仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第三話:疾走の絆(11)

「……というわけで、ワシは眼魂となったわけじゃが。あいにくウルティマエボニーのようにアバターを内蔵しているわけではない。そこで目をつけたのが、この身体、というわけじゃが……どうした?」

 

 ここまでの懺悔じみた説明に対し、エイジが頭に抱えていることに気が付いたようだ。

 キョトンと、邪気のない顔を向けるイーディスに、エイジは言った。

 

「いや、なんかどっかで聞いた話だなって……っていうか、それクリムのパクリじゃないか」

「……エヘッ、バレちゃった?」

 

 この期におよんでおどけてみせる『おっちゃん』に、つま先を鳴らして苛立っていた様子の春奈が動いた。

 腰から引き抜いた拳銃を向け、

「そこを動くなすべての元凶。確保する」

 と青筋を立てて命じた。

 エイジは「まぁまぁ!」と意外に華奢な彼女の肩を押さえた。

 

「まだ、全部聞いてないから」

 と、言い添えて。

 

「ダークドライブのシフトカーを狙った理由、言ってないでしょ」

「狙ったのはワシではない。ギルガメッシュたちじゃ。ワシはその先回りをしようとしたにすぎぬ」

 

 杖を鳴らしてそれとなくふたりから距離をとりながら、老人は声を低めて答えた。

 

「ワシらは宇宙へ届くほどのエネルギーについて、冥術以外の要素も検討した。ギルガメッシュが使うドライバーも、その流用や改造がほとんどよ。だが、ワシを殺したあやつらがより強く興味を示したのが、クラック、コズミックエナジー、そしてその、ダークドライブじゃ。そのうちの二つはすでに手中におさめておる。残るはダークドライブのシフトカー。そこでワシは空間の狭間でなぜか停止させられていたそれを叩き起こしたのじゃ……まぁ途中で逃げられたがな」

「それが、あの久留間ドライビングスクールでの出来事か」

 

 それでも、なぜそのシフトカーが、数十人は詰めていたあの施設の中、自分を選んだのかの説明にはなっていない。

 泊進ノ介の息子だから、ということだろうか。

 ……そう考えるとまだ自分の上に父親がつきまとっているようで、楽しい気分ではなかった。

 

 不機嫌さを押し隠すためにうつむいたその視線の先に、枯れ木のような手が伸びる。

 

「そこでおぬしを呼び出した理由につながる。ギルガメッシュたちに奪われる前に、シフトカーを渡せ。それを破壊する」

 え、と聞き返すエイジの背後で「そうだな」と春奈もうなずいた。

 

「そこの老人は本当にどうしようもない男だが、そればかりは賛成だ」

「待ってよ照井さん! なにもこんな時に!?」

「君は父親と同じ超人の力を偶然手に入れて舞い上がっているただのガキだ。仮面ライダーは、素人が道楽気分で名乗っていい名前じゃない」

「そんなことない! それに父さんは関係ないだろ!?」

 

 かみつくように言い切ったエイジだったが、仮面ライダーになることへの意義をそれに続けて言うことができなかった。

 

 にらみ合いが続いたが、突如として虚空に現れた文様がそんな両者の間に割って入った。

 

 

 

〈そうか、ネズミは貴様だったか。イーディス〉

 

 

 

 石碑のものと同じそこから、ひとつの人影が現れた。

 その少年の、金髪の頭髪と全身からみなぎる覇気は、この薄暗がりのなかでも太陽のごとく、燦然と輝く。

 

「ギルガメッシュ」

 

 異口同音。エイジとイーディスの口から、同様の名が漏れた。

「なぜ、ここがわかった!?」

 驚きまじりに尋ねる老人にはお構いなしに、さながら王の巡察のように、ゆったりした足どりで周囲を見回した。

 

「ここは大天空寺の地下施設の残骸か? 懐かしいな、ここでお前は龍やタケルに隠れてコソコソと俺の眼魂を生み出したんだ。感謝はしているが、尊敬には値しない。その後の仕打ちを思えばな」

「ぐむ……ッ」

 

 冷厳な視線に圧される老人に、絶世の美少年は詰め寄った。煉獄を思わせる激しい怒りの炎をまとって、近づく彼の前に、自分でも知らないうちにエイジは立ちふさがっていた。

 

「イダルマって男を殺したのも、お前か?」

「あぁそうだ。ヤツは財団Xとの仲介を買って出たかわりに、俺たちの分け前をハネていた。俺たちの力を背景に、逆に財団もおどしていたようだったしな」

「そんな理由で、殺したのか!?」

 

 イダルマはたしかに、彼らにわたるはずだった金銭を横領していたのかもしれない。だが、それでも空中を舞うグライダーを用立てるほどの金は、ギルガメッシュたちにも行き渡っていたはずだ。

 それが命を奪うほどの重罪だというのなら、郷原議員など二度三度死んでもおかしくない。

 

 そんなエイジの憤りを、まっすぐな視線から汲み取ったらしい。

 ギルガメッシュは筋のとおった高い鼻を鳴らし、肩をそびやかした。

 

「たしかに、金額を思えば微々たるものだな。もしヤツが真正面からその倍の金額を要求してきたとしたら、俺たちはそれに応えたさ。欲しいものはくれてやる。力だって貸してやる。それが王の権利と義務だ」

「だったらなんで」

「だが、俺に対する裏切りや欺瞞は別だ! それについては全力で報いを受けさせてやる。そこの男もだ」

 

 ギルガメッシュの白く長い指が、みずからの生みの親を糾弾する。

 大きく上体を揺さぶったおっちゃんをかばうべく、エイジはシフトブレスをはめて前に進み出た。

 

 だが、さらにその前を照井春奈がさえぎった。

 

「照井さん!」

「言っただろ。ヤツらの目的は君のシフトカーだ。わざわざそれをさらすバカがどこにいる」

「でも……っ」

 

 それ以上の問答は無用、とばかりに彼女はジャケットの裏からメモリを引き抜いた。

〈ACCEL!〉

 というガイダンスボイスとともに、その腰にベルトが出現する。

 

「強さに満ちた良い眼だ。容姿も美しい。気に入った、俺たちの女にしてみるか?」

「黙れ。私に質問するな。どういう経緯だろうとお前たちは犯罪者だ。ここで倒す」

「おいおい、勘違いしてもらっちゃ困るな。……お前の意見(こたえ)は、聞いていない」

 

 ギルガメッシュは全身を覆い包む黒コートの前をはずした。

 あらわになったのは、アンダーウェアごしにもわかるほどに引き締まった腹筋と、赤いドライバー。

 

「……ダブルドライバー」

 それについて知っているのか、名称をつぶやく彼女の前で黄金の覇王は朱色と金色のメモリを片手にはさんだ。

 

〈EYES!〉

〈UTOPIA!〉

 

 彼女のそれと同質の音声で鳴いたそれらを、ベルトの二本のスロットに同時に差し込んだ。

「変身」

 一瞬その顔に電子回路か涙のようなラインが浮かび上がったあと、雷光のような輝きに総身が覆われる。

 

 ギルガメッシュは黄金の騎士のような姿に変化していた。

 ただし、甲冑や、首に巻かれた真紅のスカーフの隙間の所々からのぞく、眼球のような模様は、神々しさと同時に魔や邪といったものも同居させている。

 手にした儀杖のようなものを突き出せば、そこにビッシリと張りついた無数の眼が、縦横無尽にうごめいた。

 

「仮面ライダーギルガメッシュ アイズユートピア……と言ったところかな」

 

 かつてあらゆるものを見通し、理想郷を創り上げたとされる王の分霊は、高らかに称した。


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