二〇三五年は、本来であれば破滅の世界だったという。
人為的に仕組まれていたプログラムによって、二〇一五年の八月、ドライブが暴走。
その結果、ロイミュードが勝利していて人類を駆逐。支配した未来が待っていた。
「ウソでしょ?」
とエイジはぬるくなったコーヒーカップを握りしめたまま、半笑いを引きつらせた。
だが、いつもはノリの軽いりんなが苦い顔をしていたので、素直に笑い飛ばすことができずにいた。
「……ま、
だが、その地獄のような未来から、野心を持って一体のロイミュードが時間を遡行して、その『運命の日』にやってきた。
ロイミュード108。固有名はパラドックス。
未来で目覚めたそいつは、二〇三五年で『当時のドライブの装着者』を倒して擬態。ベルトとネクストライドロンを強奪し、仮面ライダーダークドライブとしてタイムワープした。過去に眠っていた自分をよみがえらせて融合するために。
……自分主導の、永遠のグローバルフリーズを引き起こすために。
ひどく言いにくそうにしていたのは、そういった込み入った事情を語るむずかしさからなのか。
なぜだかエイジには、もっと重要なことをはぐらかされている気がした。
それを追及する前に、あるいは追及されることを恐れてか。りんなは立ち上がって、明るい笑みにもどった。
「でも、あなたのお父さんが歴史よりも早く108を倒してくれたおかげで、未来はこうして平和になった」
一時は108の擬態に欺かれ、クリムの意識ごとベルトを破壊してしまった進ノ介だったが、108の放棄した未来のベルトにそのバックアップを移し替えてドライブとして復活。激戦のすえ、過去と未来の力を合わせ、撃破したという。
「コア集積装置は、そうやって生まれ変わったドライバーの複製。でもそのシフトカーは違う。正真正銘のオリジナル、みたいね」
「でも、シフトカーや装備は残らず封印したって」
「そう……でも、未来のトライドロンだけはあの事件のあとどこかに姿を消してしまったの。そのシフトカーだって、地下に封印した後、存在が確認できなくなってた」
当時、クリムたちもその行方を捜していたが、ついに見つからなかった。
やむを得ず、「未来が改変されたことにより、改変前に開発されるはずだった技術は消滅した」という答えで妥協することにしたのだった。
確かに、
もし今の話が本当なら、ロイミュードやドライブ関連のシステムを封印した現在と、それらをフル稼働してロイミュード側に対抗しなければならなかった別の二〇三五年とでは、技術的に大きな開きがある。つじつまは合っている。
「アタシが知ってるのは、そんなとこかな。さて問題は、あのボディを誰が盗んだか。モノがモノだけに、盗難届出そうものなら……あぁ~! またグチグチグチグチ言われそうッ!」
頭をかかえて搔き毟るりんなに「あのさ」とエイジは切り出した。
「それについて、ちょっと、僕に考えがあるんだけど」
「おっ、さっすが進ノ介君の息子! なになに聞かせてよー」
背後に回って肩をつかむりんなに、エイジはあいまいに笑って見せた。泊進ノ介の息子、という肩書は、聞き流すことにした。
「僕が変身する」
え? と表情を固まらせた科学者に、エイジはもう一度だけハッキリと、自分の意志をつたえた。
「僕が、そのダークドライブに変身にすれば良いんだ」