IS~Under Dog~   作:アセルヤバイジャン

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特定のメインヒロインとか決めてない(ハーレム思考

一番のヒロインはISだしね!(ぉ


第十二話

 

 

 

 

 

 

IS学園の裏門前は、3組生徒達の泣き崩れる姿で溢れていた。

 

息が続かず、それ以上追えなかった者、守衛に止められて進めなかった者。

 

どちらも等しく涙を流して、連れ去られた叢真の名前を叫んでいた。

 

「どうして!どうして叢真さん渡したんですかっ、どうしてぇっ!」

 

「わ、我々はそうしろと学園側から言われて…」

 

中には、夕雲のように守衛に掴みかかる生徒も居る。

 

誰もが、大切な仲間を、大事な存在を奪われて涙していた。

 

崩れ落ち、その場で泣きじゃくる者も居る、気丈にも涙を堪えて友人を慰める者も居る。

 

だが、彼女たちの前に叢真は居ない。

 

もう、あの楽しい時間は帰ってこない。

 

「貴女達…もう授業の時間よ…」

 

そこへ現れたのは、陸奥教諭だった。

 

守衛達は安堵し、生徒達は今度は陸奥教諭に食ってかかる。

 

何故叢真を渡したのか、何故叢真を守らなかったのか、守る為の学園入学ではなかったのかと。

 

だが、最初に掴みかかった夕雲が気づいた。

 

陸奥が唇を噛み締め、涙を堪えている事に。

 

「ごめんなさい…私達じゃ…織斑千冬でも止められない話だったの…」

 

最初から決まっていた事なのだ、叢真が研究所へ送られる候補だったのは。

 

織斑一夏を下手に連れ出せば、モンドグロッソを棄権してまで助けに行った織斑千冬がどうするか。

 

交友がある篠ノ之束が何をするか分からない。

 

だからIS委員会は早くから叢真に目をつけていた。

 

社会的にもなんの後ろ盾のない男性操縦者。

 

しかしいきなり研究所に入れれば、どこぞの研究者が言い出した解剖をすると思われてしまう。

 

解剖しないとは言わないが、それ以外にもやることは多い、なのにいきなり解剖するのはナンセンスである。

 

故に、世論や人道主義を掲げるIS委員会の役員を説得する時間が必要だった。

 

それが、今までの叢真が学園で過ごした時間。

 

IS委員会理事の大多数が研究所へ入れる事を承諾し、この計画は実行に移された。

 

クラス代表決定で無理矢理戦わせたのも、襲撃事件での大破を戦績に記載させたのも。

 

全ては、織斑千冬に命じてIS委員会が計画していた事。

 

如何に織斑千冬とは言え、個人で組織には勝てない。

 

勝てるかもしれない織斑千冬でも、織斑一夏を盾にされたら身動きが出来ない。

 

せめてもの支援と思ってやった事も、全てが裏目に出てしまった。

 

或いは、そうなる様にIS委員会が仕組んだ可能性もある…。

 

どちらにせよ、織斑千冬やIS学園では止められなかったのだ、叢真の研究所行きを。

 

「全ては委員会の手の平の上だったの…ごめんなさい。長門先生は雨宮くんを取り戻そうとして謹慎処分になったわ…」

 

「そんな…先生まで…」

 

あの後、今からでも雨宮を取り戻すと息巻いた長門だったが、理事長達に止められ、暴れた為に謹慎処分となった。

 

その為に陸奥教諭が、こうして彼女たちを迎えに来たのだ。

 

「先生…どうにか、どうにかならないんですか…!」

 

「ごめんなさい…本当にごめんなさい…」

 

縋り付く海風を抱きしめて、涙を流す陸奥教諭。

 

3組生徒達は理解してしまった、もう自分達が何をしても無駄だという現実を。

 

叢真が、もう手の届かない場所へ行ってしまったという事実を。

 

「………っ!夕立っ!?」

 

そこへ、ずっと追いかけていった夕立が戻ってきた。

 

「えっぐ、ひっぐ…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

涙でグシャグシャになった顔に、あちこち傷だらけで制服もボロボロな夕立。

 

膝や手、肘からは血が滲み、普段の綺麗な金髪の髪もボサボサになっている。

 

それだけ必死に追いかけたのだろう夕立を、陽炎と長波が支え、時雨が抱き止める。

 

「ごめんなさい…あたし、追い付けなかった…あとすこしだったのに…うえぇぇぇぇんっ」

 

