仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第三話:疾走の絆(13)

 エイジは激闘の後、シフトカーを握りしめたままの手を力なく下ろした。

 だが、茫然としている時でもなく、すぐに我にかえって春奈を捜した。

 

 火の粉と黒煙をかいくぐったその先に、変身を解除した彼女はいた。

 薄れゆく煙幕のなかで身を屈している女戦士を案じて、おぼつかない足どりで、荒れた道を急いだ。

 

 だが、彼女は無傷だった。

 身を屈していたのは、その場に倒れ込むロボットを観察しているだけだった。

 

「やったんだ」

 控えめに声をかけたエイジに、面白くなさそうな表情で勝利者は首を振った。

「いや、直前で自爆された。せめて奴らの足取りがつかめそうなものが残っていないかと思って」

 

 そう言いながら、春奈は視線を半壊したロイミュード体へともどした。

 だがその姿に隙はなく、戦闘直後の疲労や緊張の弛緩といった様子は見受けられない。

 

 彼女の上司は「T3メモリは肉体変化できないから多様性にはとぼしい」と説明していたおぼえがある。確かに、エイジも戦ったことのあるドーパントのように、ひとつの特性をきわめた能力は使えないのかもしれない。だが春奈には、それを補って余りある機転があった。

 その体質やライダーとしてのスペック以上に、彼女自身のセンスが抜群なのだ。

 

(もう全部彼女ひとりで良いんじゃないかな)

 と、脳裏に浮かんだ言葉を、エイジは首を振って払った。

 

 金属片を散乱させながら落ちていたW型のドライバーを拾い上げると、すかさず横から手が飛んできて奪われる。

「本物と遜色ないな」

 妙に感心したふうにうなずく彼女に、「実物を見たことがあるのか」と問いたくなったエイジだったが、言葉にはしなかった。「私に質問するな」が返ってくるだけだろう。

 

「でも、あいつ気になること言ってなかった? ほら、時間は稼げたとかなんとか」

「さぁな。ボディから精神データを移行するための時間とか、そういう……ッ!?」

 

 だが、ドライバーをしばらく眺めていた彼女の表情が、一変した。

 春奈にしては珍しく驚きで目を見開き、ドライバーを裏返したり、見る角度を変えたりした。やがてその鋭いまなざしはその赤いドライバーのみにとどまらず、地面に散らばったパーツや、ギルガメッシュの『屍』へと向けられた。

 

 背越しにも伝わってくる焦燥に、エイジは声をかけようとした。

 だがそれよりも早く、

 

「……ギルガメッシュのメモリが、ない……」

 

 その場に起こった異常な点を、春奈はひとりごちた。

 瞬間、反射的にエイジの視線も彼女と同様のベクトルへと向かった。

 

「メモリブレイクしたってことは」

「あのメモリは財団Xがデータを所有しているT2だ。通常のマキシマムでは破壊されない。それがたとえT3の攻撃でもな」

 エイジの楽観を、春奈は即座に否定する。

 

 この謎を解くのに何か、忘れていることはないか。

 ここまでの情報を整理するエイジは、回想のなかである言葉を思い出した。

 記憶を呼び起こすのは容易だった。何しろそれは、ついさっき聞いた話だ。

 ただ、さりげなく語られていたがために、つい聞き逃しそうになっていた。

 

「かつてのガンマイザーや英雄眼魂を模倣し、ワシはそれを十の眼魂にまで分割した」

 

 という、自分の見た光景と矛盾する、イーディスの説明を。

 

「数が、合わない」

「え?」

「僕が見たギルガメッシュは、全員で九人だ。それも、別々のドライバーを身に着けていた」

 

 そう指摘されて、春奈はユニットが空になった変身アイテムを見下ろした。

「……ガイアドライバー2G……そういうことか」

 と舌打ちした。

 切り出したのはエイジだったが、彼女がそこから一体どういう解答を得たのかは分からずじまいだった。

 

「ハメられた! 急いでイーディスの後を追うぞ!」

 

 理由を問うまでもなく、そう言うや春奈は駆けだそうとした。

 だが、元々不安定で整備もされていないような場所で、戦闘の後であった。

 

「……危ないッ」

 

 春奈の真上にあった天井が崩落した。

 助けようと手を伸ばすエイジをふくめて、ガレキが一瞬で、彼らのいた空間を埋め尽くした。


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