仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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お前が年度末にかまけて続きを書かないのは勝手だ。けどそうなった場合、誰が代わりに書くと思う?
万丈だ。万丈は長期間放置の件で、読者に負い目を感じているはずだ。
だからお前がやらなきゃ、自分から手を挙げるだろう。
けど、あいつの頭じゃ小説は書けない。
そうなれば、東都の連中はよってたかってクローズを責める。
お前が書くしかないんだよ。


第六話:Dark Night(10)

 ロイミュード108。

 個体名、パラドックス。

 

 その凶悪性ゆえに他のロイミュードたちにからさえ危険視され、封印されたラストナンバー。

 

 二十年後の未来で復活し、ダークドライブの力を奪って過去へ飛び、当時の自分と融合し進化するという異質なアプローチによって、自分だけのためのグローバルフリーズを目論んだ巨悪。

 

 すでに倒したはずの、旧敵。

 

 この機械生命体にまつわる情報は多くあるが、だが進ノ介にとっては何よりも、我が子の仇という、絶対的な確執が存在している。

 

「……エイジはどうした? 何故お前が復活している? 一体いつから?」

 

 怒りで拳を震わせながら、それでも理性で必死に感情を押し込めて、進ノ介は問うた。

 

「質問の多い男だ」

 

 我が子とはかけ離れた胴間声で、ダークドライブは嗤う。

 

「安心しろ。泊エイジはこの中で休眠状態にある。肉体を持たぬ今の私には、こいつはまだ必要だからな」

「体を、持たない?」

 

 108は笑みを含んでその尾を引かせ、左手を掲げて見せた。

 

「では次の質問に答えよう。いつから、私が復活していたか? ……最初からだ! 事の始まりから、私は()()にいた」

 

 右手の指が示すのは、掲げて見せたその手の首。

 厳密にいえば、そこにはめられたシフトブレス。

 セットされた黒と青のシフトカー、ネクストスペシャル。

 

 ダークドライブのスタートアップシステムに欠かせぬ存在を、彼は答えとして提示してみせたのだった。

 

「やはりそういうことか」

 応じたのは春奈だった。

「我々の手の内や動向がことごとく知られていたのは、貴様が情報をギルガメッシュに流していたからか」

 

 パラドックスは、鼻を鳴らして、というよりもデータである彼にそんな機能はないので、そういうニュアンスの音声を作って肯定した。

 

 イーディスやアユムの居場所、正体。それらを知ることができる情報は、限られている。そしてギルガメッシュの千里眼とやらも、その視野はあまりに限定されすぎていた。そこをもう少し早く、深く掘り下げていれば、『泊エイジの見聞きしたこと』と透かし絵を重ね合わせるかのように、一致するはずだったのだ。

 

 ただ一点、風都タワーでの件を除けば。

 最後の作戦が成功したのは、警戒を厳重にしていたためではない。他ならぬ、シフトカー自体があの説明の時に近くにいなかったためだ。

 

「つまらぬことに囚われて、今更真実に気づいたか」

 

 ダークドライブはせせら笑う。

 くすぶる炎を足で切るようにして、ふたりに近づく。身構える進ノ介たちを煽るかのように、その外周をめぐる。さながら孤島に取り残された遭難者と、それが力尽きるのを待つ鮫の構図だった。

 そして進ノ介たちは退くこともできない。あるいはうかつに踏み込むこともできない。他ならぬ、エイジがその怪人の内部で人質に取られていたからだった。

 

「――二十年前、私は貴様に一度ならず二度までも敗北した」

 

 パラドックスの右手の形が変わる。明確な怒りと憎悪を感じさせるかのように強く、泊進ノ介を指弾する。

 

「だが、同一にして二つのコアを掛け合わせた私は、それでも完全破壊をまぬがれた。ボディとは分離してしまい、コアは半壊しただの欠片となったが、それでも正気と狂気、現実とネットワークの狭間を漂っていた」

 

 その執念の日々を反芻するかのように、指を畳んだ拳に、めぐる足取りに、力が加わった。

 

「だが、私は長い年月をかけて、ふたつの機を得た。ひとつは、貴様も覚えがあるだろう」

「なに?」

「5886、と言えばわかるだろう」

 

 にわかに出された四桁の数字が、進ノ介の脳裏で過去につながった。

「……ロイミュードの残骸の集合体か!」

 

 本来存在しないはずのナンバーは、プロトゼロをふくめた全ロイミュードのナンバーを加算させた答えだ。

 破壊されたデータの欠片が、生への執着と結びつくこと形を成した、自我なきバグ。

 進ノ介がすぐその可能性に到らなかったのは、彼自身がその案件に深く関わらなかったためだった。

 

「当然、集められたデータの中には108(わたし)のデータもあった。5886が破壊された後、飛び散ったコアの破片を、私は未だに覚めやらぬ無意識のうちに取り込んだ。時間をかけて、だが故にこそ見つからず、悟られずに」

 

 何度破壊されながらも、まともに自我を持てずとも、悪運と執念で復活を遂げる。進ノ介はあらためてこの機械生命体たちの、殖えることがないからこその自己への執着というものを見た気がした。それこそ、創造主と同じように。

 

「そして気の遠くなるような長い年月の中、夢と現の中にあった私を呼び覚ましたのが、半年前の我がボディの再起動だった」

 

 半年前。『黄金仮面』たちが活動を開始するあたりの時期。

 その符号は、決して偶然ではありえない。

 

