この場を借りてお礼申し上げます。
今見るとありえない表記ミスとかがあって、お恥ずかしい限りです……
互いの頭の高さまで上げた爪先が、T3アクセルとギルガメッシュ、それぞれの眼前をかすめた。
上段回し蹴りによる牽制の後、その身をおおきく旋回させて身体を整える。
その回転の勢いに乗って、UFOガジェットとガシャコンシールドが彼らの手から離れた。
二枚の『円盤』は、暗黙の主人の命に従い、互いを撃墜すべく、ふたりの仮面ライダーの狭間で、風を切ってドッグファイトのごとき空中戦を展開する。
それをよそに黄金の騎士と深緑の戦士もまた、肉弾戦をくり広げていた。
天賦の才能にして、練磨の集積。その下地をもとに卓越した春奈の戦闘技術を、ここまで溜めこまされていた鬱屈が鋭く磨き上げていた。
左手でギルガメッシュの攻勢をいなし、真っ向から防ぎ止める。あるいは牽制として連打する。
その時々によってそれらを虚実織り交ぜ使い分けながら、王を翻弄する。
もう一機のUFOガジェットをはめた右拳が、矢弾のような連打とともに、正確に、ことごとくギルガメッシュの反攻の芽をつぶし、強引にこじ開けた隙を穿つ形で、剛槍のごときストレートがその胸部を叩き、そこに表示されたゲージを摩滅させていく。
かろうじて残っていたエナジーアイテムを取り込むべく、ギルガメッシュの手がその背後へと伸びた。
「させるか」
銀光をはなつガイアメモリの端子を、春奈はみずからの右手に装填した。
〈ZONE! MAXIMUMDRIVE!〉
ギルガメッシュの指先が触れる直前、その巨大化されたメダル群はその腕をすり抜け、右手をおおきく天へと突き出した春奈の頭上へと広がっていった。
「言われたばかりだろう。遊びは、終わりだと」
対峙する王と勝るとも劣らぬ尊大な物言いとともに、春奈は手を真一文字に切った。
あらぬ方向へメダルが散らばる。能力の底上げの手段を喪った彼は、そのまま迷わずアクセルへと突撃した。
互いを弾き飛ばした円盤は、鉄音を立てて地面に落下した。距離を詰め合いながら春菜とギルガメッシュはそれら己の武具を拾い上げた。
〈ガシャコンソード!〉
虚空の中から引き抜いた、ボタンのついた両刃剣。盾で春奈の視界を塞ぎながら、ギルガメッシュは迫ってくる。
だが、彼がいかな変幻自在の太刀筋をえがくつもりでいようとも、春奈は次にとるべき手を決めていた。
〈ARMS!〉
〈ARROW!〉
〈ACCEL! ADVANCEDSYSTEM……ACCESS!〉
体の両サイドに固定されたUFOガジェットが、そして一度春奈の腹から取り外されたバックルが、装填された三種のガイアメモリを読み上げる。
春奈からパージされたアクセルの装甲が、分解されながら空中に散らばった。
自分に向かってくるそれらを打ち払いながら、なおギルガメッシュは前進を止めない。彼女のとった行動は、ギルガメッシュにとっても予測しえていたことだった。
ゆえに、なお間を詰める。強化されるよりも先に、無防備になった春奈を一撃で仕留めるべく。
だが、何千回とも錬磨した照井春奈の挙動と、一秒でも処理を短縮しようとチューニングされたドライバー自身の性能は、ギルガメッシュの見積もりを上回っていた。
「超、変、身」
装甲の破片が反転する。色が暗緑から紅へと一転する。バックルが逆転し、それらは再び春奈へと吸い付く。
ベルトの色や模様が変じ、突き出た角が角獣のごとく天を衝く。
T3アクセル改めトリプルAとなった春奈は、真っ向からギルガメッシュの斬撃を受け止めた。
高密度のアーマーが、衝撃の一切を吸い尽くす。
単純なスペック差で、その剣把を掴んで押し返す。
ギルガメッシュの側頭部に、春奈は強烈なフックが何発も叩き込んだ。
のけぞるギルガメッシュに正拳を突き出したが、それは盾に防がれた。
「なるほど、やはり手ごわい……だが、どんな力と技を持っていても、いずれお前にも、選択と挫折の時が来る」
「来るはずがない。貴様は千里眼を持つ神などではないことが今回の一件でわかった。タネさえなければ、その予言に意味などない」
アクセルは、止められたままの腕をさらに前へと押し出した。残響の尾を引かせながらも、衝撃で黄金騎士は盾をたずさえたままに後退する。
〈ARMS ACCEL!〉
春奈は追撃を仕掛けることなく、右手に重装甲のボウガン型ユニットであるアクシズAを転送した。
「いいや、これはな……経験談からもとづく言葉さ」
〈1・2・3・4・5・6! 6・バリア!〉
不気味なまでの余裕とともに、王は自身の前に幾重にも障壁を展開する。
その奥で、自らの腰から抜き放ったガシャットを、その剣へと突き刺した。
〈タワー・オブ・クリティカルフィニッシュ!〉
その銀刃に、毒々しい色の手のようなものが何本もまとわりつく。腰を低く落とし、狙うは春奈が力を尽くして眼前の障壁を破壊しきったその瞬間。その消耗の瞬間を討つ。
おおかた、考えているのはそんなところだろう。春奈はそう見切りをつけつつアクセルメモリをアクシズAへと装填した。
〈ACCEL! MAXIMUMDRIVE!〉
力が、両手で握りしめたアクシズAの発射口から放射された。
――否。それは一筋の力の塊のように見えるが、無数の弾丸の集合体だった。
反動で自身が後ろへ、塔の端へと下がっていくのも厭わず、彼女は奥歯を噛みしめ、感覚のない指をトリガーに押し込みつづけた。
それらは瞬く間に六層の壁を穿ち、破砕していった。
光弾たちはそれこそ機関銃のように、その数の優位を崩すことなく突き進み、その万全の陣の奥で必殺の構えをとっていた王の身体を削っていく。
「絶望がお前のゴールだ」
黄金の身体を削り取られて行きながら、それでもなお、傲岸な暴君は嗤う。春奈を嗤いつづける。
「愉しみだよ、照井春奈。遠からず来るであろうその時、お前は……おのれの罪と……どう向き合うのかな……?」
その哄笑に、ノイズが混じる。崩壊しつつある声帯機能もろともに、ギルガメッシュの肉体は弾威によって塔の外へと押し出され、そのまま爆散した。
「…………私に、質問をするな」
――こうして、平和を取り戻した街をふたたび震撼せしめた三人の魔人は、撲滅された。
ただし、若い仮面ライダーたちに、呪詛にも似た耳障りのする嘲笑を遺して。