「良いんだ、良いんだよ夕立、頑張った、夕立は頑張ったから…ぐすっ」

 

夕立を抱きしめて、涙する時雨。

 

「皆、教室に戻りなさい…授業は自習にするから、静かにね…それと、怪我した子を保健室へ」

 

陸奥教諭の言葉に、ノロノロと、一人また一人と教室へ歩きだす少女たち。

 

「ほら、夕立、保健室行こう…」

 

「歩ける?背負おうか…?」

 

時雨が夕立に声を掛け、陽炎が傷を労る。

 

膝も怪我している為、両脇を陽炎と長波に支えて貰いながら、彼女たちは保健室を目指した。

 

「秋雲さん」

 

「……何、むっちゃん先生…」

 

ふらふらと教室を目指していた秋雲に、陸奥教諭が声を掛け、手にしていた物を差し出した。

 

それは、夜中まで必死になって叢真の為に書いた、スタークジェガンを纏った叢真の姿。

 

「落ちてたわよ…貴女のでしょう」

 

廊下に落ちていたスケッチブック、これのお陰で陸奥教諭は、誰が話を聞いて、そして3組生徒がどうしたかを知る事が出来た。

 

だからこんなに早く裏門へ現れたのだ。

 

「叢真っち……はは、こんな事なら、もっと真面目に叢真っちの絵、書いとくんだった…」

 

織斑やデュノアと絡めなければ、どんな絵を書いても怒らなかった叢真。

 

もっともっと、彼の絵を書いておけば良かったと秋雲は後悔し、そのスケッチブックを抱きしめて泣いた。

 

「叢真っち…叢真っちぃぃぃ…!」

 

「秋雲…泣いちゃだめ…泣いたら叢真さまが心配…うぅ、うえぇぇぇん…っ」

 

秋雲の鳴き声に釣られ、巻雲が泣き、夕雲が彼女たちを抱き締める。

 

彼女たちの涙が尽きる事は、いまだ無かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夕立、痛くない…?」

 

「痛くないっぽい……そーちゃん、もっと痛い思いをしてるかもしれないから…」

 

学園の廊下をゆっくり歩く時雨達4人。

 

保健室までの道を夕立を庇いながら進んでいると、休み時間になり、とある生徒達が姿を表した。

 

「うぉ、どうしたんだその怪我、大丈夫か?」

 

「織斑……」

 

いつもの面子にボーデヴィッヒを足した織斑達だった。

 

その織斑が夕立の怪我を見て心配そうにするが、陽炎達はそんな織斑を睨む。

 

織斑自身が何かした訳ではない、だから罪がある訳ではない。

 

だが、許せないという思いは消せはしなかった。

 

「なぁ、叢真知らないか?アイツ今日は教室にも来て無くてさ。もしかしてジェガンの修理で整備室行ってるのかなと思ったんだけど」

 

脳天気に、叢真を知らないかと問い掛けてくる織斑に、目の前が真っ赤になる陽炎と長波。

 

やれシャルがシャルロットで女の子だったとか、ラウラが昨日のことで謝りたいらしいんだとか囀る織斑。

 

その言葉一つ一つが、彼女たちの神経を逆撫でし。

 

「あんたねぇ――「返せっ!!」――っ、時雨!?」

 

悲痛な叫び声と、打撃音が響いた。

 

陽炎が文句を言おうとした瞬間、時雨が弾かれた様に拳を振りかぶって織斑を殴り飛ばしていた。

 

「ぐあっ!?な、なにすんだ…!?」

 

「一夏!?貴様、何を…!」

 

「嫁っ!?」

 

「返せよ…叢真を返してよっ!!」

 

殴り飛ばされた織斑を、篠ノ之とボーデヴィッヒが受け止めるが、続いて響いた時雨の叫びに勢いを削がれる。

 

時雨は泣いていた、真っ赤に泣き腫らした目で叫んでいた。

 

「返してよ…っ、叢真を返してよ…っ!」

 

「な、なんの話だよ…!」

 

「織斑、あんた叢真が何処かって聞いたよな…叢真はな…叢真は、研究所送りにされちまったよ!」

 

話が飲み込めず混乱する織斑に、長波が叫ぶ。

 

「け、研究所…?」

 

「戦績が悪い方の男子を研究所送りにして人体実験をするって、IS委員会が決めたって、そんで叢真を連れていきやがったよ!!」

 

長波の言葉に愕然とする織斑達。

 

