IS~Under Dog~   作:アセルヤバイジャン

15 / 28
真ヒロイン登場(嘘


展開が無理矢理だって?

知ってらぁ!(ぉぃ


第十三話

 

 

 

 

 

 

叢真がアルベルトに連れられて行った先は、会食などに使われるホールだった。

 

そこには豪華なテーブルの上に、何故か日本の和食が並べられている。

 

「日本の料理は良い、繊細な味付けと深いコク、見た目にしても美しい」

 

豪華な懐石料理などではなく、町の小料理屋にありそうなメニューが並ぶテーブルの上。

 

アルベルトは煮魚を美味しそうに頬張り、日本食が如何に奥深いかを語っている。

 

だがその対面に座った叢真は、相変わらず死んだ目のままでテーブルの上の料理を見つめていた。

 

「……最後の晩餐って奴ですか…」

 

「最後?何を馬鹿な、こうして会食するのは今後も多い、最後になどなる訳がない」

 

精一杯の皮肉も笑い返され、戸惑うしかない叢真。

 

研究所で実験台にされる筈だったのに、何故自分はこんな場所で胡散臭い男性と食事をしているのか。

 

アルベルトの後ろにはガエルが立ち、飲み物を注いでいる。

 

「本当は日本酒が飲みたい所だが、仕事の話もあるし君もまだ未成年だからな。乾杯はまた今度にしよう」

 

「……いい加減にしてくれ、俺に何をさせようって言うんだ…ッ」

 

訳が分からない状態に苛ついてくる叢真、その態度に瞳を細めたアルベルトは、上手に箸を使ってある料理を口に運んだ。

 

「欧米ではスクランブルエッグが主流だが、この出汁巻きと言うのは素晴らしい。君もそう思わないかね?」

 

「…だから、それがなんの――…これ……は…」

 

アルベルトの言葉に言い返そうとして、ふと自分の前に並んだ料理の、出汁巻き玉子に目が行く。

 

それは、何の変哲もない、しかし丁寧に作られた出汁巻き玉子だった。

 

その見た目に、その焼き加減に、その巻き加減に、叢真は見覚えがあった。

 

思わず、箸を掴んで出汁巻き玉子を口に入れ、咀嚼する。

 

「……っ、…っ、…これ…なんで…」

 

「息子を思う、母の愛が篭った最高の料理だと思わないかい、ソウマ・アマミヤ君」

 

アルベルトの言葉は半分も頭に入らない。

 

「これも…これも…これも…っ」

 

小鉢・煮魚・角煮…小料理屋に良くある料理、そのどの料理も叢真には覚えがあった。

 

その味に、覚えがあった。

 

「話は変わるが、米国には証人保護の為のスペシャリストが居てね。我が社でも重要人物の保護にそのノウハウを役立てているのだよ」

 

アルベルトがパチリと指を鳴らすと、ホールの扉が開く。

 

叢真が視線を向けたその扉の先には、着物姿の一人の女性と、その女性を守る様に立つ軍人のような男性。

 

「―――っ、叢真…!」

 

「か…あ…さん…?」

 

「この料理を作って下さった方だよソウマ君」

 

涙を浮かべ、感極まる女性と、呆然とする叢真。

 

アルベルトが手で示すその女性こそ、叢真のたった一人の肉親…片親で自分を育ててくれた、大切な人。

 

叢真の母、鳳翔の姿だった。

 

「叢真っ!」

 

「かあさん…母さんっ!」

 

走り出す鳳翔と、同じく席を立って走り出す叢真。

 

二人は駆け寄るとキツくキツく抱き合い、お互いの無事を確かめ合う。

 

「母さん…!母さん…っ!」

 

「ごめんね…ごめんね叢真…何も出来ないお母さんでごめんね…!」

 

「馬鹿言うなよ、俺の方こそ、母さんに迷惑を…!」

 

「お馬鹿っ、自分の子供の事を迷惑に思う親が居ますかっ!」

 

お互い泣いたまま、謝り合い、叱り合う。

 

久しぶりに再会した、親子の姿があった。

 

「ふむ、この感動の光景に合う日本酒は、日本中探しても無いだろうな」

 

「確かに」

 

アルベルトの言葉に、ガエルも同意し、周りは親子の対面を暖かく見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「企業代表操縦者…?」

 

「そう、その第一号として君が我が社に選ばれた」

 

