IS~Under Dog~   作:アセルヤバイジャン

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むっちゃんまじ女神

M・N・B!M・N・B!


第八話

 

 

 

 

 

 

「納得出来ません、こんな戦績を残すなんて…!」

 

「だがあの襲撃に付いては緘口令が敷かれ、学園外部には伝える事が禁止されている」

 

「だからと言って…粒子兵器の不用意な使用による自爆だなんて、おかしいじゃないですか!」

 

放課後の会議室に響くのは、3組副担任である陸奥教諭の声と、冷淡に返す織斑千冬の声。

 

陸奥教諭が手にした書類は、叢真の戦績表。

 

そこには、叢真がクラス代表戦の最中に自分の粒子兵器を不用意に扱って自爆し、機体を大破させたと記載されていた。

 

本来は襲撃してきた無人ISの攻撃から生徒と教諭を守った名誉の負傷なのに、緘口令が敷かれ、襲撃の事を伏せたものの、叢真のジェガンが大破した記録も事実も消せない。

 

故に、こんな不名誉な記録が残る事になり、それに守られた教諭である陸奥教諭が激しく抗弁しているのだ。

 

あの真面目で不器用な子が、何故そんな不名誉を被らないといけないのかと。

 

原因である篠ノ之は数枚の反省文で簡単に許され、その篠ノ之出した余計な被害から陸奥を守ったのは叢真なのに。

 

冗談ではないといくら抗弁しても、担任であり男性操縦者に関して学園からもIS委員会からも一任されている織斑千冬は取り合わない。

 

「ではどう記載しろと?緘口令の内容に触れない様に記載するには、最適な理由だと思いますが」

 

大破の原因は高出力粒子兵器による溶解、そして叢真の機体も粒子兵器を扱っている。

 

無人ISの事を隠すのに確かに最適ではある、だが泥を被る叢真の心情には一切配慮していない。

 

「ですが…!」

 

「織斑先生、一組と二組の代表候補生がアリーナで模擬戦を行い、施設に被害が出ているそうだ」

 

そこへ、三組担任である長門教諭が入ってきて織斑千冬を呼び出す。

 

織斑千冬は小さく「チッ、ラウラか…」と呟くとそのまま会議室から出ていった。

 

「……っ」

 

「陸奥、気持ちは分かるが今更織斑に言っても遅い、既に公式回答としてIS委員会に報告されてしまっている…」

 

項垂れて書類を握りしめる陸奥教諭の肩を優しく抱いて慰める長門教諭。

 

陸奥教諭が手にしている書類は、IS委員会へ報告が義務付けされている所持ISの状態報告書。

 

最近盗難が報告されている国や地域があるため、IS委員会側も管理徹底の名目で報告を課している。

 

それに記載して提出したと言うことは、叢真の戦績が正式な物として報告されてしまったという事。

 

それを知った陸奥教諭がこうして抗議しても、担当である織斑千冬は聞く耳を持ってくれない。

 

「だってこんな…明らかに贔屓じゃない…!」

 

弟である織斑には何かと便宜を図るのに、叢真には特に何かをした記録が無い。

 

叢真が自分から何かを要求した時には応えては居るが、その対処をしているのは副担任である山田先生だ。

 

ジェガンの無期限貸与の書類だって、最終的には陸奥教諭と山田先生で処理している。

 

それ故に、弟贔屓、身内贔屓と見られても仕方がない。

 

「織斑も抱えている代表候補生…ボーデヴィッヒやIS委員会からの要求などで身動きが出来ないのだろう…その分、我々で雨宮をフォローしてやればいい」

 

確かに長門教諭の言う通り、織斑千冬には仕事と言うか役目が多い。

 

普通の担任業務に加え、多数の代表候補生を抱えるクラス監督に、たった二人の男子操縦者の管理。

 

おまけにその男子の片割れであり弟が、自分がどんな立場でどんな状況なのか殆ど理解していない。

 

学園外へ出る際は政府から派遣された人員が影で護衛に付くのだが、その護衛を嫌がるわ行動予定書を提出しないで動くわで護衛を困らせまくっているらしい。

 

買い物位で大げさだな、と注意した護衛担当に文句を言った記録もある。

 

逆に叢真は基本休日も学園から出ないし、買い物などの時は必ず行動予定書を提出、護衛がし易い様に配慮して行動してくれている。

 

更に三組生徒が護衛代わりになって、アホな女などから守っているので対処がし易くてありがたいと評判だったりする。

 