そして、数人が思い当たるような顔をする。

 

「何人か心当たりがあるみたいね…あぁそうか、アンタ達、叢真の人体実験に賛成した国の代表候補生だもんねっ!」

 

「ち、違っ、違いますわ!私達はそんなつもりじゃ…!」

 

「そ、そうよ、ただ学園に残すならどっちの男子が良いかって聞かれただけで…!」

 

「それで織斑が良い、叢真は要らないって答えたんだろ!」

 

陽炎の指摘にオルコット達が反論するが、長波の指摘に押し黙る。

 

「セシリア、鈴、お前達そんな…そんな事したのかよ!?」

 

「だって、ただの質問だと思ったんだもの!知らなかったのよ!」

 

織斑の言葉にこんな話の事だとは思わなかったと首を振る凰。

 

実際彼女達は知らなかったのだろう、担当官から聞かれた質問の意図を。

 

もしかしたら、担当官レベルでも知らなかった可能性がある。

 

だがそんな事、時雨達には関係なかった。

 

「返してよ……叢真を、返して…返してよぉ……!」

 

「時雨…時雨ぇ…」

 

泣き崩れる時雨に、痛む足を推して抱きつく夕立。

 

「どうして…どうして叢真ばかりこんな目に遭うのさ…ブリュンヒルデの姉が居ないから?ISの生みの親と親交がないから?あんなに努力して、あんなに頑張って、なのに状況一つで全部白紙にされて…なんでなのさ!なんで叢真だけがこんな目に遭うのさっ!」

 

時雨の悲痛な叫びに、何も言えなくなる織斑達。

 

自分達が知らない間に、知ろうとしない間に進んでいた悍ましい計画。

 

IS委員会という巨大な組織が画策した、一人の青年を犠牲にする未来。

 

「どういうことだよ…千冬姉…千冬姉っ!」

 

何がどうなっているのか、分からなくなった織斑は頼れる自分の姉の事を脳裏に浮かべ、その姿を求めて走り出した。

 

「ちょ、一夏!?」

 

「待ってよ一夏っ」

 

その後を追いかける篠ノ之達。

 

去っていく後ろ姿を睨みつけ続けた陽炎達は、何事かと集まってきた生徒達に何でもないと説明を拒否して保健室を目指した。

 

「千冬姉っ!」

 

「織斑先生、だ」

 

「ぐっ、そんな事言ってる場合かよ!叢真が連れてかれたって本当なのかよ!?」

 

「……あぁ、本当だ。明日には正式に学園全体に通達される」

 

職員室に居た織斑千冬は、淡々と弟の言葉に応えた。

 

その左頬は、赤く腫れている様に見える。

 

朝のHRが遅れ、やってきたのはどこか落ち着かない様子の山田先生だけだったから気になっていた。

 

だが、その後のデュノアの女性としての転入し直しや、凰の襲撃、そしてラウラの嫁発言とキスですっかり忘れていた。

 

「千冬姉…その頬は…」

 

「殴られた痕ですわね…」

 

「少し掠っただけだ、大げさに騒ぐ事ではない」

 

少し腫れた頬を撫でて苦笑する織斑千冬。

 

その頬は、長門教諭に殴られた痕だった。

 

――貴様は、教師を名乗る資格はない!――

 

その言葉と共に放たれた拳を、織斑千冬は避ける事が出来なかった。

 

「千冬姉…叢真は…!」

 

「勘違いしている様だが、雨宮は何も解剖されて死ぬ訳ではない。IS委員会直属の研究所でIS研究に従事するだけだ。学業との両立ではデータの収集も捗らないという理由からだ」

 

IS委員会の掲示した理由はあくまで、研究所で生活して日常的にデータ収集と研究への協力をして貰うという物。

 

だが、そこに肉体的・精神的苦痛を伴わない保証はなく。

 

そもそも、解剖や人体実験をしないとはどこにも明記されていないのだ。

 

そんな滅茶苦茶な提案を、一部の国の役員や理事が金と取引でゴリ押しした結果。

 

叢真は、無理矢理な戦績を理由に連れて行かれてしまった。

 

「でもよ…研究所で叢真が何をされるか…!」

 

「あぁ…だから、私に出来るのは、裏門へ向かえと伝えるのが精一杯だったよ」

 

「……?どういうことですの?」

 

オルコットが織斑千冬の言葉に何かを感じ取り、疑問を口にした時だった。

 

「織斑千冬殿!雨宮叢真の身柄はどこへやったのですか!」

 

