仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第四話:オレがお前で、お前がオレで!~Double Action G~(12)

「お前、天空寺アユムを見たか?」

「もし今の言葉の意味がわかるようなことがあれば……それ以上は関わるな。お前は今この瞬間を守っていればいいんだ」

 

 桜井侑斗と初めて出会った日、投げかけられた忠告だった。

 言われたその時にはなんのことかはわからなかった。だが、今なら理解できる。

 

 そして今、彼の言葉に従うわけではないが、エイジには目の前の状況を傍観することしかできずにいた。

 目の前で渦中の両者が、相争う姿を。

 

 ふたりの仮面ライダーは、肉薄しながら土手の転がるようにして駆け下りて、はげしい攻防を繰り広げていた。

 だが、徒手空拳で挑む『アユム』に対して、ゼロノス……と呼ばれたか。桜井侑斗の仮面ライダーの剣は、リーチ差を活かして優位を保っていた。

 

 そのうちに防戦へ回り、それが経験差による純粋な苦戦に変わるまでそれほど時間はかからなかった。

 胴体に直撃を食らい、『アユム』はうめいた。自身をかばうように背を侑斗へと向けた。

 

 そこへ、大きく跳躍して勢いをつけたゼロノスが、大上段に振りかぶった。

 ……だがそれは、『アユム』による誘いだった。

 

〈ダイカイガン! ガリレオ! オメガドライブ!〉

 

 ゴーストドライバーからレバーの操作音とともに鳴り響く音声により、侑斗もみずからの失策に気付いたようだった。

 振り返りなおしたゴーストの両手の間に、銀河のようなエネルギーの渦が生じていた。

 おおきく突き出された『アユム』の両手から発射されたそれが、天高く侑斗を押し返した。

 

 だが、侑斗は慣れた手つきで手の中の剣をボウガンへと組み替えた。

 乱射された光の矢が追い討ちをかけようと浮き上がった『アユム』に炸裂し、地面へと墜落させた。

 

 侑斗は迫る。

 倒れこむゴーストにボディプレスを食らわせると、流れるような動作でエルボーを入れ、締め上げる。

 

 『アユム』はもがく。

 どうにか侑斗の拘束からすり抜けた片手に、白い眼魂が握られていた。

 ゴーストドライバーから眼魂を引き抜くと、彼に覆いかぶさっていたパーカーが浮遊霊のごとくに分離する。

 

「んなっ!? コイツ……ッ」

 

 侑斗はそのパーカーをつかんだまま、そして逆に捕まれたまま、気球のように天へと舞い上がった。

 

 その隙に、『アユム』は英雄眼魂を入れ替えた。

 

〈カイガン! ピタゴラス! 三角の定理オレの言うとおり!〉

 

 ガリレオ魂とはうってかわって、飾り気のないノースリーブの衣をまとうとともに、侑斗を捕らえていたパーカーゴーストが空中から消える。

 ゼロノスは、土手をつなぐ橋の欄干へと着地した。

 

〈ダイカイガン! ピタゴラス! オメガドライブ!〉

 

 その足がつくかどうかというときにも、『アユム』は攻撃の手をゆるめることはしなかった。

 彼の背に浮かんだ眼玉の文様が、細長いエネルギー体として分かたれ、三角の先端が追尾ミサイルのようにゼロノスへと飛んでいった。

 

 その直線的な射撃を、侑斗は欄干や橋の上を飛び回って避け、矢で撃墜する。

 相次ぐ射撃に足場が破壊され、逃げ場と足場を失うと、ためらいなくそこから飛び降りた。

「デネブ、来いッ!」

 と、有無を言わさぬ語気の強さで、相棒を呼ばわりながら。

 金色のカードを握りしめて。

 

 方やエイジの動きを封じていたデネブだったが、その言葉にためらいの気配を見せていた。

 だが、

「アユム…………ごめんっ!」

 と詫びると、エイジのそばを離れ、大股で駆けながら『アユム』の脇をすり抜けて、侑斗の下へ。

 そして二人の影がひとつに重なった瞬間、

 

〈VEGA FORM〉

 

 ベルトが黄金に光を放って音を鳴らし、暴風と地割れの衝撃がゼロノスを包み込んだ。

 まるでレールの切り替えのようにマスクや体格が変化し、その背にマントが膨れ上がって背中いっぱいに広がった。

 

〈カイガン! ベンケイ! アニキ! ムキムキ! 仁王立ち!〉

 

 ゴーストもまた、荒法師のような外装になるとともに、大槌を振りかぶって応戦した。

 鈍い金属音とともに衝撃波が草木を揺らし、小細工のないシンプルな力の競り合いが始まった。

 

 だが、素のスペックが勝るのだろう。デネブと一体化したゼロノスを正面から押しのけると、ドライバーのレバーを引いた。

 

〈ダイカイガン! ベンケイ、オメガボンバー!〉

 

