを話した。

 

「これは、現在極秘の話です。叢真君が正式に企業代表に就任するまで秘密ですから、皆さんも注意して下さい」

 

企業秘密、という奴なのだろう。

 

余計な横槍を入れさせない為に、叢真の所在は現在隠蔽され、ここに居る面子以外は知らないと教えられた。

 

「叢真…良かった、良かったぁ…」

 

「馬鹿野郎が、心配させて…!」

 

「叢真さん…良かった…」

 

陽炎が安堵し、長波が涙を拭いながら笑い、夕雲が安心して胸の前で手を組んだ。

 

「でも、どうして大淀先輩達がその事を…?」

 

「私も明石さんも、来年にはアナハイム極東支部に就職が決まってるんですけどね。そのせいか、3組生徒と神通さん達にのみ、情報公開をしても良いと通達が来まして…」

 

「なんでも、3組にはアナハイムの企業代表候補生が居たらしくてね、皆の様子を見て情報公開しても平気だと判断したみたいよ?」

 

明石の言葉に、え、誰が…?と顔を見合わせる3組生徒達。

 

だが誰も思い当たらない、陽炎に視線が集中するが、彼女は選抜ベスト8でジェガンを使っていたがアナハイムとは関わりが薄い、まだ神通達の方が関わりが深い位だ。

 

「もしかして……セインさん?」

 

「「「「「あ」」」」」

 

海風の言葉に、全員がこの場に居ない生徒を思い出す。

 

今日になって急に暫く欠席すると陸奥教諭に言って姿を消した生徒。

 

「不思議な子だと思ってたけど、アナハイムの人だったんだ…」

 

「そう言えば、叢真と何か話してるのを見たよ」

 

風雲の言葉に、時雨が前に見た光景を思い出して話す。

 

あの時の行動も、アナハイム側としての接触だったのかもしれないと。

 

「とりあえず、叢真君は無事、これだけは確かだから皆、安心していいわよ」

 

明石の言葉に、再度安堵する3組生徒と神通達。

 

そして、大淀がとある書類を配り始める。

 

「陸奥先生にも動いて貰っていますが、皆さんに改めてお聞きします。――叢真君が、大切ですか?」

 

書類を配りながらの大淀の鋭い言葉に、全員の背筋が伸びる。

 

見定める視線を向けてくる大淀に、先ず陽炎が一歩前に出た。

 

「大切です…あいつ、真面目で不器用で仏頂面で時々抜けてるけど…でも大切な私達の仲間ですから」

 

宣言した陽炎に続くのは、夕雲。

 

「決まっています、大切で大切で、とっても愛しい人です…傍に居てあげなきゃ、傍に居てあげたい、そう思える位に」

 

「正直言ってさ、あんな奴初めて見たんだよ。勝つために他のクラスにまで頭下げて頼みに来てさ、ほんと真面目でそのくせ不器用で…でも一緒に居るとほんと安心出来て、傍に居てやらないと不安で仕方なくて…もうなんて言うかさ……大好きなんだよっ」

 

そして長波が、やや自棄になりながら自分の気持を吐露した。

 

それに、私も、私だって、俺もと叢真への気持ちを吐露する3組生徒達。

 

「なるほど、皆さんの気持ちはよく分かりました。愛されてますね、叢真君は…。では、そんな叢真君の力になる為の作戦が進行しています」

 

書類を見て下さいと言われ、目を通すと、そこにはアナハイム第三研究所3泊4日校外研修と書かれていた。

 

「今度の一年生の校外実習の日程に合わせて、アナハイムが貴女達3組生徒全員を受け入れて文字通り研修を受けさせてくれます。極秘ですが、叢真君に関連する内容になりますね」

 

大淀の言葉に、大げさなほどにざわめく少女たち。

 

「既に学園理事長の許可も出ており、当日は校外実習に向かう他のクラスとは別のバスでアナハイム第三研究所へ向かう事になります。授業に関してはちゃんと単位が出ますから安心して欲しいと陸奥先生が仰ってました」

 

その陸奥教諭は現在、アナハイム側の担当者と話し合いを進めている。

 

昨日の夜、クーから詳しい話を聞いた陸奥教諭は協力を確約。

 

アナハイム側と連携し、学園理事長にも話を通して3組の特別研修の許可をもぎ取った。

 

「皆さん、早く叢真君に逢いたいですよね?」

 

「「「「「逢いたいっ」」」」」

 