あの後、お互い泣き止むとそれぞれ近況を話しつつ、席へ戻る叢真とその隣に座る鳳翔。

 

叢真の母である彼女は、重要人物保護法により日本政府の監視下で生活していたが、叢真への脅迫材料になりかねない事からアナハイムが日本政府に通じて独自に確保し、ここ極東支部で生活していたと言う。

 

そしてアルベルトが始めた話は、今後の叢真の行く末に付いてだった。

 

このままではIS委員会の思い通りに研究所行きになり、確実に軟禁、下手をしなくても監禁状態で自由が無くなる。

 

そこで、一部のIS委員会理事と役員は、人道的にそれを回避する手段を考えた。

 

叢真がIS委員会に狙われた理由は、後ろ盾が何も無いからだ。

 

織斑千冬という存在も、篠ノ之束との交友もない。

 

倉持技研のような企業の後ろ盾もない。

 

ならばどうするか。

 

立場と後ろ盾を与えればいい。

 

だが何の実力も無い操縦者では、誰も後ろ盾にはなってくれない、立場も与えられない。

 

IS委員会も下手な後ろ盾を得られない様に、公表する戦績は低いものにさせた。

 

だが、その戦績を参考にせずにある企業が叢真に目をつけていた。

 

それが、アナハイム・エレクトロニクス。

 

発端は、ジェガンだった。

 

あまりジェガンのパーツ発注が無いIS学園から色々なオプションも込みで発注が入った。

 

その為に調べてみれば、男性操縦者の片方がジェガンを愛機に選んだと言う。

 

これが切っ掛けだった。

 

アナハイムは、使用機体のデータを正式に受け取る事が可能となり、さらに機体のメンテをしているのは来年アナハイム極東支部へ就職が決まっている生徒、明石と大淀。

 

故に、IS委員会の悪意ある改ざんがされた情報ではない、叢真のありのままの操縦データが手に入った。

 

「とは言えデータだけでは足りない。君の性格、行動、言動、趣味趣向、あらゆるデータを加味する必要があった」

 

たった二人しか居ない男性操縦者、その後ろ盾になり立場も用意するのだ、簡単には決められない。

 

「故に、少々スパイ紛いの事もして貰ったよ、彼女にね」

 

そう言ってアルベルトが空間ディスプレイに写したのは、白いロングヘアーに赤い瞳の少女。

 

「クー…?」

 

「そう、クゥ・ボウ・セイン君だ。彼女は実は我が社の企業操縦者の候補生でね、内密に君のことを色々と調べて貰っていたんだよ」

 

『ハァイ、無事ダッたンダァ、良かっタヨォ…』

 

映像通信なのか、空間ディスプレイに映るクーはクスクスと笑いながら叢真に笑顔を向けてきた。

 

「あの時、相談とか言い出したのは…」

 

『会社ノ指示だヨォ…それマデは、極力接触すルナって言ワレてタのォ…ゴメンネェ…』

 

情報収集してるとバレない様に、極力クラス内で接触を絶っていたというクー。

 

だがそれももう終わりなので、普通に学生生活が送れると笑っている。

 

『後デ手伝イに行くカラねェ、待っテテネェソーマァ』

 

画面の向こうから、チュッとキスを飛ばして通信を切るクーに、苦笑する叢真と、あらこの子ったらと何故か嬉しそうな鳳翔。

 

「社内の会議で君を企業代表に据える事と後ろ盾になる事に決まったのがつい数日前でね。IS委員会も行動を起こそうとしていたのがこちら側のIS委員会理事の情報で知ることが出来た」

 

そこで、IS委員会の子飼いの連中が迎えに行くタイミングに便乗し、そして織斑千冬に通じて裏門へ誘導させたと話すアルベルト。

 

「織斑…先生が…」

 

「IS委員会の言いなりだった彼女が言う事を聞いてくれるか不確定だったが、彼女も彼女なりに君を案じていたようだね」

 

アルベルトに言われ、懐疑心の無い冷静な頭で考えてみる。

 

確かに、不利になる条件は出されたが、手助けに思える場合もあった。

 

直近のボーデヴィッヒの事も、あれも冷静に共闘が出来ていれば、確かに織斑達に勝てていた。

 

あれも、不器用な織斑千冬の支援だと思えば、確かに分かりにくいが支援にも思える。

 

だが、そう言われても気持ちが納得出来ない。

 

「まぁ、彼女の事は置いておこう。こうして無事君を連れ出す事には成功したが、まだ終わりではない」

 

