仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第三話:疾走の絆(20)

 物悲しいまでの夕暮れと、そこにそびえ立つ頭抜けて大きく派手な墓標は、陰気と陽気の釣り合いがとれている。

 その根元に、エイジは買ってきた仏花を献じた。

 

 と同時に、その墓前で四つ折りにした紙を開いてみる。

 「ごめんね」と四字が書かれたその張り紙は、ここに通じていた地下のラボからの脱出の間際、とっさに回収してきたものだ。

 

 土埃で汚れたその言葉は、決した逃げたことに対する詫びではなかった。もう一体隠れていたギルガメッシュを、命を賭して引き離した。それぐらいは理解できる。

 では、何に対する詫びなのか。

 エイジたちを巻き込んだことか。自分を追って犠牲になった天空寺タケルへか。彼の身を案じて取り残された仲間たちへか。

 

 エイジは首を振った。

 故人の思惑をあれこれと想像すること自体無粋でナンセンスだ。それに、二度も三度も蘇るこの時世に、すでにそこに魂など入っていないことを知りながら墓石に弔いをささげることも、どうかとは思った。

 

 形式的に手を合わせ、ギルガメッシュの打倒。を故人と、そして自分に誓ってエイジは立ち上がった。

 背後に立っていた照井春奈に、正反対の方向を向きながら並び立った。

 

「これからどうする?」

「いったん帰るよ。母さんも心配してるだろうし、それに、あれも」

 

 エイジは墓場の外に停めたトライドロンを見た。

 その後部スペースに押し込むような形で、イーディスの入っていた機体が収容されていた。

 これで一応、当初の目的は達成したことになる。真相の究明と、サイバロイドボディの奪還。

 

「そういうことじゃなく、もっと広義的な意味合いで聞いたんだがな」

 

 と春奈はエイジの横顔をにらんだ。

 まぁこの程度のおためごかしが通用しないことは織り込み済みだった。だが彼女にしても、本当に聞きたかった答えは聞かずとも、承知はしているはずだった。

 

「ライダーを、やめる気はない」

「……さっきみたいなことが、あってもか」

 

 エイジは半分ほど開けた右手に視線を移した。

 まだ、イーディスの腕をつかんだ感触が残っている。

 

 たとえ偽りの人体だったとしてもそれは、間違いなく生命が抜け落ちていくのに、はじめて立ち会った瞬間だった。

 この鉄面を顔に貼り付けたような女捜査官にも、似たような経験があったのだろうか。それを問うことを、エイジはためらった。

 

「それでも、やる」

 

 いまだぬぐえない喪失感を埋め合わせるように、エイジのその手にはネクストスペシャルシフトカーが握りしめられていた。

 

「こいつは君でも父さんでもなく僕を選び、そして僕は過去とかいきさつとか関係なく、自分の意志でこいつをつかんだ。これは僕が自分自身でつかんだ未来で、運命なんだ。その事実があるかぎり、僕はダークドライブとして戦い続ける」

 

 それにさ、と一歩進み出てエイジは笑いかけた。

 

「もし僕が暴走しても、照井さんが無理やりにでも止めるでしょ。僕より強いんだから」

 

 先ほどの彼女のセリフを逆手にとって挑発するように言った。

 春奈は形の良い眉根を寄せて、表情に苦みを浮かべた。

 ただ微妙に、ほんのわずかに、そしてエイジが認識できるレベルのはじめての笑みを浮かべて。

 

 了承も承認もなかった。ただ、これ以上の議論を嫌ったのか、否定も反対もなかった。

 ただ、

 

「好きにしろ」

 と言い残しただけだった。

 

 

 沈みゆく夕日の前で、ふたりの仮面ライダーは、別々の方角から、それぞれの道から、別々の速度で進む。

 しかしその行き先は、ひとつの道へとつながっていた。




Next Drive……

「働かざる者食うべからず! 食べることが罪ではないのです、今のアユム殿は、ご自分の使命から逃げようされている!」

「その欲望、解放しろ」

「でもそれは、貴方が決めることじゃない!」

「アユム、自分の心の眼を開くんだ……それがきっと……」



「最初に言っておく! 俺はかーなーり、強いっ!」



第四話:オレがお前で、お前がオレで!~Double Action G~

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