照井春奈。
俺たちの仲間の……いや、俺たち全員にとっての娘みたいなもんだ。
たとえ不愛想ではねっ返りで、頭でっかちでつるむことをよしとしない不良娘だとしても、そのことに依然変わりはない。
かつての
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「この風都タワー、もうすぐなくなるんですね」
有料の望遠鏡から街の景観をのぞきこみながら、エイジはすこしさびしげに言って見せた。
街の一大スポットがなくなるという経済効果のためか、あるいはこの象徴がそういう流れをつくっているのか。風都の東西南北あちこちで、解体や改装をしているビルや店舗、民家は目立っていた。
その過渡期にあって、街はあわだたしくも寂寥を感じさせる雰囲気をただよわせていた。
ただその目的はそうした景観を楽しむためではなく、高いところから街の異変を探るためだった。
原始的かつ短絡的な手法だ、と春奈はその方法を酷評したが、ここに来るまでの間にも、その提案者は自身の人脈やガジェットを駆使して情報収集を怠らなかった。
あるいは、監視を口実にここを案内したかったのかもしれない。
「ん? なんだ、お前来たことあんのか」
その彼、左翔太郎という探偵は、隣の望遠鏡をのぞきこみながらたずねた。
彼の言葉の端々には、この街に対する誇りや矜持のようなものが感じられた。
「いや、近所の遊園地からときどき見えるんですよ、この塔。天気のいい日とかにメリーゴーランド乗ってると」
「じゃ、風都に来るのは初めてか?」
「ついこの間までなんか物騒でしたから。ガイアメモリ犯罪とか」
「そりゃまぁ昔はな」
翔太郎は言葉をにごしながら望遠鏡から顔を離した。それに付き合っていたエイジもまた、同じように顔を上げた。
そして帽子の鍔に指をそえながら、翔太郎は得意げに言った。
「でも安心しな。今じゃこの街からはガイアメモリはすっかり消えちまってる。この街のヒーロー……仮面ライダーたちのおかげでな」
「……なんであなたが得意げなんです」
「おっとそいつは言えねぇなぁ」
という浮ついた調子は、どうにもそう振る舞う自分に酔っているフシがある。
だがそんな彼に、冷水を浴びせるかのような足音が背後からせまった。
「しかし、ガイアメモリは流通こそ減少こそすれ、事件の数は絶対的には減ってはいない」
照井春奈だった。
彼女は窓から街の様子を睨み据えたまま、ふたりと同じラインに立った。
「むしろ、風都という市場を喪った犯罪者たちは、街の外へと分散した。おかげで余計に確保が困難になった」
「あ?」
興が醒めたような目つきで春奈を見返す翔太郎を、春奈はきびしい眼光で射返した。
「この街の仮面ライダーたちは、ゴミ溜めを掃き清めようとして、かえって周囲を汚しただけだ。まったく、視野のせまい」
「……んだと、もう一度言ってみろッ!」
激する探偵をつかむようにして、エイジはなだめすかした。だがそんな彼の息遣いを意に介していないように、さらにつづけた。
「私は、そうはならない」
そう言い残して距離をとった春奈を、
「おい待て春奈ァ!」
と翔太郎は追おうとした。しかしその背には明らかな拒絶の意志があって、それ以上の問答を許さなかった。
「ったく、なんなんだアイツは!?」
腰に手を当て、もてあました苛立ちで全身をゆする翔太郎だったが、家族的な交流があるらしい彼でさえ察しえないのだ。取り残されたエイジがとやかく言える問題ではなかった。逆にその心当たりを問いたいのはこちらだ。
「ここに来るまでの間もなんとなくそんな気がしてましたけど、ずいぶん自分の故郷を嫌ってるみたいですね、彼女」
「あぁ……まぁ、理由は、あるんだけどな」
ひどく言いにくそうに唇を結んだ翔太郎だったが、帽子を目深にかぶり直した。
しばらく沈黙したあと、エイジにではなく、おのれに言い聞かせるようにして彼はつぶやいたのだった。
「『BC事件』。ここで起こった最後の、そして最悪のガイアメモリ犯罪だ……それがあいつを狂わせちまった」