仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第一話:僕の時間はなぜ進んだのか(6)

 エイジの父、泊進ノ介は仮面ライダーである。

 いや、正確には仮面ライダー()()()男だ。

 

 さまざまな媒体でもって、千差万別の姿に変身して悪と戦う異形のヒーロー。それが仮面ライダーだが、その多くは「Friend of a Friend(友達の友達)」……人づてに聞いた都市伝説の一種として語られており、その存在や正体は闇の中である。

 

 だが、進ノ介の変身していた仮面ライダードライブは、その中でも公的にその存在が肯定され、正体も世間に公表されている異例のケースと言えるだろう。

 

 2015年、人類に宣戦布告した機械生命体ロイミュードに対抗するべく、父たちは立ち上がった。

 

 仮面ライダードライブ

 仮面ライダーマッハ

 仮面ライダーチェイサー

 

 三人の仮面ライダーたちはロイミュードとの激闘を制し、その裏で暗躍していた悪の科学者、蛮野(ばんの)天十郎(てんじゅうろう)の野望を打ち砕いた。

 

 彼らをサポートしていたのが、警視庁に設置され特殊状況下事件捜査課、通称『特状課(とくじょうか)』である。

 その中で技術面、開発面で一役を担っていたのが、この追田(おった)……旧姓沢神(さわがみ)りんなだった。

 

「でも驚いたよ。まさかノーベル物理学者が、こんな場所にラボを構えてるなんて」

「驚いたのはこっちよ~。警報に気付いて来てみれば、研究所はこの有様だし、サイバロイドボディの試作はないし、ダークドライブはいるしさぁ」

 

 ガレキの山と化した研究所内。

 一応人除けはされているのか、これ以上の外部からの侵入はなさそうだった。

 被害をまぬがれた電気ケトルで淹れたコーヒーをなみなみと注いだマグカップを、エイジはりんなから受け取った。

 

 四十オーバーになった今でも十分に美人と呼べる顔立ちだが、白衣の下のサイケデリックな柄のシャツといい、爆発したような髪型といい、そのセンスはかなり独特だ。机に置かれた『ドア銃』だとか『ハンドル剣』だとかいう装備の造形も、納得がいくというものだ。

 ……もっとも、そのまんんまな呼び名は父の命名だったが。

 

「で」とりんなは自分のカップを手に取りながら、すすけたイスに腰かけた。

 

「何から話したらいいかな」

「じゃあ……この場所って、なに?」

「そうねぇ、まずはそこからかしら」

 

 おたがいにまず一口、コーヒーをすする。

 

「だって、コア・ドライビア関連の技術は事件以降すべて凍結されてるはずでしょ。それが、こんなに……」

 

 エイジはそう言ってから、周囲を見渡した。

 先ほどの戦闘で散乱こそしているものの、間違いなくあの眼玉が憑依したのは、本来データであるロイミュードが現実世界で活動するのに必要な素体。ここにある装備だって、かつては進ノ介や叔父の剛が使っていたものだ。

 

 

 プロトゼロをふくむロイミュード全一〇九体がすべて消滅した後、特状課もその役目を終えて解散した。

 クリム・スタインベルトもまた、自身の意識を転送した変身ベルトごと、悪用をおそれて地下深くに封印した。

 

 いつか、人々の幸福のために、そのテクノロジーが活用されることを願いつつ。

 ロイミュードと人間が、和解して友人となれる日を想って。

 そして相棒である泊進ノ介との再会を約束して。

 

「これは、その約束を果たすための施設。昔のツテで、新設した久留間運転試験場の近くに、かつてのドライブピットと似たようなスペースを作ってもらったの」

「なんで? りんなさんなら、もっと良いところで大々的にできたでしょ」

「そうねー、まぁあの後も色々起こったからねぇ」

 

 ロイミュードや蛮野が滅んだ後も、その残滓を悪用しようとする存在によって、事件は続いていた。

 

 時空のゆがみ、あるいはバタフライエフェクトによるロイミュードの復活。

 コア集積装置による上級ロイミュード、ハート、ブレン、メディックのコアの一時的な復活と融合。

 バグデータの集合体、通称ナンバー5886の出現。

 幾度となくよみがえったナンバー005による、連続殺人事件。

 

「……まだロイミュードの恐怖がぬぐいきれない中、立て続けに事件があったからね。まだ、ロイミュードや重加速の復活には、今でも疑問視する声が強いのよ」

「だから、こんなところでこっそりとやってる?」

「進めとけるだけは、進めとかないと。チェイスが復活したときに、剛くんがヨボヨボのおじいちゃんで誰だかわからなくなってたら困るでしょ?」

 

 そのチェイスというのも、父や叔父の昔話でよく聞く名だ。

 人間を守るために作られたロイミュード。それがプロトゼロことチェイスだ。

 一時期は魔進チェイサーという名でロイミュード側に操られていたが、その洗脳が解けたあとは頼もしい味方として……危機に陥った剛を守って、自爆した。

 今でも叔父たちはそのことを気に病んでいて、良識的なロイミュードの復活第一号として、彼のコアの再現を目指している。

 

「人工AIヒュプノスと剛くんとか(きゅう)ちゃんのおかげでだいたいは終わってるのよ。あとは、お偉いさんの認可と、細かい調整だけ。これ以上ないカンペキなボディを用意し……たはずなんだけどォ……」

 

 りんなは傍らの機材の断片……チェイス復活のためのボディが取り付けられていたはずの枠組みにすがって、水泡と化した自分の努力に泣いた。

「ごめん」と消え入るように謝ったあと、ごまかすように話題をかえた。

 

「それじゃ次の質問。このベルトとシフトカー。これもりんなさんが作ったものなの?」

 

 りんなは顔を上げて、小じわの寄った目でそれら装備と……エイジ自身をきびしく見た。

 理由は分からないがとりあえず委縮する彼の前で、

 

「……ベルトとシフトブレスに関しては、そう。と言ってもそれ、正しくはコアを集積するためのものなんだけど。まぁハートも変身できてたし、基本はデータを移し替えた後のクリムのと構造と同じだから……そっか、だからそのシフトカーも読み取れるか」

 

 一人合点したようにうなずく女科学者に「どういうこと?」と説明をもとめる。

 言いにくそうに口元をゆがませた後、彼女はまず端的に、その出所を説明した。

 

 

「それはネクストスペシャル。こことは別の、二〇三五年のシフトカーよ」


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