職員室へ乗り込んできたのは、黒いスーツ姿のいかにもな連中。

 

それが、言葉に怒気を乗せながら織斑千冬へ詰め寄ってくる。

 

「正門前で受け渡す様指示された筈ですが!」

 

「そうなのか、私は追加指示だと言われて裏門へ雨宮を誘導したのだが」

 

黒服の言葉にしれっと答える織斑千冬、彼らの怒気や言葉の迫力では彼女を揺るがす事すら出来ない。

 

「くっ、急いで身柄を確保しろ…!この事は委員会へ伝えますよ…!」

 

「好きにしろ。私も委員会に言われた通りにしただけだ」

 

部下に指示を出し、悔しげに織斑千冬を睨む黒服のリーダーだが、織斑千冬はどこ吹く風だ。

 

苛立たしげに舌打ちを残して職員室を去っていくIS委員会の犬達。

 

やり取りを見守っていた織斑達は、ただただ唖然とするだけだった。

 

「言っただろう、私は委員会に指示された通りに雨宮を送り出したと」

 

こんな事しか出来ない、情けない教師だがなと呟いて、織斑千冬は冷めたコーヒーを啜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どの位走ったのか、叢真を乗せた車は巨大な門を通って広大な敷地の中へと入って行った。

 

車の中では、目から光が消えた叢真が、項垂れて座っていた。

 

まるで死人のように、反応を示さない叢真を、痛ましげに見るガエル。

 

「……ここは、我が社の第三研究所になります。東京ドーム9個分の敷地内に、研究所や工場、訓練場などが整備され、職員の寮も併設された、小さな町のような場所です」

 

「…………」

 

ガエルの説明にも何の反応も示さない叢真、もう何もかもがどうでも良くなってしまったのだろう。

 

「…貴方が本来行く筈だった研究所よりも、最先端のIS製造技術を持つ場所、と言えるでしょう」

 

「……………?」

 

ピクリと、ガエルの言葉に一瞬反応する叢真。

 

隣に座る男性は何と言ったのか?

 

本来なら行く筈だった研究所?

 

その言葉を頭が理解し、少しだけ視線を上げると、丁度この敷地の象徴である会社のモニュメントと名前が車の窓から見えた。

 

「……アナハイム……アナハイム・エレクトロニクス…?」

 

「その、第三研究所です。極東支部とも言いますが、我が社のアジア圏最大の研究施設でもあります」

 

「…どうして…アナハイムが…」

 

「それについては、代表から直接お話があります。間も無く到着致します」

 

ガエルの視線の先を追えば、そこには白衣や作業着を着た人たちが集まる建物が見えてきた。

 

車がその前で横付けに止まり、ガエルが降りて叢真に降車を促す。

 

のそりと力の入らない身体で車から降りると、クラッカーが鳴らされ、白衣の人々や作業着の人々が口笛や拍手を奏でる。

 

まるで、自分の到着を歓迎するように。

 

「実験体の到着を祝うお祭りですか……」

 

「さ、代表がお待ちです」

 

叢真の皮肉には答えず、先へ促すガエル。

 

進む道の両側に並ぶ職員達の歓迎の言葉に訝しみながら歩いていくと、一人の恰幅のいい男性が両手を広げて叢真を出迎えた。

 

「ようこそ、我がアナハイム・エレクトロニクス第三研究所へ。歓迎するよ、ソウマ・アマミヤくん」

 

「…………」

 

「おっと、申し遅れた、私はこの第三研究所の所長兼極東支部代表のアルベルト・ビストと言う」

 

恰幅のいい男性…アルベルトは、にこやかな笑顔を浮かべて叢真の手を勝手に取り、握手をしてくる。

 

「道中窮屈だったろう、本当はもっとスマートに君を迎えたかったのだが、IS委員会を出し抜くのが大変でね」

 

「……出し抜く…?」

 

「フフ、君はここがIS委員会直属の研究所だと思っているのだろう?残念ながら、ここは我がアナハイムの城、IS委員会と言えど手出しが出来ない企業領地なのだよ」

 

意味が分からなくなり、混乱する叢真の背中を押して、建物へと連れて行くアルベルト。

 

「難しい話の前に、食事にしようじゃないか。お腹空いているだろう?」

 

そう言ってアルベルトはニヤリと笑った。

 

悪戯好きな、大人の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 




綺麗なアルベルト!綺麗なアルベルトじゃないか!

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