「長門……本当にこのまま織斑先生にあの子を任せておいていいの…?私、なんだか取り返しが付かない事になりそうで…」

 

「陸奥…」

 

言い知れぬ不安を抱く陸奥教諭、あの真面目で不器用で仏頂面で、でもどこか抜けてて可愛い生徒がこれ以上の不幸になるのは見ていられない。

 

教師として、一人の大人として。

 

あの少年にこれ以上の苦労は掛けたくないと、陸奥教諭は涙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボーデヴィッヒがオルコットと凰を…?」

 

「そ、二人纏めてボッコボコ。やー、レーゲン型の完成が遅れてるとは聞いてたけど、結構な仕上がりになったみたいだねぇ」

 

午後の訓練、本日はアリーナがどこも使えなくて筋トレに変更になった叢真は、汗を拭きながらケラケラ笑う川内に聞き返していた。

 

なんでも、訓練中だったオルコットと凰に、ボーデヴィッヒが喧嘩を売り、そのまま模擬訓練と言う名のリンチに発展したらしい。

 

その結果、二人は強制解除まで追い込まれ、多少の怪我と機体は修理に専念という事になったらしい。

 

「流石にヤバイかなー?と思って止めに入ろうかなっと思ったら織斑くんとデュノアくんだっけ、二人が割って入ってそこに織斑せんせーもやってきて終了、学年別トーナメントまで私闘は一切禁止だってー☆」

 

その場に居た那珂ちゃん先輩が止めに入る前に織斑がアリーナのシールドを破壊して乱入、だがボーデヴィッヒに動きを止められて危ない所をデュノアの援護で脱出し、デュノアVSボーデヴィッヒになりかけた所で織斑千冬が登場。

 

IS用ブレードを生身で振り回して止めたと言うのだから、流石人間を辞めてる代表である。

 

「まぁ叢真にとっちゃ、厄介な代表候補生が二人欠場になったと喜ぶ事かな」

 

ダメージレベルCまで行ってしまったブルー・ティアーズと甲龍。

 

どちらも学年別トーナメントまでの修復は間に合わないだろうと川内は見ていた。

 

潤沢な予備パーツを持つジェガンと違い、あちらは試作機の面が強い。

 

その為修理にも時間がかかるのだろう。

 

「まぁでもー、そーちゃんはその前に乗り越えなきゃ行けない障害があるけどね☆」

 

「え…」

 

「叢真っ!」

 

那珂ちゃんの不穏な一言と同時に、扉を開けて体育館へ雪崩込んでくるのは陽炎達三組生徒。

 

「叢真確保ー!」

 

「よし、今のうちに決めちまおう!絶対1組には渡さねぇぞ!」

 

「織斑とデュノアが組んだらしいから消去法で来るのが居るかもしれないしな!」

 

陽炎にガシッと抱きしめられ、右手を嵐に、左手を長波に掴まれて完全に身動きが出来なくなる叢真。

 

「な、なんだ、何事だ!?」

 

「学年別トーナメントが、急遽タッグマッチになったのよ!二人一組が原則だから、今の内に叢真を私達で確保しとくの!」

 

寝耳に水な情報に唖然とする叢真。

 

襲撃事件でクラス代表戦が中止になった事もあり、タッグマッチでより多くの生徒の戦闘データや学園外へのアピールが必要なのだろう。

 

学年別トーナメントでは企業や国が、3年生徒のスカウトや支援している生徒の成長などを見にやってくる。

 

だが個別で対戦していくといくらアリーナが複数あっても時間がかかってしまう。

 

その為のタッグトーナメントなのだろう、単純に試合回数と時間が半分に出来るのだから。

 

「それならまぁ…俺としてはありがたい話だが」

 

今だ勝ち星が無い叢真だが、タッグトーナメントなら相方次第で優勝も狙える。

 

勿論その場合の最有力候補は陽炎だ。

 

「まぁ叢真とは陽炎が組むのが一番だろうね」

 

「那珂ちゃんもさんせー☆」

 

「いよしっ、先輩達のお墨付きゲット!」

 

川内と那珂ちゃんに勧められてガッツポーズする陽炎。

 

他の名乗りを上げたかった嵐や長波、野分や夕立は残念そうだが、先輩達が言うのだから文句はない。

 

「それじゃ、すまないがよろしく頼む「待て」――ッ、織斑…先生…」

 

割りとすんなり話が纏まってよかったと陽炎と握手しようとした叢真だが、突然割り込んだ声に身体が強張る。

 

全員の視線が向かうと、そこに居たのは腕組みした織斑千冬だった。

 

