仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第五話:夏の終わりのJoker game!?(20)

 上空で咲いた大輪の火の花の下、エイジは身を低めて駆けた。

 足場に肘がすれるほどに屈した不安定な姿勢のままで、ドリフトのような甲高い異音を脚部から響かせて。

 

 金網の上で、互いの側背を狙うかのように円弧を描きながら、『魔法使い』のギルガメッシュと激戦を繰り広げていた。

 エイジのブレイドガンナーと、ギルガメッシュのダイスのような装飾のついた剣が刃鳴り散らす。

 押し合い、引いて隙を誘い合い、そんな駆け引きもふくめて拮抗していた。

 

 一度はげしくぶつかり合ってから、それぞれの立ち位置を入れ替えて、もう一度ふたりの仮面ライダーの影は交錯する。

 

 その鍔迫り合いのさなか、ギルガメッシュは空いた片手に、青の宝飾のついた指輪が自動的に転送された。

「ッ!」

 エイジは新手の奇手を警戒し、飛びのく。

 

 そこに乗じる形で、ギルガメッシュはベルトの側面に指輪を重ね合わせて回した。

 

〈GO! ドッドッドッドッ、ドルフィー!〉

 

 という音声とともに、肩のローブが青く変色する。

 だが、その姿を保っていたのはほんの一瞬。彼の姿は次には液状となって溶け、金網の隙間からこぼれ落ちていった。

 

 姿をくらましたギルガメッシュの姿を、ダークドライブはそのモニター越しに追った。

 だが、熱源を視界の片隅に感知した直後、エイジの胸部と脚部に鋭い連撃が見舞われた。

 

 足下からせり上がってきた液体がふたたびギルガメッシュの体を成し、手にしたサーベルを振りかざしたのだ。

 不意を衝かれ、遅れをとったエイジが火花を散らしながら思う存分になぶられた後で体勢を整えた時には、ふたたび液状化してギルガメッシュは金網の下に潜伏した後だった。

 

 だがしかし、エイジもまた、飛び退いた時にはすでに、次の手を用意していた。

 黒と緑の、特殊技能専用のシフトカーがシフトブレスに入り込んでいる。

 

〈NEXT BUILDER!〉

 

 AIの音声を聞きつけると、人質を解放して自由の身になったネクストライドロンが唸りながら天を舞う。

 そのホイールかた生成されたタイヤが、袈裟掛けにダークドライブのボディと結合する。

 

 それによって視覚システムを重点に機能が拡張される。

 微細な物音や、大気の乱れ。それらを視野に反映され、逐次情報がアップロードされ続けるなかで、エイジは自身の意識をクールに、可能な限り無我の境地に持っていき、自動操縦に身をゆだねた。

 

 ブレイドガンナーが射撃モードに移行する。

 ここまでの攻撃、思考のパターンをふくめた演算によれば、次の方角は北北西。刺突による牽制からの連続攻撃。

 次の実体化まで三、二、一……

 

 エイジの上体が制動されてわずかに左に傾く。銃口が背面に向けられる。引き金に力を込める。

 射出された光弾が、背後から突きかかったギルガメッシュのボディを撃ち抜いた。

 

 もんどりうつギルガメッシュは、その反動で空中で側転しながらも、器用に指輪を移し替える。

〈GO! カカ、カッカカ! カメレオー!〉

 ギルガメッシュのマントが、あざやかなエメラルドの色と質感を持つ。それを風を混ぜ返すようにひるがえすと、再び彼の影は姿を消した。

 

 ふたたび液体へ変化し移動、いや光の屈折率を変動させたことによる透過か。

 そう見切ったエイジは、ブレイドガンナーの把手を自身の額に押し当て、集中した。

 

 わずかに背後の金網がきしむ。

 撃った。何もないはずの虚空で光が爆ぜたが、姿は見せなかった。

 ふたたび気配が消える。風車を中心に渦巻く風音に、濁りのようなものが混ざった。真正面。二、一……発射する。

 

 至近でブレイドガンナーから放出された光の塊は破砕音とともに、透明化していたギルガメッシュの胸部で炸裂した。

 

 吹っ飛ぶ彼は、鋭く伸びた十本の爪を支えに持ちこたえた。

 その手に赤く宝玉が閃く。ギルガメッシュは、その輝きを帯びた指輪を、右腰のアタッチメントに読み取らせた。ひときわ大きく光るその魔法石が、マントを同色へと染め上げる。

 

〈GO!バッバ、ババババッファー! 〉

 

 ギルガメッシュの包む空気が、硬く、重く、力強いものへと変ずる。

 ぐんと増したその重量が、そのポイントに彼を固定させた。

 自身の立ち位置を確立した獣の王は、左腰に別の指輪を当てた。

 

〈GO! キックストライク! バッファーミックス!〉

 

 そしてエイジもまた、ブレイドガンナーを逆手に持ち替え、迎撃の構えをとった。

〈BUILDER!〉

 ベルトのキーをひねり、シフトブレスにタッチすれば、クリムを真似た音声が決着の時を告げる。

 モニターに反映されきれなくなった情報の奔流が、外部にもウインドウとして展開された。

 

 地面を踏み抜かんばかりに、ギルガメッシュは駆け出した。

 猛牛の気をまとった爪先が、いくつもの空気の塊を突き破りながらエイジへと迫る。

 その速度を超える複雑な演算が、ドライブのシステム内で行われていく。勝利の法則を決定づけていく。

 そしてそれは、シンプルな剣の軌道(コース)として視野に刻み込まれた。

 

 エイジは駆けた。

 

 力強い踏み込みとともに浮き上がる。すぐ目の前には分厚い鎧のような気配。だが突き出された足の向こう側、右胴のあたりに、力の集中によってわずかにそのエネルギーが薄まった場所があった。

 逆手に持ったままの剣刃がひとりでに吸い込まれていくように、ギルガメッシュの胴を払う。

 

 ギルファメッシュの胴部、裂傷を負ったあたりで火が散り、熱が膨らみ始める。

 だが、その個体が死にゆく間際となっても、王は不敵に笑い続ける。

 

「まぁそろそろだからな。今回は……赦してやる」

 

 爆散する直前、すれ違いざまにこぼした言葉が、ダークドライブの聴覚を介してエイジに伝わる。

 その奇妙な言い回しは、エイジの意識に違和感としてこびりついたのだった。


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