「……」
「…………」
山門の前では、腕組みしている男女が向かい合い、にらみ合っていた。
女の方は当然先行していた照井春奈だが、男のほうは本当の意味での作務衣を来た、精悍な顔立ちの男だった。
無言で春奈に負けまいと、いかめしく目を吊り上げ、唇を真一文字に結んでいる。
その雰囲気は坊主というよりかは、軍人のようだった。
「これこれ、ジャベル殿。お客人を威嚇するものではありませんぞ」
とその男の背からたしなめたのは、先ほど進ノ介と話をしていたらしい坊主だった。
紫衣をまとったその男は、夏の日差しにそり上げた頭を照り返させて名刺を差し出した。
「拙僧は大天空寺住職、正規住職の、
やたらと住職のイントネーションを強めて自己紹介をする。
だが、その背の看板や名刺の肩書きにはそれとは別に、『不可思議現象研究所』の文字があった。
「インターポールの照井です」
「あ、泊です」
「すると貴方が、刑事殿の息子殿!」
「……その呼び方おかしいでしょ……」
門番の男の、視線が突き刺さる。そんな中で境内へと、御成と名乗った坊主が先導する。
さながら時代劇のセットのようなつくりを見渡していると、
「先ほどの者が失礼いたしました。決して悪い男ではないのですが、不幸が重なり気が立っておりまして……」
「っていうか、父とは知り合いなんですね。父さんは、何の用でここに」
話の腰を折るな、と言わんばかりに、エイジの脇腹に無言の肘鉄が入る。
つんのめるエイジを押しのけるようにして、春奈が聞いた。
「その不幸というのは、この男に関係することでは?」
彼女の取り出した通信機器から、空中に小太りの男の胸像が立体的に浮かび上がる。
それを目撃した瞬間、坊主はクワッと目を剥き、口を開けた。
「なんと面妖な!」
「いやこれ、ふつうの3Dホログラムだから」
と指摘するエイジだったが、男の顔自体は彼にも憶えがない。おそらくはこれが、河川敷で死んでいたイダルマという男なのだろう。
はぁ、ほぉ! ……と現在の映像技術にひとしきりの感心を示していた御成だったが、死んだ男の、ふてぶてしささえ感じる面をながめて、
「いや、不幸というのはそれこそ刑事殿にお願いしてある件なのですが……そうですな。悪く言う気はないのですが、この方がお越しになられてから、事件がはじまった気がいたします」
御成はそう言って、遠い目とともに過剰なまでに思わせぶりな態度をとった。そこでようやく自分たちがお堂の前に至ったことに気が付いたようだった。
「さぁさ。立ち話もなんですから、どうぞ中へ」
と、来客の出迎えをいそいそと準備する。
蝉の合唱を聴きながらその姿を見て、
「つながった……ような気がする」
とエイジはつぶやいた。
父が探しているという古い顔なじみ、イダルマの訪問、その後この寺に起こったという不幸。ギルガメッシュたちの暗躍。
一見ばらばらに見えるこれらは、きっと一本の事象でつながっている。そして、つなぎ合わせて推測できる時系列をさかのぼっていくと、やはりスタートラインはここなのだ。
「照井さん! やっぱりここが大当たりだ……よ?」
春奈の方を向いて、エイジはしばし言葉を喪った。
彼女は靴を脱いだその足に、どこからともなく取り出したスリッパを並べて履いた。
緑の下地に、肉厚の金字で片や『照井家』、片や『娘やねん』とプリントされている。
坊さんにしてはすこし変わっている御成でさえ呆気にとられて見ている中、ふたりの視線に気づいた彼女は、真顔で
「マイスリッパ」
……と、みじかく答えた。
現行に近い作品のその後を出すのは設定出すのは、後々別の設定が出てきそうで怖いですね。
今回のエピソードとしては、スペクターでは御成が家出するそうなので、住職(代理)に復帰するかどうかが怖いところです。