全員の揃った返答に、満足げに頷く大淀と明石。

 

「では、その書類に書いてある準備を。それと当日まで他のクラスの生徒には内緒ですよ?」

 

秘密作戦ですからねと笑う大淀に、全員が大きな声ではいと答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

アナハイム第三研究所、試験アリーナ。

 

そのピットスペースにて、叢真はベンチに腰を降ろして荒い息を整えていた。

 

直ぐ側の整備台にはドーベンウルフが鎮座し、アナハイム職員達がデータ収集や修理、メンテを行っている。

 

「ふむ、搭載武装稼働率89%…良い数字だ、やはり君には才能があった」

 

「ありがとう、ございます…」

 

アルベルトがデータウィンドウを見ながら語る言葉に、苦笑を零す叢真。

 

ドーベンウルフに装備された武装は、拡張領域を除いても膨大であり、頭部バルカン砲×2、グレネード・ランチャー×2、ビーム・キャノン×2、ビーム・サーベル、12連装ミサイルランチャー×2、メガ粒子砲×2、更に対艦ミサイル×2、メガ・ランチャー兼ビーム・ライフルに、インコムという特殊兵装が2、無線式ハンドビームが2個と、列挙するだけでも多いと分かる数を装備している。

 

しかもこれら全てが、拡張領域を使わない、標準装備なのだから呆れるしかない。

 

この上、共通規格のビームライフルやシールドも装備出来るのだから、まさに空飛ぶ武器庫である。

 

完成した当時は、比類無き火力として自信満々だったジオニック社だったが、その豊富な武装を同時に扱う事が出来る操縦者が見つからず、どの操縦者も持て余した事から、世界一高価な玩具という皮肉を受けた。

 

その後ジオニック社はライバル企業であるアナハイムに吸収合併され、現在は開発部門として機体開発に従事している。

 

ジェガンやリゼルとは毛色が異なる機体は、大体がジオニックの設計だと言う。

 

「一次移行したばかりでこの数値なら、もっと伸びるだろう、期待しているよ」

 

「はい……」

 

息を整え終え、スポーツドリンクで水分を補給した叢真は立ち上がるとドーベンウルフの方へ向かう。

 

まだまだテストと訓練は続くのだから。

 

それを見送るアルベルトの横を、白い影が通り過ぎた。

 

「ソーマァっ♪」

 

「っと!」

 

白い影は、楽しそうな声を響かせて背中を向けていた叢真に飛び付いた。

 

突然の衝撃に、少し揺らぐが鍛えられた身体はその衝撃を受け止めた。

 

「その声は…」

 

「ウフフ、おマたセェ…」

 

背中に抱きついて頬にキスを降らせるのは、独特の片言が特徴的なアルビノの少女、クーだった。

 

「どうしてここに…」

 

「手伝イに行クッテ、言っタデしょゥ…?」

 

「彼女は元々アナハイムのテストパイロットで、君の指導役として呼んだのだよ」

 

アルベルトの言葉に、そういう事かと納得する叢真。

 

「もウ、スパイみたイナ事しナクて良いカラァ、ソーマと触レ合えルヨォ…」

 

「な、なんだか性格が違くないか…」

 

もっとミステリアスで蠱惑的だった印象が、なんだか甘えん坊な子犬の様で戸惑う。

 

「だっテ、バレたラ怒ラレちゃウものォ…」

 

「彼女は元々こういう性格なんだよ…とは言え、ここまで好意を現す相手は居なかったがね」

 

君も罪作りな男だねぇと笑うアルベルトに、頬を引くつかせるしかない叢真。

 

「叢真、少し小腹に……あら」

 

「か、母さん…」

 

「あらあらこの子ったら…いつからこんな可愛い子と仲良くなったの?」

 

そこへお菓子を持って現れた鳳翔に見られ、冷や汗を流す叢真。

 

予想した通り、未だに叢真に抱きついているクーの姿を見て勘違いが加速した模様。

 

因みに鳳翔は、アナハイムで保護され、現在はこの第三研究所のフードタウンで小料理屋を開いてお店を任されている。

 

毎晩大繁盛らしい、日本人や日本食が好きな職員が大半との事。

 

「違うんだ母さん!」

 

「ソーマのママァ?じゃァ未来ノ私のママァ?」

 

「クー!?」

 

「あらあらあら!」

 

誤解を解こうとするが、クーの爆弾発言に鳳翔のあらあらが加速。

 