ナプキンで口を拭きながら、深く目を閉じるアルベルト。

 

「企業代表と言うのは、企業側のオファーと、される側の受諾があって始めて成立するものだ。君が企業代表の立場を拒んだ場合……我々は君を庇い立てする事が出来なくなる」

 

今現在、叢真を匿って居られるのは、企業代表就任の交渉中という理由でIS委員会からの接触をシャットアウトしている。

 

拒んだ場合、アナハイムは庇うことが出来なくなり、更に叢真の研究所行きを阻止したい委員会理事も立場が危うくなる。

 

「つまり……俺に選択肢は無いも同然と…」

 

「恥ずかしい話だが、大人の世界というのは複雑怪奇だ。君の味方顔をして裏で君を狙う者も居れば、君に対立しながらも守ろうとする者も居る。IS委員会も一枚岩ではないのは、政治の世界と同じさ」

 

現在多数の国が叢真の研究所行きを推進し、アメリカやアフリカ、オーストラリアや一部理事国が人権と人道を盾に防いでいる状態だと言う。

 

日本は板挟みにされて身動きが出来ず、何とか織斑千冬とIS学園理事長に叢真の護送の情報を渡すのがやっとだという。

 

つまり叢真が企業代表の話を蹴れば、今食い止めている人々の努力が無駄になる。

 

選択肢は、無いに等しい話だった。

 

「だが、企業代表となれば君は胸を張って学園に戻れる。企業代表という立場は新しいものだが、その立場は国家代表に準じている」

 

新しく設立される企業代表。

 

これは、IS関連の大企業が専属のIS操縦者を雇って各種大会に出場させる事が出来るという物。

 

その最大の利点が、企業が進出した地域の選手としても企業代表選手を出場させる事が出来る。

 

つまり、国家の枠組みを超えた、複数国家に籍を置いた存在となるのだ。

 

アナハイムで言えば、本拠地のアメリカは当然としてカナダや南アメリカ一帯、アフリカ、オーストラリアの代表としても叢真が所属する事になる。

 

これが理由で、今現在研究所行きに反対している国家と理事が居るのだ。

 

自分達の代表として扱える貴重な男性操縦者を、渡してなるものかと。

 

企業や国なのだ、当然利益が優先される。

 

そしてその利益を守る為、利益を生む為の立場、それが企業代表。

 

国家代表から惜しくも落ちた優秀なIS操縦者を掬い上げる為の立場が、今叢真を救う立場になっていた。

 

「どうかな、受けて貰えるかな?」

 

「………俺に、そんな資格があるんでしょうか…」

 

「叢真…」

 

アルベルトの言葉に、自信なさげに俯く叢真。

 

思えば負けだらけの戦績で、勝てた経験が殆ど無い。

 

織斑にも、結局負けてしまった。

 

「君は、君が思っているよりも実力がある。だが状況がそれを封じ込めてしまった」

 

クラス代表決定戦での経験不足、トーナメントの3対1。

 

晴れ舞台の殆どが、不利な状態での戦闘だった。

 

「来たまえ、君に見せたい物がある」

 

そう言って席を立つアルベルト、その後を追う叢真と鳳翔、ガエルに護衛の男性。

 

ガラス張りが多い研究所内を進んでいくと、一つの整備室へと辿り着く。

 

「我がアナハイムはこれまで家電製品と軍需産業でのし上がって来た。ISが発表されてもそれは変わらず、ISも取り入れて成長してきた」

 

整備室に並ぶのは、コアのないジェガンやリゼル、その他見たいことがない機体達。

 

これら全ての機体は、コアを搭載すれば使えるようになる状態だと言う。

 

「その過程で、ライバル企業の吸収合併も行われてきた。この辺りに並んでいる機体はその吸収した企業で作られた機体なのだよ」

 

確かに、アルベルトが言うように、デザインがジェガンやリゼルとは異なる機体が並んでいる。

 

オーソドックスなジェガンに比べると、凄い色物感があるとでも言うのだろうか。

 

「そして、我が社が所有するISで、一番君に合うだろう機体がこれだ」

 

整備室の奥、多くの職員達が作業するその場所に、一体のISが鎮座していた。

 

「君が使っていた、RGMジェガン、君のはスタークジェガンだったかな、そのコアを譲り受けてきた。代わりにジェガン2体とコアを一つ差し出す契約だがね」

 

