仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第五話:夏の終わりのJoker game!?(16)

 女性が去った後、残されたのは左翔太郎と照井春奈のふたりだけだった。

 左翔太郎はロストドライバーを閉めてジョーカーメモリを抜いた。手順どおりに、変身を解いた。

 

 変身を解くと、押しとどめていた疲労がどっと押し寄せてきた。

 ダメージらしいダメージは受けていなかったが、それでもあの『BC事件』とも勝るとも劣らない連戦は、確実に彼を消耗させていた。

 

 だが、それ以上に、春奈のダメージは大きかった。クールで頑固という、どことなく『誰かさん』を思わせる彼女が目に見えるほどの傷を負い、それを隠すほどさえの余裕もない。

 

 翔太郎は、彼なりに言葉を選んで、話の持って生き方を考えた。

 

「ずいぶん、遅いペースじゃねぇか。追いついちまったぞ」

 春奈は答えず、背を向けた。

 本人からその理由を言う気がないことを察すると、証拠を突きつけるように畳みかけた。

 

「……ここまで上がってくるまでに、けっこうな数の人らが下りてきてな。で、なんで無事なのかって聞いたら、その中の子どもが答えてくれたよ。『顔の怖い銃を持ったお姉ちゃんが助けてくれた』ってな。……お前、結局」

「嗤うなら嗤えば良い」

 

 ようやく春奈が口を開いた。

 その端を、いびつに引き結んだままに、横顔だけを向けて。

 

「頭ではわかっているはずだった。こんなところで止まっているわけにはいかないと。かつて見捨てられた私が、同じことをしても因果応報だと、何度となく自分に言い聞かせた! けれど……実際に助けを求められれば、無視なんてできなかった……!」

 

 双肩をいからせてうめくようにして、言葉をつむぐ。そんな春奈だったが、言い切るとふと脱力し、自嘲気味に結論を言った。

 

「そうだ。私も結局、父と同じ半端者だ」

 

 翔太郎は、聞こえよがしにため息をつき、かぶり直したソフト帽の縁に手を添えた。

「嗤わねぇさ。……やっぱりお前は、照井の、いや俺たちの娘なんだな」

 彼女の背にまっすぐに視線をそそぎ、つぶやいた。

 

 

 

「Nobody's Perfect」

 

 

 

 

 どういう意味か、と目で問う春奈に、

「お前の祖父さんの言葉だ」

 と、翔太郎は答えた。

 

「人は誰しも完璧にはなれない。お前も、俺も、フィリップも照井も。だから、人の弱さを受け入れられる。欠点を補え合える。そうやって、家族になっていくんだ」

「家族?」

 春奈は今度は声にして尋ねた。

 

「そうだ」

 と翔太郎は神妙に頷いた。

 

「俺たちは家族なんだ、春奈」

「…………だったら、なんであの時、父さんはッ!」

「同時に!」

 

 話は最後まで聞け。

 そういう代わりに、翔太郎は大声を放って、荒ぶりかけた春奈を止めた。

 

「この風都も、家族なんだ」

「……この街が、家族だと?」

「たしかに、時には胸糞悪い事件が起こる。特に照井は、そういう嫌な面をこれまで何度となく見てきた。それでも、あいつにとっては、ここは妹さんと生まれ育って、お前や、お前の母さんと出会えた場所なんだ。だから、命を賭けて街のために戦える。お前と風都、どっちを取るかとか、どっちの方が大切かとか、そんな辛い選択を、あいつにさせないでやってくれねぇか? あの事件は、俺たち全員のしくじりなんだ」

 

 それは、説得や説教というよりかは懇願に近いものだった。

 春奈の気持ちは分かる、父親を非難する資格や道理があることも十二分に知っている。虫の良い言い分だと知っている。

 

 それでも、春奈には過去のわだかまりを振り切って、父親と向きあってほしいのだ。

 言葉や態度に出さずとも、一度家族を喪った照井竜にとっては、大切な娘なのだから。

 

 春奈は一向にうなずく様子を見せなかった。だが、明確な拒絶も示さなかった。

 

 家族として、言うべきことは言った。

 ここから先は、春奈の決断することだ。

 

 わずかに胸に差し込む苦みを押し殺し、翔太郎は帽子と顔を伏せた。

 寂寥に丸めて男の背中に、

 

「あのー」

「うおぉぁ!?」

 

 と、声がかかった。

 おずおずと、タイミングを見計らったはいいものの計り損ねて逆に時機を逸したような、情けない調子の声だった。驚いて振り返れば、エイジの姿があった。黒いライダーの姿ではない。

 

「お前、空気読めよ! つか、なんで変身解いてんだ!?」

 

 そう言えば人質と怪人入り乱れる混戦のなか、エイジが消えていたことを思い出した。酷なようだが、そこまで気を回す余裕がなかったし、それに道中現れた怪人たちは姿能力こそ過去のデータを再現しているが、どれもスペックが一段劣る、言わば粗製乱造の劣化コピーばかりだった。彼のダークドライブとやらの戦いぶりを見れば、彼らに遅れをとる姿が想像できなかった。そこは認めていた。

 

 ただ、その青年があえて危険をおかしてスーツを解除している理由までは、翔太郎には理解しかねていた。

 

「シフトカーには、今見回りや盗聴器機のスキャンをやらせてるんです。どうしてもここからの話は奴らに聞かれたくなくて」

 

 訳を問われたエイジは、落ち着き払った様子で答えた

 

 

 

「分かったかもしれません。このダンジョンと、ギルガメッシュの秘密。それを逆用すれば、攻略法が見つかると思います」


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