仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第五話:夏の終わりのJoker game!?(15)

「十年ほど前、この街に似たような事件が起こったんです」

 

 指を絡ませながら語り始めた彼女に対し、春奈はわずかに表情を強張らせ、そんな彼女を翔太郎は背から見守っていた。

 

「事件そのものはこの風都タワーで起こったんですけど、塔の外にも怪物が現れて、辺り一面今みたいなパニック状態で、その中に、私はいました」

 

 当時の恐怖でも蘇って来たのか。彼女の組んでいた指に不必要な力が加わっていた。

 だが震えはない。話しづらそうに、という様子はなく、むしろ誰かに今まで誰かに聞いてもらいたかった話をするように、しっかりと、ゆったりとした口調で彼女はつづけた。

 

 親とはぐれた彼女を見つけたのは、兵隊のようなヘルメットの怪物たちだったという。彼女の姿を認めると、機械的な、だからこそ容赦や加減のない動きで追ってきた。

 その後を似たような感じの化け物がついてきた。その一体感はそれこそ兵士と『指揮官(コマンダー)』のようだったという。

 

 自分が何故追われているのか。それさえもわからなず逃走し続ける。

 だが、所詮は子どもの体力。疲れを知らないように追走をやめない魔人たちによって、壁際に追い込まれた。

 だが、その彼らの背面からバイクのように変形して突っ込んで、自分を助けたヒーローがいた。

 

「それが、あの赤い仮面ライダーだったんです」

 

 そして、幼い彼女の目前で激闘は始まった。

 だが、互いの心身を削り合うようなその戦いは、意外にも、いやそれゆえにこそ時間はかからなかった。

 

 青く変色したそのライダーが、ストップウォッチのような巨大なアイテムを宙へと放り出した。

 肉眼では到底追いつけない速度で敵軍を撃破し、孤立した『指揮官』に連蹴りを浴びせた。

 

「9.9秒。それがお前の絶望までのタイムだ」

 

 という彼の勝利宣言とともに、その怪人を中心に火柱があがり、断末魔が冬の空に飛んだ。

 やがて、その爆炎の中から吐き出されたのは、人間の男だった。

 

 粉砕(ブレイク)されたガイアメモリの副作用によるものか。目元のあたりはどす黒く変色して疲弊し、地面に倒れ伏す。

 しかし、その正体は変身態とはまるで違う。痩せっぽちの、紳士然とした優男といった印象の男だった。

 

 男と仮面ライダーとは、旧知あるいは因縁と呼べる仲であったらしい。

 

「やはり貴様か」

 

 と、モトクロスバイクに使うようなメットの奥で、吐き捨てるようにライダーは言い放った。

 倒れ伏す敗者は、自嘲気味に鼻を鳴らし、震える指先を、まるで不正を糾弾する審判のように突きつけた。

 

「これが、君の選択の答えだ……。我々のような犯罪者(クズ)は、たとえ生かしたところで、同じ過ちをくり返す。そして君は今夜、そのせいで私と同じ運命をたどる。それでもまだ……処刑人にならずにいられるか?」

「俺に質問するな」

 

 対するヒーローは、男の意図ごと質問を真っ向から吹き飛ばすかのように、力強い口調で言い切った。

 

「たとえ何が起ころうとも、俺の答えはあの時と変わらない。俺は貴様のようにはならない」

 

 半壊していたメモリが、内側から起こった火花の衝撃でさらに割れて、完全に機能を停止した。

 まるでそれに呼応するかのように、男も白目を剥いて意識を手放し、糸が切れたように脱力した。

 

 それを見届けてから、仮面ライダーは変身を解いた。

 真っ赤なジャケットの背に、炎のようなエンブレムが入っていたのが見えた。それをひるがえした時、春奈と同じアクセサリーが首にかじゃっていた。

 それらの一つ一つが、彼女の記憶には鮮明に焼き付いているという。

 

「大丈夫か?」と彼は目線を合わせて尋ねた。

 自分は無傷だが、親とはぐれたと答えると、

「わかった。俺が一緒に探そう」

 と、迷いなくそう答えた。

 

「でも、良いの?」

 と彼女が問うと、彼はややぎこちない微笑を浮かべて言った。

 

「このまま君を迷子にさせたままというわけにもいかない。それに、俺にも娘がいる。君の身を案じている親の気持ちは、よくわかる」

 

 そして彼は街中を駆け回って彼女とその両親とを引き合わせ、

 

 

 

「……それが、あの年で最高のクリスマスプレゼント。ちょっとメカメカしいけど、あの人は、素敵なサンタクロースだったんです」

 

 そう締めくくった彼女だったが、春奈は……同じ日に地獄を見た少女は、

(欺瞞だ)

 と思った。

 偽善だとも心中で吠えた。

 

 だが、照井竜の欺瞞偽善が救った命が、心が、なんの因果か、巡り巡って春奈を救った。

 

 

 すなわち、今、自分は、父に……

 

 

「アクセサリーだけじゃなくて、どことなく顔つきとか、雰囲気も似てるんですよね。あの、ひょっとしてお知り合いとかだったりします?」

 邪気もなく、彼女は問いかける。

 

 

「父です」

 春奈は答えた。


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