「ジェガンのコアを…?」

 

「我が社のISの最大のポイント、それはユニバーサル規格によるパーツの共通化にある。これがあるから我が社のISは米軍などに広く起用されているのだが、その統一規格は装備やパーツだけではないのだよ」

 

「…まさか、だってコアは…」

 

通常、コアは新しい機体に乗せる場合、初期化をしないとならない。

 

だが、アナハイム製のISはコアを初期化せずに別の機体に乗せる事が可能になっている。

 

全てをユニバーサル規格で統一しているからこそ可能な仕様。

 

とは言え、これは操縦者とコアが変わらないという条件が付く。

 

コアは操縦者の癖を覚えてしまう、その状態で別の機体に移してもコアは操縦者の癖を覚えたまま別の機体にフィッティングする。

 

だが、コアと操縦者を変えた場合は、初期化しないと前の操縦者の癖を覚えたままになってしまう。

 

なので初期化するというのが、多くの場合のIS製造だ。

 

「我が社の製品同士、多少の調整を行えばそのまま使用可能になる。そして、これが新しい君の機体…吸収合併したジオニック社が完成させた第三世代機AMX-014、ドーベンウルフだ」

 

「ドーベン…ウルフ…」

 

見上げる機体は、ジェガンよりも一回りは大きな巨体であり、がっしりとした四肢と巨大なバックパック、そして見るからに分かる重火器を装備した機体だった。

 

「元は第一世代のMk-Ⅴと呼ばれる機体が元でね、第2世代として製造されたが製造の遅れと後から追加した武装により第三世代として登録された機体でもある」

 

機体本体は第2世代だが、装備された武装が第三世代なので、正確には2,5世代に該当する。

 

「そして、ある曰く付きの機体でもある」

 

「曰く付き…?」

 

「見ての通り、このドーベン・ウルフの火力は現行のどのISよりも高く、種類も多い。だが扱うのは人間故、豊富な武装を有効に扱える操縦者が中々見つからなくてね」

 

如何に武装を大量に装備していても、人間が扱う以上同時に使えて2個か3個が限度だった。

 

国家代表であっても、4個の武装を扱うのが限界で、それでは他の機体と大して変わらないと言う評価を受けた。

 

その為、世界一高価な玩具とまで言われてしまった不遇の機体。

 

そんな機体を、叢真に与えようとアルベルトは言うのだ。

 

「プロの操縦者が扱えなかった機体を、俺が扱えるとは思えませんが…」

 

「普通ならそうだろう。だが、君はこの前のトーナメントで、ある才能を見せた。私は見ていたよ、君のあの動き、あの戦い方を」

 

興奮気味に話すアルベルト、彼が言うには、叢真にはこのドーベンウルフを扱う才能が備わっていると言う。

 

「どうだね、君とドーベンウルフ。お互い不要と言われた存在同士、不要と断じた連中に強烈な一撃を与えなくないかね?」

 

アルベルトのその誘いは、抗えない誘惑だった。

 

隣の母を見る。

 

優しい笑顔で、好きにしなさい、どんな事になっても私は味方だと微笑んでくれた。

 

ガエルを見る。

 

深く頷いて、貴方なら出来ると目で言われた。

 

護衛の男性を見る。

 

兵器の扱いは、我々が一から教えようと宣言された、どうやら元軍人らしい。

 

そしてドーベンウルフを見る。

 

相棒だったジェガンのコアを搭載した機体が、静かに自分を待っている気がした。

 

「……ビストさん」

 

「アルベルト、で構わないよソウマ君」

 

アルベルトの言葉に、一度深呼吸して向き直る。

 

「なります…ならせて下さい、企業代表に」

 

「その言葉を待っていたよ!」

 

アルベルトの言葉と拍手に、固唾を呑んで見守っていた職員達が満開の拍手を送る。

 

その拍手と口笛の中、叢真は新しい相棒であるドーベンウルフを見上げ、まだ終わってないぞ織斑…と呟いた。

 

 

 




えー、バンシィとかフェネフェネとか期待されていた方は申し訳ない、元々主人公には量産機と言うか脇役の機体で活躍させたいなと思っていたので。
バンシィとかも好きですけどね。
機会があればバンシィとかシナンジュとかが出る話も書いてみたいですが、このお話では残念ながら出番なしです。

主役級は出ないと言った、だが他の脇役機体が出ないとは言ってない(UC関連で

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。