仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第五話:夏の終わりのJoker game!?(12)

 石段を軽やかに駆け上がると、そこにはRPGのダンジョンが広がっていた。VR技術が医療、娯楽多方面で活躍する昨今、目に迫らんばかりの異空間など珍しくもない。

 だがそれでも、肉眼で見、肌で感じるのとはまた別だった。

 テクスチャで表層を上書きしたに過ぎないのに、その閉塞感からくる息苦しさは、本物だ。

 

 そしてそれは、エイジのパーティーメンバーとも言うべき翔太郎、春奈も同様のようで、緊迫した面持ちで視線を左右に往復させていた。

 

 ここまで敵のアンブッシュはない。

 ふ、とエイジが一瞬気を漏らした瞬間、その声は天高くから鳴り響いた。雷鳴のように。

 

〈そういえば、ゲームの説明をしていなかった〉

 

 と、もはやさんざん聞きなれ、嫌悪した少年の声音。春奈が顔をしかめながら……というより元からしかめっ面だが、

「ゲーム?」

 と、聞き返した。

 

〈『ドルアーガの塔(タワーオブドルアーガ)』は、一九八四年に発売されたバビロニアン・キャッスル・サーガのシリーズ第一作目だ。このゲームは、迷宮と化した塔にちりばめられた鍵を拾いながら、ヒロインとラスボスの待つ上へと昇り詰める。そこの左翔太郎は、ちょうどその世代なんじゃないのか?〉

「……いや、そこまでトシじゃねーんだけど……」

 

 名指しで話を振られた翔太郎は、わずかに気落ちしたように声のトーンを落としかけた。

 だが、すぐに持ち直し、難関や魔王に挑む顔つきになった。

 

「けど、ちょうどテメーらを倒すにはうってつけてのゲームってわけだ。……直行してブッ飛ばしてやるから上で待ってろ金ピカ共」

 

 そう吠える探偵に、少年の、ギルガメッシュの声は失笑を漏らした。

 

〈ゲームの説明はまだ途中だ。……もちろん、ただまっすぐ行ってボスを倒してハッピーエンドでは芸がない。勇者の前にはいくつもの障害が立ちはだかる。迷路のように曲がりくねった道。いくつもの種類のモンスター。そして、それを乗り越えるたび、宝物が手に入る〉

「宝物?」

 

 翔太郎は鼻で嗤った。

 

「ヒーローが、金目のモンにつられるかよ」

 

 権利書でさびれた事務所ごとにグラついた人のセリフだとは思えない。

 エイジは内心そう思ったが、あえて言わなかった。

 そしてギルガメッシュは嗤いを返した。

 

〈たしかに、発想が財布同様に貧困な者のえがく『宝物』など、せいぜい金銀財宝程度だろうな。だが、宝とは一辺倒なものじゃない。誰かにとっては価値のないものでも、別の誰かにとっては違う。……ただ、今回の場合は俺たちにとっては塵芥にひとしいものだが」

 

 三人の眼前、その虚空にモニターが表示される。

 映し出された光景に、彼らの表情は凍り付いた。

 

〈ヒーロー君たちにとっては、宝ではないのか?〉

 

 塔内部の、いくつものロケーションに切り分けられた画面。そのいずれにも、上へ退避したはずの市民がいた。

 宝箱のつもりなのだろうか。巨大な透明のケージに収容された彼らの周囲に光源が発生した。

 そこから現れた、肉腫にも似た、異形のオレンジの頭部を持つ怪人がケージに群がり、外側から破壊しようとする。

 

 音声こそ切られているものの、その人質の顔の一つ一つから、彼らの放つ悲鳴や慟哭が聴こえてくるかのようだった。

 

〈様々なシチュエーションを考慮したうえで、こういう宝箱を道中に仕掛けている。急がなければ、間に合わないぞ〉

 

 黄金の暴君がせせら笑い、画面は消える。その虚空を、翔太郎は睨みつけたままだった。

 

「どうやら、てめぇに対する怒りが足りなかったみたいだ。お前は、俺たちの、この街の敵だ……! 絶対叩きのめす!」

〈能書きはいいから、かかって来いよ。直行でブッ飛ばすんだろ? 今こそ警官隊が抑えているが、グズグズしていると、また新しい『宝』が中に入ってくるぞ〉

 

 嘲笑は絶やさず、ギルガメッシュはノイズとともに通信を切った。

 

「ふざけやがって……」

 拳を打ちつけながら翔太郎は歯ぎしりした。

 だが彼を横目にエイジがおぼえたのは、怒りではなく……違和感。

 ギルガメッシュの挑発的な物言いにはもはや慣れてしまったが、今の言葉に、その一片に、彼の理性的な思考が引っかかっていた。

 

「こうしちゃいられねぇ、行くぞ春奈、エイジ!」

「あ、はい!」

 

 と、翔太郎に急かされたことによって、その思索は打ち切られ、頭の中から霧散した。


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