「少々事情があってな、雨宮のタッグは待って貰おう。雨宮、話がある、来い」

 

「………はい」

 

有無を言わせずに叢真を連れ出す織斑千冬と、不服げに付いて行く叢真。

 

その様子を見守っていた3組と川内達は、また叢真に何か押し付ける気かと織斑千冬の背中を睨むのだった。

 

「ボーデヴィッヒと…?」

 

「そうだ。お前にも損はない話だと思うぞ、アイツは少なくとも一年生の中では腕前は一番だし機体の性能も高い」

 

「何故その話を俺に?」

 

「お前にもう後がないからだ」

 

「ッ!」

 

体育館から連れ出し、渡り廊下でボーデヴィッヒと組めと勧めてくる織斑千冬。

 

勧めると言うより既に強制に近い。

 

叢真にもう後がないと通達している時点で…。

 

「クラス代表決めの敗北、クラス代表戦の機体大破、既に黒星が2つ…。現在、上の方で男性操縦者の片方を研究所に入れようという話が持ち上がっていてな…結果を残せていない雨宮、お前が候補に上がっている」

 

「――ッ」

 

「今回のタッグトーナメントで結果を出せなければ上はお前を研究所へ送るだろう、既に委員会のイギリス・フランス・ドイツ・中国・韓国・ロシアなどが同意を示している」

 

「……俺は実験台行きですか」

 

「今回結果を残せなければ、だ。操縦者として優秀である事を残せればIS学園も委員会もお前を全力で守る」

 

国からの影響を受けない場所である筈のIS学園、だが所詮は組織が運営している箱庭だ。

 

付け入る隙はいくらでもあり、干渉する方法もいくらでもあるのだろう。

 

「悪い話ではあるまい、少なくともボーデヴィッヒと組めば最悪初戦敗退も無いし、足を引っ張っても邪魔さえしなければアレはお前に何もしない」

 

暗に織斑以外に興味を持っいていないと語る織斑千冬。

 

断るのは簡単だ、だが断って最悪初戦敗退となれば研究所送りは免れない。

 

まさか解剖されるとは思わないが、決して今のような自由は無いだろう事は想像出来る。

 

つまり叢真には、他に道が無かった。

 

「………ッ、分かり、ました…」

 

「そうか、ではボーデヴィッヒには私から話しておく。それとこの事は誰にも言うなよ、無用な混乱を招くからな」

 

叢真の心情には考慮せず、さっさとその場を去る織斑千冬。

 

彼女からすれば、戦績が奮わない叢真と、性格に問題があるが実力者である教え子のボーデヴィッヒ、二人を同時に救済する名案だったのだろう。

 

他クラスである3組生徒と仲良くやれている叢真なら、ボーデヴィッヒとも仲良くやれるかもしれないという考え。

 

織斑千冬とて人の子である、好き好んで教え子を実験台送りになんてしたくない。

 

故に気を利かせてボーデヴィッヒと組ませた、不器用だが後がないぞと叱咤もした。

 

だが、懐疑心で固まっている叢真はその事を理解出来ない、感じられない。

 

全ては巡り合わせが悪かった。

 

「……思い通りになって溜まるか…ッ」

 

去っていく織斑千冬の背中を睨み、胸元のドックタグを握りしめる叢真。

 

その瞳には、怒りと決意が燃え盛っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑千冬から開放され、陽炎達にタッグがボーデヴィッヒに決まり、組めなくなったことを謝罪した叢真。

 

当然3組生徒は全員が憤慨したが、そこは川内が取り直し、「勝率が上がったと考えよう」の言葉で一応鎮火。

 

だが怒りの下火は彼女たちの中で燃えたままだった。

 

申し訳無さでその場を後にした叢真だったが、学生寮へと帰り道、一人の少女が立っている事に気付いた。

 

「ヘェ…マタ何かあったんダァ…」

 

少女は、白い髪に肌も病的に白い、一年生だった。

 

その顔には見覚えがあった、毎度足を運ぶ3組で、一人だけ叢真と関わらない少女。

 

「確か…セインさんだったか」

 

「ヘェ…覚えテたんダァ…ソッカァ…フフフ…」

 

クスクスと笑う彼女は、アルビノらしく、その白い肌と白い髪、そして赤い瞳がどこか不気味な美しさを醸し出している。

 

3組内では接点を持たず、一人だけ叢真と関わろうとしない生徒だったが、その彼女が何故か叢真の進路を塞いでいた。

 

