仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第三話:疾走の絆(9)

 男が、薄暗がりの中でムクリと姿勢をただした気配がする。

 その腕で段ボールの荷箱を支えに、ゆっくり起き上がってエイジたちの方へと進み出る。

 肩をゆすって歩くたびに、胸や腰のシルバーアクセサリや擦れて金属音を奏でた。

 

 ロフトの暗影に沈んでいた彼の全身像が、ほのかな明るさに照らされた。

 もちろんその顔もだ。

 

 細身の体に見合った、不器用そうでありながらも、ハンサムな黒髪の青年の姿……

 

 

 

 

 

 

「チャオ!」

 などということはなく、フランクに笑う白髪の爺さんだった。

 

 

 

 

 

 服と顔のアンバランスさに脱力したエイジは、危うくバランスを崩しそうになった。

 その様子を見た老人は不満げに真っ白な眉毛を逆立て、指を差し向けた。

 

「あ、おぬし『似合わない』って思ったろ! んなもんワシが一番わかっとるわい! このボディの標準の服装がこれなんじゃ! ったく、暑苦しいわ息苦しいわで、ロクなもんじゃないわい」

 

 はばかりなく大声をあげる老人の像が、おおきくブレてぼやけた。

 一瞬現れたのは、鈍く照った鋼のボディ。胸に提げられたナンバープレートには『1002』とあり、それがエイジの記憶と強烈に結びついた。

 

 それと会った日こそ、自分がダークドライブにはじめて変身した時であり、こんなややこしい事態に巻き込まれたそもそものきっかけだったのだから。

 

「そのボディ、まさか!?」

「おう、あの時の小僧か。あの時はずいぶんと痛めつけてくれたのぅ」

 

 あっさりと自らがダークゴースト兼ボディ泥棒と認めたときには、サイバロイドボディはふたたび老人の姿にもどっていた。

 

「それよりも、その顔」

 

 春奈がわずかに顔を引きつらせながら、老人の姿を指さした。

 指摘されて、エイジも「あっ」と声を漏らした。

 

 シワクチャで決して美男とは呼べないものの、どこか愛嬌のある表情、どこかで見たことがあるかと思えば、ついさっきまで手を合わせていた墓に飾られていた写真に写っていた面だった。

 

「死んだイーディス長官を、コピーしたのか……っ!」

「あぁー、違う違う」

 

 身構えるエイジたちは歯牙にもかけず、老人は鋭く腕を突き出した。

 

「ライダー……変身します、変身します! 変身してまーす!」

 

 テレーテテテテテー、などと鼻歌を歌いながら荷箱を開ける。

 紫色のジャケットとパンツを脱ぎ捨てると、タンクトップとトランクス姿になる。

 ごくごく一般的な、痩せぎすの老人の裸体。

 エイジも春奈も、そろって顔をそむけた。

 

「ふぅ、ようやく慣れた服に着替えられたわい」

 

 吐息とともに満たされたような声が、向けた背越しに聞こえてきた。

 それを合図に、ふたりの若者はバラバラに振り返った。

 

 金色の派手な衣装の上から、赤いローブを羽織った老人。

 ふざけた様子から一転、老成した落ち着きぶりで杖をつくと、カツンと金属音が鳴った。

 

 ……だが、その衣服からただよう防虫剤の臭いまでは、表面上の威厳だけで隠しきれるものではなかった。

 

「よくこの短期間でここまで迫った。若き仮面ライダーたちよ。おぬしたちをこの場所へ招いたのは、言わずもがなこのワシじゃ。おぬしらの動きは、逐一見ておった」

 

 気づけば老人の周囲には、この空間によく似合った、異質なガジェットが徘徊していた。

 コンドルと電話が合体したものが手すりに取りつき、ランタンと蜘蛛が合わさったものが、エイジたちの足下にすり寄ってきた。

 

 愛くるしくもどことなくブキミなそれからなんとなしに距離をとりながら、エイジはたずねた。

 

「……最初から確認したい。りんなさんの研究室からそのボディを盗んだのは、貴方か?」

「いかにも」

「そして貴方は、姿かたちはどうあれ、イーディス長官本人ということで良いのですか?」

「さよう」

 

 若者たちの問いかけに、逐一重々しく老人はうなずいた。

 

「教えてもらえません? どうして、あの研究所にいたのか。ボディを盗んだ理由も。シフトカーを狙った目的も。あと、あのギルガメッシュたちと、貴方との関係を」

 

 しばらくは、沈黙がつづいた。だが、黙秘ではなかった。

 老人思考と記憶とを整理するかのように、

 相当に込み入った事情なのだろう。

「すべては、あの雪の日からはじまった。あの怪物を、ワシらが蘇らせてしまったのじゃ」

 と、繰り言のように独語していた。

 

 

「いや……事の始まりは二年前の秋、イダルマがワシを訪ねてきおった時から……いや、違う」

 

 やがて意を決したように、老人は足を止めた。

 沈みかけた白髪頭を持ち上げ、どこかすがるような弱々しい視線を、エイジたちへと注ぎ込んだのだった。

 

 

「今から話すことが、すべての始まりじゃ。そして、ワシの過ちの告白でもある」


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