「やれやれ…次のテストは少し待とうかね」

 

そんな姦しい様子に、アルベルトは肩を竦めてテスト開始を遅らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハ!凄イよソーマァ!凄い凄イ!」

 

「ぐっ…!」

 

360度から襲いかかるビームの攻撃を避けながら、全身に装備された武装で迎撃する叢真。

 

クーが使う緑色の機体…NZ-666クシャトリヤは、ファンネルと呼ばれる遠隔無線誘導型兵器を駆使し、的確に叢真を包囲、追い込んでいくが、叢真の反撃の攻撃に一つまた一つとファンネルが沈黙していく。

 

模擬戦闘とは言え、実弾兵器と粒子兵器を使っての戦闘。

 

叢真はビームライフルとインコムと呼ばれる有線式誘導兵器でファンネルに対応し、頭部バルカンとビーム・キャノン、ミサイルランチャーでクーを狙うが、相手も流石は企業代表候補生。

 

ファンネルを巧みに操りながらビームを避け、ミサイルをメガ粒子砲の拡散攻撃で迎撃していく。

 

お互いその武装の多さ故の、1対1でありながらまるで多対多のような戦闘が繰り広げられていく。

 

叢真が左手を射出すると、フレームに覆われただけの左手が露出する。

 

その左手にビームサーベルを握り、射出した腕を無線式誘導兵器としてファンネルのように扱ってクーを追い詰める。

 

「ヘェ、使エルんダァ…使えルンダァ…!」

 

「複数はまだ無理だがこの程度ならばぁッ」

 

左手のサーベルで斬りかかり、クーもビームサーベルを展開して打ち合う。

 

お互い大型IS、その出力も馬鹿にならない。

 

激しい明滅をビームの刃同士が発して周囲を照らす。

 

「これでッ」

 

「オットォ!」

 

接近した状態でのバルカンと腹部メガ粒子砲を放つが、クーはバインダーを吹かせて回転するように回避。

 

「まだだぁッ!」

 

そこへ脇の下のウェポンベイからグレネードが放たれ、クーはバインダーを閉じて防御。

 

その一瞬の隙を付いて、ビームライフルを変形させ、腹部に接続。

 

本体と合体したことにより、メガランチャーと化したそれから放たれる極太の粒子砲。

 

その直撃を、咄嗟にバインダーを犠牲にして回避するクー。

 

『クシャトリヤ、ダメージレベルB、模擬戦闘終了』

 

「アァン、負けチャッタァ…」

 

「よく言う…」

 

クシャトリヤのバインダーが破損した事で模擬戦闘は終了となったが、叢真の周囲にはファンネルが8基ほど浮かんで叢真を狙っていた。

 

本来の試合ならこのまま撃たれていただろう事は叢真にも想像出来る。

 

「機体が完成したのがつい最近と聞いたが、やはり代表候補生は恐ろしいな…」

 

「ファンネルの訓練ハ、ずットしテたカラネェ」

 

クシャトリヤもまた、第三世代機。

 

開発部のジオニックが、クーの為に開発した専用機。

 

IS学園入学時点では完成していなかったが、つい最近完成してクーの愛機となった。

 

それまでは簡易的なフレームにバインダーを搭載してファンネルの訓練だけをしていたらしい。

 

クーの言っていた手伝い、それは模擬訓練の相手。

 

企業代表となる以上、せめて代表候補生レベルの力量がないと務まらない。

 

それ故に、叢真は必死にドーベンウルフを使いこなす訓練を行っていた。

 

「稼働率94%…数字としては十分だが、あと一歩、あと一枚の壁が超えられない感じだな…」

 

「まだ、彼自身焦りや不安が多いのでしょう」

 

管制室から訓練の様子を見ていたアルベルトとガエル、二人が言う通り、叢真はあと一歩が足りていない状態だった。

 

複数の武装を的確に扱えているが、それでもあと一歩、あと一枚の壁が越えきれていない。

 

「ここは一つ、頼れる先生に登場頂こうか…」

 

「連絡を取って参ります…」

 

アルベルトの企みを理解したガエルが、頭を下げてその場を去っていく。

 

「超えて貰わねば困るのだよソウマ君…最後の壁をね…」

 

そう呟いて、アルベルトはその場を後にするのだった。

 

 

 

 




クシャトリヤは好きなもので、つい出しちゃうんだ☆(パラッパパッパー

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