「何か用か、セインさん…」

 

「クー、でイイヨォ、みンナ、そう呼ぶカラァ」

 

クゥ・ボウ・セインというのが彼女のフルネーム。

 

アメリカ国籍らしく、言葉は片言だが日本語は殆ど分かるらしい。

 

「ソーマ、まタ何か背負わサレタんダァ…?」

 

「…ッ、何でそれを…」

 

「ンー、見ルの、ワタシの仕事ダカらぁ、見テれば分かルヨォ?」

 

クスクスと、蠱惑的に笑いながら叢真の周りを回るクー。

 

彼女の長い銀髪が、フワリと甘い香りを漂わせる。

 

「何ガあったカァ、クーに教えテくれルゥ?」

 

相談に乗ルヨォと甘い声で囁いてくるクー。

 

3組でもあまり…と言うか今始めて会話した彼女。

 

当然そんな彼女に相談なんて出来ない、普通なら出来ないのだが。

 

精神的に追い詰められている叢真は、つい口を開いてしまった。

 

織斑千冬の意向により、ボーデヴィッヒと組む事になった事。

 

問題児である彼女と組む事に不安を抱えている事。

 

そして、次に負けたら後がない事までつい零してしまった。

 

「アトがないィ…?」

 

「あ、いや…これ以上負けたら成績に響くから後がないぞ、と言われて…な」

 

咄嗟に出た嘘だった。

 

次に負ければ研究所送りもあり得るなんて、とてもじゃないが3組の生徒には言えない。

 

織斑千冬にも、まだ決定ではないのだから他言するなと釘を刺されていたのに。

 

何故か、クーには零してしまった、彼女の香りと吐息の甘い匂いに、脳が蕩けているかのように。

 

「そっカァ…大変なんダァ…こんナニガンバッテるのにィ…」

 

甘い甘い声で、そっと顎を撫でてくるクー。

 

そしてゆっくりと彼女の方を向かされ、その赤い瞳を真正面から覗き込む形になる。

 

「イイんだヨォ…全部ゼェんブ、さらケ出してもぉ…ネェ?」

 

「あ…あぁ…」

 

吸い込まれそうな赤い瞳と、脳に響く甘い声。

 

叢真の瞳の焦点がずれ始めたその時、パタパタという足音が聞こえてきた。

 

「あ、そーちゃん居た!」

 

「叢真、何してるの…?」

 

そこへ現れたのは、夕立と時雨だった。

 

一緒に帰ろうと急いで叢真を追いかけてきたのだろう。

 

「ウフフ…ざぁんネェン…マタね、ソーマ…」

 

残念そうに叢真から離れるクーだが、最後に叢真の頬にキスをして離れ、悪戯っぽい笑顔を残してクーは去っていった。

 

「あー!そーちゃん今キスした!?したっぽい!?」

 

「え…あ…ち、違う!今のは…!」

 

「もうっ、皆が心配してるのに叢真ってば……あれ、今のセインさんだよね…珍しいね、あの子が叢真と話すなんて…」

 

キスしたキスしたと騒ぐ夕立と、ふと相手が同じクラスで誰とも会話しない不思議な子である事を思い出した時雨。

 

ふと、叢真から甘い香りがする事に気付いてくんくんと匂いを嗅ぐ。

 

「叢真の匂いじゃない…セインさんの香り…?でもこんな甘い香りの香水付けてたかな…」

 

「甘ったるいっぽい、そーちゃんあの子と何してたの!」

 

「だから、相談に乗ってもらってただけで…」

 

ぷちおこな夕立に説明する叢真だが、ふと考えてみると不思議である。

 

本来誰にも言うなと釘を刺され、自分でも心配を掛けてしまうと思うから内緒にしようとしている負けると後がない事などを零してしまった。

 

頭を振ると意識が確りしてくる、香水の匂いに酔ったのかと首を傾げる叢真。

 

そんな3人を物陰から伺いながら、クスクスと笑うのはクー。

 

手にしたポーチから、香水の小瓶を取り出し、軽く吹き掛ける。

 

「カワイいンダァ…ソーマ、可愛イんダァ…クフフ…」

 

クスクスと、クスクスと、悪戯っぽい笑みと熱に浮かされた笑みを混ぜた艶っぽい笑みを浮かべた彼女は、そのまま物陰に消えていくのだった。

 

 

 

 




クゥ・ボウ・セイン…いったい何防空棲姫なんだ…


彼女は深海うんぬんじゃなくてアルビノの銀髪美少女です、良いね?

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