 その足下から湧き上がるエネルギーが、薙刀や斧など、多種多様な武器となって浮かび上がり、乱雑に飛び回りながら、体勢を立て直したゼロノスへと飛び向かう。

 

〈FULL CHARGE〉

 侑斗、いやデネブは腰で輝くカードを引き抜くと、自らの剣へとセットした。

 エネルギーを帯びた刀身を一閃させる。迫りくる武器が薙ぎ払われて、周囲の砂塵が巻き上がった。

 

 その渦の中で、

〈CHARGE AND UP〉

 という音声とともに、無数の弾丸が突っ切って『アユム』の胸元ではじけた。

 

 砂の幕が開けたときには、ゼロノスは元の造形へと戻っていた。

 ……いや、その色は鮮やかな緑から、赤錆びていた。手には、デネブの顔を模した小型のガトリングガンが握られていた。

 『アユム』の方は今も消耗をしているのか、ハンマーを支えにようやく立ち上がれる状態だった。

 その状態を見て取ったゼロノスの頭が、わずかに揺れた。息を呑む。その奥にある表情が、見てとれるかのようだった。

 

「これ以上時間はかけられない……一気に終わらせる!」

 

 おのれに言い聞かせるように、あえて厳格な声を発して赤く変色したカードをその銃へと挿入した。

 

〈FULL CHARGE〉

 

 電光を帯びるそれを見て、たまらずエイジはシフトカーを握りしめて飛び出した。

 ダークドライブと化して両者の間に立った彼は、ネクストデコトラベラーをブレスに入れて、ベルトのキーをひねった。

 

〈TRAVELLER!〉

 

 ブレイドガンナーから発せられたサイケデリックな光線が、侑斗の発したレーザーを押しとどめた。

「お前……ッ!?」

 驚愕する彼をよそに、エイジは横顔を『アユム』へと向けた。

 

「行け」と、無言で示唆するようにうなずく。

 ゴーストもまたうなずき返すと、同系統の色の眼魂へと交換した。

 

〈カイガン! サンゾウ! サル! ブタ! カッパ! 天竺を突破!〉

 

 という音声とともにその名のとおりに呼び出された三匹の供と、白い雲に覆われ、天高くへと飛び上がった。

 そしてエイジの必殺技(フルストットル)は、侑斗の光線に押し負けた。ダークドライブの装甲に直撃した。

 セーフティシステムによって変身を強制的に解除されながらエイジは地を転がった。

 

「ぐっ……」

 

 よろめきながら起き上がろうとした。すでにそこに、あの『アユム』の姿はなかった。

 ひとまずは安堵するエイジの襟を、同じく変身を解いた侑斗が憤怒の形相でつかみ上げた。

 エイジもまた、呻き、あえぎながらも彼の手首を握りしめた。

 両者の間で、どうなだめようか、デネブはおろおろと右往左往をくり返していた。

 

「お前、自分が何したかわかってんのか!?」

「さぁね……どうすれば正しかったのかなんてわからない。けど、あなたが言ったんだ」

「はぁ!?」

 

 襟を絞る力がさらに強まる。

 戦闘のダメージも相まって、呼吸さえもままならない。そんな状態でも、かすれた声でエイジは答える。自分でも説明できないことを、たどたどしく言語化して。

 

「『お前は今この時を守っていればいい』って。だから……助けたんだ。今、助けを求めているのは、あの『アユム』だった。そして多分、この世界のアユムもどうすれば良いかわからないで苦しんでる。あのふたりを会わせれば、何かが変えられるかもしれない……自分にとって何が正しいかを決めるのは、その決断が悲劇を生むのかどうか。彼ら自身だ。僕らが決めていいことじゃない」

 

 侑斗は表情をこわばらせたまま、小刻みに揺れていた。

 やがてそのやり場のない怒りのままにエイジを突き飛ばし、鼻を鳴らした。

 

「どこかで聞いたようなセリフだな」

 とちいさくつぶやいて。

 

「だったら、お前自身もその決断を、後悔するなよ」

 と言い添えて。

 その響きは厳粛な警告というよりかは、親切心からの忠告のように聞こえた。

 

「行くぞ、デネブ」

 

 あきらめたのか、それとも別の道から『アユム』を捜し直そうとしているのか。

 侑斗はくるりと身をひるがえして、早足で元来た道へと帰っていく。デネブは戸惑いがちにその背を追いながら、一度だけ足を止めて振り返った。

 そして、律儀にエイジに向けて仰々しく頭を下げてから、友の後を追っていった。

 

 奇妙な二人組の姿が完全に見えなくなるまで見守ってから、エイジもまた、きびすを返す。

 ギルガメッシュがこのまま『アユム』を見逃すとは思えない。ふたたび何らかの妨害を仕掛けてくることは、明らかだった。

 

 心のエンジンに火をくべ直し、エイジは地を蹴った。


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