 そこには即座に理解を示したかのような春奈の顔に、ダークドライブは得意げな呼気を投げかけた。

 

「気が付いたようだな。そう、ギルガメッシュ001のボディは、元はこの私、パラドックスのものだ」

「そして今は自分のボディを奪った相手の、使いっ走りってことか」

 

 精一杯の虚勢を張りながら、進ノ介は皮肉を言う。だが、挑発によって相手の優位を崩すことはかなわなかった。

 

「財団Xとイーディスによって目覚めたあの身体と、私のコアは今なおリンクしていた。完全に記憶と人格を取り戻した私だったが、現実世界で行動するための仮初めの器が必要だった。……まさしく、運命とでも言おうか。同じように異次元をさまよっていたコレを見つけるのに、そしてそれをこの小僧に見つけさせるのに、それほど時間は必要なかった」

 

 話は戻る。シフトカー、ネクストスペシャルを撫でながら、得意げに黒い怪人は嗤う。かつても敵として対峙した進ノ介だったが、それでも、パラドックスにその『形見』が触れられるたび、おぞましい気分になる。

 

「奥深くの領域に潜り込んだ私には、大部分のシステムへの干渉はできなかった。だが最初のギルガメッシュの邂逅の際に、奴と接触したことで、パスを完全に開くことができた。貴様らの動きは逐一、私を介してあの『黄金仮面』に筒抜けだったということだ」

「……文字通りの『スパイウェア』ということか」

 

 雷声が轟く。

 それに呼応するかのように、星月を覆う分厚い雲は急速に広がり流れ、ますます闇を深めていく。

 

「滑稽だったぞ、行く先々で悲劇が起こるそもそもの原因は、貴様らが私を連れ歩いているためだとも知らず! 呑気にヒーローごっこを楽しむ様はなぁ!」

 

 春奈が奥歯を噛みしめる音が、傍から聞こえた。

 猛犬のごとく今にも飛びかかろうとする彼女を、進ノ介は再度抑えた。代わりに前に出る。

 止めるつもりはなかった。春奈のT3アクセルの概要(スペック)は進ノ介も承知している。自分以上に、ダークドライブと渡り合えるかもしれない。

 

 それでも、ここからは自分が先駆けなければならなかった。

 ここまでの見通しの甘さの結果が、今この悪夢のような光景の再来だ。その清算をするために、泊進ノ介はここに立っている。

 

「俺の息子をどうするつもりだ?」

「しばらくは生体電池(バッテリー)として使ってやるさ。中で枯れて使い物にならなくなるまで、私が本来の身体に戻るまで。このダークドライブはそのための交換条件でもあった」

 

 ギルガメッシュとどのような約定を交わしたのか。そこまで踏み込ませるつもりはないらしい。

 不自然なほどに首を傾けて身体をねじりながら、

「だがその前に」

 と言葉を置く。

「……いつぞやの返礼をさせてもらおうッ!」

 翻ったその腕に、青い刃が握られていた。

 

 進ノ介と春奈は磁石の反発のように、お互いに左右に飛び分かれた。その間の空間を、ブレイドガンナーの一線がよぎる。二の太刀が、蛇のように軌道をうねらせながら進ノ介を追った。

 

「何のためにこんな長話につき合わせたと思う? 今から死ぬ貴様らが未練や疑問を残さないようにしてやるためだッ」

「お前……ッ」

「今度は本当の息子の手にかかって、死ぬがいい!」

 

 剣の把手を支えるようにして斬撃を防ぎながら「ふざけるな」と枯れた声を絞り出す。

 

 激しい怒りが、胸の内から湧き上がる。

 だが、それはおのれの私怨ではなかった。自意識が奪われ、知らぬうちに誰かを手にかける我が子の悲痛と、取り残される妻の悲嘆とを想い、彼は心のエンジンに火をともす。

 

 もはや、銀色の輝き……マッハドライバー炎を再び手に取ることに、抵抗はなかった。

 

「俺の息子も、その力も! 二度とお前に奪わせはしない……ッ!」

 

 逆手で胴にそれを取り付ける。持ち上げたスロットルに差し込むのは、鍵の形をしたもの。戦士として潜り抜けた日々の記憶(ログ)の結晶。

 

〈シグナルバイク・シフトカー!〉

 

 本来量産型として開発されたそれは、流れ込んできた規格外の情報に対し、誤作動のメッセージを吐き出す。

 だが、彼の心火は、そのシステムさえも超越し、ベルトと同調を開始した。

 

「変身!」

 

 彼らの周囲にめぐる、炎の車輪。それが、戦闘から身を退いた進ノ介の身体を、ふたたび英雄のそれに変化させていく。

 だが、それは彼の変身していた従来のドライブの姿ではない。

 ドライブをスポーツカーだとするなら、それよりも一回り重層になった姿は、重戦車のそれ。

 だが、装甲の分厚さに反してボディスーツから浮いて出るようなむき出しの基盤は、関節部から吹き出る白煙は、極限の危うさを見る者に与えるだろう。

 

 その身から放出された力と熱の波動が、ダークドライブを一度は押しのけた。

 だが、108にさしたるダメージはない。

「また、その急場しのぎか」

 傲然と立ったままに軽侮の声を発した。

 

 

〈超・デッドヒート!〉

 

 それはドライブであってドライブでない、イレギュラーな形態。

 仮面ライダー超デッドヒートドライブは、二十年の歳月を超えて、ふたたび因縁の相手と対峙したのだった。


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